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えたーなる
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「ねー長谷部」
主が俺を手招きする。目の前に置かれたモニターから発せらるブルーライトが、彼女の眼鏡に反射して異様な輝きを放っている。こちらから主の表情は伺えない。
俺はつい先ほど開いたばかりのデータを一時保存してから立ち上がり、彼女の側に歩み寄った。
「はい、何か御用でしょうか」
主は相変わらずモニターに視線を釘付けにしたまま、こちらを一向に見ようとしない。一瞬でも目線を動かそうとする気がないのか、開かれたブラウザの画面を熱心に見つめている。俺の視界にもそれが映る。明らかに仕事で使うような画面ではなかった。けれど、ここで咎める勇気は、俺にはなかった。
「あたしが十八になったら童貞卒業させてあげよっか」
「ハ…………?」
間抜けな声が出た。およそ自分とは思えないようなひどい声だった。
「あの、おっしゃっている意味が……」
「えっ、なんで? 長谷部って童貞じゃないの?」
「あ、主っ!」
聞き間違いでなければ、主は今二度「童貞」という言葉を口にした。
童貞。
…………童貞だって?
まさか、信じられない。
主の口からそんな卑猥な言葉が飛び出ることなどあってはならない。きっと何かの聞き間違いだ。
最近は耳年増な子供も多いと聞くがこの審神者に限ってそんなことは──
「ねーねー黙ってるってことは図星ってことでおけ? 沈黙は肯定ってことにしちゃうよ? 否定しないの? ねぇねぇ?」
「主、お戯れを……」
主は体育座りをしていた椅子の上で膝立ちになり、俺の服を掴んで体を寄せた。力こそ弱いものの、ここで抵抗しては主人を傷つけかねないので大人しくされるがままにされているしかない。
「長谷部ぇ、答えてよ。童貞なの? 童貞じゃないの?」
頬に手を添えられ、強制的に向かい合わされる。眼鏡越しの主の瞳が俺の顔を写している。
これはもう、答えるしかないのだろうか……。
正直に言えば、図星だった。
そうだ、俺は童貞だ。女を抱いたことがない。男との経験もない。それどころか、任務先で女と関わったことすらない。きちんと目を見て話をした女性はこの審神者しかいない。顕現されてから数年経つが、俺の体は清らかなままだった。
売春は法律で禁じられている。
審神者と恋仲になる刀もいると風の噂には聞いたことがあるが、俺と主はそういう関係ではないし、発展するつもりはない。
求められることがあれば、それに応じることはあり得なくはないだろうと頭の片隅で考えたことがあるが、こんな妙な形であけすけに貞操について問われるなどとは考えたことがなかった。
ここで嘘をついても素直に答えても碌な目に遭わないのは目に見えている。
正直に答えれば、きっとそれを出汁に揶揄われるだろう。それで済むならまだいい方で、童貞卒業に協力させてあげる! とあらぬ方向に暴走して、めちゃくちゃなことに巻き込まれる未来もあり得る。
「嘘ついたら絶対ダメだからね」
全てを塗りつぶすような黒い瞳が俺を写している。この目に睨まれると、喋らなくても良いことですら白状してしまいそうになる。
駄目だ。絶対に口にしてはいけない。
「正直に言いなさい。これは主命だからね」
「お、俺は女人を抱いたことは…………ありません」
主命というワードを出されてしまえば、正直に言うしかなかった。
「うん、知ってた。だよねえ、やっぱ長谷部は童貞なんだぁ♡」
ニヤニヤと笑いながらこちらを見る主は、恥辱に震える俺を見て楽しそうにしている。嬉しそうな主が見られて喜ばしいことよりも、俺は自身の秘密を白日の元に晒してしまったことに対する恥ずかしさの方が上回った。
「あ、主……この事は内密に……」
「うーん、どうしよっかな♡ でもねえ長谷部、物があたしに何か指図できる立場だっけ? 身の程、知っとこっか♡」
主は軽快にケラケラと笑ってそう言った。
──冗談か本気かわからない。
だからこそ余計に恐ろしいのだ。
「──出過ぎた真似を……大変申し訳……ありませんでした」
「うんうん♡ 反省したようなら許してあげる」
主に頭を撫でられながら、俺はどんな顔でこの人と向き合えばいいのかわからなくなってきていた。
童貞を卒業させてやるという言葉の意味を本当に理解しているのだろうか。
彼女はつい最近まで中学校に通っていたような子供だ。少なくとも、俺にはそういう風にしか見えない。
いたずらで俺を揶揄おうとして適当に言っているのだとしたら、改めさせなければいけない。童貞という言葉を覚えたてで使ってみたくて仕方がないのだ。きっとそうに違いない。嗚呼、焦っていた俺が馬鹿みたいじゃないか。覚えた卑猥な単語を連呼して俺を困らせたいだけなのだ。
子供であれば、主と言えど庇護し、正しい道へと指導するべき存在である。幼い頃から本丸暮らしで、世の中の道理を理解すらしていないだろう。相手が俺だったからよかったものの、他の男にそんなことを言って本気にされて貞操を奪われてしまえば後悔することになってしまう。
どのように差し障りなくこの行為を止めさせるか悩んでいたところに、とてつもない爆弾が投げ込まれた。
「でさあ、さっきの話の続きなんだけど、長谷部の童貞、あたしが貰ってあげよっかなぁ、って。いいよね? 長谷部も、あたしに抱いてもらえて嬉しいよね?」
こいつ、わかってて言っているのか?
