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エロあるよ笑
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「せんぱーい、カラオケ行きませんか?」
テスト期間も無事に終了し、部活もないので帰宅しようとしていた。後ろから声をかけられたので、声がする方を振り返る。そこにはナマエの姿があった。まっすぐにこちらを見つめる姿に、三井は思わず頬が緩むのを感じる。
——やっぱこいつ、すげえ可愛い。
三井寿は人生で三本の指に入るほどの能天気さで、浮かれきっていた。
人間は恋をすると正常な判断がつかなくなる。
後輩にデレデレと接する三井を見て、バスケ部のメンバーたちは様々な手段でいじり倒した。
普段なら照れ隠しで怒るところを開き直られたので、「ミッチーの癖に面白くない」と早々に飽きられ、次第にその風潮は無くなった。というか、白けた目で見られている。
三井の中間テストの結果は、努力の割には思わしくなかった。追試は当然のように確定していたが、その事はどうでもいい。どうせ詰め込んだところで赤点は確定しているのだから。
それよりも……だ。
付き合って一ヶ月の彼女が、堂々と公衆の面前でデートの誘いをしてくれている。大胆にも可憐な行動と言わずして何になるのか。
今の三井にとって恋愛遊戯の方が、勉学よりも優先されるべき事項だった。
「これ、クーポン貰ったんです。期末も終わったし、打ち上げしましょうよ」
二枚の紙切れをひらひらとさせながら、ナマエは三井を見上げる。チェーンのカラオケ店の名前が印字されたそれはとてもチープな色合いをしていた。
「カラオケ……? 打ち上げってことは、他のやつらも来るのか?」
「これ、ペア割のチケットなんですよね」
「おぉ…………マジか」
「言いたいこと、わかりますよね」
デート、ですよ。
後輩の口にした単語から飛躍して、様々な情景が脳裏をよぎった。そして、一瞬にして脳内で浮かんだ単語が電撃のように傾れ込んでくる。
カラオケということは、つまり、個室である。個室ということは、つまり……。
三井の思惑を察しているのかいないのか、ナマエは照れる様子もなく、静かに微笑んでいる。
信用を裏切るな。
そんな場所に彼氏である自分を連れ込むということは、それなりに信頼されているという証明だ。
カラオケでデートなんて、高校生カップルとしては全然普通のことだし、やましいことは何もない、ナマエがそんなこと考えるわけないだろ。女子と男子で脳の作りが違うんだし(?)、女同士でも男同士でも二人でカラオケするだろ。
だからこれは単なる二人でのお出かけであって、そこに変な意味はない。ジュース飲み放題だし騒いでも大丈夫だし、普通のデート先だよな!
そう思い込むことで、なんとか脳内の煩悩を晴らす。
ナマエは三井の返事を待ち、ただ静かに彼を見上げていた。この時点で、三井のテンションは最高潮に達していた。
三井は気づいていないが、周りの学生からの痛々しい視線は、最近まで授業もまともに出ていなかった、赤点常習犯の彼の顔につき刺さっている。受験生で、単位もギリギリのくせに後輩とデートかよ。三井の事情を知る同学年の生徒の、言いたげな視線が無遠慮に投げかけられて、しばらく見つめられたのちに、飽きて放置される。
その意味では、元不良の三井をデレデレとさせるナマエの方にも視線が向くのだが、彼女は何もいないかのように無反応だった。
——どうするか、もう答えはとっくに決まっている。
デートのお誘いをしてきた彼女の意思に反することはしたくないし、別に向こうから言われなくてもこちらから何らかの口実を見つけて誘うつもりだった。
それがちょっと当初の計画と違っただけで、段取りとしてはむしろ願ったり叶ったりだ。
三井はやや興奮した感情を押さえつけながら、なんでもないように頷いた。
「あー、オレはいいけど」
「じゃあ、北門で待ってますね」
嬉しそうな声で叫びながら一年の下駄箱までパタパタと走っていくナマエの後ろ姿を、見えなくなるまで見守った。
◆
「えっ……? お漏らしするの早すぎません? しかも全然歌えてないし」
どうしてこうなった。
目の前には無惨な点数が表示されたモニター。
横に座っているのはナマエ。
ジュースの入ったガラスの表面には水滴が伝い、それがじわじわとテーブルに侵食している。その様子を見ていると、注意散漫であると叱るように彼女の小さな白い手が、三井の性器を無遠慮に掴んでは扱き出した。
