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えたーなる
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眠っている。
現実のわたしは、確実に眠っている。だから、これは夢だ。
足元には小さな花が咲いている。まるで目前の墓に供えられるかのように、点々と、群れるように。
それが夢だとわかっているから、わたしは門を潜った。これが嘘だとわかっているから、目覚めなくてはいけないとも思った。
頭上に広がるのは灰色の空。恐らく、昼間の曇り空。冷たい風が、何故か心地いい。
……目覚めるには、まだ早すぎるらしい。
導かれるように、小さな丘を登る。丘の上には大小様々な墓、そして小さな家。
その前に、女がいる。いや、正確には、女ではない──打ち捨てられた人形があった。これは夢だから、触れても大丈夫。そんな自信がわたしにはあった。
わたしは「彼女」の頬にそっと触れる。人形の肌は、氷に触れたかのように冷たかった。
「ご機嫌よう」
こう言った方がいいと思った。唇から自然にでた言葉に、自分ごとでありながら驚いてしまう。
……人形に話しかけるなんて、子供じゃあるまいし。
「狩人さま」
──確かに声が聞こえた。
わたしは手元を見下ろした。確かに、この人形から声がした! 幻聴ではない! 絶対に、「彼女」がしゃべった!
確かめるように、そっと彼女の唇に触れる。愛撫するような執念深さを曝け出したくなるけれど、ぐっと堪えて、わたしは羽で一撫でするような柔さで紅の引かれた「それ」に指を這わせた。
──矢張り、冷たい。動かない。
彼女の閉じた目が開くところが見たい。動くところが見たい。ああ、早く、早く! 早くわたしに彼女を見せて──!
思わずわたしが彼女を抱き起こそうとしたその瞬間、動かないはずの人形の両の目が静かに持ち上がった。
彼女と目があう。微笑まない。
熱い! 体が、焼けるように熱い……!
全身が溶けるような熱に晒される。動くことも、焼かれる痛みから逃げるように体をくねらせることもできない。助けて欲しいと叫ぶ口も開かない。
次第に痛みに体が麻痺してきた頃、わたしは遠くで誰かがわたしの名前を呼ぶのを、聞いた──。
◆
「あっ、起きた……」
その声が耳に届くのと同時に、わたしはゼンマイ仕掛けの人形のように、素早く上体を起こす。
これは戦いの間に自然に身につけた技術のようなものだ。技術というより、処世術といってもいいかもしれない。
地面は湿っている。
倒れたままでいると、病の感染者に手足ごと持って行かれてしまう。起き上がるなら、素早く。それこそ、狩人としての基礎中の基礎として叩き込まれることだ。別に、わたしが特段優れているというわけでは、ない。
立ち上がり、目線の先にいたのは一人の男だった。背が高く、黒い外套を着込んでいる。
わたしは、ちょうど感染者が彷徨いているところから離れた洞窟にいるらしい。あたりはジメジメとしていて、ところどころから水の流れる音が聞こえた。おそらく井戸の近くの土地だろうと推測した。
……だとしたら、ここはどこなのだろう。
少なくとも、ヤーナムの市街地ではない。わたしが一切足を踏み入れたことのない場所だった。朧げな記憶を頼りに直前の光景を思い出そうとするが、手掛かりの糸を掴もうとすると、靄がかかったように消えてしまった。
壁にもたれたままわたしを見下ろす長身の男は、珍しい格好をしていた。少なくとも、ここでは見かけないような格好だ。
言われてみれば、わたしも似たような格好をしている。けれど、彼はヤーナムの伝統的な狩装束とは異なる様式の服を着込んでいた。布も上等そうな厚手のものだし、そこに一切の血の汚れは見えない。が、それは返り血を浴びていないということではないだろうか? それとも、この雨で血潮は流れ落ちたのだろうか。彼が着ている服のその生地は、貴族が着ていてもおかしくないような上等のものであることが、素人目にも理解できた。
──ただ一つ、彼が手に持っているのがステッキではなく無骨な斧であることがアンバランスだった。ここまで洒落た格好をしているのに、武器は優美ではなく、実用一辺倒である。そこかがとても面白かった。
「……あなたも狩人ですか?」
彼はきっと外からやってきた狩人なのだろう。こんな時間に外を彷徨いているのは獣狩りに参加している人間だけだと理解していながらも、一応質問をしてみる。会話は質問から。狩人は礼儀を重んじる。
「まあな。そっちも、だろ?」
彼はわたしを見下ろしながら、目線を武器へと向けた。
わたしの腰には長銃がぶら下がっている。そして、壁に立てかけてあるのは鈍く光る金槌だ。これでわたしが狩人でなければ、何になるのか。
……ああ、これがわたしの武器なのか。
他人事のように考えながら、わたしは
「あの、助けていただいてありがとうございました」
【連盟の狩人 彰】
連盟の狩人。人を食ったような笑みを浮かべる。軽薄な面が目立つが、戦いでは冷静沈着で目的の為に労を惜しまない。
【獣狩りの戦斧】
斧は農民の道具であり、ギロチンの登場以前は死刑囚の処刑にも使われた。人ならざる獣を一撃で屠るのは執行人の優しさか、それとも次の獲物を素早く殺すためなのか。彼の本心を知る者はいない、誰一人として。
【狩人の女】
禁域の森で倒れていた女。かつては教会の狩人であった……ような気がする──。彼女は人間を恐れないが、獣の病に犯された人間を恐れる。それは己の中に潜む本能からの逃避行、もしくは真に人間の狂気を知っているから、かもしれない。
【爆弾金槌】
彼女は狩りにも浪漫を求める。浪漫とは、火力である。しかしそれは同時に慈悲にもなり得る。もっとも、肉塊にそれが理解できればの話だが。
現実のわたしは、確実に眠っている。だから、これは夢だ。
足元には小さな花が咲いている。まるで目前の墓に供えられるかのように、点々と、群れるように。
それが夢だとわかっているから、わたしは門を潜った。これが嘘だとわかっているから、目覚めなくてはいけないとも思った。
頭上に広がるのは灰色の空。恐らく、昼間の曇り空。冷たい風が、何故か心地いい。
……目覚めるには、まだ早すぎるらしい。
導かれるように、小さな丘を登る。丘の上には大小様々な墓、そして小さな家。
その前に、女がいる。いや、正確には、女ではない──打ち捨てられた人形があった。これは夢だから、触れても大丈夫。そんな自信がわたしにはあった。
わたしは「彼女」の頬にそっと触れる。人形の肌は、氷に触れたかのように冷たかった。
「ご機嫌よう」
こう言った方がいいと思った。唇から自然にでた言葉に、自分ごとでありながら驚いてしまう。
……人形に話しかけるなんて、子供じゃあるまいし。
「狩人さま」
──確かに声が聞こえた。
わたしは手元を見下ろした。確かに、この人形から声がした! 幻聴ではない! 絶対に、「彼女」がしゃべった!
