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えたーなる
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大嫌いだと言い切るにはちょっと材料が足りないと思う。
ナマエはそんな風に言うと、ちょっと困ったように笑った。
昼休みの学食は混み合っている。二人は各々の弁当を持ち寄って、鍵のかかっていない空き教室に集合した。
そこで、ナマエがそれとなく「懐かしい」とぼやいたので、三井はその理由を聞いただけだった。
「いやー、前の彼氏ともここで食べたなーって。ほら、ここって学食の近くで空いてるし、埃とかも特にないし、うるさくないし。穴場なんですよ」
「お前、元カレいたのかよ」
「うん。隠すことじゃないし、先輩に隠し事するのって嫌だし」
「へー、どんなやつ?」
「どう、って。一ヶ月しか付き合ってなかったから、よくわかんなくて。なんとなくで付き合ったし……」
何かを思い出そうと脳を働かせてみたが、三井の何か言いたげな視線を感じ取る。
(あっ、先輩嫉妬してる……)
そこで、冒頭の言葉に戻る。
脳内の記憶をほじくり出してみるが、一ヶ月の交際の間にナマエが先代彼氏から得たものといえば、ちょっとしたイタリアンでのデートと、倦怠感丸出しのまどろっこしい空気だけだった。面白い相手だったとは言い難い。
わかりやすい性格の人間をナマエは好んでいる。一応年上のくせに、わかりやすく感情表現をするとこは嫌いじゃない。にやけるのを隠すように手元のレモンティーを飲み干す。
高校二年生にもなって、共学の高校でそれなりの学園生活を送っていれば、彼氏の一人や二人できていてもおかしくはない。むしろ、そういう火遊びが学業以外の高校生活の特典なんだから、楽しまなければソンだとナマエは思っていた。
だから、わかりやすく不機嫌になった三井を見て、嬉しさと同時に初々しさと面倒臭さを覚えて少し気持ちがだるくなる。
可愛いのはいいけど、嫉妬深くてめんどくさいのは嫌。
「先輩って誰かと付き合ったことないんですか」
「ない」
「へぇ。今まで誰かを好きになったのは?」
答えはなかった。
(おっ、これは中々……)
ナマエは後々このネタでもう一回いじろうと、脳内のメモに書き留める。
昨晩のおかずとおにぎりを頬張りながら、ナマエは顔を赤くした三井と向かい合う。わたしが初めて好きになった人なんですか、とは言わないでおく。これ以上はやめておこうと律する気遣いくらいはナマエも持ち合わせていた。
「先輩、恋バナ苦手ですか」
「うるっせえな……」
照れ隠しに、三井は鶏そぼろをかきこんだ。
喉を詰まらせるのではないかとナマエは心配になる。
「まあまあ、あんま怒んないでくださいよ。嫌いじゃないし、好きでもないし、そもそも好きでもなかったし。わたしも向こうに思うことなんて特にないんですよ。今は先輩だけですって」
これは本当だ。
数週間前、ナマエはバスケ部で問題を起こしたという「三井先輩」に呼び出された。移動教室で廊下をヨタヨタと歩いている時、後ろから呼び出されたのだ。
放課後がたまたま暇だったので、おっかなびっくり向かってみると、なぜか告白された。
なぜかやけにモジモジとしていて、それがなんだかおかしくて、でも元不良だったらしいと聞いて笑うに笑えなかった。
(嘘、ほぼ初対面の人に告白されちゃった)
ナマエは返事に迷ったが、顔がタイプだったのでとりあえず、なんとなくオーケーを出してしまった。
二人の過去に何かあったわけでもない。むしろ、ナマエは今日この日まで三井のことを少しも知らなかった。
気になって、どうして自分を好きになったのかと聞いても頑なに答えてくれなかった。まあ、それなりにいえない事情があるのだろう。こんなことに関して追求するのも面倒だし、とナマエは特に気にしないことにした。