先ほど吐精した分の精子が、ナマエの細い指にネチネチと纏わり付いている。ドロドロとした半液状の物体は、ナマエの手が動くたびにぬちぬちと音を立てる。
精子を素手で触っても、彼女が動揺することはなかった。
出しちゃったもんはしょうがないですからね。
吐精した三井に、子供のお漏らしを見つけたような、諦めるような口ぶりでそう言っただけだった。 看護師が患者の下の世話をするような、何も感じていない、事務的に処置されているような態度に驚きを通り越して恐怖を覚えた。
……そんなことを言われると、こっちが悪いことをしているような気分になる。
何が悲しくて、カラオケの個室で手コキされているのか……全く理解できない。
抜いた直後の脳みそが正常に稼働する前に、刺激が伝わり思考が不能になる。
かろうじて思い出せるのは、最初は普通に歌っていたこと、ナマエはそれなりに歌が上手かったこと、張り合って得点を比べていたら──いつの間にかこんなことになっていた。
三井がナマエの挑発に乗せられた結果が「これ」だった。常識とか倫理とか、そういう言葉を抜きにして結果だけ述べるとしたら、そうだと言うしかなかった。
先ほどの射精は二回目だった。一回目に言われたのがさっきの台詞で、二回目は冒頭に述べた通りである。
最初は抵抗したが、何らかの手段で言いくるめられてしまった気がする。ナマエは頭の回る人だった。それは最初から知っていたことだった。まさか悪知恵まで働くような性格だったとは、三井には見抜けなかったのである。
「先輩の喘ぎ声女の子みたいだし、次はアイドルの曲でもいっちゃいます?」
ナマエはケタケタと笑いながら、ストロークを徐々に激しくしていく。
哀れに直立した性器を虐めつつ、もう片方の手で器用に曲を予約していた。その様子を横目で眺めながら、寒気が背筋を凍らせる。
……また歌わされるのか。
全力で走った後のように息切れが止まらず、酸欠のようになった頭を必死に働かせようとした。だが、見透かされたように嬲られ、計略は打ち切りに追い込まれる。
「…………ってかいうか、本気で歌う気あるんですか? ここってカラオケって言って、歌うための場所なんですけど、やる気ないならスタメン降ろしちゃおうかな…………なんちゃって♡」
罵られながらぎゅっと性器を握られると、堪らず情けない声が上がる。
「あ゛っ……」
「……あははっ。もっかい出しちゃおっか」
悪魔のような宣言で、情けないことに性器は無様に反応してしまう。
——何もかもこいつのせいだ。実際に「そう」なのだが、一回りも小さい年下の彼女に性器を弄くり回されて、指先一つでサディスティックに虐め倒されているという状況は、三井のそれなりに高いプライドを粉々に打ち砕こうと追い詰めていくる。もしかしたら、これは完全に自分の落ち度で、向こうはそれを咎めるためにこんなことをしている——何かナマエの気に触ることをしてしまって、反省を促している——そんな気になるのだ。
今すぐにでも無理やり振り払って行為を止めさせたいが、できなかった。目を細めて、慈母のような瞳で見つめられると三井の体は途端に強張った。
つまり、彼女によって体は制圧されてしまっていたのである。ナマエはそれを見抜いているので、先輩の性器を好き勝手いじっては弱いところを見つけて愉悦に浸っているのだった。
「お前……マジでいい加減に……う゛っ」
「九十点取れるって言ったのはそっちですよね? なんでそんなに生意気なんですか……がっかりです」シコシコと竿を扱きながら、心底つまらなさそうな声でつぶやいた「残念です」
好きな子にそんなことを言われて傷つかない人はいないだろう。
ナマエは、伏目がちな目で彼氏の横顔を盗み見る。わかりやすくショックを受けているが、それも次期に癖に変わるんじゃないかな……などと思ったが、今はまだ時期が早いかもしれない。
とりあえず、泣かせるよりも鳴かせる方が楽しかろうと、アメを加えることにした。
状況によって攻め方を変えるのは、戦術の基本だ。
「わたしが優しくてよかったですね。普通だったら呆れて生殺しですよ……」
ナマエはこれで「優しい彼女」としてアピールをして慰めたつもりだった。だが、受け取る方は恐怖を感じるだろう。顔を顰めてこちらを見る三井を見て、彼女は心底つまらないと思った。
だって、好きなのに。
好きだけど、まだセックスできないからこうしてあげてるのに。
セックスできないから本番じゃない安全な方法で向こうの性欲を発散させて「あげてる」のに。
「なんで……普通にわからないんですか……」
普通って、こんなことをするのはお前しかいないだろ!