確かめるように、そっと彼女の唇に触れる。愛撫するような執念深さを曝け出したくなるけれど、ぐっと堪えて、わたしは羽で一撫でするような柔さで紅の引かれた「それ」に指を這わせた。
──矢張り、冷たい。動かない。
彼女の閉じた目が開くところが見たい。動くところが見たい。ああ、早く、早く! 早くわたしに彼女を見せて──!
思わずわたしが彼女を抱き起こそうとしたその瞬間、動かないはずの人形の両の目が静かに持ち上がった。
彼女と目があう。微笑まない。
熱い! 体が、焼けるように熱い……!
全身が溶けるような熱に晒される。動くことも、焼かれる痛みから逃げるように体をくねらせることもできない。助けて欲しいと叫ぶ口も開かない。
次第に痛みに体が麻痺してきた頃、わたしは遠くで誰かがわたしの名前を呼ぶのを、聞いた──。
◆
「あっ、起きた……」
その声が耳に届くのと同時に、わたしはゼンマイ仕掛けの人形のように、素早く上体を起こす。
これは戦いの間に自然に身につけた技術のようなものだ。技術というより、処世術といってもいいかもしれない。
地面は湿っている。
倒れたままでいると、病の感染者に手足ごと持って行かれてしまう。起き上がるなら、素早く。それこそ、狩人としての基礎中の基礎として叩き込まれることだ。別に、わたしが特段優れているというわけでは、ない。
立ち上がり、目線の先にいたのは一人の男だった。背が高く、黒い外套を着込んでいる。
わたしは、ちょうど感染者が彷徨いているところから離れた洞窟にいるらしい。あたりはジメジメとしていて、ところどころから水の流れる音が聞こえた。おそらく井戸の近くの土地だろうと推測した。
……だとしたら、ここはどこなのだろう。
少なくとも、ヤーナムの市街地ではない。わたしが一切足を踏み入れたことのない場所だった。朧げな記憶を頼りに直前の光景を思い出そうとするが、手掛かりの糸を掴もうとすると、靄がかかったように消えてしまった。
壁にもたれたままわたしを見下ろす長身の男は、珍しい格好をしていた。少なくとも、ここでは見かけないような格好だ。
言われてみれば、わたしも似たような格好をしている。けれど、彼はヤーナムの伝統的な狩装束とは異なる様式の服を着込んでいた。布も上等そうな厚手のものだし、そこに一切の血の汚れは見えない。が、それは返り血を浴びていないということではないだろうか? それとも、この雨で血潮は流れ落ちたのだろうか。彼が着ている服のその生地は、貴族が着ていてもおかしくないような上等のものであることが、素人目にも理解できた。
──ただ一つ、彼が手に持っているのがステッキではなく無骨な斧であることがアンバランスだった。ここまで洒落た格好をしているのに、武器は優美ではなく、実用一辺倒である。そこかがとても面白かった。
「……あなたも狩人ですか?」
彼はきっと外からやってきた狩人なのだろう。こんな時間に外を彷徨いているのは獣狩りに参加している人間だけだと理解していながらも、一応質問をしてみる。会話は質問から。狩人は礼儀を重んじる。
「まあな。そっちも、だろ?」
彼はわたしを見下ろしながら、目線を武器へと向けた。
わたしの腰には長銃がぶら下がっている。そして、壁に立てかけてあるのは鈍く光る金槌だ。これでわたしが狩人でなければ、何になるのか。
……ああ、これがわたしの武器なのか。
他人事のように考えながら、わたしは
「あの、助けていただいてありがとうございました」
【連盟の狩人 彰】
連盟の狩人。人を食ったような笑みを浮かべる。軽薄な面が目立つが、戦いでは冷静沈着で目的の為に労を惜しまない。
【獣狩りの戦斧】
斧は農民の道具であり、ギロチンの登場以前は死刑囚の処刑にも使われた。人ならざる獣を一撃で屠るのは執行人の優しさか、それとも次の獲物を素早く殺すためなのか。彼の本心を知る者はいない、誰一人として。
【狩人の女】
禁域の森で倒れていた女。かつては教会の狩人であった……ような気がする──。彼女は人間を恐れないが、獣の病に犯された人間を恐れる。それは己の中に潜む本能からの逃避行、もしくは真に人間の狂気を知っているから、かもしれない。
【爆弾金槌】
彼女は狩りにも浪漫を求める。浪漫とは、火力である。しかしそれは同時に慈悲にもなり得る。もっとも、肉塊にそれが理解できればの話だが。