三井は付き合ってみるとなかなか面白いひとだった。言動は結構ガサツだったけれど、目上の人には礼儀正しいし、よく見ると食事の所作は丁寧で、普段の行動から親の教育の片鱗を感じられた。多分、親がマナーに厳しかったのだろう。しかも、何かと面倒見がいい。最初は半信半疑だったが今ではこの人の彼女になる選択をしたのは悪くなかったな、と思っている。
それが恋愛的に好意を抱いているかということはともかく、ナマエにとって、三井は一緒にいて悪い相手ではなかった。彼氏としては妥協点どころか、アタリの相手だと思っている。
「だから大丈夫ですって、ほら」
子供を諭すような口調になったので、向こうが余計に不機嫌になるのが目に見えてわかった。
「せんぱーい、機嫌なおしてくださいよ。ほら、麻婆豆腐一口あげますよ」
あーん、の要領でスプーンに掬い、目の前に差し出すと素直に食べた。
「ほら、美味しいでしょ?」
「ん……うまい。お前ん家のメシってマジでうめぇな」
「うちの両親、料理作るの好きなんで。わたしはキッチンに入らせてもらえないんですけどね」
「今度食いに行っていいか?」
「えー、うち狭いですよ」
「オレ一人くらい入れるだろ」
「うーん、どうだろ……」
苦笑するナマエを前に、三井はもうすでに家に遊びに行って夕飯をお呼ばれする算段を立てていた。
「せんぱーい、うちらまだ付き合ってそんなですよ、すぐに挨拶とかちょっと重いですって」
「はぁ……? そうか?」
「うんうん、普通の高校生はそんなすぐに挨拶しませんって。田舎じゃあるまいし」
先輩は古風で堅い人なんだなー、とナマエは思う。付き合ってすぐに親に挨拶とか、昭和かよ。
「まあ……お前が嫌なら今すぐにとは言わねえけどよ」
「ってか先輩はなんで挨拶したいって思うんですか。わたしは別にそんな風に思いませんよ」
たかが学生同士の恋愛ごっこに…………。そこまでは言わなかったが。
「なんとなく。そうした方が親御さんも安心だろ」
「うちの親は、娘が何してようが特に気にしてませんよ。ほらわたし、夜にスーパーの品出しやってるじゃないですか。それも特に何かを言われたことないし。先輩、グレてたからって気にしすぎじゃないですか?」
「うるせえな。それは関係ねえよ」
「ふーん、どうだか」
口は悪いくせにそれなりに真面目で……重い人だ。大切に思ってくれているのはいいことだけど、時々それが重苦しく感じられて仕方がなかった。
「ってか先輩って任侠とか好きそうですよね」
「はぁ? 別に好きじゃねえよ」
「そーですか」
「お前はそういうの、見るのか?」
「いや、別に」
「じゃあなんでそんな質問したんだよ」
「なんとなくー?」
「なんとなくかよ」
ナマエは三井の堅気で……悪くいえばクソ真面目なところから、どことなく任侠の香りを感じ取っていたのだが、全く検討はずれだったらしい。
まあ、今どき日活なんて見ている高校生は少ないか、と自分を納得させる。
「あ」
弁当のだし巻き卵を箸で摘んだ三井が、急に声を上げた。
「なんですか」
「お前、今日シフトないよな」
「え、ないですけど」
三井はいいことを思いついた、と言いたげな瞳をしている。
(あ、またなんか巻き込まれるパターンだ)
ナマエは三井がこの顔をしている時、ナマエにとって少し面倒なことが起こることを知っていた。やれ、ストバスに付き合えだの、やれ「今度の体育でバスケやるんだろ? スリー入れれるようにしてやるよ」だの(実際に早朝に公園に集合して、三本入るまで特訓をさせられた)、バスケに関連する「何か」をさせられるのが常だった。
めんどくさいなあと思うけれど、このキラキラした目で見つめられるといいえとは言いにくくなる。ナマエは努めて無表情を作りながら、先を促した。
「今日の放課後、部活観にこいよ」
「えっ」
それだけ?