——などというまともなツッコミをするための気力は三井に残されていない。
ナマエは「本気で自分のことを優しい」と思っている。これでも手加減してやっているつもりだった。その優しさは、相手には全く伝わっていない。
伝わるもクソもこれはレイプですよ。
「あ、次の曲入った!」液晶画面には、曲とは全く関係のない謎の映像が映し出される。「ほら、先輩! わたしのために……」
この台詞だけ切り取れば、何らかのドラマのワンシーンにも聞こえるだろう。しかし現実は非常で、ただの非合意に行われる性行為の一つでしかないのだ。
三井は今更になって個室の上側に設置されているカメラと、フロントに繋がる電話の存在を意識し出した。
「先輩、こっちに集中して。カメラ、見えてないんで」
ナマエはさらに肩を寄せてくる。
軽快なイントロが流れ出し、性器を握っていない方の手からマイクが渡される。
すでに抵抗する気力を失った三井は素直にそれを受け取り、再びスイッチを入れる。
「ほらほらー、がーんばって! 頑張って!」
普段なら嬉しい彼女の応援も、今の彼にとっては死刑宣告にも等しい。
「ほら、九十点とってくださいよー」
歌い出そうにも筋をネチネチと弄られ、再び口から喘ぎが漏れ出る。
「う゛……あ゛……クソ……!」
試合での九十点なら何度でも入れてやるのに!
心の叫びも彼女には聞こえない。
「歌って! 先輩!」
歌って欲しいなら、「それ」やめろよ。そう言いかけた口は無理やり塞がれた。
唇に柔いものが当たる感覚がする。開けっぱなしにしていた目の先に、ナマエの顔が迫っている。まつ毛の先と先が触れ合いそうだと思った瞬間、キスしているのだと脳が理解した。
キス。
二人にとっては初めての行為だった。
初めて触れた唇はふわふわしているかと思ったら、少し湿って湿度を帯びた生暖かいゴムのような感触も含まれていた。
ふにふにとした手で裏筋をぬちぬちと我慢汁で擦られ無理やり勃起させられた性器から、精子がどろりと溢れ出た。「射精した」というよりは、初めての夢精、もしくは子供のお漏らしと表した方が状況的に相応しいかもしれない。
──キスしただけで、出たのかよ。
そのままナマエは、ゆっくりと体重をかけてもたれかかってきた。──あ、肩ちっせぇ、髪の毛細いな。ぼんやりとされるがままにしていたが、急に自分が下半身を丸出しにしているという事実を思い出す。
……ナマエののスカートに精子が付いてしまう。
三井は強引に体を起こして曲を停止させた。
壁際に背中を預ける形で突き出されたナマエは、真顔のまま三井をじっと見つめる。
「先輩、気持ちよかったですか?」
真顔でそう聞かれたので、三井は頷かざるを得ない。気持ち良くなった、なんて言ったらどんな目に遭うか容易に想像ができた。
年下の女にビビらされていることについて思うところがないわけではなかったが、下手に喧嘩になって揉めるのが一番やばいパターンな気がしてから、ある程度下手に出ることにした。
異様な空気に飲まれている自覚はあったが、これ以上この異常なプレイに付き合ってはいられない。限界だった。
「なあ、もうこれ以上出ねえよ……」
「………………はあ」
大きなため息だった。
ナマエは性器から手を離すと、指や手首にまでまとわりついた精子をウェットティッシュで拭き取り、ゴミ箱に放り込む。そして、再びため息をつくと、三井に向かってマイクを差し出した。
「歌ってください」
試合で圧をかけられることには慣れていたが、年下の彼女にそんな目で見られる日が来るとは全く想定していない。
もう散々尊厳を辱められてしまった。先輩としての威厳も、彼氏としての威光も、人間としての信頼もないかもしれない。けれどせめて、最後の一線だけは守ろうと思った。
「さっ、三回……も、出したんだぜ? もういいだろ……流石に……」
必死に抵抗する言葉を探したが、散々精子を出しまくった後の脳では、まともな言葉が出てこなかった。
許しを乞うような言い方をするつもりはなかった。けれど、下手に出るしかなかった。悲しいかな、三井の下半身の主導権は未だ彼女に握られているのだ。二重の意味で。
無言でじっと見つめて訴えてくるような視線に、三井は密かに後輩のことを思い出す。
試合中の気迫に勝るとも劣らない厳かな表情で、ナマエはようやく口を開いた。
「誰のために……やってあげてると思ってるんですか?」
「…………は?」
