未設定の場合は「ミョウジ ナマエ」表記になります
相性最高で最悪!
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
思い返してみれば──全てはイレギュラーから始まった。
「初めまして、主さま。わたくしは無銘。名はありませんが。あなたのためならどこまでも、馳せ参じましょう」
突如吹き荒れた桜吹雪の中から、人影の姿が現れた。突然眩い光を放った先から、それはゆっくりとこちらに近づいてくる。
これは夢か、幻か。何か熱にでも浮かされているのか。審神者は己が視界に見える光景を疑う。
──妖にでも化かされているのだろうか。それとも、疲れから見える幻覚かもしれない。
鍛冶場には普段のそれよりも数段眩い、目のつぶれそうな程の光で満ちていた。
ここにはあるべきものがなく、あってはいけないものが、目の前にいる。
まず感じたのは、恐怖。初めて見る現象への畏怖の念を、審神者は抱く。
間違いであってほしいという希望も同時に抱きながら、じっと前を見据える。この仕事に従事してから早数年、彼女は修羅場の際にどう行動すべきかを心得ている。
目の前の少女は音も立てずに前方へと進み、審神者の目の前で膝をついた。
「これから誠心誠意、あなたに仕えることをお約束します」
「あ、ありがとう……」
名無しの刀剣は審神者の手を取ると、そっと口付けた。あくまで自然に、西洋の紳士じみた立ち振る舞いだった。
「可愛らしい声ですね。とても素敵です」
彼女は目を細めながら、そう微笑む。
その姿には、思わず目を奪われた。薄い唇が少し釣り上がり、三日月のような弧を描いた。近寄れば、心なしか薄らと梅花のような柔らかな香りが漂い、鼻をくすぐる。純和風の装いでありながら、どこか異国の女性のような雰囲気を彼女はまとっていた。
──彼女という呼び方にはいささか疑惑があるが、どこからどうみてもこの刀の付喪神は女性にしか見えなかった。
「主さま、考え事ですか?」
「いや……大丈夫だよ。その、少しだけ驚いてしまって」
「あら、どうしてでしょうか。わたくし、人の身は初めてですから何か間違ったことをしてしまったかしら?」
「だって、その、君は…………女の子、だよね?」
審神者がそう言うと、彼女はキョトンとした顔でこちらを見つめる。
乱藤四郎や次郎太刀のように、異性装をする刀剣男士は少なからず存在する。目の前の、逆立ちしても女性に見えて仕方のないこの子も、実は……所謂……『男の娘』というようなものであったりするのではないだろうか? それとも、性別という概念を理解していないからとぼけているのだろうか。
審神者の脳内にあらゆる可能性が浮かんでは、消える。
「あら…………触って確かめますか?」
「い、いや、いい!」
右手を取られ、股の部分に誘導されそうになったので、慌てて手を振り解いた。職場で不埒な行為を働くのはよろしくない。いろんな意味で。彼女の教育的にも、本丸の風紀的な意味でも。
「残念ですこと」と無銘は笑う。
ああ、本当に……女の子の神様がやってきてしまった。その事実を改めて確認し、審神者の背中は、冷や汗でぐっしょりと湿っている。
「我が主人ともあろうお方が、部下にそんな狼藉を働くわけがございませんものね。ええ、言っておきましょう。わたしの体は女人のそれを模しております。つまり……」
「やっぱ女の子ってこと⁉︎」
「ええ、そうなりますね」
何を当たり前のことを、と彼女はつまらなさそうな顔で訴えた。
嫌な予想は当たった。
「マジか……嘘でしょ。刀の付喪神は絶対男の姿で顕現されるって、聞いてたのに……」
「あの、主さま、どうか落ち着いて深呼吸なさってください」
「いやー、あはは、こ、こんなのイレギュラーすぎて無理だって!」
「主さま……わたくし、何かいけないことをしてしまったかしら?」
真正面から申し訳なさそうに見つめられると、恐ろしく罪悪感を掻き立てられる。
ようやく美しい顔の異性には慣れてきたけれど、見目麗しい少女に見つめられるということには全く慣れていない! 同性だというのに、否、同性であるからこその破壊力がある。めちゃくちゃ可愛い。ネットで見るアイドルにも負けないどころか勝てちゃうくらいには、綺麗な顔だ! 何を食べたらそうなるんだろう。
「あー、いやー、その、あなたは悪くないよ。うん、こっちの問題っていうか、その、うん、とにかくここで待っていてもらえるかな!」
「え、ええ……」
一度肩に手を置いて、顔と顔を突き合わせてそう言うと、彼女は困惑した表情で審神者を見上げた。 何も知らせないままでここに置いておくのも良くない気がするので、審神者は部屋を飛び出し、勢いよく執務室で書類仕事に励んでいるであろう近侍の元へと走る。