思わず口から出てしまった。
「それだけもクソも、お前は練習に参加できねえだろ」
「いや……別にそんなことしたくはないですよ」
そういうと、三井は大きな声で笑った。
「流石にそれはな!」
「いや、この前スリーの練習しましたよね? あのクソ暑い中で!」
「役に立っただろ?」
「まあ、まぐれで入りましたけど……」
「お、やるじゃねえか。やっぱオレの教え方がよかったんだな。あと、ナマエの才能」
お前バスケ向いてるんじゃねえか、と三井は無邪気に笑う。
(──これだから、先輩はさあ)
嫌いになれない。むしろ、大好きになる。
ナマエは会うたびに三井のことを好きになっていく自分がいることに気づいた。無神経だけど、素直でいい人だという事に、毎日気付かされている。それが悔しくて、なんだか嬉しくなる。
「……放課後、差し入れとか期待しないでくださいよ」
「しねえって! 流石に後輩からタカるのはダセえだろ!」
放課後、ポカリ持って行ってあげよう。
ナマエはそう誓いながら、紅茶をグッと飲み干した。
◆
放課後、掃除当番を終えて体育館まで行くと、すでに部活は始まっていた。バッシュが床と擦れて響く音が大きく反響している。その迫力に圧倒されて、ナマエは固まってしまった。
「あのっ、誰かの応援ですか?」
「あー……」
体育館の入り口には、先客らしい女子生徒たちがすでに場所を陣取っており、近づくとナマエ一人分のスペースを譲ってくれた。ナマエは彼女たちより頭一つ抜けているので、別に後列からでも良かったのだが、好意を無駄にするわけにもいかないので黙って従った。
(流川楓目当てだと思われてんのかな……この子達も、やっぱそう?)
今年湘北に入学してきた流川楓と、それを支持する非公式組織の存在は、周りの女子生徒の熱狂ぶりも相まって、ナマエはしっかりと認知していた。よく見ると、体育館の二階の方に女子生徒の人だかりが形成されているのが見える。
(こ、こわ……)
目の前の女子生徒三人を見ながら、どう答えるべきか悩んでいると、体育館の中から声が響いた。
「ナマエっ!」
見ると、ラフなシャツ姿の三井がナマエに向かってひらひらと手を振っていた。
(恥ずかしっ!)
ナマエはそんな風に言うと、ちょっと困ったように笑った。
昼休みの学食は混み合っている。二人は各々の弁当を持ち寄って、鍵のかかっていない空き教室に集合した。
そこで、ナマエがそれとなく「懐かしい」とぼやいたので、三井はその理由を聞いただけだった。
「いやー、前の彼氏ともここで食べたなーって。ほら、ここって学食の近くで空いてるし、埃とかも特にないし、うるさくないし。穴場なんですよ」
「お前、元カレいたのかよ」
「うん。隠すことじゃないし、先輩に隠し事するのって嫌だし」
「へー、どんなやつ?」
「どう、って。一ヶ月しか付き合ってなかったから、よくわかんなくて。なんとなくで付き合ったし……」
何かを思い出そうと脳を働かせてみたが、三井の何か言いたげな視線を感じ取る。
(あっ、先輩嫉妬してる……)
そこで、冒頭の言葉に戻る。
脳内の記憶をほじくり出してみるが、一ヶ月の交際の間にナマエが先代彼氏から得たものといえば、ちょっとしたイタリアンでのデートと、倦怠感丸出しのまどろっこしい空気だけだった。面白い相手だったとは言い難い。
わかりやすい性格の人間をナマエは好んでいる。一応年上のくせに、わかりやすく感情表現をするとこは嫌いじゃない。にやけるのを隠すように手元のレモンティーを飲み干す。
高校二年生にもなって、共学の高校でそれなりの学園生活を送っていれば、彼氏の一人や二人できていてもおかしくはない。むしろ、そういう火遊びが学業以外の高校生活の特典なんだから、楽しまなければソンだとナマエは思っていた。
だから、わかりやすく不機嫌になった三井を見て、嬉しさと同時に初々しさと面倒臭さを覚えて少し気持ちがだるくなる。
可愛いのはいいけど、嫉妬深くてめんどくさいのは嫌。
