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「うそ……もうこんな時間?」
作戦を終えてシャワーを浴びて、たった今宿舎に戻って時計を見たら、時刻は夜中の十二時を過ぎていた。夕方からの任務で早ければ八時には帰れると聞いていたのに、残存した兵士の粘り強さに苦戦してしまい、気がつけばもう今日が終わっていた。
――クリスマスはわたしが必死になって戦っている間に通り過ぎてしまった。
「…………はぁ」
今更そんな物きにするような年齢でもないし、サンタも信じてないし、そもそも真面目に信仰しているわけじゃないけど、イベントで周りが盛り上がっている中、一人だけ仕事っていうのはなかなかにメンタルにクるものがある。ここにいる部隊の面々もわたしと同じで、祝日なんてあったようなものじゃないけれど、カレンダーを気にしないと一年はあっという間に過ぎ去ってしまうから。
今年はプレゼントを用意する暇もなかった。
激化するゲリラの抵抗を抑えることで精一杯だったし。
夕食は向こうで食べたし、なんにも残っていないだろうけれど、小腹が空いたので食堂へ向かう。せめて水だけでも飲んで、今日は寝よう……。
「よ、おつかれさん」
「えっ! な、なんでこんな時間に……」
「お前の分のケーキ、残してあるぜ」
わたしが食堂に足を踏み入れた瞬間、小さな明かりが机の上で光っているのが見えた。蝋燭の光だと気づいたのと、そこにヴォルタがいることを認識したのはほぼ同時だった。
こんな夜中に部屋の外に出ていても咎められないのだろうか。彼氏からのサプライズに驚いたし、嬉しいけど……ベイラムの歩く地獄に新兵みたいな理由で怒られるのだけは避けたい。
「お前って真面目だよなぁ」
「……こんな時間まで待ってたの?」
「お前の部隊が帰ってくる時間に合わせただけだ。気をつかわれるような待ちぼうけはしてねぇよ」
「……ありがとう」
「さっさと食えよ。じゃないと俺が食っちまう」
「わ、わかった。向こうだとレーションよりマシってメニューしかないから、嬉しい」
「おう、食え食え」
レッドガンにはいろいろな信仰を持っている人がいるから、こういう時には総長からの叱咤激励という名目で季節ごとのイベントメニューが振る舞われる。今日のわたしみたいに、緊急の任務で呼び出しをくらうと食べ逃してしまう。今回も諦めていたけど、わたしのヴォルタはなんて察しがいいんだろう!
「ケーキなんていつでも食えるけどよ、こういう時に食うのが一番うめぇよな」
「うんうん、わかる。よくわかってるね」
本当にケーキ一つでこんなに喜んでいるのが子供みたいで恥ずかしい。でも、本当に嬉しいのはケーキそのものじゃなくて……。
「……忙しいのに、わざわざありがとう」
「……今年は贈り物も無しで悪いな。今度の休みに埋め合わせさせてくれ」
「わたしも今年は何にも用意できなかったし……謝らないでよ。次の休みに買い物にでも行こう」
わざわざキャンドルなんて持ってきて、どこかで買ったのかな、とか。意外と細かいところまで気がつく人なんだな、とか。ずっとヴォルタと一緒にいるけど、会うたびに新しい発見がある気がする。見た目こそ厳つくて近寄りがたい感じがするし、言動も粗暴だけど優しい人なんだ、この人は。
「……おい、今何か失礼なこと考えただろ」
「ううん、そんなことないよー。ヴォルタくんは考えすぎるところがあるからねー」
じっと睨んでくるヴォルタがかわいくて、一口差し出したら素直に食べてくれた。猫に餌をあげた時みたいだなと思った。
「うめぇ」
「さっき食べたんじゃないの」
「いや、お前に食ってほしかったから自分のをとっといた」
「えっ……そこまでしてくれたの⁉」
「やっぱ自分で食うより、お前が美味そうに食ってるの見てる方がいい」
……なんだろう、今とてつもないことをさらっと言われた気がする。
「じゃ、じゃあ次のデートの時ケーキ食べよ! そんで、来年のクリスマスは、一緒に食べるのリベンジね!」
ヴォルタは黙って頷いてくれた。わたしはもうとっくにケーキを食べ終わってしまっていたけど、炎のわずかな明かりに照らされたヴォルタの顔を、普段のムスッとした仏頂面の彼が、橙色の明かりの前で穏やかな笑みを浮かべている姿を、ずっと見ていたいなと思う。
