未設定の場合は「ミョウジ ナマエ」表記になります
エロあるよ笑
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私は彼女にとって一体何なのだろう。兄であり、父親代わりであり、彼女にとっての保護者で家族であるという自負と共に接してきたつもりだ。
物心ついた時には、私の家族と呼べる人は誰もいなかった。見よう見まねで暖かい家庭という幻想の再現をしようとしたけれど、私がどこまでそれをこなせていたかは分からない。
女の子だし、年も十は離れていたので親子というよりは兄妹のような関係だった。彼女がある程度大きくなってからは一度離れたが、それも面倒くさくなったとか煩わしく感じたからではなくて、ちゃんとした人間になってほしいという思いから全寮制の学校に入学させた。
――どこで間違えたのか。
ナマエは確かに気難しいところがあるけれど、決して悪い子ではない。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん」
視界の端で甘い声を出しながら、腰を動かしているこれは決してナマエではない。
「お兄ちゃん……」
うわごとのように同じ単語を繰り返しながら、私の「妹」は、私を中に押し入れていく。
「……っ、な、なんで……」
朦朧とする意識の中で、かろうじて出せた声は情けない物だった。
「何って、愛してるから」
彼女が入学した先の高校で問題を起こしてから、私の意識は変わった。給料を工面して名門校に入れてやったという考えは、言うなれば私のエゴだった。
ナマエも生まれだけ見たならば、良い家柄であると言っても差し支えない境遇だった。彼女の両親の顔を立てるという意味でもそうしたかった。そうするのが正しいと思った。
けれど、人には当然向き不向きという物があり、保守的な学校は彼女にとっては窮屈そのものだったと気づいた時には、もう遅かった。
これは彼女と具体的な対話を怠っていた私の責任でもあり、教育の失敗も意味している。
そして、事の原因は寮生活が合わなかったからなのだろうと判断して、一緒に暮らし始めてからしばらく経った。
私とナマエとの関係は、離れていた分溝があったが共同体としては上手く機能していたように思う。高校生になって、育児という面では峠を越えていたし、過保護になってもうざがられるだけだと分かっていたので、向こうから話しかけられない限りは立ち入った話はしないようにしていた。
それぞれの生活は順風に進み、日々の生活に淀みはない。
私からすれば、そんな認識だった。自分で考えられる中で、一番ちゃんとした家庭を築こうと努力していたつもりだ。どんなことだって相談できるように、どれだけ忙しくてもナマエの話を聞くときは、手を止めてきちんと向かい合った。
なぜなら、私がそうして欲しかったからだ。自分が望む物を他人に与えて己を慰めるのはエゴではあるが、私は他がどんな風にして人に愛を伝えているのか分からない。分からないから、見よう見まねで模倣して、自分がしてほしかった事をしてあげることしかできない。
「お兄ちゃんって、他にもそうなの?」
「そう、って?」
「……なんか、ずっとわたしに合わせてさぁ。自分のやりたいこととか、趣味とかないの?」
マンションのエレベーターでそんなことを言われて、私は押し黙るしかなかった。この行為そのもの、私がこの星にいることそのものが存在意義で、他に何かを見出だすというのは不要な感情だと思っていた。
「心配しなくても、ナマエの面倒を見るのが私の生きがいだよ」
「…………そう。ゲームするとか、そういうのってやんないの」
「まぁ、付き合い程度ならね」
「わたしはお兄ちゃんとそういうの、あんまりやったことないから。知らないんだろうなって思って心配になった」
「じゃあ、ナマエがおすすめしてくれた物をやってみようかな」
「ほら、そういうところなんだよね」
大きなため息をつくナマエに、わたしは曖昧な笑みを返した。無趣味であることには違いなかったけれど、そこを批判されるとは思っていなかった。
こういう時に、どんなことをすればいいのか分からない。
半分だけ覚醒した頭で見上げると、そこには変わらない光景があった。
私の腹に手をつきながら、ナマエは小さな声で喘いだ。
「お兄ちゃん、おはよ」
「辞めなさい。今すぐに」
こちらの認識に誤認がなければ、あるいはこれが夢でないのだとしたら、とんでもないことになっている
――私の性器が、ナマエの中に全て収まっていた。
こちらも向こうも、全裸というわけではない。
ナマエは上は寝間着のまま、下は脱いでこちらの股の上に乗っかっている。自分の方はというと、向こうと同じだ。ただ、上はボタンが外されて前がはだけている……というか、上着はかろうじて腕に引っかかっているだけといった方が正しいかもしれない。
「――っ」
手足を動かそうとすると、しびれたように動けない。何かで拘束されているわけではなく、何かしらの神経が狂っている。考えたくもないが、恐らく薬か何かを盛られた上で、私は犯されている。
体を動かすことを制止するように、ナマエの中がうねった。人間の中に、臓器があってこんな動きをするだなんて考えたこともなかった。
それだけが独立した意思を持って、私を絞め殺そうとしているかのようだった。
蚯蚓のようにぐねぐねと動く膣内が、丸ごと呑み込んで捕食している。
……気持ち悪い!