「先輩って誰かと付き合ったことないんですか」
「ない」
「へぇ。今まで誰かを好きになったのは?」
答えはなかった。
(おっ、これは中々……)
ナマエは後々このネタでもう一回いじろうと、脳内のメモに書き留める。
昨晩のおかずとおにぎりを頬張りながら、ナマエは顔を赤くした三井と向かい合う。わたしが初めて好きになった人なんですか、とは言わないでおく。これ以上はやめておこうと律する気遣いくらいはナマエも持ち合わせていた。
「先輩、恋バナ苦手ですか」
「うるっせえな……」
照れ隠しに、三井は鶏そぼろをかきこんだ。
喉を詰まらせるのではないかとナマエは心配になる。
「まあまあ、あんま怒んないでくださいよ。嫌いじゃないし、好きでもないし、そもそも好きでもなかったし。わたしも向こうに思うことなんて特にないんですよ。今は先輩だけですって」
これは本当だ。
数週間前、ナマエはバスケ部で問題を起こしたという「三井先輩」に呼び出された。移動教室で廊下をヨタヨタと歩いている時、後ろから呼び出されたのだ。
放課後がたまたま暇だったので、おっかなびっくり向かってみると、なぜか告白された。
なぜかやけにモジモジとしていて、それがなんだかおかしくて、でも元不良だったらしいと聞いて笑うに笑えなかった。
(嘘、ほぼ初対面の人に告白されちゃった)
ナマエは返事に迷ったが、顔がタイプだったのでとりあえず、なんとなくオーケーを出してしまった。
二人の過去に何かあったわけでもない。むしろ、ナマエは今日この日まで三井のことを少しも知らなかった。
気になって、どうして自分を好きになったのかと聞いても頑なに答えてくれなかった。まあ、それなりにいえない事情があるのだろう。こんなことに関して追求するのも面倒だし、とナマエは特に気にしないことにした。
三井は付き合ってみるとなかなか面白いひとだった。言動は結構ガサツだったけれど、目上の人には礼儀正しいし、よく見ると食事の所作は丁寧で、普段の行動から親の教育の片鱗を感じられた。多分、親がマナーに厳しかったのだろう。しかも、何かと面倒見がいい。最初は半信半疑だったが今ではこの人の彼女になる選択をしたのは悪くなかったな、と思っている。
それが恋愛的に好意を抱いているかということはともかく、ナマエにとって、三井は一緒にいて悪い相手ではなかった。彼氏としては妥協点どころか、アタリの相手だと思っている。
「だから大丈夫ですって、ほら」
子供を諭すような口調になったので、向こうが余計に不機嫌になるのが目に見えてわかった。
「せんぱーい、機嫌なおしてくださいよ。ほら、麻婆豆腐一口あげますよ」
あーん、の要領でスプーンに掬い、目の前に差し出すと素直に食べた。
「ほら、美味しいでしょ?」
「ん……うまい。お前ん家のメシってマジでうめぇな」
「うちの両親、料理作るの好きなんで。わたしはキッチンに入らせてもらえないんですけどね」
「今度食いに行っていいか?」
「えー、うち狭いですよ」
「オレ一人くらい入れるだろ」
「うーん、どうだろ……」
苦笑するナマエを前に、三井はもうすでに家に遊びに行って夕飯をお呼ばれする算段を立てていた。
「せんぱーい、うちらまだ付き合ってそんなですよ、すぐに挨拶とかちょっと重いですって」
「はぁ……? そうか?」
「うんうん、普通の高校生はそんなすぐに挨拶しませんって。田舎じゃあるまいし」
先輩は古風で堅い人なんだなー、とナマエは思う。付き合ってすぐに親に挨拶とか、昭和かよ。
「まあ……お前が嫌なら今すぐにとは言わねえけどよ」
「ってか先輩はなんで挨拶したいって思うんですか。わたしは別にそんな風に思いませんよ」
たかが学生同士の恋愛ごっこに…………。そこまでは言わなかったが。
「なんとなく。そうした方が親御さんも安心だろ」