「メリークリスマス、ヴォルタ」
「もうクリスマス終わってんだろ」
「宇宙のどこかの時間軸では、まだクリスマスだよ」
「ま、それもそうか……。お前って抜けてるように見えて結構考えてるタイプだよな」
「……あーあ、またいつものヴォルタだ」
「ハァ? 俺はいつもお前に優しいだろうが」
いつもみたいに小突いて戯れることができないわたしの方が、実は平常運転じゃないかもしれない。戦場帰りで疲れてるせいか、なんだかいつもよりヴォルタが大人っぽく見える……し。
「ムッツリしてんなぁ、お前も」
「やだ、明日も昼から仕事あるし」
「年末はやかましくなるよなぁ、この宿舎も」
「もー! やめてってば!」
「何想像してんだよ」
「もう寝る! おやすみ! ケーキごちそうさま!」
「おう、おやすみ」
普段ならもうちょっと小馬鹿にしたような態度を取る癖に、なんだかしおらしいやつ……。
「……」
「なんだよ、行かないのかよ」
使い捨ての皿とフォークをゴミ箱に突っ込んだ後、わたしは改めてヴォルタに向き合った。暗くて顔はよく見えないけど、向こうが目を細めてこちらを見ているのだけは捉えることができた。
「……来年もまた、一緒にいようね」
「……来年はうるさいのが付いてくるかもしれないけどな」
来年のこと、未来のこと。明日も生きてる確証すらないのに話したくなる。
さっきまで相手にしてきた兵士にもわたしみたいに大事な人がいたんだろうな、とか。そういう暗いことばかり考えてしまう。だから、前向きな言葉でネガティブを上書きしたい。
「約束破らないでね」
「俺がお前を失望させたことなんてないだろ」
百パーセントの確証なんてないけど、わたしはこの人と一緒にまた来年を迎えたいなって思うよ。
作戦を終えてシャワーを浴びて、たった今宿舎に戻って時計を見たら、時刻は夜中の十二時を過ぎていた。夕方からの任務で早ければ八時には帰れると聞いていたのに、残存した兵士の粘り強さに苦戦してしまい、気がつけばもう今日が終わっていた。
――クリスマスはわたしが必死になって戦っている間に通り過ぎてしまった。
「…………はぁ」
今更そんな物きにするような年齢でもないし、サンタも信じてないし、そもそも真面目に信仰しているわけじゃないけど、イベントで周りが盛り上がっている中、一人だけ仕事っていうのはなかなかにメンタルにクるものがある。ここにいる部隊の面々もわたしと同じで、祝日なんてあったようなものじゃないけれど、カレンダーを気にしないと一年はあっという間に過ぎ去ってしまうから。
今年はプレゼントを用意する暇もなかった。
激化するゲリラの抵抗を抑えることで精一杯だったし。
夕食は向こうで食べたし、なんにも残っていないだろうけれど、小腹が空いたので食堂へ向かう。せめて水だけでも飲んで、今日は寝よう……。
「よ、おつかれさん」
「えっ! な、なんでこんな時間に……」
「お前の分のケーキ、残してあるぜ」
わたしが食堂に足を踏み入れた瞬間、小さな明かりが机の上で光っているのが見えた。蝋燭の光だと気づいたのと、そこにヴォルタがいることを認識したのはほぼ同時だった。
こんな夜中に部屋の外に出ていても咎められないのだろうか。彼氏からのサプライズに驚いたし、嬉しいけど……ベイラムの歩く地獄に新兵みたいな理由で怒られるのだけは避けたい。
「お前って真面目だよなぁ」
「……こんな時間まで待ってたの?」
「お前の部隊が帰ってくる時間に合わせただけだ。気をつかわれるような待ちぼうけはしてねぇよ」
「……ありがとう」
「さっさと食えよ。じゃないと俺が食っちまう」
「わ、わかった。向こうだとレーションよりマシってメニューしかないから、嬉しい」
「おう、食え食え」
レッドガンにはいろいろな信仰を持っている人がいるから、こういう時には総長からの叱咤激励という名目で季節ごとのイベントメニューが振る舞われる。今日のわたしみたいに、緊急の任務で呼び出しをくらうと食べ逃してしまう。今回も諦めていたけど、わたしのヴォルタはなんて察しがいいんだろう!