うっすらと感じていた得体の知れない嫌悪感が、現実の物となって目の前に現れる。
逃れようにも手足はろくに動かせず、目をそらしたくてもできない。
「――はぁ、くっ……」
事実を認識して、まず吐きそうになった。淫靡な表情でこちらを見つめるのが、自分の家族だなんて考えたくもなかったし、寝込みを襲われているのだとしても捕まるとしたら自分の方かもしれないからだ。
「お兄ちゃん、ちゃんと感じてるんだね」
普段とは違う、ぞくっとするような響きがあった。私の性器が収まった腹を笑って撫でながら、ナマエはケラケラと笑い出した。
「今ならまだ、冗談で終わるから……。何もなかったことにできるから、辞めなさい」
普段の力があれば、たやすくこの状況を打開できただろう。……できただろうか。少なくとも、この行為を中断させることはできるかもしれない。だがその先が未知数だ。
今だって、彼女にどんな言葉を掛ければいいのか分かりかねている。
妹のように、娘のように、愛能う限りのことはしてきたつもりだ。これが一時の迷いであるならば、なかったことにもできる。ナマエの言葉を聞くのが怖くて、今起こっている間違いをどうして犯してしまったのか問いただすこともできず、私はただされるがままにしているしかなかった。
「お兄ちゃんのはじめても、全部わたしじゃないと駄目だから……お兄ちゃんがわたしのために恋愛とかそういう楽しいこと全部我慢してたの、知ってるから。わたしのためにはじめて取っておいてくれてありがとう、お兄ちゃん。大好き、大好きだから、誰の物にもしたくないから、……っ、こうやって一つになりたかった。できてよかった。ずっと前から、昔からわたし、ラスティのことが好きだった」
「ち、違う……」
「何が違うの? ねえ、何が違うんだって聞いてんだけど」
ぐちぐちと、下半身から卑猥な水音が響く。ナマエの獣のような荒い息づかいと、下生えに混じった生ぬるい液体は……、考えたくもない。
「……こんなこと、家族がすることじゃない!」
「違うのはお前だろうがッ!」
「――ひっ」
首に手を掛けられて、思わず情けない声が出た。目の前にいるのが自分の家族などではなく、肉を目前にした獣であるかのように――あの大人しくて子供っぽいナマエの姿は面影もない。
気道の辺りを確実に潰す手前でナマエは手を止めた。
発声が出来るギリギリの状態が維持されていた。
「――家族だから、何? わたしたち、血のつながりなんてないしあなたのことを保護者だと思ってはいても、父親だと思ったことはないんだけど」
細腕のどこからこんな力が出ているのだろう。
暗闇の中で、彼女の瞳の奥からわずかな輝きが見え隠れしている。泣いたり怒ったり、笑ったり忙しい瞳が、見たこともない表情を纏ってこちらを一点見つめていた。
――大人になった。
場違いな感情だが、そう思った。もう彼女は十歳の女の子ではないのだ。目をそらしていた概念から顔を背けるのは許されていない。
「……それに、さぁ、家族だからセックスしないってのは嘘だよ。夫婦は家族だけどセックスするでしょ。じゃあお兄ちゃんとわたしがセックスすることの何がおかしいの? 他人なのに、ねぇ」
「それ、でも……養子縁組した以上は結婚も、無理、だ……」
「だったら何? 結婚しないとセックスしちゃいけない訳? 別にいいじゃん。バレなきゃ何してもいいんだよ」
