未設定の場合は「ミョウジ ナマエ」表記になります
エロあるよ笑
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「あまりそういうことは気安くするべきではないと思う……」
「――はぁ?」
今まさに、いい感じの空気に持っていけそうだったのに……。ナマエは、気まずそうに目をそらした男の袖を掴んでいたが、怒りのあまり引きちぎってしまうのではないかと思った。
――この人は、今になって何を言っているのだろう。据え膳ってやつじゃなかったの。
飲酒によって紅潮した顔には悩ましげな表情が浮かんでいる。脱がせた上着は丁寧に畳まれているが、それと相反するように雑に脱いだ靴が地面に転がっていた。
一応……師でもある彼のそんな顔を見つめていると、まるでこちらが無法者であるかのように見えてくる――実際、不貞をはたらこうとしているのはこちらなので、なんら反論の余地はない。痛くなってきた頭を堪えて、ナマエはぐっと顔を近づけた。
普段の無骨な印象とは裏腹に、こちらを不安そうに見つめる目線は小動物もかくやというほどの円らさだった。近くで見ていない他の人は知らないだろうな――と、ナマエは内心で優越感に浸りながら、頑として拒もうとする男に苛立ちを感じた。
無理やりはよくない。嫌がっている相手に迫るのは犯罪だから。まともな情操教育がナマエの理性に訴えかける。このまま力で押したところで師匠であるチョンユエに負けるのは目に見えていた。……なので、ギリギリのところで手を止める。
「ちょっと、何言ってるんですか……? 自分がどういう状況か分かってます?」
「……一時の感情に身を任せて後悔するのは、私ではなくナマエの方だと言っているんだ。それに、これは別に私でなくても――」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
ナマエはチョンユエと出会ってから、数えきれないほど多く溜め息をついた。わざとらしい芝居ががった態度をとっていればやるせなさを誤魔化せると思っていたのだが、現実はただ虚しくなる一方である。そんな余計なことも武術の鍛錬と共に彼から学ぶことになってしまった。
部屋に押し入っても文句を言われない時点で脈なしとあきらめた方が良いのか。それとも、自分が築いた地位を無為にしないために押してみるべきか。しばらく悩んで出した結論が、今の状況である。
しこたま酒を飲ませて気分よくしたところで、思い切って押してみる。百戦錬磨のチョンユエといえど、遊び半分でじゃれつきながらなら、寝台に転がすことは難しくなかった。自分が子供だと侮られている――ということも計算のうちだった。向こうからすれば、それは当たり前だろう。仮にチョンユエから恋愛対象として意識されていたのだとしたら、こんな風に部屋に入ることすら許されなかったはずだ。
しかし、ここまでしないと理解しないほどの朴念仁だとは思いもしなかった。
「チョンユエさんさぁ、不能とかじゃないですよね。え、顔だけじゃなくて下もおじさんだったらウケるんですけど」
「な、何を言っ……」
「あぁそれか、女に興味ないとか? ……だったらまだあきらめられるけど、別にそうじゃないんですよね? わたしに押し倒されて何にも抵抗できませんでした……っていうのも恥ずかしいけど、わたし以外にバレるわけじゃないから、いいんじゃないですかー?」
堪えるように強く握りしめられていた拳に、ナマエは手を這わせた。普段から木人に強く撃ちつける手は、鍛錬の積み重ねを物語るように硬質化している。色の違う手に自分のそれを重ねると、打撃を受けた時とはまた異なる喜悦で胸が高鳴った。
緊張で強張っている……。普段の強靭な攻撃からは想像もつかない師匠の初心な一面に、興奮しないわけがなかった。
「チョンユエさん……。女の子とこういうことしたことないんですかー? ……あ、言わなくていいですよ。こんなに緊張してるの見てたら大体分かっちゃうんで」
手と同様に、寝台に横たわって強張ったチョンユエの尻尾にナマエは自分のそれを巻きつけた。……ここまでやれば、最早自分の覚悟を疑うような人ではないだろう。
「っていうか、ここまでされてろくに抵抗してないじゃないですかぁ」
「――、それは……」
言いかけた言葉に続くのは、言い訳か世間では正しいとされているつまらない道徳、倫理に違いない。どこまでも正道に拘るところは嫌いではないが、今は必要ない。
彼はどこまでも正しいから、どうやっても拒まれるであろうことは目に見えていた。だからこうして外道を使うしかないというのに。ここまで追い込んだ向こうが悪い。
――ただの人なら、誘惑に負けるような邪心があれば楽だっただろう。でも仮に本当にそんな軽薄な人間だったら、好きにならなかった。
「本当に嫌だったら、わたしのこと殺してでも止めてくださいよ、ね。それか、悪い夢でも見たと思ってください」
何かを訴えかけようとしたチョンユエの口を、無理やり唇で塞ぐ。予想通りでしかなかったが、酒の味しかしない。
――こんなところまで実直でなくていいのに。
「……」
相手に自分の口紅の色が移っている。飾り気のない顔に薄く色づく様子を見て、ナマエは背筋が震えた。大して抵抗されないのをいいことに、夢中になって唇を押し当てていると、チョンユエの飲んだ酒にこちらも当てられてしまうような気がした。彼が好んで飲むような度数の強い酒は、痺れるような辛さがあった。
明るい中で目を開いたまま、チョンユエは何か言いたげな目線を向けることを辞めようとしない。何に遠慮しているのか、普段の威勢のよさはどこかに消えてしまったのだろうか。本気で嫌がられるよりも、我慢されている方がプライドが傷つけられている感じがする。
「――だから……わたしは、ちゃんと本気なんだって」
言い聞かせるように呟きながら照明を落とす。ここまで来たからには、何もできなかったとしても元に戻れない。
「無視するんだったらこのまま脱がせますよ」
「……気がすむまでやればいい」
「……そうしますよ。言われなくてもね」
「……たってない」
チョンユエの脳がその言葉を理解するまで、普段よりも時間を要した。
興奮して勃起していないことを咎めるナマエは、不満げな顔でチョンユエの下半身を見下ろしている。
「酔っているからじゃないか」
「あー、あぁ……」
あくまで刺激しないように、冷静に言葉を返す。
暑い暑いと言いながらナマエが服を脱いで、二人はお互いに上半身が裸のままで、くっついて転がっていた。それを除けば、ただ寄り添って寝ているのと大して変わらない。
ナマエは、ここまでやっておきながら下を脱がすのには抵抗があったのか、その間ずっと唸りながらチョンユエの横で百面相を続けていた。中途半端な状態になってから、しばらくして彼女が発した一言がそれだった。
「緊張してないんですか」
「……ナマエは私にどうなって欲しいんだ」
「…………えっちしたい」
「…………」
長く生きているが、その年頃の少女が考えることは未だに理解できない。身内である妹たちのことですら分かっているとは言い難いのだから、他人であるナマエの感情など、理解していると言える方がおかしいのである。
思春期の持て余した性欲を、きちんと発散できる環境にいないせいで彼女はこんな愚行に走ってしまったのか。他の誰かが犠牲になるよりは自分でどうにかするべきなのか――。酒で思考が正常に働かないまま、もじもじと腹のあたりを撫でるナマエの手をぼんやりと見つめる。
「えいっ」
無理やりずらされた下着から、自分の性器が飛び出しているのも、最早他人事のように眺めていた。ここまでくれば言葉で説得できるものでもないだろう、とチョンユエは子供の癇癪が過ぎ去るのを待つような気持ちでナマエの挙動を見守る。
「……なんかグロ……ってか、ちょっとキモ……」
自分で脱がせておきながら、言葉が率直すぎる。恐る恐る――といった様子で性器に触れる仕草を見て、彼女が初心なのかわざと煽るようにやっているのか、一瞬どちらか判断できなかった。――言動の不慣れさから察するに、おそらく前者であることは間違いないのだが。
「……ナマエ、こういうことは無理をしてやることでは」
「あ゛ーッ! うるさいなぁ! 無理でも勃たせてあげるんでおじさんは黙っててくださいよ」
「…………」
ナマエは強引に性器を掴むと、半ばヤケになった勢いで上下に扱き出した。必死な形相で手コキを始めるが、気持ちいいと感じるよりも摩擦で痛いと感じる方が強かった。見よう見まねで何を手本にしているのか問い詰めたい気持ちはあったが、今の彼女に何を言ってもムキにさせて神経を逆なでするだけだ。
「ナマエ」
「はっ……。こういうの……男の人がどうやってオナニーしてるかくらい……普通に知ってるんですけど。な、何も知らないと思ってバカにして……」
「……もう少し、優しくしてくれないか」
「……へっ」