俺は思わずそんな言葉を口から出しそうになった。
先ほどよりも直接的な表現で主は俺を誘っている。思わず喉がゴクリと唾を飲み込んでしまった。恐ろしい。なんてことだ。
「あ、主……ご冗談はよしてくださいよ。そんなことを言って俺を揶揄うなんてお人が悪い。そんな、せ、せ、せ、性行の話を男にするものではありません」
「あはっ♡ 吃っててかーわい♡ セックスの話だけで照れるなんて、やっぱ長谷部ってバキバキのドーテイじゃん♡ あたしより年上のおじいちゃんなのに、いっぱい人を切った刀なのに、セックスの話すると照れるんだ♡」
吃りを指摘され、俺は余計に消え入りたくなった。主の顔もまともに見れない。やはり、こんな悪い冗談は早急にやめさせるべきだ。こんなことを他のやつに言ったとしたらどうなるだろう。そんな考えが脳内を駆け巡っているが、それらが口先から飛び出す事はなかった。
「こんなこと、長谷部にしか言わないからね♡ あたしが長谷部の童貞ちんぽ食べちゃうから、光栄に思うように♡ よかったねえ長谷部、商売女が初めてだったら下手くそすぎて愛想尽かされちゃうかもしれないもんね♡ こんな鈍刀の相手できるのはあたししかいないんだから、ちゃんと逃げずにあたしの部屋に来ないとダメだよ♡」
「は、はい……」
思ってもいないような言葉が口から漏れ出た。
やはり、逆らえなかった。
主は満足したように微笑むと、俺の頭を再び撫でた。
「後の仕事は近侍に頼むから、今日は好きにしてていいよ」
「はい…………」
先ほどの嘲るような態度が嘘のように、主は元の気だるげな表情に戻っていた。
──俺はこの人で童貞を卒業するのか。
俺は恐ろしくなり、その場から逃げ出すように退室した。
主が俺を手招きする。目の前に置かれたモニターから発せらるブルーライトが、彼女の眼鏡に反射して異様な輝きを放っている。こちらから主の表情は伺えない。
俺はつい先ほど開いたばかりのデータを一時保存してから立ち上がり、彼女の側に歩み寄った。
「はい、何か御用でしょうか」
主は相変わらずモニターに視線を釘付けにしたまま、こちらを一向に見ようとしない。一瞬でも目線を動かそうとする気がないのか、開かれたブラウザの画面を熱心に見つめている。俺の視界にもそれが映る。明らかに仕事で使うような画面ではなかった。けれど、ここで咎める勇気は、俺にはなかった。
「あたしが十八になったら童貞卒業させてあげよっか」
「ハ…………?」
間抜けな声が出た。およそ自分とは思えないようなひどい声だった。
「あの、おっしゃっている意味が……」
「えっ、なんで? 長谷部って童貞じゃないの?」
「あ、主っ!」
聞き間違いでなければ、主は今二度「童貞」という言葉を口にした。
童貞。
…………童貞だって?