「先輩、体力ないから、本番でバテないようにやってあげてるのに……」
「お、お前っ! 今自分が何してるのか──わかってんのかよ⁉︎」
ここになってようやく、三井は正気に戻った。正気に戻ったというよりも、抵抗する気力が戻ったというべきか。とにかく、彼はナマエの肩を掴んで、顔を突き合わせる。
「特訓」
問い詰められたナマエは、臆することもなくただ淡々とそう答えた。
特訓というワードと、今ここで起こった惨状から考えるに何のための特訓かはおおよそ察しがついた。思い当たるものを考えれば、ナマエに男として……人間として情けないと思われていることは確かだった。
「…………何の」
それでも、問わずにいられない。当然だった。三井寿は彼女に無理やり射精させられたのだから。
「本番に向けての」
「……アぁっ⁉︎」
そこまでいうと急にしおらしくなったナマエを見て、三井は全てを理解した。どれだけ鈍くてもわかる。本番といえば──
「セックスかよ⁉︎」
「だからぁ! 言わないでおいたのに! バッカじゃないです⁉︎」
「バカはお前だバカ! 無理やり……搾り取るやつがいるかよ⁉︎ さっきまでノリノリだったくせに、急に恥ずかしがりやがって、痴女じゃねえか!」
「う、うう、うるさいですねぇ! わたしにちんこ握られて、喘いでたくせに! 早漏! 早漏で雑魚の先輩をわたしが鍛えてあげてるんですよ? キスして出したくせに偉そうに!」
ちょうどマイクに音が入っており、音楽も止まった状態だったので二人の喧嘩は部屋の外まで漏れ出ていた。
セックスという単語には怒りと恥ずかしさを表明するくせに、早漏だのちんこだのといった、品性の欠けたワードを連呼することには躊躇いがない。そんな様子を見て、三井の脳はさらに混乱を極めた。
「そ、早漏とかいうけど、お前なんて常識なしじゃねえか! わかってんのか⁉︎ ここはカラオケで、ラブホじゃねえんだぞ!」
「ラブホって…………先輩の変態! 未成年のくせにっ!」
「お前のほうがおかしいだろうが! 頭狂ってんじゃねえのか⁉︎」
三井の叫びが部屋に響き渡る。
唯一無二の、全く反論のしようがない正論だった。
正しい叫びだ。
ナマエのしでかした行為は紛れもなく犯罪であり、三井はその被害者だった。
だから、この主張には正当性しかない。けれど、ナマエは狂っていた。というより冷めかけていた脳を冷やす隙間がなかった。このまま押し通すしかなかったから、反撃の一手を打って出ることにした……。
「先輩、わたしのことを嫌いになりましたか」
「好きも嫌いも何も、常識ってもんがよ……あるだろうが……」
「じゃあ、お揃いじゃないですか」
「何が」
「先輩も、犯罪者ですよ。人を病院送りにしたって、聞きましたけど……器物破損に、傷害罪に……暴行とか、したって……知ってるんですよ。わたし……」
それを言われれば、三井も口を閉じるしかなかった。
ナマエは特に怒るでも、問い詰めるわけでもなく淡々とした無表情で三井を見据えている。
「いいんですよ。好きなんで。わたしは先輩がどんな人でも、今が好きなんです」
だから、許してください。
いたいけな少女の目をして、ナマエは彼氏を見つめる。
──やば、やっぱ、可愛い……。
初めての男女交際で浮かれきった三井の脳は、再びバグり始める。
ナマエがそれに対して自覚的であるかどうかは、実のところわからない。
それは彼女本人のみぞ知るところである。
「せんぱい、許してっ!」
好きで好きでしょうがないといった様子で、彼女は三井の胴体に絡みつく。
「先輩が許してくれたら、たぶん、丸くおさまりますよ! それに……ほら、ねっ」何がねっ、なのかわからない。「お店の人も……ねっ!」
その一言で、三井は今の自分が置かれた状況を思い出し、ゾッとした。ようやく耳に入ってきたのはけたたましい電話の着信音であり、ナマエはそちらをチラリと見ながら目を泳がせている。
……ああ、なるほど。
全てを飲み込んだ三井は、不安で冷や汗をかき出したナマエに何か気の利いた言葉をかけようと思い立った。しかし、何も浮かばなかった。
「ねえ、これ、怒られが発生しますかね……あはは、でも、おバカなカップルなんてどこにでもいますもんね、先輩がわたしより下手くそなくせに点数取れるってイキがるからムカついちゃっただけだし……別に最初からヤリ目で入ったわけじゃないって、言えばいいですよね!」
「いや、普通に出禁だろ」
了