ふとナマエの動きが止まった。何が基準で照れているのか不明瞭だが、暗い場所でも分かりやすいくらい彼女の顔が赤くなっているのが見えた。
「下手くそで悪かったですね」
「そうは言っていない。乱暴にしないで欲しいとお願いしただけだ」
誤魔化すように顔をそむけたナマエの手をとって、そのまま元の場所に触らせた。彼女の手の上に自身の手をかぶせると、露骨に動きが硬くなる。
「ちょっ……。え、っと……」
「いいから」
――向こうから始めたこととはいえ、自涜に教え子を巻き込むのは罪悪感を覚えずにはいられなかった。自分のそれとは異なる小さな手を見ていると、余計にそう感じてしまう。武芸を学ぶ相手に対して失礼だと思いながらも、こんな小さな体躯でどうやって生きていたのだろうと心配になってしまう。侮りというよりは、人間という生き物の造りそのものに対する庇護欲のようなものだった。とりわけ、ナマエのある意味年齢相応ともいえる肥大化した自意識と、まだ発展途上にある身体の細さを見ていると、足取りの覚束ない子供のように危ういものがあると感じるのだった。
「……え、っと、こう? で合ってます?」
「――あぁ」
「先生ってこういう風に一人でやってるんだ……」
ボソッとこぼした言い方は、以前彼女に新しい型を見せた時を思い出させる。子供に自慰行為を手伝わせている時に思い出すようなことではないのだが、ついナマエと重ねてきた年月を思い返してしまう。
「ここの裏とか、シコシコしてあげると気持ちいいって聞きますけどー?」
調子づいたナマエが、添えられるだけになっていた指に、不意に力をこめた。
「あ゛ッ……」
「……ふん、やっぱ気持ちいいんだ。先生も男の人、なんですねぇ。もうおっきくなってるし……」
裏スジを指の腹で押しながら、ナマエは歓喜を隠せなかった。普段禁欲的な師匠が自分の手で興奮しているのを見て、うれしくてうれしくて仕方がないのである。
ぐっと歯を食いしばって耐えるチョンユエを見ながら、ナマエは無遠慮に手を動かし続ける。若さ故に覚えも早いのか、素人のわりに手管だけは一丁前に見えてくる。おっかなびっくり触れていたのが嘘のようである。
「せんせー、おちんちんも強そうですよね。でもわたしの手の中でビクビクしてて、ちょっと見掛け倒しかもなぁ♡」
最早チョンユエがナマエの手を支えてやることはない。先走りで濡れた手が、部屋の照明に反射して鈍く光る。ぐちゃぐちゃと音を立てながら、新しいおもちゃに触る子供のような無邪気さと、商売女のような光景とが視界に映り込んではチョンユエの抱く罪悪感を溶かしていく。ナマエがここまで楽しげにしているのは、長い間見ていた彼ですら初めて見る光景だった。
それと、彼女の身体が直に自身と触れ合っている――というのも、ごくわずかな例外を除いてありえないことだった。
普段から鍛えているとはいえ、女性特有のふわふわとした手の柔らかさが消えることはない。指導の一環で多少触れることはあっても、ここまで直に女性に触られるという経験は――彼にはなかった。
「普段から、手で?」
「…………」
「ねぇ、ねえってば。聞いてますー? まさか、他の人ともこういうこと、やったことがあるんですかー?」
ナマエはぐ、と前に乗り出した。
その勢いのまま、彼女の腹に勃起していた性器の先端が触れ、思わず腰を引いてしまった。……が、未だに絡み合った尻尾によってそれ以上逸らすことは許されない。
「ねぇ、女の子のお腹に射精したことないんじゃないですか。……汚してもいいですよ、別に♡」
「だ、駄目だ。そんな汚い真似は……。ただでさえ――」
「気持ちいいから恥ずかしいんだ?」
耳元で囁きながら、ナマエは上半身をチョンユエに沿うようにくっつけた。二人とも裸でなければ、仲睦まじいきょうだいが抱き合ってじゃれているようにも見えるかもしれない。
人肌の暖かさと、包み込むような触感に耐えるように、チョンユエの眉間に皺が寄せられる。
鍛えているので多少は引き締まっているとはいえ、少女の腹はなめらかで、擦り付けると手で触られているのとはまた違った刺激があった。暖かい人肌の下に硬い骨があり、上から押されると内臓が入っているということを嫌というくらい意識させられる。
「お腹でオナニー気持ちいいですね♡ せんせい♡」
上からナマエが更にもたれかかってくると、ちょうど性器を挟むように圧迫された。浮き出た肋骨が擦り付けられて、チョンユエは思わず喉奥から絞りだすように声を上げた。
「んっ……。くすぐったい」
喘ぎ声じみた嬌声を上げてはいるが、ふと汗で張り付いた前髪を上げようとする様は、チョンユエも普段から見慣れたナマエの表情そのもので相違なかった。
いたずらを仕掛ける幼い子供のような言葉遣いと、目の前で行っている卑猥な光景とが結びつかない。室内の明かりで瞳孔の開いたナマエの目と目線が結びつくと、普段のように不意に逸らそうとされるのが、この行為が幻覚の類などではなく、現実のナマエ自身と交尾しているのだと突きつけられているようだった。
息を吸うと、体臭――汗の匂いが鮮烈に感じ取れた。日頃道場で稽古をつけてやるような時に、不意に嗅いだような匂いである。
日頃、ナマエはあまりあまり身体の線が出ないような服を着ている。たかだか布数枚に隔てられている――その下に意識が向かないわけではなかった。どうしても、男女で違う体つきや、歳のわりに伸びない背に気を使うことはあった。そういう意味ではない、断じて。肌を重ねて、その脆そうな造りやなだらかな曲線、脂肪の柔い感触が、自分の硬直したような身体に触れるのは……普段考えないように務めていた差異を意識させられると、背徳感で気が狂いそうになるのだ。当然、身体は思考を愚直に体現する。
「ぐッ、――す、すまない!」
ナマエが姿勢を変えようと身体を動かしたその瞬間、耐えきれず吹き出すような勢いで彼は射精した。腰を無意識に擦り付けてしまったので、広がった精子はぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てながらナマエの薄い腹に広がっていく。じわりと暖かい感触が拡大していく最中に人肌の暖かさも相まって、火傷のようだと錯覚する。。
腰を抱き寄せて密着すると、一瞬ナマエは身体を強張らせたが、程なくして大人しくそのまま身体をチョンユエに預ける。指先でみぞおちのあたりを緩く撫ぜながら、悲観しきったチョンユエに向かって口を開いた。
「すごーい。いっぱいでちゃったんですね」
「…………」
その言葉を聞き、ふと彼は我にかえった。慌ててナマエを元の位置に押し戻し、掛け布団で彼女の腹を拭ってやる。ナマエの顔は引きつっていた。理解できない行動を見る目つきだった。
賢者モードかな、とナマエは考える。先ほどまで理性を飛ばしたように見えていた。しかし、男は出すものを出したら冷静になるということは知識として知っていた。このまま本番までいけたら御の字だと思っていたが、そう上手くはいかないのだろうか。おじさんすぎて一発でもう疲れて寝る気なのかもしれない。失礼なことを考えながら、必死で手を動かすチョンユエを見上げる。
「ねー、胸まで飛んでるんですけど」
ただ過ちの痕跡を消そうと必死なチョンユエには、からかいも到底理解できないらしい。機械的な手つきで胸を拭われた時、ナマエは「白ける」というのはこういうことか、と考えた。女慣れしていたならそれはそれで最悪だけど、必死すぎて気が使えないのはどうかな――と思う。
「……すまない。私は人としてあるまじき事を……」
「いいじゃないですか、別に。やることやってからお説教とか、キモいし……」
ナマエはゆっくりと身体を起こした。そのまま寝台の上で膝立ちになると、穿いていた丈の短い下履きもおろしてしまう。ここまできたら、何もかもヤケである。あれほどのことをやっても尚、下を晒すのは恥ずかしいという理性が残っていた――というか、今までも勢いで誤魔化していただけに過ぎない。
「チョンユエさん……わ、わたしも脱いだけど」
「……」
依然として沈黙を続けながら、目線も外に向かっていたが、ナマエはわずかな距離をジリジリと詰めていく。幸い、それを拒絶されることはなかった。
「このまま寝れないし、今更戻れないんですけど……」
「部屋になら途中までは送ってあげよう。今の私にそれを行う資格すらないと糾弾されれば、それまでだが――」
――何を言っているんだ、この人は。
この期に及んでまだ教師然とあろうするチョンユエの頑固さに、思わずずっこけそうになった。そのまま背を向けて脱ぎ散らかした服を拾いに行こうとすらしていたので、慌てて誤魔化すための言葉が口をついて出てしまった。
「この歳まで処女なのはダサいって」
「…………」
本当はセックスまでしたいと思っているわけではないのは、嫌というほど理解しているが、それでもタダで戻るわけにはいかない。ナマエは意を決して、嘘をつくことにした。
「じゃっ、じゃあ……、もう他の人のとこに行っちゃおうかな……」
「――何?」
――食いついた!
