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えたーなる
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01 カイザー・ソぜによろしく
「私、結婚させられそうなんです」
恋人にいきなり呼び出され、ホテル近くのスーパーの前にいくと、ひらひらしたお姫様のような服を着た彼女がいた。
よく見ると、足に履いているのはスリッパで、荷物らしき荷物は何一つとしてなく、やけにやつれた顔で、先ほどの爆弾発言が飛び出たわけだ。
「おいおいナマエちゃん、一体どうしたんだ……結婚なんて」
「車で来てますよね? 乗ってからお話しましょう」
俺がキーを開けると、まるで滑り込むように助手席に座って、様子からはただ事でないことがわかったのだが、イマイチ状況がわからない。結婚させられそう? ナマエちゃんはまだ学生だし、親に結婚させられそうになる歳としては早すぎないか?
「今からドイツに行きたいんです。とにかく、イタリア以外の国に。そうしたらきっと追ってこない」
「ドイツ?」
「あの、今まで私も知らなかったんですけど、私のお父さん……ギャングと繋がりがあったらしくて、というかお父さんもそうで……私を、どうしても結婚させたいらしいんです。というか、私を人質にして、事業を起こす必要があって……それで……」
「それは壮大だな……」
嘘をついているようには見えなかった。いや、そもそも俺は恋人を疑うようなことはしないんだが。
しかし、今回のパターンは予想していなかった。彼女の父親の職業については、ぼんやりとは知っていた。堅気ではなく、パッショーネの人間ではない、別の組のやつだ。しかも、それなりにいいポストについている事も知っていた。
そして、俺は自分は「そういう」人間だということを彼女に知らせていない。親がやくざだなんて気付いていなかったのだから、俺の事もごまかせているのだろう。
いつか伝えようとは思っていたが、今回、もしかしたらその機会がやってきたのかもしれない。
「一昨日、お父さんから知らされたんです。学校から帰ってきたら、いきなりホテルに連れてこさせられて、部屋の中で、いきなり。そう、お母さんもいました。昨日はずっとホテルの部屋の中で、食事や服なんかはお母さんが持ってきてくれて。部屋ではずっと一人でした。けど、ドアの外には知らない人が立っていて、ずっと見張っていて、テレビとか、あと、勉強の道具は部屋にあったんですけど、携帯や、部屋の電話は使えませんでした」
尋問に答えるかのように、ゆっくりと、単語と単語を区切るようにして話し続ける。蓄音機に録音された音声をなぞるかのような喋りに、彼女の緊張が読み取れた。
凶器になるようなものや、外部との連絡が取れるようなものは全て没収されていたのだろう。
前々から計画されていた事なのか、それとも突発的に決められた事なのかはわからない。そもそも、結婚を鎹にして組の繋がりを確かにする、という手段は古臭くないだろうか。それとも、俺が知らないだけでよくある話なのだろうか。
そもそも、彼女の結婚相手とやらがどこかで話は変わってくる。イタリアじゃ、パッショーネの右に出るギャングなんてそうそう居ない。しかし、無作法に喧嘩を吹っかけるような手段はスマートではない。避けるべきだ。
「どうやって部屋から出たんだ?」
「……ホテルのバルコニーから」
なんてお転婆なジュリエットなんだろう。俺への電話は公衆電話からかけてきたそうで、俺がたまたま近くに出ていなければどうなったことやら。
「相手はわかってるのか?」
「明日お会いする予定だったんですけど、誰かはわからないです」
一般道を抜け、高速道路に乗った。向こうはきっと今頃、いなくなった娘を探して慌てているはずだ。勢いとはいえ、とんでもないことをしてしまった。
「そんな格好だと寒いだろ。後ろに俺のコートがあるから羽織っとけ」
薄くてピラピラしたネグリジェは見るからに寒そうで、それに、目のやり場に困る。
ナイロン製の安物コートを、毛布をかぶるように体に巻き付けたナマエは、窓の外や後ろを心配そうに覗いていた。
「そんなにキョロキョロしてたら逆に怪しいぜ」
「……サーレーさんは運転に集中していてください」
「私、結婚させられそうなんです」
恋人にいきなり呼び出され、ホテル近くのスーパーの前にいくと、ひらひらしたお姫様のような服を着た彼女がいた。
よく見ると、足に履いているのはスリッパで、荷物らしき荷物は何一つとしてなく、やけにやつれた顔で、先ほどの爆弾発言が飛び出たわけだ。
「おいおいナマエちゃん、一体どうしたんだ……結婚なんて」
「車で来てますよね? 乗ってからお話しましょう」
俺がキーを開けると、まるで滑り込むように助手席に座って、様子からはただ事でないことがわかったのだが、イマイチ状況がわからない。結婚させられそう? ナマエちゃんはまだ学生だし、親に結婚させられそうになる歳としては早すぎないか?