テスト期間も無事に終了し、部活もないので帰宅しようとしていた。後ろから声をかけられたので、声がする方を振り返る。そこにはナマエの姿があった。まっすぐにこちらを見つめる姿に、三井は思わず頬が緩むのを感じる。
——やっぱこいつ、すげえ可愛い。
三井寿は人生で三本の指に入るほどの能天気さで、浮かれきっていた。
人間は恋をすると正常な判断がつかなくなる。
後輩にデレデレと接する三井を見て、バスケ部のメンバーたちは様々な手段でいじり倒した。
普段なら照れ隠しで怒るところを開き直られたので、「ミッチーの癖に面白くない」と早々に飽きられ、次第にその風潮は無くなった。というか、白けた目で見られている。
三井の中間テストの結果は、努力の割には思わしくなかった。追試は当然のように確定していたが、その事はどうでもいい。どうせ詰め込んだところで赤点は確定しているのだから。
それよりも……だ。
付き合って一ヶ月の彼女が、堂々と公衆の面前でデートの誘いをしてくれている。大胆にも可憐な行動と言わずして何になるのか。
今の三井にとって恋愛遊戯の方が、勉学よりも優先されるべき事項だった。
「これ、クーポン貰ったんです。期末も終わったし、打ち上げしましょうよ」
二枚の紙切れをひらひらとさせながら、ナマエは三井を見上げる。チェーンのカラオケ店の名前が印字されたそれはとてもチープな色合いをしていた。
「カラオケ……? 打ち上げってことは、他のやつらも来るのか?」
「これ、ペア割のチケットなんですよね」
「おぉ…………マジか」
「言いたいこと、わかりますよね」
デート、ですよ。
後輩の口にした単語から飛躍して、様々な情景が脳裏をよぎった。そして、一瞬にして脳内で浮かんだ単語が電撃のように傾れ込んでくる。
カラオケということは、つまり、個室である。個室ということは、つまり……。
三井の思惑を察しているのかいないのか、ナマエは照れる様子もなく、静かに微笑んでいる。
信用を裏切るな。
そんな場所に彼氏である自分を連れ込むということは、それなりに信頼されているという証明だ。
カラオケでデートなんて、高校生カップルとしては全然普通のことだし、やましいことは何もない、ナマエがそんなこと考えるわけないだろ。女子と男子で脳の作りが違うんだし(?)、女同士でも男同士でも二人でカラオケするだろ。
だからこれは単なる二人でのお出かけであって、そこに変な意味はない。ジュース飲み放題だし騒いでも大丈夫だし、普通のデート先だよな!
そう思い込むことで、なんとか脳内の煩悩を晴らす。
ナマエは三井の返事を待ち、ただ静かに彼を見上げていた。この時点で、三井のテンションは最高潮に達していた。
三井は気づいていないが、周りの学生からの痛々しい視線は、最近まで授業もまともに出ていなかった、赤点常習犯の彼の顔につき刺さっている。受験生で、単位もギリギリのくせに後輩とデートかよ。三井の事情を知る同学年の生徒の、言いたげな視線が無遠慮に投げかけられて、しばらく見つめられたのちに、飽きて放置される。
その意味では、元不良の三井をデレデレとさせるナマエの方にも視線が向くのだが、彼女は何もいないかのように無反応だった。
——どうするか、もう答えはとっくに決まっている。
デートのお誘いをしてきた彼女の意思に反することはしたくないし、別に向こうから言われなくてもこちらから何らかの口実を見つけて誘うつもりだった。
それがちょっと当初の計画と違っただけで、段取りとしてはむしろ願ったり叶ったりだ。
三井はやや興奮した感情を押さえつけながら、なんでもないように頷いた。
「あー、オレはいいけど」
「じゃあ、北門で待ってますね」
嬉しそうな声で叫びながら一年の下駄箱までパタパタと走っていくナマエの後ろ姿を、見えなくなるまで見守った。
◆
「えっ……? お漏らしするの早すぎません? しかも全然歌えてないし」
どうしてこうなった。
目の前には無惨な点数が表示されたモニター。
横に座っているのはナマエ。
ジュースの入ったガラスの表面には水滴が伝い、それがじわじわとテーブルに侵食している。その様子を見ていると、注意散漫であると叱るように彼女の小さな白い手が、三井の性器を無遠慮に掴んでは扱き出した。
先ほど吐精した分の精子が、ナマエの細い指にネチネチと纏わり付いている。ドロドロとした半液状の物体は、ナマエの手が動くたびにぬちぬちと音を立てる。