ガッツポーズをしたいほどうれしかったが、釣りかかった魚を安々と逃すわけにはいかない。思いついた言葉をなんでも言ってやればいい。
「――さん、とか、わたしのこと好きって言ってたし、先生より優しそうだから。今からでも行ってきて、お願いしますって頼んでこようかなぁ」
そのまま寝台を降りる――フリをする。出した名前は適当だった。ここまでやってどうにもならないのなら、もう諦めるしかないだろう、というところまでやった。背後に聞き耳を立てながらじわじわと動き出す。
「……待て」
「!」
「待ってくれないか。頼む……」
普段の凛々しい声とは真逆の、追いすがる子供のような言い方だった。嘘をついて引き出した言葉だと思うと罪悪感が浮かんでこないわけではないが、それでも引き留めるという選択肢が彼の中に存在していたのだと知れて、気が高ぶってくる。
半端に引っかけた上着はそのままに、ナマエは声の方に振り返った。
「……なんですか?」
「何をそこまで急いているかは分からないが、自分の身体は大切にしなさい」
「あー、それはわかってますって」
こうなってもまだ説教か――。思わず舌打ちをつきたくなったが、いつにもなく張り詰めた表情を見て、思わず身構える。
「まだアレは責任の取れるような年齢ではない」
「……」
気まずいのか、普段は真っ直ぐ向けられる視線すらも、床に落としたままだった。ナマエは生唾をのみこんだ。
「私にしておきなさい」
「……は、はい」
ここまで来たら乗りかかった船かもしれない。――今、先生はどんな気持ちで自分を押し倒しているのだろう。などと考えながら目線を下に寄せると、普段は見えないチョンユエの旋毛が視界に入った。さきほどまで、到底人に言えないようなことをしていた。これからもっとヤバいことをするのに、今更何をこんなことで照れているのだろう。自己嫌悪に襲われそうになっていると、「集中」と厳しい声が聞こえてくる。
「せ、せんせ、そんなとこまで舐めないでいいですって……」
「…………」
ナマエの訴えをチョンユエは無視した。「手の方を入れると傷つけてしまうから」というようなことを言われた記憶が、朧げに浮かんでくる。チョンユエの爪が普段から短く切られているのはよく知っていたので、別に普通に入れてもいいと訴えたのだが、何も聞き入れてはくれなかった。
普段自分に指導してくる相手に下半身を晒して、しかも局部を舐められているというのは、どうにも形容しがたいほど恥ずかしい。
今日に備えて毛の処理をしてきたが、彼が生えていた方がうれしいタイプだったかもしれない、などと他の可能性がよぎると、自分の選択全てが間違いだったかのように思えてくる。
実際のところ、さらけ出した陰部を見せたところでチョンユエは何も言わなかった。あまりにもじっと見つめられたままだったので、何がどの穴なのか聞かれるのではないか、と己の師匠の無知を疑ったが、幸い最低限のことは彼も心得ていた。
ビチャビチャと音を立てて舐められていると、まるで原始的な交尾をしているような感覚になった。人間のそれというより、犬が突っ込む前に舐めているとか、そういった趣である。
「あ゛ッ、ん……っ♡」
自分でもめったに触らないような場所を、好きな人の舌で弄繰り回されていると、申し訳なさの方が勝ってくる。ザラザラとした舌で陰核を舐められると、それはそれで気持ちいいのだが、漫然としすぎていて、これが正しいのかは分からない。恥ずかしくて足を閉じようとすると、有無を言わせぬように強い力で抑え込められて、結果としてみっともないガニ股のまま、愛撫を受けるしかなかった。
前述の問答の後、黙ってゆっくりと寝台に倒された後、ロマンチックな何かがあると思った。チョンユエは特段無口というわけではない。寝所で語る言葉のバリエーションが多いと嫌だが、かといって今のようにずっと無言で愛撫だけされるのは怖かった。
「な゛、何か言って! ね゛ぇってば!」
「…………」
「ばか! ありえないっ! ん゛ッ、く、……ぅ゛!」
尻尾で頭をはたいても止まることはなかった。忍耐強さをこんなところで発揮しないでほしい。そのくせ反応を見て気持ちいいと感じる場所を的確に愛撫してくるので、タチが悪い。あまり情けなく喘ぎ声をあげているところを見られるのは忍びない……。
じゅっ、ずぞっ……じっ、じゅぞ……♡
「ん゛ッ、ん゛あ゛…………♡♡ッ、ふっ……♡」
思わず罵倒するとお仕置きとばかりに勃起した陰核を吸われて、ナマエの腰は大げさとも見えるような動きで跳ねた。
「は゛、ぁ、や゛だッ……♡ それ、だめッ♡ ん゛ぃっ、ぅう゛~ッ♡♡」
その上、快楽を逃がすためにブラブラ揺れていた尻尾の先を、飛んできた拳を止めるような勢いでぐ、と掴まれる。ぎゅっと掴まれた先端を指先でねちっこく触られると、電流のような刺激が加わった。尾てい骨のあたりから疼痛じみた快楽で全身が痙攣しそうになる。勢いを逃がそうにも動きを封じられている。神経が通った場所――普段滅多に人の手で触られない場所を弄られたせいで、頭がパニックになる。
「ぇ……あ゛、ぁ、がっ……」
口から出るのは意味を成さないような嗚咽だけで、だらしなく開いた口の端から子供のように唾液が伝った。チョンユエはそれを父親のような手つきで拭ってやる。視界の端でその光景を見て、どうにも居たたまれない気持ちになるが、身体が重くて抗議の言葉一つろくに発することができなかった。
絶頂の余韻に浸りながら、ナマエは身体が大げさなまでに震えるのを隠すことができなかった。無防備に布団に投げ出された四肢の細さに、眩暈がしそうになる。最早抵抗などできない少女の足をゆっくりと持ち上げると、先ほどまで丹念に舐めて蕩けた恥部に、チョンユエ自身の男根を沿わせる。
「ん゛ッ、……も、もうですか?」
「……もうここに挿入れても構わないと思うが」
じっと膣口と触れた性器をずらすと、確かに湿った音が僅かに聞こえた。
「……ぇ、っと」
「その為にこんな狼藉を働いたのでは?」
「おっしゃる通り、なんですけどぉ……」
――こっちは本当に初めてなのに、気遣いも何もあったものじゃないな。
ナマエは改めてチョンユエの顔を一瞬見上げて、すぐ目線を逸らした。
男の人の顔だ、と思った。あまり見ていると気が動転しそうになるので、あまりじっと見ていられない。遠くから見ていた時は、いくらでも眺めていられると思ったのに、こんな間近で、自分を前に興奮しているチョンユエは、正直刺激が強すぎてまともに見られない……。
別のことを考えようにも下半身に感じる存在が大きすぎて、どうしようもなくて、ただ恥ずかしい。目を閉じても僅かな衣擦れの音や、汗の男臭い匂いに意識が持っていかれる。
「集中。私に任せて……手を首に」
「は、はいッ!」
ふ、と少しだけチョンユエが笑ったように見えた。癖で、普段の鍛錬と同じような返事をしてしまったからかもしれない。
「……いい子だ」
「へ、ぁ゛……ッ♡ ゃ、これっ……♡♡ 待って♡♡」
未通の処女穴を突き破るように腰を押し進める。
二人の体格差は歴然としている。小さな身体を大柄な男が押し倒して腰を進める様は暴力的としか例えようのない光景だった。
痛みと同時に好きな男を受け入れる快楽で、ナマエの脳は最早正常に機能しているとは言い難い。背中に思い切り爪を立てられると、時折正常な理性に呼び戻されるようだったが、押し入った膣のぬるま湯じみた暖かさと、全て貪欲に呑み込むような若い膣道のうねりに、彼の神経は焼かれて散り散りになっていくようだった。
「あ、熱いな……ナマエ」
「はじめてっ、ほんとにわたしが初めてです……よねっ?」
「あぁ……そうだ」
「ぁ、ッ……童貞なんだから、ムリしないでいいですよ……、ッ~♡」
「そんなに煽るくらい元気なようなら、もう少し性急にしても構わないな……?」
発情しきったドロドロの姫裂の奥は、ドロドロとした粘液で満たされている。思わず唸るような声を上げるほど、突っ込んでいたら馬鹿になりそうなくらい気持ちがいい。
これまで肉欲に耽って本業を疎かにする人間のことをあまり理解できていなかったが、この刺激は確かに一度覚えれば忘れることはできないかもしれない……。