まさか、信じられない。
主の口からそんな卑猥な言葉が飛び出ることなどあってはならない。きっと何かの聞き間違いだ。
最近は耳年増な子供も多いと聞くがこの審神者に限ってそんなことは──
「ねーねー黙ってるってことは図星ってことでおけ? 沈黙は肯定ってことにしちゃうよ? 否定しないの? ねぇねぇ?」
「主、お戯れを……」
主は体育座りをしていた椅子の上で膝立ちになり、俺の服を掴んで体を寄せた。力こそ弱いものの、ここで抵抗しては主人を傷つけかねないので大人しくされるがままにされているしかない。
「長谷部ぇ、答えてよ。童貞なの? 童貞じゃないの?」
頬に手を添えられ、強制的に向かい合わされる。眼鏡越しの主の瞳が俺の顔を写している。
これはもう、答えるしかないのだろうか……。
正直に言えば、図星だった。
そうだ、俺は童貞だ。女を抱いたことがない。男との経験もない。それどころか、任務先で女と関わったことすらない。きちんと目を見て話をした女性はこの審神者しかいない。顕現されてから数年経つが、俺の体は清らかなままだった。
売春は法律で禁じられている。
審神者と恋仲になる刀もいると風の噂には聞いたことがあるが、俺と主はそういう関係ではないし、発展するつもりはない。
求められることがあれば、それに応じることはあり得なくはないだろうと頭の片隅で考えたことがあるが、こんな妙な形であけすけに貞操について問われるなどとは考えたことがなかった。
ここで嘘をついても素直に答えても碌な目に遭わないのは目に見えている。
正直に答えれば、きっとそれを出汁に揶揄われるだろう。それで済むならまだいい方で、童貞卒業に協力させてあげる! とあらぬ方向に暴走して、めちゃくちゃなことに巻き込まれる未来もあり得る。
「嘘ついたら絶対ダメだからね」
全てを塗りつぶすような黒い瞳が俺を写している。この目に睨まれると、喋らなくても良いことですら白状してしまいそうになる。
駄目だ。絶対に口にしてはいけない。
「正直に言いなさい。これは主命だからね」
「お、俺は女人を抱いたことは…………ありません」
主命というワードを出されてしまえば、正直に言うしかなかった。
「うん、知ってた。だよねえ、やっぱ長谷部は童貞なんだぁ♡」
ニヤニヤと笑いながらこちらを見る主は、恥辱に震える俺を見て楽しそうにしている。嬉しそうな主が見られて喜ばしいことよりも、俺は自身の秘密を白日の元に晒してしまったことに対する恥ずかしさの方が上回った。
「あ、主……この事は内密に……」
「うーん、どうしよっかな♡ でもねえ長谷部、物があたしに何か指図できる立場だっけ? 身の程、知っとこっか♡」
主は軽快にケラケラと笑ってそう言った。
──冗談か本気かわからない。
だからこそ余計に恐ろしいのだ。
「──出過ぎた真似を……大変申し訳……ありませんでした」
「うんうん♡ 反省したようなら許してあげる」
主に頭を撫でられながら、俺はどんな顔でこの人と向き合えばいいのかわからなくなってきていた。
童貞を卒業させてやるという言葉の意味を本当に理解しているのだろうか。
彼女はつい最近まで中学校に通っていたような子供だ。少なくとも、俺にはそういう風にしか見えない。
いたずらで俺を揶揄おうとして適当に言っているのだとしたら、改めさせなければいけない。童貞という言葉を覚えたてで使ってみたくて仕方がないのだ。きっとそうに違いない。嗚呼、焦っていた俺が馬鹿みたいじゃないか。覚えた卑猥な単語を連呼して俺を困らせたいだけなのだ。
子供であれば、主と言えど庇護し、正しい道へと指導するべき存在である。幼い頃から本丸暮らしで、世の中の道理を理解すらしていないだろう。相手が俺だったからよかったものの、他の男にそんなことを言って本気にされて貞操を奪われてしまえば後悔することになってしまう。
どのように差し障りなくこの行為を止めさせるか悩んでいたところに、とてつもない爆弾が投げ込まれた。
「でさあ、さっきの話の続きなんだけど、長谷部の童貞、あたしが貰ってあげよっかなぁ、って。いいよね? 長谷部も、あたしに抱いてもらえて嬉しいよね?」
こいつ、わかってて言っているのか?
俺は思わずそんな言葉を口から出しそうになった。
先ほどよりも直接的な表現で主は俺を誘っている。思わず喉がゴクリと唾を飲み込んでしまった。恐ろしい。なんてことだ。
「あ、主……ご冗談はよしてくださいよ。そんなことを言って俺を揶揄うなんてお人が悪い。そんな、せ、せ、せ、性行の話を男にするものではありません」
「あはっ♡ 吃っててかーわい♡ セックスの話だけで照れるなんて、やっぱ長谷部ってバキバキのドーテイじゃん♡ あたしより年上のおじいちゃんなのに、いっぱい人を切った刀なのに、セックスの話すると照れるんだ♡」
吃りを指摘され、俺は余計に消え入りたくなった。主の顔もまともに見れない。やはり、こんな悪い冗談は早急にやめさせるべきだ。こんなことを他のやつに言ったとしたらどうなるだろう。そんな考えが脳内を駆け巡っているが、それらが口先から飛び出す事はなかった。
「こんなこと、長谷部にしか言わないからね♡ あたしが長谷部の童貞ちんぽ食べちゃうから、光栄に思うように♡ よかったねえ長谷部、商売女が初めてだったら下手くそすぎて愛想尽かされちゃうかもしれないもんね♡ こんな鈍刀の相手できるのはあたししかいないんだから、ちゃんと逃げずにあたしの部屋に来ないとダメだよ♡」
「は、はい……」
思ってもいないような言葉が口から漏れ出た。
やはり、逆らえなかった。
主は満足したように微笑むと、俺の頭を再び撫でた。
「後の仕事は近侍に頼むから、今日は好きにしてていいよ」
「はい…………」
先ほどの嘲るような態度が嘘のように、主は元の気だるげな表情に戻っていた。
──俺はこの人で童貞を卒業するのか。
俺は恐ろしくなり、その場から逃げ出すように退室した。