もはや暑すぎて蝉は鳴いていなかった。
　それは、近年話題に上がる地球温暖化の影響ともいえるし、単に台風が通り過ぎた後のせいだとコメントする人もいる。
　どうでもいいことだ、と勝手にピリオドを打った。自分で考え出したことなのに。
　ママチャリをこいで、前と後ろのかごいっぱいに野菜やらスナック菓子やら、水やらを運んできた。そのせいで、思考らしい思考を張り巡らせることができない。
　両手にエコバックをぶら下げて、マンションの３階まで気合いで登り切った。主夫としての仕草が身に付いてきたな。なんて、所帯を持つわけでもないのに考える。
　
　鍵はかかっていない。
　外びらきのドアを開けると、冷房の冷気が汗のにじむ体を包み込んだ。
　
「さっぶいねん……何度や、これ」
　
　ぶつぶつ言いながら、冷蔵庫に買い物の戦利品を押し込んでいく。この作業が終わったら、温度を弄っておこう。
　
「牛乳、空になってんのかい」
　
　これで容器を洗って乾かす手間が増えた。増えた、というより押しつけられたという考えが正しいが。
　
「うわー、ゼリーも食べられとるわ。ほんま、食欲だけは際限ないやっちゃな」
　
　シンクに、空になったコーヒーゼリーのカップが浮いていた。シンクにつけておく発想があるのなら、牛乳も水洗いくらいしてほしい。
　
　わざとらしく独り言を呟いているうちに、片付けはあらかた済んでしまった。