「――ナマエ、自分でここを慰めたことは」
「ぁ、ッ……♡♡ ぇ、と、た、たまに……っ♡ ちょ、きゅうに、なんでっ」
「…………」
閉じた裂け目を割り広げる抵抗力と、その割には一度通してしまうと健気に柔らかく包まれる感触とが相まって、急に恐ろしくなった。初めてのわりに――、侵入する性器に対して順応が早い……気がする。こんなものなのだろうか。痛みで苦しむ姿が見たいわけではないが、体格差を考慮すると相当な負担を強いているはずだ。その割には辛そうにしている時間が短い。性器を受け入れる相手が初めてだっただけで、前の段階――指で慣らす行為であるとか――はもう経験しているのではないだろうか。
(…………)
そこまで考えて、苛立ちを覚える当たりが青臭さを突きつけられているようで不甲斐なく、恥ずかしい。
「……ぇ、なにっ? ん゛ッ……♡♡」
誤魔化すように口づけると、ナマエは素直にそれを追いかけた。呼吸を求めて開いた口から伸びた舌を絡めていると、短い舌が貪欲に奥へ迫っていこうとやってくる。――本当に自分以外の誰かとこういった経験がなかったのか疑念が積み重なっていく。。
――年甲斐もなく嫉妬していることを見抜かれるのはあまりいいとは言えない。執着は身を滅ぼすということを、彼はよく知っているはずだった。
動くたびに、押さえつけている身体から高い声が上がる。ずるずると侵入を許されるたびに、こんな身体のどこにそんな隙間があったのかと驚かされるばかりだ。刺激から遅れて、結合部から淫汁が溢れてシーツを汚していく。触れると冷たいのだが、性行為に耽って必死な身体の体温を下げる効果はない。ナマエの身体中から水分が全て抜けて、脱水してしまうのではないかとチョンユエは恐れた。
「は、ッ……、う、奥ふかいっ……です♡」
腰を押し進めると小さめの骨盤とぶつかって、僅かな痛みを感じる。ほとんど根本まで押し込んだところでふと目線を下ろすと、ナマエの腹のあたりが浮き出ているのが見えた。
「ん゛、ぁ、すごっ……♡ おちんちんぜんぶ入っちゃった♡♡」
「ナマエ……、それは辞めなさい」
「え、いやでーす♡ こうしたら気持ちいいって、先生の、はっ、ん゛……言ってくれてますけど」
狭い膣道を無理やり押し広げ、子宮を身体の内部に押し上げていくと下腹のあたりにグロテスクなシルエットが浮かび上がる。浮き出た肋骨のあたりから流れる汗が、横腹を伝って寝台に吸われていった。ナマエの手が腹の上を撫でると、中がうねってビクビクと震える。
「あ゛っ、ぁ……♡」
くに、と壁に当たるような衝撃が広がった。柔らかい肉が寄せては返すような刺激ではなく、明らかに降りてきた子宮に対する触感だった。
「~~っ♡♡ い゛ッ、あ゛ぁ♡ ッ♡ ……ぉ、あ゛……♡」
ナマエのつま先が床を思い切り引っ搔いた。肩から抱き寄せると、勢いで陰茎がさらに奥まで食い込んでいく。少し引き抜いては再び奥へと腰を進める。その動きを繰り返していると、部屋には空気が割れるようなピストン音が響いた。
「ぃ、っ♡ ~~ッ♡ う゛あ゛、は……ぇ、お゛、……♡」
「……はぁ、ナマエ」
「な、んですか……っ♡ ずっと黙ってた、のにっ……♡」
無言のまま行為に及んでいたことを責め立てるように、ナマエの目はチョンユエをじっと見つめていた。
「……責任を取らせてほしい」
「え゛、ぁ、えっ? また何か言わせようと、あ゛、してるんですか……っ」
「いや、そんなつもりは……」
「教え子に手ぇ出しておいて、今更何かっこつけてるんです、ぁ、う゛ッ、お゛ぁ……、ぅ、ぉ゛♡♡」
「だから……、軽はずみな言動は謹んでおきなさいと普段から言っているはずだが?」
ずずず……♡ ……ぶじゅう……、ぬぽっ♡
ぷしゅ、と音を立てて、じわりとお尻のあたりまで水が広がっていく。漏らしたのか潮を吹いたのか判別が怪しいが、外に出る直前まで引き抜かれた後に全てを抉るような勢いで押し寄せてきた男根の衝撃に、ナマエは最早尿道から何かを漏らしたことや、呼吸の仕方も忘れて喘いだ。
「ぉ~~~ッ♡♡ イ゛ぐ……っ♡♡ ん、ぉ゛ッ~……♡♡」
「……叱られるのが気持ちいいのか? これから先、難儀しそうだな」
太ももを叱咤するように叩かれると、バチン、という音と共に残っていた残滓もぴゅっと漏れ出た。
「あ゛、あぁ゛ッ~♡ イ、いってる゛のに♡♡」
「こんな身体で、身近な男に気安く貞操を明け渡すつもりでいたというのだから、始末に負えないな」
「せんせ、先生だけです……って♡ う゛、ッ、~~ッ♡」
上からのしかかるように体重を預けると、自重で寝台が嫌な音を立てた。潰れた蛙のようなくぐもった声と、骨が折れるのではないかという心配もあったが、それ以上に昂った熱を紛らわせるにはこれしかないように思えた。もうナマエには何も喋らせない方がいい。自分の置かれている状況も理解せずに口だけが達者な子供を見ていると、普段なら寛容に接していられるが、今回だけは我慢ならなかった。
「ん゛ん゛ッ……♡ ~っ♡」
「……ぁ、は……~~ッ」
グチャグチャに溶けた結合部にがっつくように腰を押し付けていると、すっかり陥落して降参しきった女性器が、健気に男根を咥え込んで離さず吸いついてくるのが分かる。危険な状態にあっても尚、本能で奉仕しようとしているのか、放り出されていたはずの足だけは、腰を抱えるような形でチョンユエの身体にしがみついていた。
状況もろくに理解しないまま呻きとも喘ぎともつかない声を上げて、ナマエは絶頂から戻ってこようとしない。
どぽ、びゅうううう~♡ びぴゅぴゅぴゅ♡
「~~~ッ♡ ♡゛、ッ♡♡」
マットと自身でナマエを挟んで潰さんばかりの姿勢のまま、彼は射精した。姿勢を変えないまま、一番膣の奥まで押し入ると、無遠慮に精を粘膜に擦り付ける
密着した子宮口が粘着質な液体を呑み込もうと貪欲に畝っている。ナマエの膣が藻掻くように動くたび、ドロドロした濃い雄汁が流動して広がっていく。
「ふ、はあっ……♡ ぁ……♡ あ、あつい……♡」
ぬとぉ……、と重い粘液を纏わせながら引き抜く動作だけでも、軽く達してしまった。そのまま萎えきらない性器を彼女の呼吸で揺れる腹にのせ上げると、精子とも本気汁ともつかないようなドロドロの液体が、ナマエの腹に広がっていく。重たい性器は、頂点が臍の上まで伸びきっていた。よくここまで入ったものだと、他人事のように思う。
「……無理をさせてしまった。すまない。大丈夫、か……」
「ん……。まぁ。謝ってるワリには、遠慮なしにいっぱい射精しました、ね……♡」
ナマエは粘液まみれの逸物に手を這わせると、そのまま柔く擦り付けた。白い肌と対照的に赤黒い男性器との色の差が滑稽ではあるが、コントラストの差に眩暈がするほど厭らしい。
「一回で終わらせる気、ないんじゃないんですか~……?♡ ――わたしの方がチョンユエさんのスケベなところに詳しいですからね……♡」
「はぁ……。私の指導不足かな」
「……そっちのせいですよ、全部」
「――はぁ?」
今まさに、いい感じの空気に持っていけそうだったのに……。ナマエは、気まずそうに目をそらした男の袖を掴んでいたが、怒りのあまり引きちぎってしまうのではないかと思った。
――この人は、今になって何を言っているのだろう。据え膳ってやつじゃなかったの。
飲酒によって紅潮した顔には悩ましげな表情が浮かんでいる。脱がせた上着は丁寧に畳まれているが、それと相反するように雑に脱いだ靴が地面に転がっていた。
一応……師でもある彼のそんな顔を見つめていると、まるでこちらが無法者であるかのように見えてくる――実際、不貞をはたらこうとしているのはこちらなので、なんら反論の余地はない。痛くなってきた頭を堪えて、ナマエはぐっと顔を近づけた。
普段の無骨な印象とは裏腹に、こちらを不安そうに見つめる目線は小動物もかくやというほどの円らさだった。近くで見ていない他の人は知らないだろうな――と、ナマエは内心で優越感に浸りながら、頑として拒もうとする男に苛立ちを感じた。
無理やりはよくない。嫌がっている相手に迫るのは犯罪だから。まともな情操教育がナマエの理性に訴えかける。このまま力で押したところで師匠であるチョンユエに負けるのは目に見えていた。……なので、ギリギリのところで手を止める。