「うちの親は、娘が何してようが特に気にしてませんよ。ほらわたし、夜にスーパーの品出しやってるじゃないですか。それも特に何かを言われたことないし。先輩、グレてたからって気にしすぎじゃないですか?」
「うるせえな。それは関係ねえよ」
「ふーん、どうだか」
口は悪いくせにそれなりに真面目で……重い人だ。大切に思ってくれているのはいいことだけど、時々それが重苦しく感じられて仕方がなかった。
「ってか先輩って任侠とか好きそうですよね」
「はぁ? 別に好きじゃねえよ」
「そーですか」
「お前はそういうの、見るのか?」
「いや、別に」
「じゃあなんでそんな質問したんだよ」
「なんとなくー?」
「なんとなくかよ」
ナマエは三井の堅気で……悪くいえばクソ真面目なところから、どことなく任侠の香りを感じ取っていたのだが、全く検討はずれだったらしい。
まあ、今どき日活なんて見ている高校生は少ないか、と自分を納得させる。
「あ」
弁当のだし巻き卵を箸で摘んだ三井が、急に声を上げた。
「なんですか」
「お前、今日シフトないよな」
「え、ないですけど」
三井はいいことを思いついた、と言いたげな瞳をしている。
(あ、またなんか巻き込まれるパターンだ)
ナマエは三井がこの顔をしている時、ナマエにとって少し面倒なことが起こることを知っていた。やれ、ストバスに付き合えだの、やれ「今度の体育でバスケやるんだろ? スリー入れれるようにしてやるよ」だの(実際に早朝に公園に集合して、三本入るまで特訓をさせられた)、バスケに関連する「何か」をさせられるのが常だった。
めんどくさいなあと思うけれど、このキラキラした目で見つめられるといいえとは言いにくくなる。ナマエは努めて無表情を作りながら、先を促した。
「今日の放課後、部活観にこいよ」
「えっ」
それだけ?
思わず口から出てしまった。
「それだけもクソも、お前は練習に参加できねえだろ」
「いや……別にそんなことしたくはないですよ」
そういうと、三井は大きな声で笑った。
「流石にそれはな!」
「いや、この前スリーの練習しましたよね? あのクソ暑い中で!」
「役に立っただろ?」
「まあ、まぐれで入りましたけど……」
「お、やるじゃねえか。やっぱオレの教え方がよかったんだな。あと、ナマエの才能」
お前バスケ向いてるんじゃねえか、と三井は無邪気に笑う。
(──これだから、先輩はさあ)
嫌いになれない。むしろ、大好きになる。
ナマエは会うたびに三井のことを好きになっていく自分がいることに気づいた。無神経だけど、素直でいい人だという事に、毎日気付かされている。それが悔しくて、なんだか嬉しくなる。
「……放課後、差し入れとか期待しないでくださいよ」
「しねえって! 流石に後輩からタカるのはダセえだろ!」
放課後、ポカリ持って行ってあげよう。
ナマエはそう誓いながら、紅茶をグッと飲み干した。
◆
放課後、掃除当番を終えて体育館まで行くと、すでに部活は始まっていた。バッシュが床と擦れて響く音が大きく反響している。その迫力に圧倒されて、ナマエは固まってしまった。
「あのっ、誰かの応援ですか?」
「あー……」
体育館の入り口には、先客らしい女子生徒たちがすでに場所を陣取っており、近づくとナマエ一人分のスペースを譲ってくれた。ナマエは彼女たちより頭一つ抜けているので、別に後列からでも良かったのだが、好意を無駄にするわけにもいかないので黙って従った。
(流川楓目当てだと思われてんのかな……この子達も、やっぱそう?)
今年湘北に入学してきた流川楓と、それを支持する非公式組織の存在は、周りの女子生徒の熱狂ぶりも相まって、ナマエはしっかりと認知していた。よく見ると、体育館の二階の方に女子生徒の人だかりが形成されているのが見える。
(こ、こわ……)
目の前の女子生徒三人を見ながら、どう答えるべきか悩んでいると、体育館の中から声が響いた。
「ナマエっ!」
見ると、ラフなシャツ姿の三井がナマエに向かってひらひらと手を振っていた。
(恥ずかしっ!)