「ケーキなんていつでも食えるけどよ、こういう時に食うのが一番うめぇよな」
「うんうん、わかる。よくわかってるね」
本当にケーキ一つでこんなに喜んでいるのが子供みたいで恥ずかしい。でも、本当に嬉しいのはケーキそのものじゃなくて……。
「……忙しいのに、わざわざありがとう」
「……今年は贈り物も無しで悪いな。今度の休みに埋め合わせさせてくれ」
「わたしも今年は何にも用意できなかったし……謝らないでよ。次の休みに買い物にでも行こう」
わざわざキャンドルなんて持ってきて、どこかで買ったのかな、とか。意外と細かいところまで気がつく人なんだな、とか。ずっとヴォルタと一緒にいるけど、会うたびに新しい発見がある気がする。見た目こそ厳つくて近寄りがたい感じがするし、言動も粗暴だけど優しい人なんだ、この人は。
「……おい、今何か失礼なこと考えただろ」
「ううん、そんなことないよー。ヴォルタくんは考えすぎるところがあるからねー」
じっと睨んでくるヴォルタがかわいくて、一口差し出したら素直に食べてくれた。猫に餌をあげた時みたいだなと思った。
「うめぇ」
「さっき食べたんじゃないの」
「いや、お前に食ってほしかったから自分のをとっといた」
「えっ……そこまでしてくれたの⁉」
「やっぱ自分で食うより、お前が美味そうに食ってるの見てる方がいい」
……なんだろう、今とてつもないことをさらっと言われた気がする。
「じゃ、じゃあ次のデートの時ケーキ食べよ! そんで、来年のクリスマスは、一緒に食べるのリベンジね!」
ヴォルタは黙って頷いてくれた。わたしはもうとっくにケーキを食べ終わってしまっていたけど、炎のわずかな明かりに照らされたヴォルタの顔を、普段のムスッとした仏頂面の彼が、橙色の明かりの前で穏やかな笑みを浮かべている姿を、ずっと見ていたいなと思う。
「メリークリスマス、ヴォルタ」
「もうクリスマス終わってんだろ」
「宇宙のどこかの時間軸では、まだクリスマスだよ」
「ま、それもそうか……。お前って抜けてるように見えて結構考えてるタイプだよな」
「……あーあ、またいつものヴォルタだ」
「ハァ? 俺はいつもお前に優しいだろうが」
いつもみたいに小突いて戯れることができないわたしの方が、実は平常運転じゃないかもしれない。戦場帰りで疲れてるせいか、なんだかいつもよりヴォルタが大人っぽく見える……し。
「ムッツリしてんなぁ、お前も」
「やだ、明日も昼から仕事あるし」
「年末はやかましくなるよなぁ、この宿舎も」
「もー! やめてってば!」
「何想像してんだよ」
「もう寝る! おやすみ! ケーキごちそうさま!」
「おう、おやすみ」
普段ならもうちょっと小馬鹿にしたような態度を取る癖に、なんだかしおらしいやつ……。
「……」
「なんだよ、行かないのかよ」
使い捨ての皿とフォークをゴミ箱に突っ込んだ後、わたしは改めてヴォルタに向き合った。暗くて顔はよく見えないけど、向こうが目を細めてこちらを見ているのだけは捉えることができた。
「……来年もまた、一緒にいようね」
「……来年はうるさいのが付いてくるかもしれないけどな」
来年のこと、未来のこと。明日も生きてる確証すらないのに話したくなる。
さっきまで相手にしてきた兵士にもわたしみたいに大事な人がいたんだろうな、とか。そういう暗いことばかり考えてしまう。だから、前向きな言葉でネガティブを上書きしたい。
「約束破らないでね」
「俺がお前を失望させたことなんてないだろ」
百パーセントの確証なんてないけど、わたしはこの人と一緒にまた来年を迎えたいなって思うよ。