「ちょっと、何言ってるんですか……? 自分がどういう状況か分かってます?」
「……一時の感情に身を任せて後悔するのは、私ではなくナマエの方だと言っているんだ。それに、これは別に私でなくても――」
「はぁぁぁぁぁぁ?」
ナマエはチョンユエと出会ってから、数えきれないほど多く溜め息をついた。わざとらしい芝居ががった態度をとっていればやるせなさを誤魔化せると思っていたのだが、現実はただ虚しくなる一方である。そんな余計なことも武術の鍛錬と共に彼から学ぶことになってしまった。
部屋に押し入っても文句を言われない時点で脈なしとあきらめた方が良いのか。それとも、自分が築いた地位を無為にしないために押してみるべきか。しばらく悩んで出した結論が、今の状況である。
しこたま酒を飲ませて気分よくしたところで、思い切って押してみる。百戦錬磨のチョンユエといえど、遊び半分でじゃれつきながらなら、寝台に転がすことは難しくなかった。自分が子供だと侮られている――ということも計算のうちだった。向こうからすれば、それは当たり前だろう。仮にチョンユエから恋愛対象として意識されていたのだとしたら、こんな風に部屋に入ることすら許されなかったはずだ。
しかし、ここまでしないと理解しないほどの朴念仁だとは思いもしなかった。
「チョンユエさんさぁ、不能とかじゃないですよね。え、顔だけじゃなくて下もおじさんだったらウケるんですけど」
「な、何を言っ……」
「あぁそれか、女に興味ないとか? ……だったらまだあきらめられるけど、別にそうじゃないんですよね? わたしに押し倒されて何にも抵抗できませんでした……っていうのも恥ずかしいけど、わたし以外にバレるわけじゃないから、いいんじゃないですかー?」
堪えるように強く握りしめられていた拳に、ナマエは手を這わせた。普段から木人に強く撃ちつける手は、鍛錬の積み重ねを物語るように硬質化している。色の違う手に自分のそれを重ねると、打撃を受けた時とはまた異なる喜悦で胸が高鳴った。
緊張で強張っている……。普段の強靭な攻撃からは想像もつかない師匠の初心な一面に、興奮しないわけがなかった。
「チョンユエさん……。女の子とこういうことしたことないんですかー? ……あ、言わなくていいですよ。こんなに緊張してるの見てたら大体分かっちゃうんで」
手と同様に、寝台に横たわって強張ったチョンユエの尻尾にナマエは自分のそれを巻きつけた。……ここまでやれば、最早自分の覚悟を疑うような人ではないだろう。
「っていうか、ここまでされてろくに抵抗してないじゃないですかぁ」
「――、それは……」
言いかけた言葉に続くのは、言い訳か世間では正しいとされているつまらない道徳、倫理に違いない。どこまでも正道に拘るところは嫌いではないが、今は必要ない。
彼はどこまでも正しいから、どうやっても拒まれるであろうことは目に見えていた。だからこうして外道を使うしかないというのに。ここまで追い込んだ向こうが悪い。
――ただの人なら、誘惑に負けるような邪心があれば楽だっただろう。でも仮に本当にそんな軽薄な人間だったら、好きにならなかった。
「本当に嫌だったら、わたしのこと殺してでも止めてくださいよ、ね。それか、悪い夢でも見たと思ってください」
何かを訴えかけようとしたチョンユエの口を、無理やり唇で塞ぐ。予想通りでしかなかったが、酒の味しかしない。
――こんなところまで実直でなくていいのに。
「……」
相手に自分の口紅の色が移っている。飾り気のない顔に薄く色づく様子を見て、ナマエは背筋が震えた。大して抵抗されないのをいいことに、夢中になって唇を押し当てていると、チョンユエの飲んだ酒にこちらも当てられてしまうような気がした。彼が好んで飲むような度数の強い酒は、痺れるような辛さがあった。
明るい中で目を開いたまま、チョンユエは何か言いたげな目線を向けることを辞めようとしない。何に遠慮しているのか、普段の威勢のよさはどこかに消えてしまったのだろうか。本気で嫌がられるよりも、我慢されている方がプライドが傷つけられている感じがする。
「――だから……わたしは、ちゃんと本気なんだって」
言い聞かせるように呟きながら照明を落とす。ここまで来たからには、何もできなかったとしても元に戻れない。
「無視するんだったらこのまま脱がせますよ」
「……気がすむまでやればいい」
「……そうしますよ。言われなくてもね」
「……たってない」
チョンユエの脳がその言葉を理解するまで、普段よりも時間を要した。
興奮して勃起していないことを咎めるナマエは、不満げな顔でチョンユエの下半身を見下ろしている。
「酔っているからじゃないか」
「あー、あぁ……」
あくまで刺激しないように、冷静に言葉を返す。
暑い暑いと言いながらナマエが服を脱いで、二人はお互いに上半身が裸のままで、くっついて転がっていた。それを除けば、ただ寄り添って寝ているのと大して変わらない。
ナマエは、ここまでやっておきながら下を脱がすのには抵抗があったのか、その間ずっと唸りながらチョンユエの横で百面相を続けていた。中途半端な状態になってから、しばらくして彼女が発した一言がそれだった。
「緊張してないんですか」
「……ナマエは私にどうなって欲しいんだ」
「…………えっちしたい」
「…………」
長く生きているが、その年頃の少女が考えることは未だに理解できない。身内である妹たちのことですら分かっているとは言い難いのだから、他人であるナマエの感情など、理解していると言える方がおかしいのである。
思春期の持て余した性欲を、きちんと発散できる環境にいないせいで彼女はこんな愚行に走ってしまったのか。他の誰かが犠牲になるよりは自分でどうにかするべきなのか――。酒で思考が正常に働かないまま、もじもじと腹のあたりを撫でるナマエの手をぼんやりと見つめる。
「えいっ」
無理やりずらされた下着から、自分の性器が飛び出しているのも、最早他人事のように眺めていた。ここまでくれば言葉で説得できるものでもないだろう、とチョンユエは子供の癇癪が過ぎ去るのを待つような気持ちでナマエの挙動を見守る。
「……なんかグロ……ってか、ちょっとキモ……」
自分で脱がせておきながら、言葉が率直すぎる。恐る恐る――といった様子で性器に触れる仕草を見て、彼女が初心なのかわざと煽るようにやっているのか、一瞬どちらか判断できなかった。――言動の不慣れさから察するに、おそらく前者であることは間違いないのだが。
「……ナマエ、こういうことは無理をしてやることでは」
「あ゛ーッ! うるさいなぁ! 無理でも勃たせてあげるんでおじさんは黙っててくださいよ」
「…………」
ナマエは強引に性器を掴むと、半ばヤケになった勢いで上下に扱き出した。必死な形相で手コキを始めるが、気持ちいいと感じるよりも摩擦で痛いと感じる方が強かった。見よう見まねで何を手本にしているのか問い詰めたい気持ちはあったが、今の彼女に何を言ってもムキにさせて神経を逆なでするだけだ。
「ナマエ」
「はっ……。こういうの……男の人がどうやってオナニーしてるかくらい……普通に知ってるんですけど。な、何も知らないと思ってバカにして……」
「……もう少し、優しくしてくれないか」
「……へっ」
ふとナマエの動きが止まった。何が基準で照れているのか不明瞭だが、暗い場所でも分かりやすいくらい彼女の顔が赤くなっているのが見えた。
「下手くそで悪かったですね」
「そうは言っていない。乱暴にしないで欲しいとお願いしただけだ」
誤魔化すように顔をそむけたナマエの手をとって、そのまま元の場所に触らせた。彼女の手の上に自身の手をかぶせると、露骨に動きが硬くなる。
「ちょっ……。え、っと……」
「いいから」
――向こうから始めたこととはいえ、自涜に教え子を巻き込むのは罪悪感を覚えずにはいられなかった。自分のそれとは異なる小さな手を見ていると、余計にそう感じてしまう。武芸を学ぶ相手に対して失礼だと思いながらも、こんな小さな体躯でどうやって生きていたのだろうと心配になってしまう。侮りというよりは、人間という生き物の造りそのものに対する庇護欲のようなものだった。とりわけ、ナマエのある意味年齢相応ともいえる肥大化した自意識と、まだ発展途上にある身体の細さを見ていると、足取りの覚束ない子供のように危ういものがあると感じるのだった。