「今からドイツに行きたいんです。とにかく、イタリア以外の国に。そうしたらきっと追ってこない」
「ドイツ?」
「あの、今まで私も知らなかったんですけど、私のお父さん……ギャングと繋がりがあったらしくて、というかお父さんもそうで……私を、どうしても結婚させたいらしいんです。というか、私を人質にして、事業を起こす必要があって……それで……」
「それは壮大だな……」
嘘をついているようには見えなかった。いや、そもそも俺は恋人を疑うようなことはしないんだが。
しかし、今回のパターンは予想していなかった。彼女の父親の職業については、ぼんやりとは知っていた。堅気ではなく、パッショーネの人間ではない、別の組のやつだ。しかも、それなりにいいポストについている事も知っていた。
そして、俺は自分は「そういう」人間だということを彼女に知らせていない。親がやくざだなんて気付いていなかったのだから、俺の事もごまかせているのだろう。
いつか伝えようとは思っていたが、今回、もしかしたらその機会がやってきたのかもしれない。
「一昨日、お父さんから知らされたんです。学校から帰ってきたら、いきなりホテルに連れてこさせられて、部屋の中で、いきなり。そう、お母さんもいました。昨日はずっとホテルの部屋の中で、食事や服なんかはお母さんが持ってきてくれて。部屋ではずっと一人でした。けど、ドアの外には知らない人が立っていて、ずっと見張っていて、テレビとか、あと、勉強の道具は部屋にあったんですけど、携帯や、部屋の電話は使えませんでした」
尋問に答えるかのように、ゆっくりと、単語と単語を区切るようにして話し続ける。蓄音機に録音された音声をなぞるかのような喋りに、彼女の緊張が読み取れた。
凶器になるようなものや、外部との連絡が取れるようなものは全て没収されていたのだろう。
前々から計画されていた事なのか、それとも突発的に決められた事なのかはわからない。そもそも、結婚を鎹にして組の繋がりを確かにする、という手段は古臭くないだろうか。それとも、俺が知らないだけでよくある話なのだろうか。
そもそも、彼女の結婚相手とやらがどこかで話は変わってくる。イタリアじゃ、パッショーネの右に出るギャングなんてそうそう居ない。しかし、無作法に喧嘩を吹っかけるような手段はスマートではない。避けるべきだ。
「どうやって部屋から出たんだ?」
「……ホテルのバルコニーから」
なんてお転婆なジュリエットなんだろう。俺への電話は公衆電話からかけてきたそうで、俺がたまたま近くに出ていなければどうなったことやら。
「相手はわかってるのか?」
「明日お会いする予定だったんですけど、誰かはわからないです」
一般道を抜け、高速道路に乗った。向こうはきっと今頃、いなくなった娘を探して慌てているはずだ。勢いとはいえ、とんでもないことをしてしまった。
「そんな格好だと寒いだろ。後ろに俺のコートがあるから羽織っとけ」
薄くてピラピラしたネグリジェは見るからに寒そうで、それに、目のやり場に困る。
ナイロン製の安物コートを、毛布をかぶるように体に巻き付けたナマエは、窓の外や後ろを心配そうに覗いていた。
「そんなにキョロキョロしてたら逆に怪しいぜ」
「……サーレーさんは運転に集中していてください」