精子を素手で触っても、彼女が動揺することはなかった。
出しちゃったもんはしょうがないですからね。
吐精した三井に、子供のお漏らしを見つけたような、諦めるような口ぶりでそう言っただけだった。 看護師が患者の下の世話をするような、何も感じていない、事務的に処置されているような態度に驚きを通り越して恐怖を覚えた。
……そんなことを言われると、こっちが悪いことをしているような気分になる。
何が悲しくて、カラオケの個室で手コキされているのか……全く理解できない。
抜いた直後の脳みそが正常に稼働する前に、刺激が伝わり思考が不能になる。
かろうじて思い出せるのは、最初は普通に歌っていたこと、ナマエはそれなりに歌が上手かったこと、張り合って得点を比べていたら──いつの間にかこんなことになっていた。
三井がナマエの挑発に乗せられた結果が「これ」だった。常識とか倫理とか、そういう言葉を抜きにして結果だけ述べるとしたら、そうだと言うしかなかった。
先ほどの射精は二回目だった。一回目に言われたのがさっきの台詞で、二回目は冒頭に述べた通りである。
最初は抵抗したが、何らかの手段で言いくるめられてしまった気がする。ナマエは頭の回る人だった。それは最初から知っていたことだった。まさか悪知恵まで働くような性格だったとは、三井には見抜けなかったのである。
「先輩の喘ぎ声女の子みたいだし、次はアイドルの曲でもいっちゃいます?」
ナマエはケタケタと笑いながら、ストロークを徐々に激しくしていく。
哀れに直立した性器を虐めつつ、もう片方の手で器用に曲を予約していた。その様子を横目で眺めながら、寒気が背筋を凍らせる。
……また歌わされるのか。
全力で走った後のように息切れが止まらず、酸欠のようになった頭を必死に働かせようとした。だが、見透かされたように嬲られ、計略は打ち切りに追い込まれる。
「…………ってかいうか、本気で歌う気あるんですか? ここってカラオケって言って、歌うための場所なんですけど、やる気ないならスタメン降ろしちゃおうかな…………なんちゃって♡」
罵られながらぎゅっと性器を握られると、堪らず情けない声が上がる。
「あ゛っ……」
「……あははっ。もっかい出しちゃおっか」
悪魔のような宣言で、情けないことに性器は無様に反応してしまう。
——何もかもこいつのせいだ。実際に「そう」なのだが、一回りも小さい年下の彼女に性器を弄くり回されて、指先一つでサディスティックに虐め倒されているという状況は、三井のそれなりに高いプライドを粉々に打ち砕こうと追い詰めていくる。もしかしたら、これは完全に自分の落ち度で、向こうはそれを咎めるためにこんなことをしている——何かナマエの気に触ることをしてしまって、反省を促している——そんな気になるのだ。
今すぐにでも無理やり振り払って行為を止めさせたいが、できなかった。目を細めて、慈母のような瞳で見つめられると三井の体は途端に強張った。
つまり、彼女によって体は制圧されてしまっていたのである。ナマエはそれを見抜いているので、先輩の性器を好き勝手いじっては弱いところを見つけて愉悦に浸っているのだった。
「お前……マジでいい加減に……う゛っ」
「九十点取れるって言ったのはそっちですよね? なんでそんなに生意気なんですか……がっかりです」シコシコと竿を扱きながら、心底つまらなさそうな声でつぶやいた「残念です」
好きな子にそんなことを言われて傷つかない人はいないだろう。
ナマエは、伏目がちな目で彼氏の横顔を盗み見る。わかりやすくショックを受けているが、それも次期に癖に変わるんじゃないかな……などと思ったが、今はまだ時期が早いかもしれない。
とりあえず、泣かせるよりも鳴かせる方が楽しかろうと、アメを加えることにした。
状況によって攻め方を変えるのは、戦術の基本だ。
「わたしが優しくてよかったですね。普通だったら呆れて生殺しですよ……」
ナマエはこれで「優しい彼女」としてアピールをして慰めたつもりだった。だが、受け取る方は恐怖を感じるだろう。顔を顰めてこちらを見る三井を見て、彼女は心底つまらないと思った。
だって、好きなのに。
好きだけど、まだセックスできないからこうしてあげてるのに。
セックスできないから本番じゃない安全な方法で向こうの性欲を発散させて「あげてる」のに。
「なんで……普通にわからないんですか……」
普通って、こんなことをするのはお前しかいないだろ!