「……え、っと、こう? で合ってます?」
「――あぁ」
「先生ってこういう風に一人でやってるんだ……」
ボソッとこぼした言い方は、以前彼女に新しい型を見せた時を思い出させる。子供に自慰行為を手伝わせている時に思い出すようなことではないのだが、ついナマエと重ねてきた年月を思い返してしまう。
「ここの裏とか、シコシコしてあげると気持ちいいって聞きますけどー?」
調子づいたナマエが、添えられるだけになっていた指に、不意に力をこめた。
「あ゛ッ……」
「……ふん、やっぱ気持ちいいんだ。先生も男の人、なんですねぇ。もうおっきくなってるし……」
裏スジを指の腹で押しながら、ナマエは歓喜を隠せなかった。普段禁欲的な師匠が自分の手で興奮しているのを見て、うれしくてうれしくて仕方がないのである。
ぐっと歯を食いしばって耐えるチョンユエを見ながら、ナマエは無遠慮に手を動かし続ける。若さ故に覚えも早いのか、素人のわりに手管だけは一丁前に見えてくる。おっかなびっくり触れていたのが嘘のようである。
「せんせー、おちんちんも強そうですよね。でもわたしの手の中でビクビクしてて、ちょっと見掛け倒しかもなぁ♡」
最早チョンユエがナマエの手を支えてやることはない。先走りで濡れた手が、部屋の照明に反射して鈍く光る。ぐちゃぐちゃと音を立てながら、新しいおもちゃに触る子供のような無邪気さと、商売女のような光景とが視界に映り込んではチョンユエの抱く罪悪感を溶かしていく。ナマエがここまで楽しげにしているのは、長い間見ていた彼ですら初めて見る光景だった。
それと、彼女の身体が直に自身と触れ合っている――というのも、ごくわずかな例外を除いてありえないことだった。
普段から鍛えているとはいえ、女性特有のふわふわとした手の柔らかさが消えることはない。指導の一環で多少触れることはあっても、ここまで直に女性に触られるという経験は――彼にはなかった。
「普段から、手で?」
「…………」
「ねぇ、ねえってば。聞いてますー? まさか、他の人ともこういうこと、やったことがあるんですかー?」
ナマエはぐ、と前に乗り出した。
その勢いのまま、彼女の腹に勃起していた性器の先端が触れ、思わず腰を引いてしまった。……が、未だに絡み合った尻尾によってそれ以上逸らすことは許されない。
「ねぇ、女の子のお腹に射精したことないんじゃないですか。……汚してもいいですよ、別に♡」
「だ、駄目だ。そんな汚い真似は……。ただでさえ――」
「気持ちいいから恥ずかしいんだ?」
耳元で囁きながら、ナマエは上半身をチョンユエに沿うようにくっつけた。二人とも裸でなければ、仲睦まじいきょうだいが抱き合ってじゃれているようにも見えるかもしれない。
人肌の暖かさと、包み込むような触感に耐えるように、チョンユエの眉間に皺が寄せられる。
鍛えているので多少は引き締まっているとはいえ、少女の腹はなめらかで、擦り付けると手で触られているのとはまた違った刺激があった。暖かい人肌の下に硬い骨があり、上から押されると内臓が入っているということを嫌というくらい意識させられる。
「お腹でオナニー気持ちいいですね♡ せんせい♡」
上からナマエが更にもたれかかってくると、ちょうど性器を挟むように圧迫された。浮き出た肋骨が擦り付けられて、チョンユエは思わず喉奥から絞りだすように声を上げた。
「んっ……。くすぐったい」
喘ぎ声じみた嬌声を上げてはいるが、ふと汗で張り付いた前髪を上げようとする様は、チョンユエも普段から見慣れたナマエの表情そのもので相違なかった。
いたずらを仕掛ける幼い子供のような言葉遣いと、目の前で行っている卑猥な光景とが結びつかない。室内の明かりで瞳孔の開いたナマエの目と目線が結びつくと、普段のように不意に逸らそうとされるのが、この行為が幻覚の類などではなく、現実のナマエ自身と交尾しているのだと突きつけられているようだった。
息を吸うと、体臭――汗の匂いが鮮烈に感じ取れた。日頃道場で稽古をつけてやるような時に、不意に嗅いだような匂いである。
日頃、ナマエはあまりあまり身体の線が出ないような服を着ている。たかだか布数枚に隔てられている――その下に意識が向かないわけではなかった。どうしても、男女で違う体つきや、歳のわりに伸びない背に気を使うことはあった。そういう意味ではない、断じて。肌を重ねて、その脆そうな造りやなだらかな曲線、脂肪の柔い感触が、自分の硬直したような身体に触れるのは……普段考えないように務めていた差異を意識させられると、背徳感で気が狂いそうになるのだ。当然、身体は思考を愚直に体現する。
「ぐッ、――す、すまない!」
ナマエが姿勢を変えようと身体を動かしたその瞬間、耐えきれず吹き出すような勢いで彼は射精した。腰を無意識に擦り付けてしまったので、広がった精子はぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てながらナマエの薄い腹に広がっていく。じわりと暖かい感触が拡大していく最中に人肌の暖かさも相まって、火傷のようだと錯覚する。。
腰を抱き寄せて密着すると、一瞬ナマエは身体を強張らせたが、程なくして大人しくそのまま身体をチョンユエに預ける。指先でみぞおちのあたりを緩く撫ぜながら、悲観しきったチョンユエに向かって口を開いた。
「すごーい。いっぱいでちゃったんですね」
「…………」
その言葉を聞き、ふと彼は我にかえった。慌ててナマエを元の位置に押し戻し、掛け布団で彼女の腹を拭ってやる。ナマエの顔は引きつっていた。理解できない行動を見る目つきだった。
賢者モードかな、とナマエは考える。先ほどまで理性を飛ばしたように見えていた。しかし、男は出すものを出したら冷静になるということは知識として知っていた。このまま本番までいけたら御の字だと思っていたが、そう上手くはいかないのだろうか。おじさんすぎて一発でもう疲れて寝る気なのかもしれない。失礼なことを考えながら、必死で手を動かすチョンユエを見上げる。
「ねー、胸まで飛んでるんですけど」
ただ過ちの痕跡を消そうと必死なチョンユエには、からかいも到底理解できないらしい。機械的な手つきで胸を拭われた時、ナマエは「白ける」というのはこういうことか、と考えた。女慣れしていたならそれはそれで最悪だけど、必死すぎて気が使えないのはどうかな――と思う。
「……すまない。私は人としてあるまじき事を……」
「いいじゃないですか、別に。やることやってからお説教とか、キモいし……」
ナマエはゆっくりと身体を起こした。そのまま寝台の上で膝立ちになると、穿いていた丈の短い下履きもおろしてしまう。ここまできたら、何もかもヤケである。あれほどのことをやっても尚、下を晒すのは恥ずかしいという理性が残っていた――というか、今までも勢いで誤魔化していただけに過ぎない。
「チョンユエさん……わ、わたしも脱いだけど」
「……」
依然として沈黙を続けながら、目線も外に向かっていたが、ナマエはわずかな距離をジリジリと詰めていく。幸い、それを拒絶されることはなかった。
「このまま寝れないし、今更戻れないんですけど……」
「部屋になら途中までは送ってあげよう。今の私にそれを行う資格すらないと糾弾されれば、それまでだが――」
――何を言っているんだ、この人は。
この期に及んでまだ教師然とあろうするチョンユエの頑固さに、思わずずっこけそうになった。そのまま背を向けて脱ぎ散らかした服を拾いに行こうとすらしていたので、慌てて誤魔化すための言葉が口をついて出てしまった。
「この歳まで処女なのはダサいって」
「…………」
本当はセックスまでしたいと思っているわけではないのは、嫌というほど理解しているが、それでもタダで戻るわけにはいかない。ナマエは意を決して、嘘をつくことにした。
「じゃっ、じゃあ……、もう他の人のとこに行っちゃおうかな……」
「――何?」
――食いついた!