「よくないっ、……私は、ナマエとこんな……性行為したくはなかった! こんなこと、絶対に……駄目だ」
どれだけ彼女の理論を並べ立てられても、例え世界の常識が変わったとしても、私はこんなことを……、ナマエと他人同士だったとしても決してしたいとは思わないだろう。そこまでは言わないが、どう考えても自分の子供で興奮できる気がしなかった。自分がもし、そんなことをできてしまうような人間だったとしたら、今すぐ頭を拳銃でぶち抜いていただろう。
「そうだね。そう言うと思ったから、ごめんって謝ったから。ごめんなさいとありがとうはちゃんと言わなきゃ。お兄ちゃんに教えられたんだもん、それだけは人として、ね……」
私の指に、彼女のそれが絡む。恋人のように手を繋いで、寝台に押さえつけられる。
「本当に……っ!」
「これは愛してる人同士がする行為なんだから。……わたしたちがそうすることに何の罪があるって言うわけ? お兄ちゃんが清らかな人なのは知ってる。だからごめんって、何度でも謝る。取り返しのつかないこと、しちゃったね。でも、わたし、我慢できなかった。誰かに取られるくらいなら、わたしがお兄ちゃんを殺すから。お兄ちゃんは何も考えなくていいよ。全部わたしが教えてあげる。これから楽しいこと、二人でいっぱいしようね。思い出を作ろうよ。何にも知らないまま死ぬなんて、お兄ちゃん可哀想だよ」
うわごとのように私の名前を呼びながら、妹は大げさな程に大きく腰を動かした。
どこまでも狭い。体躯に見合った穴からは粘り気のある水音に混じって少しだけよく知った鉄のにおいがした。
ここが暗くてよかった。結合部がはっきりと見えていなくてよかった。光の下で彼女の裸を見たならば、きっと私は耐えきれなくて全て戻していただろう。きっとナマエはそのくらいでは止まらないから、何もなくて良かった。何もなくて良かった。何もなくて、彼女の思うとおりにさせてやるのが一番だから。よかった、やりたいことが見つかって。
「……よくはない」
「あはっ、でも、気持ちいいね、おにいちゃん」
私はずっと、天井の模様を見つめていた。これは悪い夢で、目が覚めたらいつもと同じ、清潔で静かな朝が来るのだと信じたかった。
私に体を預けて頬ずりする彼女の首から甘い、知らない人の匂いがした。
次の日から、彼女の本当の両親の写真――元の家族を立てていたそれは、テレビの下で倒して伏せられた。きっとナマエがわざとそうしたのだと思ったが、私はそれに触れて戻すことができそうになかった。
私は、汚れている。
珍しく彼女が朝ご飯を自分で用意する後ろ姿をぼんやりと眺めながら、自分に知らない匂いが染みついたような気がして、気味が悪くて仕方なかった。結局、あれから避妊はできていたのか。ゴムあるいはそれに準ずる何かを彼女が使ってくれていたならいいのだが。冷静にそう考える自分が恐ろしくもあり、同時にちゃんと考えないといけないと己を叱咤する。鎖骨につけられた痣が、昨日のことは嘘ではないと知らしめてくる。
「お兄ちゃん、おはよ」
「あ、あぁ……おはよう」
何事もなかったかのように、ナマエはいつも通りだ。私も表情を取り繕うとするが、うまく出来ているかは分からない。
「今日は仕事?」
「ああ……」
「わたしはねー、学校休み。いいでしょ? お兄ちゃん、可哀想だね」
可哀想。