——などというまともなツッコミをするための気力は三井に残されていない。
ナマエは「本気で自分のことを優しい」と思っている。これでも手加減してやっているつもりだった。その優しさは、相手には全く伝わっていない。
伝わるもクソもこれはレイプですよ。
「あ、次の曲入った!」液晶画面には、曲とは全く関係のない謎の映像が映し出される。「ほら、先輩! わたしのために……」
この台詞だけ切り取れば、何らかのドラマのワンシーンにも聞こえるだろう。しかし現実は非常で、ただの非合意に行われる性行為の一つでしかないのだ。
三井は今更になって個室の上側に設置されているカメラと、フロントに繋がる電話の存在を意識し出した。
「先輩、こっちに集中して。カメラ、見えてないんで」
ナマエはさらに肩を寄せてくる。
軽快なイントロが流れ出し、性器を握っていない方の手からマイクが渡される。
すでに抵抗する気力を失った三井は素直にそれを受け取り、再びスイッチを入れる。
「ほらほらー、がーんばって! 頑張って!」
普段なら嬉しい彼女の応援も、今の彼にとっては死刑宣告にも等しい。
「ほら、九十点とってくださいよー」
歌い出そうにも筋をネチネチと弄られ、再び口から喘ぎが漏れ出る。
「う゛……あ゛……クソ……!」
試合での九十点なら何度でも入れてやるのに!
心の叫びも彼女には聞こえない。
「歌って! 先輩!」
歌って欲しいなら、「それ」やめろよ。そう言いかけた口は無理やり塞がれた。
唇に柔いものが当たる感覚がする。開けっぱなしにしていた目の先に、ナマエの顔が迫っている。まつ毛の先と先が触れ合いそうだと思った瞬間、キスしているのだと脳が理解した。
キス。
二人にとっては初めての行為だった。
初めて触れた唇はふわふわしているかと思ったら、少し湿って湿度を帯びた生暖かいゴムのような感触も含まれていた。
ふにふにとした手で裏筋をぬちぬちと我慢汁で擦られ無理やり勃起させられた性器から、精子がどろりと溢れ出た。「射精した」というよりは、初めての夢精、もしくは子供のお漏らしと表した方が状況的に相応しいかもしれない。
──キスしただけで、出たのかよ。
そのままナマエは、ゆっくりと体重をかけてもたれかかってきた。──あ、肩ちっせぇ、髪の毛細いな。ぼんやりとされるがままにしていたが、急に自分が下半身を丸出しにしているという事実を思い出す。
……ナマエののスカートに精子が付いてしまう。
三井は強引に体を起こして曲を停止させた。
壁際に背中を預ける形で突き出されたナマエは、真顔のまま三井をじっと見つめる。
「先輩、気持ちよかったですか?」
真顔でそう聞かれたので、三井は頷かざるを得ない。気持ち良くなった、なんて言ったらどんな目に遭うか容易に想像ができた。
年下の女にビビらされていることについて思うところがないわけではなかったが、下手に喧嘩になって揉めるのが一番やばいパターンな気がしてから、ある程度下手に出ることにした。
異様な空気に飲まれている自覚はあったが、これ以上この異常なプレイに付き合ってはいられない。限界だった。
「なあ、もうこれ以上出ねえよ……」
「………………はあ」
大きなため息だった。
ナマエは性器から手を離すと、指や手首にまでまとわりついた精子をウェットティッシュで拭き取り、ゴミ箱に放り込む。そして、再びため息をつくと、三井に向かってマイクを差し出した。
「歌ってください」
試合で圧をかけられることには慣れていたが、年下の彼女にそんな目で見られる日が来るとは全く想定していない。
もう散々尊厳を辱められてしまった。先輩としての威厳も、彼氏としての威光も、人間としての信頼もないかもしれない。けれどせめて、最後の一線だけは守ろうと思った。
「さっ、三回……も、出したんだぜ? もういいだろ……流石に……」
必死に抵抗する言葉を探したが、散々精子を出しまくった後の脳では、まともな言葉が出てこなかった。
許しを乞うような言い方をするつもりはなかった。けれど、下手に出るしかなかった。悲しいかな、三井の下半身の主導権は未だ彼女に握られているのだ。二重の意味で。
無言でじっと見つめて訴えてくるような視線に、三井は密かに後輩のことを思い出す。
試合中の気迫に勝るとも劣らない厳かな表情で、ナマエはようやく口を開いた。
「誰のために……やってあげてると思ってるんですか?」
「…………は?」