ガッツポーズをしたいほどうれしかったが、釣りかかった魚を安々と逃すわけにはいかない。思いついた言葉をなんでも言ってやればいい。
「――さん、とか、わたしのこと好きって言ってたし、先生より優しそうだから。今からでも行ってきて、お願いしますって頼んでこようかなぁ」
そのまま寝台を降りる――フリをする。出した名前は適当だった。ここまでやってどうにもならないのなら、もう諦めるしかないだろう、というところまでやった。背後に聞き耳を立てながらじわじわと動き出す。
「……待て」
「!」
「待ってくれないか。頼む……」
普段の凛々しい声とは真逆の、追いすがる子供のような言い方だった。嘘をついて引き出した言葉だと思うと罪悪感が浮かんでこないわけではないが、それでも引き留めるという選択肢が彼の中に存在していたのだと知れて、気が高ぶってくる。
半端に引っかけた上着はそのままに、ナマエは声の方に振り返った。
「……なんですか?」
「何をそこまで急いているかは分からないが、自分の身体は大切にしなさい」
「あー、それはわかってますって」
こうなってもまだ説教か――。思わず舌打ちをつきたくなったが、いつにもなく張り詰めた表情を見て、思わず身構える。
「まだアレは責任の取れるような年齢ではない」
「……」
気まずいのか、普段は真っ直ぐ向けられる視線すらも、床に落としたままだった。ナマエは生唾をのみこんだ。
「私にしておきなさい」
「……は、はい」
ここまで来たら乗りかかった船かもしれない。――今、先生はどんな気持ちで自分を押し倒しているのだろう。などと考えながら目線を下に寄せると、普段は見えないチョンユエの旋毛が視界に入った。さきほどまで、到底人に言えないようなことをしていた。これからもっとヤバいことをするのに、今更何をこんなことで照れているのだろう。自己嫌悪に襲われそうになっていると、「集中」と厳しい声が聞こえてくる。
「せ、せんせ、そんなとこまで舐めないでいいですって……」
「…………」
ナマエの訴えをチョンユエは無視した。「手の方を入れると傷つけてしまうから」というようなことを言われた記憶が、朧げに浮かんでくる。チョンユエの爪が普段から短く切られているのはよく知っていたので、別に普通に入れてもいいと訴えたのだが、何も聞き入れてはくれなかった。
普段自分に指導してくる相手に下半身を晒して、しかも局部を舐められているというのは、どうにも形容しがたいほど恥ずかしい。
今日に備えて毛の処理をしてきたが、彼が生えていた方がうれしいタイプだったかもしれない、などと他の可能性がよぎると、自分の選択全てが間違いだったかのように思えてくる。
実際のところ、さらけ出した陰部を見せたところでチョンユエは何も言わなかった。あまりにもじっと見つめられたままだったので、何がどの穴なのか聞かれるのではないか、と己の師匠の無知を疑ったが、幸い最低限のことは彼も心得ていた。
ビチャビチャと音を立てて舐められていると、まるで原始的な交尾をしているような感覚になった。人間のそれというより、犬が突っ込む前に舐めているとか、そういった趣である。
「あ゛ッ、ん……っ♡」
自分でもめったに触らないような場所を、好きな人の舌で弄繰り回されていると、申し訳なさの方が勝ってくる。ザラザラとした舌で陰核を舐められると、それはそれで気持ちいいのだが、漫然としすぎていて、これが正しいのかは分からない。恥ずかしくて足を閉じようとすると、有無を言わせぬように強い力で抑え込められて、結果としてみっともないガニ股のまま、愛撫を受けるしかなかった。
前述の問答の後、黙ってゆっくりと寝台に倒された後、ロマンチックな何かがあると思った。チョンユエは特段無口というわけではない。寝所で語る言葉のバリエーションが多いと嫌だが、かといって今のようにずっと無言で愛撫だけされるのは怖かった。
「な゛、何か言って! ね゛ぇってば!」
「…………」
「ばか! ありえないっ! ん゛ッ、く、……ぅ゛!」
尻尾で頭をはたいても止まることはなかった。忍耐強さをこんなところで発揮しないでほしい。そのくせ反応を見て気持ちいいと感じる場所を的確に愛撫してくるので、タチが悪い。あまり情けなく喘ぎ声をあげているところを見られるのは忍びない……。
じゅっ、ずぞっ……じっ、じゅぞ……♡
「ん゛ッ、ん゛あ゛…………♡♡ッ、ふっ……♡」
思わず罵倒するとお仕置きとばかりに勃起した陰核を吸われて、ナマエの腰は大げさとも見えるような動きで跳ねた。
「は゛、ぁ、や゛だッ……♡ それ、だめッ♡ ん゛ぃっ、ぅう゛~ッ♡♡」
その上、快楽を逃がすためにブラブラ揺れていた尻尾の先を、飛んできた拳を止めるような勢いでぐ、と掴まれる。ぎゅっと掴まれた先端を指先でねちっこく触られると、電流のような刺激が加わった。尾てい骨のあたりから疼痛じみた快楽で全身が痙攣しそうになる。勢いを逃がそうにも動きを封じられている。神経が通った場所――普段滅多に人の手で触られない場所を弄られたせいで、頭がパニックになる。
「ぇ……あ゛、ぁ、がっ……」
口から出るのは意味を成さないような嗚咽だけで、だらしなく開いた口の端から子供のように唾液が伝った。チョンユエはそれを父親のような手つきで拭ってやる。視界の端でその光景を見て、どうにも居たたまれない気持ちになるが、身体が重くて抗議の言葉一つろくに発することができなかった。
絶頂の余韻に浸りながら、ナマエは身体が大げさなまでに震えるのを隠すことができなかった。無防備に布団に投げ出された四肢の細さに、眩暈がしそうになる。最早抵抗などできない少女の足をゆっくりと持ち上げると、先ほどまで丹念に舐めて蕩けた恥部に、チョンユエ自身の男根を沿わせる。
「ん゛ッ、……も、もうですか?」
「……もうここに挿入れても構わないと思うが」
じっと膣口と触れた性器をずらすと、確かに湿った音が僅かに聞こえた。
「……ぇ、っと」
「その為にこんな狼藉を働いたのでは?」
「おっしゃる通り、なんですけどぉ……」
――こっちは本当に初めてなのに、気遣いも何もあったものじゃないな。
ナマエは改めてチョンユエの顔を一瞬見上げて、すぐ目線を逸らした。
男の人の顔だ、と思った。あまり見ていると気が動転しそうになるので、あまりじっと見ていられない。遠くから見ていた時は、いくらでも眺めていられると思ったのに、こんな間近で、自分を前に興奮しているチョンユエは、正直刺激が強すぎてまともに見られない……。
別のことを考えようにも下半身に感じる存在が大きすぎて、どうしようもなくて、ただ恥ずかしい。目を閉じても僅かな衣擦れの音や、汗の男臭い匂いに意識が持っていかれる。
「集中。私に任せて……手を首に」
「は、はいッ!」
ふ、と少しだけチョンユエが笑ったように見えた。癖で、普段の鍛錬と同じような返事をしてしまったからかもしれない。
「……いい子だ」
「へ、ぁ゛……ッ♡ ゃ、これっ……♡♡ 待って♡♡」
未通の処女穴を突き破るように腰を押し進める。
二人の体格差は歴然としている。小さな身体を大柄な男が押し倒して腰を進める様は暴力的としか例えようのない光景だった。
痛みと同時に好きな男を受け入れる快楽で、ナマエの脳は最早正常に機能しているとは言い難い。背中に思い切り爪を立てられると、時折正常な理性に呼び戻されるようだったが、押し入った膣のぬるま湯じみた暖かさと、全て貪欲に呑み込むような若い膣道のうねりに、彼の神経は焼かれて散り散りになっていくようだった。
「あ、熱いな……ナマエ」
「はじめてっ、ほんとにわたしが初めてです……よねっ?」
「あぁ……そうだ」
