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えたーなる
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その日、ナマエは師匠に連れられ、帝劇へと足を運んだ。
丸の内に佇む壮厳な西洋館と、粧し込んだ男女の群れ、そしてそこで上映される演目、全てが最先端であり、日本が西洋列強と肩を並べる日もそう遠くはないだろうとナマエは思った。
(嗚呼、せっかく選んでもらった洋服も、モガの方には見劣りするなぁ)
チケットを握り締め、開場を今か今かと待つ間、暇だったので周りの人を観察していた。洋装のアベックが、恥ずかしげもなく腕を組んでいたのを目撃してしまい、自分のことではないが、恥ずかしい気持ちになった。
他にも、三越で売っているような上等な着物を着た御婦人、女学校の学生や高等学校生、子供から年寄りまで、多くの人が劇場には集まっている。こんなに人が多いので、彼女は逸れないように必死だった。
「本物の松井須磨子、楽しみですね」
「うむ! 今や、あちこちで彼女が歌が聞こえてくる。きっと大層素晴らしい芝居を見せてくれることだろう!」
「露西亜の貴族のお話だそうですよ……ちょっと難しそう。私にわかるかなぁ」
「なに、ナマエなら理解できるはずだ。現にほら、君と同い年くらいの少女も見にきている」
「私は学校も行っていませんからねぇ、女学校に行くような方とは違いますよ」
人間観察にも飽きて、ナマエは隣に連れ立つ煉獄に声をかける。
いつもの隊服に羽織りというスタイルではなく、今日は一端の若旦那風である。ナマエも、友人に見繕ってもらった洋装で隣に並んでいた。
今日は、以前から決まっていた非番の日だった。今流行りの芝居を見に行こうと、師匠である煉獄から誘いを受けたのである。継子である自分と、わざわざ休みの日に一緒にいることはないと断ったが、他に誘う者もいないし、チケットも無駄になると言われては、頷くしかない。
なにも、休日に二人きりになるのが嫌というわけではなく、ただ、憧れでもある己の師匠と、二人きりで都会に行くなどといった洒落た行為は、まだ自分には不相応だと思っただけの話である。
(ミッちゃんやナッちゃんはあれだけ燥いで、準備まで手伝ってくれたーー二人には悪いけど、小説じゃあないんだから、そういうことでは……うーん……)
きっと周りからは、兄妹に見られているのではないかとナマエは考えた。まぁ、顔の造りが似ても似つかない二人であるから、家族ではないと普通の人は思うだろう。しかし、世の中にはそういう兄弟は珍しくもないし、かと言って恋人同士に間違えられたりして嬉しいのかと聞かれれば微妙だった。
そもそも、そういう仲ではないのに男女二人で出かけたりして、不健全ではないのだろうか。
(嗚呼、そうだ。師匠はそういうお方だ。きっとそこまで思考が行き届いていないんだ。私が気にしすぎているだけなんだ……)
そうなると、浮かれている自分が滑稽に思えた。自由恋愛という言葉が出てきたとはいえ、誰しもがそれを意識して行動しているわけではない。硬派であるが故に、そこまで気が回らないのだ。そんな考えに至り、自分で納得した。
(師匠は美男子だし、強いし、お金もあるしなぁ、好い人か、婚約者がいてもおかしくないよね。弟子だから構っていただけているのかな……それか、いや、考えるのはよそう、うん)
目の前の煉獄相手に良からぬ妄想を抱きかけてしまった。自分を戒めるために頬をペチンと叩く。そうすると、手に薄らと白粉がついて、少し憂鬱な気分になった。
丸の内に佇む壮厳な西洋館と、粧し込んだ男女の群れ、そしてそこで上映される演目、全てが最先端であり、日本が西洋列強と肩を並べる日もそう遠くはないだろうとナマエは思った。
(嗚呼、せっかく選んでもらった洋服も、モガの方には見劣りするなぁ)
チケットを握り締め、開場を今か今かと待つ間、暇だったので周りの人を観察していた。洋装のアベックが、恥ずかしげもなく腕を組んでいたのを目撃してしまい、自分のことではないが、恥ずかしい気持ちになった。
他にも、三越で売っているような上等な着物を着た御婦人、女学校の学生や高等学校生、子供から年寄りまで、多くの人が劇場には集まっている。こんなに人が多いので、彼女は逸れないように必死だった。
「本物の松井須磨子、楽しみですね」
「うむ! 今や、あちこちで彼女が歌が聞こえてくる。きっと大層素晴らしい芝居を見せてくれることだろう!」
「露西亜の貴族のお話だそうですよ……ちょっと難しそう。私にわかるかなぁ」
「なに、ナマエなら理解できるはずだ。現にほら、君と同い年くらいの少女も見にきている」
「私は学校も行っていませんからねぇ、女学校に行くような方とは違いますよ」
人間観察にも飽きて、ナマエは隣に連れ立つ煉獄に声をかける。
いつもの隊服に羽織りというスタイルではなく、今日は一端の若旦那風である。ナマエも、友人に見繕ってもらった洋装で隣に並んでいた。
今日は、以前から決まっていた非番の日だった。今流行りの芝居を見に行こうと、師匠である煉獄から誘いを受けたのである。継子である自分と、わざわざ休みの日に一緒にいることはないと断ったが、他に誘う者もいないし、チケットも無駄になると言われては、頷くしかない。
なにも、休日に二人きりになるのが嫌というわけではなく、ただ、憧れでもある己の師匠と、二人きりで都会に行くなどといった洒落た行為は、まだ自分には不相応だと思っただけの話である。
(ミッちゃんやナッちゃんはあれだけ燥いで、準備まで手伝ってくれたーー二人には悪いけど、小説じゃあないんだから、そういうことでは……うーん……)
きっと周りからは、兄妹に見られているのではないかとナマエは考えた。まぁ、顔の造りが似ても似つかない二人であるから、家族ではないと普通の人は思うだろう。しかし、世の中にはそういう兄弟は珍しくもないし、かと言って恋人同士に間違えられたりして嬉しいのかと聞かれれば微妙だった。
そもそも、そういう仲ではないのに男女二人で出かけたりして、不健全ではないのだろうか。
(嗚呼、そうだ。師匠はそういうお方だ。きっとそこまで思考が行き届いていないんだ。私が気にしすぎているだけなんだ……)
そうなると、浮かれている自分が滑稽に思えた。自由恋愛という言葉が出てきたとはいえ、誰しもがそれを意識して行動しているわけではない。硬派であるが故に、そこまで気が回らないのだ。そんな考えに至り、自分で納得した。
(師匠は美男子だし、強いし、お金もあるしなぁ、好い人か、婚約者がいてもおかしくないよね。弟子だから構っていただけているのかな……それか、いや、考えるのはよそう、うん)
目の前の煉獄相手に良からぬ妄想を抱きかけてしまった。自分を戒めるために頬をペチンと叩く。そうすると、手に薄らと白粉がついて、少し憂鬱な気分になった。