就任日に自ら設定した「廊下を走ってはいけません」の標語は、設定者によって破られた。
「初めまして、主さま。わたくしは無銘。名はありませんが。あなたのためならどこまでも、馳せ参じましょう」
突如吹き荒れた桜吹雪の中から、人影の姿が現れた。突然眩い光を放った先から、それはゆっくりとこちらに近づいてくる。
これは夢か、幻か。何か熱にでも浮かされているのか。審神者は己が視界に見える光景を疑う。
──妖にでも化かされているのだろうか。それとも、疲れから見える幻覚かもしれない。
鍛冶場には普段のそれよりも数段眩い、目のつぶれそうな程の光で満ちていた。
ここにはあるべきものがなく、あってはいけないものが、目の前にいる。
まず感じたのは、恐怖。初めて見る現象への畏怖の念を、審神者は抱く。
間違いであってほしいという希望も同時に抱きながら、じっと前を見据える。この仕事に従事してから早数年、彼女は修羅場の際にどう行動すべきかを心得ている。
目の前の少女は音も立てずに前方へと進み、審神者の目の前で膝をついた。
「これから誠心誠意、あなたに仕えることをお約束します」
「あ、ありがとう……」
名無しの刀剣は審神者の手を取ると、そっと口付けた。あくまで自然に、西洋の紳士じみた立ち振る舞いだった。
「可愛らしい声ですね。とても素敵です」
彼女は目を細めながら、そう微笑む。
その姿には、思わず目を奪われた。薄い唇が少し釣り上がり、三日月のような弧を描いた。近寄れば、心なしか薄らと梅花のような柔らかな香りが漂い、鼻をくすぐる。純和風の装いでありながら、どこか異国の女性のような雰囲気を彼女はまとっていた。
──彼女という呼び方にはいささか疑惑があるが、どこからどうみてもこの刀の付喪神は女性にしか見えなかった。
「主さま、考え事ですか?」
「いや……大丈夫だよ。その、少しだけ驚いてしまって」
「あら、どうしてでしょうか。わたくし、人の身は初めてですから何か間違ったことをしてしまったかしら?」
「だって、その、君は…………女の子、だよね?」
審神者がそう言うと、彼女はキョトンとした顔でこちらを見つめる。
乱藤四郎や次郎太刀のように、異性装をする刀剣男士は少なからず存在する。目の前の、逆立ちしても女性に見えて仕方のないこの子も、実は……所謂……『男の娘』というようなものであったりするのではないだろうか? それとも、性別という概念を理解していないからとぼけているのだろうか。
審神者の脳内にあらゆる可能性が浮かんでは、消える。
「あら…………触って確かめますか?」
「い、いや、いい!」
右手を取られ、股の部分に誘導されそうになったので、慌てて手を振り解いた。職場で不埒な行為を働くのはよろしくない。いろんな意味で。彼女の教育的にも、本丸の風紀的な意味でも。
「残念ですこと」と無銘は笑う。
ああ、本当に……女の子の神様がやってきてしまった。その事実を改めて確認し、審神者の背中は、冷や汗でぐっしょりと湿っている。
「我が主人ともあろうお方が、部下にそんな狼藉を働くわけがございませんものね。ええ、言っておきましょう。わたしの体は女人のそれを模しております。つまり……」
「やっぱ女の子ってこと⁉︎」
「ええ、そうなりますね」
何を当たり前のことを、と彼女はつまらなさそうな顔で訴えた。
嫌な予想は当たった。
「マジか……嘘でしょ。刀の付喪神は絶対男の姿で顕現されるって、聞いてたのに……」
「あの、主さま、どうか落ち着いて深呼吸なさってください」
「いやー、あはは、こ、こんなのイレギュラーすぎて無理だって!」
「主さま……わたくし、何かいけないことをしてしまったかしら?」
真正面から申し訳なさそうに見つめられると、恐ろしく罪悪感を掻き立てられる。
ようやく美しい顔の異性には慣れてきたけれど、見目麗しい少女に見つめられるということには全く慣れていない! 同性だというのに、否、同性であるからこその破壊力がある。めちゃくちゃ可愛い。ネットで見るアイドルにも負けないどころか勝てちゃうくらいには、綺麗な顔だ! 何を食べたらそうなるんだろう。
「あー、いやー、その、あなたは悪くないよ。うん、こっちの問題っていうか、その、うん、とにかくここで待っていてもらえるかな!」
「え、ええ……」
一度肩に手を置いて、顔と顔を突き合わせてそう言うと、彼女は困惑した表情で審神者を見上げた。 何も知らせないままでここに置いておくのも良くない気がするので、審神者は部屋を飛び出し、勢いよく執務室で書類仕事に励んでいるであろう近侍の元へと走る。
就任日に自ら設定した「廊下を走ってはいけません」の標語は、設定者によって破られた。