昨日の彼女にもそんなことを言われたのを思い出す。最初に私が、ナマエのことを可哀想だと思っていた。だったら、今のナマエは幸せなのか? 私を哀れんで声を掛けられるくらいに、少なくとも自分の保護者は自分より哀れな人間だと、そう感じているのだろうか。だとしたら、身を粉にしてきた価値があったのだろうか。彼女の両親に、誇れるようなことをしてやりたかった。それで始めたことだった。
「お兄ちゃんはさー、深く考えすぎなんだよ。眉間に皺、寄ってるし」
目の前に並んだ朝食のプレートを見て、驚いた。
「これ、ナマエが作ったのか」
「いや、作ったっていうか……普通にチルドだけど」
「ちゃんと朝も起きられて」
「寮にいたんだよ? さすがに一人で起きられないとヤバいって。てかわたしのこといくつだと思ってんの~?」
茶葉をポットで蒸らしながら、ナマエはケラケラと笑った。
「悪かった。もう、ナマエも、大人……」
「そうだよ。だからねぇ、昨日のことはお兄ちゃんさえイエスなら犯罪じゃないんだから」
「…………」
「同情とか情けとか、そういうのを向けてくれてるのもいいんだけどさ。わたしはもっと欲しいんだよね。言ってる意味わかります?」
「――だとしても、恋人にはなれない」
「いいよ、ならなくても。ただ、お兄ちゃんが全部わたしにくれるっていうなら、他のはいらないんだ。所詮恋人なんてただの口約束だもん。言葉よりも行動が大事だって、お兄ちゃんがそう言ったんだよ?」
砂時計の砂が音もなく滑り落ちていく。
「ちゃんとこうやってさあ、人間の食べるもの食べさせてくれてありがとうね! 虫とか食べるのだけはさー、嫌だったから。だからさ……、ちゃんと愛してくれて、ありがとう!」
窓際で鳴く鳥の声が、いつもより五月蠅い。
物心ついた時には、私の家族と呼べる人は誰もいなかった。見よう見まねで暖かい家庭という幻想の再現をしようとしたけれど、私がどこまでそれをこなせていたかは分からない。
女の子だし、年も十は離れていたので親子というよりは兄妹のような関係だった。彼女がある程度大きくなってからは一度離れたが、それも面倒くさくなったとか煩わしく感じたからではなくて、ちゃんとした人間になってほしいという思いから全寮制の学校に入学させた。
――どこで間違えたのか。
ナマエは確かに気難しいところがあるけれど、決して悪い子ではない。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん」
視界の端で甘い声を出しながら、腰を動かしているこれは決してナマエではない。
「お兄ちゃん……」
うわごとのように同じ単語を繰り返しながら、私の「妹」は、私を中に押し入れていく。
「……っ、な、なんで……」
朦朧とする意識の中で、かろうじて出せた声は情けない物だった。
「何って、愛してるから」
彼女が入学した先の高校で問題を起こしてから、私の意識は変わった。給料を工面して名門校に入れてやったという考えは、言うなれば私のエゴだった。
ナマエも生まれだけ見たならば、良い家柄であると言っても差し支えない境遇だった。彼女の両親の顔を立てるという意味でもそうしたかった。そうするのが正しいと思った。
けれど、人には当然向き不向きという物があり、保守的な学校は彼女にとっては窮屈そのものだったと気づいた時には、もう遅かった。
これは彼女と具体的な対話を怠っていた私の責任でもあり、教育の失敗も意味している。