「先輩、体力ないから、本番でバテないようにやってあげてるのに……」
「お、お前っ! 今自分が何してるのか──わかってんのかよ⁉︎」
ここになってようやく、三井は正気に戻った。正気に戻ったというよりも、抵抗する気力が戻ったというべきか。とにかく、彼はナマエの肩を掴んで、顔を突き合わせる。
「特訓」
問い詰められたナマエは、臆することもなくただ淡々とそう答えた。
特訓というワードと、今ここで起こった惨状から考えるに何のための特訓かはおおよそ察しがついた。思い当たるものを考えれば、ナマエに男として……人間として情けないと思われていることは確かだった。
「…………何の」
それでも、問わずにいられない。当然だった。三井寿は彼女に無理やり射精させられたのだから。
「本番に向けての」
「……アぁっ⁉︎」
そこまでいうと急にしおらしくなったナマエを見て、三井は全てを理解した。どれだけ鈍くてもわかる。本番といえば──
「セックスかよ⁉︎」
「だからぁ! 言わないでおいたのに! バッカじゃないです⁉︎」
「バカはお前だバカ! 無理やり……搾り取るやつがいるかよ⁉︎ さっきまでノリノリだったくせに、急に恥ずかしがりやがって、痴女じゃねえか!」
「う、うう、うるさいですねぇ! わたしにちんこ握られて、喘いでたくせに! 早漏! 早漏で雑魚の先輩をわたしが鍛えてあげてるんですよ? キスして出したくせに偉そうに!」
ちょうどマイクに音が入っており、音楽も止まった状態だったので二人の喧嘩は部屋の外まで漏れ出ていた。
セックスという単語には怒りと恥ずかしさを表明するくせに、早漏だのちんこだのといった、品性の欠けたワードを連呼することには躊躇いがない。そんな様子を見て、三井の脳はさらに混乱を極めた。
「そ、早漏とかいうけど、お前なんて常識なしじゃねえか! わかってんのか⁉︎ ここはカラオケで、ラブホじゃねえんだぞ!」
「ラブホって…………先輩の変態! 未成年のくせにっ!」
「お前のほうがおかしいだろうが! 頭狂ってんじゃねえのか⁉︎」
三井の叫びが部屋に響き渡る。
唯一無二の、全く反論のしようがない正論だった。
正しい叫びだ。
ナマエのしでかした行為は紛れもなく犯罪であり、三井はその被害者だった。
だから、この主張には正当性しかない。けれど、ナマエは狂っていた。というより冷めかけていた脳を冷やす隙間がなかった。このまま押し通すしかなかったから、反撃の一手を打って出ることにした……。
「先輩、わたしのことを嫌いになりましたか」
「好きも嫌いも何も、常識ってもんがよ……あるだろうが……」
「じゃあ、お揃いじゃないですか」
「何が」
「先輩も、犯罪者ですよ。人を病院送りにしたって、聞きましたけど……器物破損に、傷害罪に……暴行とか、したって……知ってるんですよ。わたし……」
それを言われれば、三井も口を閉じるしかなかった。
ナマエは特に怒るでも、問い詰めるわけでもなく淡々とした無表情で三井を見据えている。
「いいんですよ。好きなんで。わたしは先輩がどんな人でも、今が好きなんです」
だから、許してください。
いたいけな少女の目をして、ナマエは彼氏を見つめる。
──やば、やっぱ、可愛い……。
初めての男女交際で浮かれきった三井の脳は、再びバグり始める。
ナマエがそれに対して自覚的であるかどうかは、実のところわからない。
それは彼女本人のみぞ知るところである。
「せんぱい、許してっ!」
好きで好きでしょうがないといった様子で、彼女は三井の胴体に絡みつく。
「先輩が許してくれたら、たぶん、丸くおさまりますよ! それに……ほら、ねっ」何がねっ、なのかわからない。「お店の人も……ねっ!」
その一言で、三井は今の自分が置かれた状況を思い出し、ゾッとした。ようやく耳に入ってきたのはけたたましい電話の着信音であり、ナマエはそちらをチラリと見ながら目を泳がせている。
……ああ、なるほど。
全てを飲み込んだ三井は、不安で冷や汗をかき出したナマエに何か気の利いた言葉をかけようと思い立った。しかし、何も浮かばなかった。
「ねえ、これ、怒られが発生しますかね……あはは、でも、おバカなカップルなんてどこにでもいますもんね、先輩がわたしより下手くそなくせに点数取れるってイキがるからムカついちゃっただけだし……別に最初からヤリ目で入ったわけじゃないって、言えばいいですよね!」
「いや、普通に出禁だろ」
了