「ぁ、ッ……童貞なんだから、ムリしないでいいですよ……、ッ~♡」
「そんなに煽るくらい元気なようなら、もう少し性急にしても構わないな……?」
発情しきったドロドロの姫裂の奥は、ドロドロとした粘液で満たされている。思わず唸るような声を上げるほど、突っ込んでいたら馬鹿になりそうなくらい気持ちがいい。
これまで肉欲に耽って本業を疎かにする人間のことをあまり理解できていなかったが、この刺激は確かに一度覚えれば忘れることはできないかもしれない……。
「――ナマエ、自分でここを慰めたことは」
「ぁ、ッ……♡♡ ぇ、と、た、たまに……っ♡ ちょ、きゅうに、なんでっ」
「…………」
閉じた裂け目を割り広げる抵抗力と、その割には一度通してしまうと健気に柔らかく包まれる感触とが相まって、急に恐ろしくなった。初めてのわりに――、侵入する性器に対して順応が早い……気がする。こんなものなのだろうか。痛みで苦しむ姿が見たいわけではないが、体格差を考慮すると相当な負担を強いているはずだ。その割には辛そうにしている時間が短い。性器を受け入れる相手が初めてだっただけで、前の段階――指で慣らす行為であるとか――はもう経験しているのではないだろうか。
(…………)
そこまで考えて、苛立ちを覚える当たりが青臭さを突きつけられているようで不甲斐なく、恥ずかしい。
「……ぇ、なにっ? ん゛ッ……♡♡」
誤魔化すように口づけると、ナマエは素直にそれを追いかけた。呼吸を求めて開いた口から伸びた舌を絡めていると、短い舌が貪欲に奥へ迫っていこうとやってくる。――本当に自分以外の誰かとこういった経験がなかったのか疑念が積み重なっていく。。
――年甲斐もなく嫉妬していることを見抜かれるのはあまりいいとは言えない。執着は身を滅ぼすということを、彼はよく知っているはずだった。
動くたびに、押さえつけている身体から高い声が上がる。ずるずると侵入を許されるたびに、こんな身体のどこにそんな隙間があったのかと驚かされるばかりだ。刺激から遅れて、結合部から淫汁が溢れてシーツを汚していく。触れると冷たいのだが、性行為に耽って必死な身体の体温を下げる効果はない。ナマエの身体中から水分が全て抜けて、脱水してしまうのではないかとチョンユエは恐れた。
「は、ッ……、う、奥ふかいっ……です♡」
腰を押し進めると小さめの骨盤とぶつかって、僅かな痛みを感じる。ほとんど根本まで押し込んだところでふと目線を下ろすと、ナマエの腹のあたりが浮き出ているのが見えた。
「ん゛、ぁ、すごっ……♡ おちんちんぜんぶ入っちゃった♡♡」
「ナマエ……、それは辞めなさい」
「え、いやでーす♡ こうしたら気持ちいいって、先生の、はっ、ん゛……言ってくれてますけど」
狭い膣道を無理やり押し広げ、子宮を身体の内部に押し上げていくと下腹のあたりにグロテスクなシルエットが浮かび上がる。浮き出た肋骨のあたりから流れる汗が、横腹を伝って寝台に吸われていった。ナマエの手が腹の上を撫でると、中がうねってビクビクと震える。
「あ゛っ、ぁ……♡」
くに、と壁に当たるような衝撃が広がった。柔らかい肉が寄せては返すような刺激ではなく、明らかに降りてきた子宮に対する触感だった。
「~~っ♡♡ い゛ッ、あ゛ぁ♡ ッ♡ ……ぉ、あ゛……♡」
ナマエのつま先が床を思い切り引っ搔いた。肩から抱き寄せると、勢いで陰茎がさらに奥まで食い込んでいく。少し引き抜いては再び奥へと腰を進める。その動きを繰り返していると、部屋には空気が割れるようなピストン音が響いた。
「ぃ、っ♡ ~~ッ♡ う゛あ゛、は……ぇ、お゛、……♡」
「……はぁ、ナマエ」
「な、んですか……っ♡ ずっと黙ってた、のにっ……♡」
無言のまま行為に及んでいたことを責め立てるように、ナマエの目はチョンユエをじっと見つめていた。
「……責任を取らせてほしい」
「え゛、ぁ、えっ? また何か言わせようと、あ゛、してるんですか……っ」
「いや、そんなつもりは……」
「教え子に手ぇ出しておいて、今更何かっこつけてるんです、ぁ、う゛ッ、お゛ぁ……、ぅ、ぉ゛♡♡」
「だから……、軽はずみな言動は謹んでおきなさいと普段から言っているはずだが?」
ずずず……♡ ……ぶじゅう……、ぬぽっ♡
ぷしゅ、と音を立てて、じわりとお尻のあたりまで水が広がっていく。漏らしたのか潮を吹いたのか判別が怪しいが、外に出る直前まで引き抜かれた後に全てを抉るような勢いで押し寄せてきた男根の衝撃に、ナマエは最早尿道から何かを漏らしたことや、呼吸の仕方も忘れて喘いだ。
「ぉ~~~ッ♡♡ イ゛ぐ……っ♡♡ ん、ぉ゛ッ~……♡♡」
「……叱られるのが気持ちいいのか? これから先、難儀しそうだな」
太ももを叱咤するように叩かれると、バチン、という音と共に残っていた残滓もぴゅっと漏れ出た。
「あ゛、あぁ゛ッ~♡ イ、いってる゛のに♡♡」
「こんな身体で、身近な男に気安く貞操を明け渡すつもりでいたというのだから、始末に負えないな」
「せんせ、先生だけです……って♡ う゛、ッ、~~ッ♡」
上からのしかかるように体重を預けると、自重で寝台が嫌な音を立てた。潰れた蛙のようなくぐもった声と、骨が折れるのではないかという心配もあったが、それ以上に昂った熱を紛らわせるにはこれしかないように思えた。もうナマエには何も喋らせない方がいい。自分の置かれている状況も理解せずに口だけが達者な子供を見ていると、普段なら寛容に接していられるが、今回だけは我慢ならなかった。
「ん゛ん゛ッ……♡ ~っ♡」
「……ぁ、は……~~ッ」
グチャグチャに溶けた結合部にがっつくように腰を押し付けていると、すっかり陥落して降参しきった女性器が、健気に男根を咥え込んで離さず吸いついてくるのが分かる。危険な状態にあっても尚、本能で奉仕しようとしているのか、放り出されていたはずの足だけは、腰を抱えるような形でチョンユエの身体にしがみついていた。
状況もろくに理解しないまま呻きとも喘ぎともつかない声を上げて、ナマエは絶頂から戻ってこようとしない。
どぽ、びゅうううう~♡ びぴゅぴゅぴゅ♡
「~~~ッ♡ ♡゛、ッ♡♡」
マットと自身でナマエを挟んで潰さんばかりの姿勢のまま、彼は射精した。姿勢を変えないまま、一番膣の奥まで押し入ると、無遠慮に精を粘膜に擦り付ける
密着した子宮口が粘着質な液体を呑み込もうと貪欲に畝っている。ナマエの膣が藻掻くように動くたび、ドロドロした濃い雄汁が流動して広がっていく。
「ふ、はあっ……♡ ぁ……♡ あ、あつい……♡」
ぬとぉ……、と重い粘液を纏わせながら引き抜く動作だけでも、軽く達してしまった。そのまま萎えきらない性器を彼女の呼吸で揺れる腹にのせ上げると、精子とも本気汁ともつかないようなドロドロの液体が、ナマエの腹に広がっていく。重たい性器は、頂点が臍の上まで伸びきっていた。よくここまで入ったものだと、他人事のように思う。
「……無理をさせてしまった。すまない。大丈夫、か……」
「ん……。まぁ。謝ってるワリには、遠慮なしにいっぱい射精しました、ね……♡」
ナマエは粘液まみれの逸物に手を這わせると、そのまま柔く擦り付けた。白い肌と対照的に赤黒い男性器との色の差が滑稽ではあるが、コントラストの差に眩暈がするほど厭らしい。
「一回で終わらせる気、ないんじゃないんですか~……?♡ ――わたしの方がチョンユエさんのスケベなところに詳しいですからね……♡」
「はぁ……。私の指導不足かな」
「……そっちのせいですよ、全部」
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