そして、事の原因は寮生活が合わなかったからなのだろうと判断して、一緒に暮らし始めてからしばらく経った。
私とナマエとの関係は、離れていた分溝があったが共同体としては上手く機能していたように思う。高校生になって、育児という面では峠を越えていたし、過保護になってもうざがられるだけだと分かっていたので、向こうから話しかけられない限りは立ち入った話はしないようにしていた。
それぞれの生活は順風に進み、日々の生活に淀みはない。
私からすれば、そんな認識だった。自分で考えられる中で、一番ちゃんとした家庭を築こうと努力していたつもりだ。どんなことだって相談できるように、どれだけ忙しくてもナマエの話を聞くときは、手を止めてきちんと向かい合った。
なぜなら、私がそうして欲しかったからだ。自分が望む物を他人に与えて己を慰めるのはエゴではあるが、私は他がどんな風にして人に愛を伝えているのか分からない。分からないから、見よう見まねで模倣して、自分がしてほしかった事をしてあげることしかできない。
「お兄ちゃんって、他にもそうなの?」
「そう、って?」
「……なんか、ずっとわたしに合わせてさぁ。自分のやりたいこととか、趣味とかないの?」
マンションのエレベーターでそんなことを言われて、私は押し黙るしかなかった。この行為そのもの、私がこの星にいることそのものが存在意義で、他に何かを見出だすというのは不要な感情だと思っていた。
「心配しなくても、ナマエの面倒を見るのが私の生きがいだよ」
「…………そう。ゲームするとか、そういうのってやんないの」
「まぁ、付き合い程度ならね」
「わたしはお兄ちゃんとそういうの、あんまりやったことないから。知らないんだろうなって思って心配になった」
「じゃあ、ナマエがおすすめしてくれた物をやってみようかな」
「ほら、そういうところなんだよね」
大きなため息をつくナマエに、わたしは曖昧な笑みを返した。無趣味であることには違いなかったけれど、そこを批判されるとは思っていなかった。
こういう時に、どんなことをすればいいのか分からない。
半分だけ覚醒した頭で見上げると、そこには変わらない光景があった。
私の腹に手をつきながら、ナマエは小さな声で喘いだ。
「お兄ちゃん、おはよ」
「辞めなさい。今すぐに」
こちらの認識に誤認がなければ、あるいはこれが夢でないのだとしたら、とんでもないことになっている
――私の性器が、ナマエの中に全て収まっていた。
こちらも向こうも、全裸というわけではない。
ナマエは上は寝間着のまま、下は脱いでこちらの股の上に乗っかっている。自分の方はというと、向こうと同じだ。ただ、上はボタンが外されて前がはだけている……というか、上着はかろうじて腕に引っかかっているだけといった方が正しいかもしれない。
「――っ」
手足を動かそうとすると、しびれたように動けない。何かで拘束されているわけではなく、何かしらの神経が狂っている。考えたくもないが、恐らく薬か何かを盛られた上で、私は犯されている。
体を動かすことを制止するように、ナマエの中がうねった。人間の中に、臓器があってこんな動きをするだなんて考えたこともなかった。
それだけが独立した意思を持って、私を絞め殺そうとしているかのようだった。
蚯蚓のようにぐねぐねと動く膣内が、丸ごと呑み込んで捕食している。
……気持ち悪い!
うっすらと感じていた得体の知れない嫌悪感が、現実の物となって目の前に現れる。
逃れようにも手足はろくに動かせず、目をそらしたくてもできない。
「――はぁ、くっ……」
事実を認識して、まず吐きそうになった。淫靡な表情でこちらを見つめるのが、自分の家族だなんて考えたくもなかったし、寝込みを襲われているのだとしても捕まるとしたら自分の方かもしれないからだ。
「お兄ちゃん、ちゃんと感じてるんだね」
普段とは違う、ぞくっとするような響きがあった。私の性器が収まった腹を笑って撫でながら、ナマエはケラケラと笑い出した。
「今ならまだ、冗談で終わるから……。何もなかったことにできるから、辞めなさい」
普段の力があれば、たやすくこの状況を打開できただろう。……できただろうか。少なくとも、この行為を中断させることはできるかもしれない。だがその先が未知数だ。
今だって、彼女にどんな言葉を掛ければいいのか分かりかねている。
妹のように、娘のように、愛能う限りのことはしてきたつもりだ。これが一時の迷いであるならば、なかったことにもできる。ナマエの言葉を聞くのが怖くて、今起こっている間違いをどうして犯してしまったのか問いただすこともできず、私はただされるがままにしているしかなかった。
「お兄ちゃんのはじめても、全部わたしじゃないと駄目だから……お兄ちゃんがわたしのために恋愛とかそういう楽しいこと全部我慢してたの、知ってるから。わたしのためにはじめて取っておいてくれてありがとう、お兄ちゃん。大好き、大好きだから、誰の物にもしたくないから、……っ、こうやって一つになりたかった。できてよかった。ずっと前から、昔からわたし、ラスティのことが好きだった」
「ち、違う……」
「何が違うの? ねえ、何が違うんだって聞いてんだけど」
ぐちぐちと、下半身から卑猥な水音が響く。ナマエの獣のような荒い息づかいと、下生えに混じった生ぬるい液体は……、考えたくもない。
「……こんなこと、家族がすることじゃない!」
「違うのはお前だろうがッ!」
「――ひっ」
首に手を掛けられて、思わず情けない声が出た。目の前にいるのが自分の家族などではなく、肉を目前にした獣であるかのように――あの大人しくて子供っぽいナマエの姿は面影もない。
気道の辺りを確実に潰す手前でナマエは手を止めた。
発声が出来るギリギリの状態が維持されていた。
「――家族だから、何? わたしたち、血のつながりなんてないしあなたのことを保護者だと思ってはいても、父親だと思ったことはないんだけど」
細腕のどこからこんな力が出ているのだろう。
暗闇の中で、彼女の瞳の奥からわずかな輝きが見え隠れしている。泣いたり怒ったり、笑ったり忙しい瞳が、見たこともない表情を纏ってこちらを一点見つめていた。
――大人になった。
場違いな感情だが、そう思った。もう彼女は十歳の女の子ではないのだ。目をそらしていた概念から顔を背けるのは許されていない。
「……それに、さぁ、家族だからセックスしないってのは嘘だよ。夫婦は家族だけどセックスするでしょ。じゃあお兄ちゃんとわたしがセックスすることの何がおかしいの? 他人なのに、ねぇ」
「それ、でも……養子縁組した以上は結婚も、無理、だ……」
「だったら何? 結婚しないとセックスしちゃいけない訳? 別にいいじゃん。バレなきゃ何してもいいんだよ」
「よくないっ、……私は、ナマエとこんな……性行為したくはなかった! こんなこと、絶対に……駄目だ」
どれだけ彼女の理論を並べ立てられても、例え世界の常識が変わったとしても、私はこんなことを……、ナマエと他人同士だったとしても決してしたいとは思わないだろう。そこまでは言わないが、どう考えても自分の子供で興奮できる気がしなかった。自分がもし、そんなことをできてしまうような人間だったとしたら、今すぐ頭を拳銃でぶち抜いていただろう。
「そうだね。そう言うと思ったから、ごめんって謝ったから。ごめんなさいとありがとうはちゃんと言わなきゃ。お兄ちゃんに教えられたんだもん、それだけは人として、ね……」
私の指に、彼女のそれが絡む。恋人のように手を繋いで、寝台に押さえつけられる。
「本当に……っ!」
「これは愛してる人同士がする行為なんだから。……わたしたちがそうすることに何の罪があるって言うわけ? お兄ちゃんが清らかな人なのは知ってる。だからごめんって、何度でも謝る。取り返しのつかないこと、しちゃったね。でも、わたし、我慢できなかった。誰かに取られるくらいなら、わたしがお兄ちゃんを殺すから。お兄ちゃんは何も考えなくていいよ。全部わたしが教えてあげる。これから楽しいこと、二人でいっぱいしようね。思い出を作ろうよ。何にも知らないまま死ぬなんて、お兄ちゃん可哀想だよ」
うわごとのように私の名前を呼びながら、妹は大げさな程に大きく腰を動かした。
どこまでも狭い。体躯に見合った穴からは粘り気のある水音に混じって少しだけよく知った鉄のにおいがした。
ここが暗くてよかった。結合部がはっきりと見えていなくてよかった。光の下で彼女の裸を見たならば、きっと私は耐えきれなくて全て戻していただろう。きっとナマエはそのくらいでは止まらないから、何もなくて良かった。何もなくて良かった。何もなくて、彼女の思うとおりにさせてやるのが一番だから。よかった、やりたいことが見つかって。
「……よくはない」
「あはっ、でも、気持ちいいね、おにいちゃん」
私はずっと、天井の模様を見つめていた。これは悪い夢で、目が覚めたらいつもと同じ、清潔で静かな朝が来るのだと信じたかった。
私に体を預けて頬ずりする彼女の首から甘い、知らない人の匂いがした。
次の日から、彼女の本当の両親の写真――元の家族を立てていたそれは、テレビの下で倒して伏せられた。きっとナマエがわざとそうしたのだと思ったが、私はそれに触れて戻すことができそうになかった。
私は、汚れている。
珍しく彼女が朝ご飯を自分で用意する後ろ姿をぼんやりと眺めながら、自分に知らない匂いが染みついたような気がして、気味が悪くて仕方なかった。結局、あれから避妊はできていたのか。ゴムあるいはそれに準ずる何かを彼女が使ってくれていたならいいのだが。冷静にそう考える自分が恐ろしくもあり、同時にちゃんと考えないといけないと己を叱咤する。鎖骨につけられた痣が、昨日のことは嘘ではないと知らしめてくる。
「お兄ちゃん、おはよ」
「あ、あぁ……おはよう」
何事もなかったかのように、ナマエはいつも通りだ。私も表情を取り繕うとするが、うまく出来ているかは分からない。
「今日は仕事?」
「ああ……」
「わたしはねー、学校休み。いいでしょ? お兄ちゃん、可哀想だね」
可哀想。
昨日の彼女にもそんなことを言われたのを思い出す。最初に私が、ナマエのことを可哀想だと思っていた。だったら、今のナマエは幸せなのか? 私を哀れんで声を掛けられるくらいに、少なくとも自分の保護者は自分より哀れな人間だと、そう感じているのだろうか。だとしたら、身を粉にしてきた価値があったのだろうか。彼女の両親に、誇れるようなことをしてやりたかった。それで始めたことだった。
「お兄ちゃんはさー、深く考えすぎなんだよ。眉間に皺、寄ってるし」
目の前に並んだ朝食のプレートを見て、驚いた。
「これ、ナマエが作ったのか」
「いや、作ったっていうか……普通にチルドだけど」
「ちゃんと朝も起きられて」
「寮にいたんだよ? さすがに一人で起きられないとヤバいって。てかわたしのこといくつだと思ってんの~?」
茶葉をポットで蒸らしながら、ナマエはケラケラと笑った。
「悪かった。もう、ナマエも、大人……」
「そうだよ。だからねぇ、昨日のことはお兄ちゃんさえイエスなら犯罪じゃないんだから」
「…………」
「同情とか情けとか、そういうのを向けてくれてるのもいいんだけどさ。わたしはもっと欲しいんだよね。言ってる意味わかります?」
「――だとしても、恋人にはなれない」
「いいよ、ならなくても。ただ、お兄ちゃんが全部わたしにくれるっていうなら、他のはいらないんだ。所詮恋人なんてただの口約束だもん。言葉よりも行動が大事だって、お兄ちゃんがそう言ったんだよ?」
砂時計の砂が音もなく滑り落ちていく。
「ちゃんとこうやってさあ、人間の食べるもの食べさせてくれてありがとうね! 虫とか食べるのだけはさー、嫌だったから。だからさ……、ちゃんと愛してくれて、ありがとう!」
窓際で鳴く鳥の声が、いつもより五月蠅い。
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