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遊戯王
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わたしが獏良了くんと友達になったきっかけは、カルチャーセンターのシナリオ教室だった。
講座を受けにくる大人の人たちに紛れて、たった一人同年代の男の子がいるのを見て、友達になれたらいいな、なんて思ったりしていた。高校生でシナリオ教室に通っているのは、わたしと彼二人だけだったから。
仲良くなったきっかけというのは、別に大それたことではない。
その日、講座の始まるギリギリの時間に教室に入った獏良くんが、たまたま空いていたわたしの隣の席に座った。それだけのこと。
で、講座が終わった後、なんとなく声をかけてみたら、友達になれたというだけの話だ。
わたしたちは、どこか波長が合うらしい。
趣味も似ていたし、今では一緒に喫茶店に入って、お互いの書いたシナリオを読み合い、講評し合う仲にまで発展した。
勘違いしないでほしいが、わたしたちの交際はとても清らかなものであって、今時の高校生の男女交際にありがちな、乳繰り合うような不健全な関係ではない。
お互いを高め合う、仲間としてお付き合いをさせていただいている。向こうも同じ認識でまず間違いないだろう。
「ああ、僕はアイスコーヒーで」
「わたしはメロンフロートひとつお願いします」
日曜日の午後。近場のチェーンの喫茶店に入り、わたしたちはコピーしたお互いの原稿を黙々と読み合い、感想を述べるという、いつもの行為に耽っていた。
活字の上を目が滑り、お互い勉強の合間に執筆したシナリオを読み合う。
獏良くんは、TRPGのシナリオを主に手がけているだけあって、物語の世界観そのものをいかしつつ、登場キャラクターを伸び伸びと動かすことに長けているような気がする。
同い年でここまで書けるレベルの人はいないだろう。 だから、わたしは彼と仲良くなれて、本当に誇らしい。
わたしはというと、趣味ではなく、本気で映画業界を目指していた。
だから、獏良くんのシナリオとは違い、登場人物の動きは全てト書きで表現されている。役者に読ませる台本を、今回は持ってきた。
今回は、短編用の短い話なので、大した文字数にはなっていない。獏良くんの持ってきたものも、前回の開催から時間的に間隔を空けていないから、そんなに長い文量のものではなかった。
「読めたよ」
「ミョウジさんは読むのが早いんだね」
「獏良くんはゆっくり読んでてよ。これをもう一回読むからさ」
わたしがそう言うと、テーブルにメロンフロートと、アイスコーヒーが運ばれてきた。夏休みの混み合う時期だから、提供のスピードもゆっくりなのだろう。バイトの皆さん、ご苦労様です。
メロンフロートの上に乗っかったさくらんぼを口の中で舐めながら、もう一度シナリオを読んでみることにした。
TRPGのシナリオというものは、わたしも何度か遊んでみたことがあるけれど、登場人物の行動を細かいところまで指定することができない。
つまり、登場人物がアドリブで動く物語というものを設定するのは、知恵を絞らないと難しいから、書き手として少し面倒だなと思った。そんな面倒なものを得意とするのだから、やっぱり獏良くんは、才能溢れる人なんだろう。
今回の作品も、今すぐそういう書籍を扱っている出版社に持っていけば採用されそうなくらい、わかりやすく、簡潔で、面白そうなシナリオだった。
わたしはそれとなく、持ち込みを勧めているのだが、本人からの返事は毎回濁されていた。
「……という感じで、プレイヤーの感情に寄り添った良い脚本だと思うよ。伏線も難しすぎないけど、意外性があったし」
「ありがとう。ミョウジさんに褒められると嬉しいな」
「ううん。こっちも読み応えがあって楽しかったよ」
獏良くんは嬉しそうに微笑んで、カバンの中に原稿を仕舞い込んだ。
あまりにも熱烈にしゃべったので、わたしは喉が渇いて、メロンソーダを一気に飲み干し、彼からの講評を待った。
「次はボクだね」
「うーん、お手柔らかにね!」
「結論から言うと、すごく良かったよ。登場人物の取り止めのない話から、事件に繋がっていくっていう展開が、すごく良かった。喋りだけで登場人物の個性が出てるしね」
饒舌に褒められて、わたしは思わず顔が熱くなった。実は、結構自信作だったりしたのだ。
「続きが読みたいなあ。ねえ、これの続きは書かないの?」
「続き?」
「この泥棒のカップルだよ。この後、いろんな話を連作短編にして、連続したドラマにしてしまえば、面白いと思うんだよね」
「……連作短編かあ、考えたことなかったかも」
確かに、わたしは飽きっぽくて、長編を書く力は弱いと思っていた。
だから、短い話を連続して描くという手法は、結構面白いんじゃないかと思った。
「……ねえ、聞いてる?」
わたしたちは、講評が終わった後も、この小説が面白かったとか、そういうくだらない話題に興じていた。
店からすると迷惑だろうから、追加で注文までして。
まただ。
獏良くんは、時々眠ったように静かになる。わたしはそれが、少し不気味に思えた。
「……で……は…………なんだよな」
「え?」
彼が何かブツブツ言い出して、それが気味悪くて、なんだか怖くなった。
さっきと、同じ人間なのだろうか。心なしか、顔つきも前と違うような気がする。
「お前、結構面白い話を書くじゃねえか。宿主が気にいるのも納得だぜ」
「……は?」
突然、獏良くんの口調が変わった──というよりは、全く別人が乗り移ったみたいに喋り出した。
彼はいつもぼんやりしている。
でも、GMとして振る舞う時は結構饒舌に、演技を交えてロールプレイをすることがあった。
だから、最初は唐突に始まったゲームか何かだと思った。
けれど、特に何かを言い出したわけでもないのに、いつもと違う口調で喋っているというのは誰がどう見てもおかしいだろう。
「お前の犯罪小説、なかなか真に迫っているじゃねぇの。まあ、ちょいとリアリティを足してやれば完璧なんだがな」
「どういう意味?」
「一皮剥けろってことだ」
「え?」
“自分は犯罪者です“と告白するような口ぶりに、わたしは開いた口が塞がらない。
今どういう意図でこんなことをしているのか、なんで犯罪について「一皮剥けろ」なんて言うのか、ちゃんと説明してほしい。
「は? 本当に優れた物語には、実体験が伴ってこそなんだぜ? 知らねえのかよ」
「ええ? 普通に犯罪だよ」
「なんなら、今オレがここで実演して見せてもいいんだぜ」
「何言ってんの……やめてよ。冗談でも」
今すぐにでもやってしまいそうな凄みがあった。獏良くんにとって、恐喝・窃盗はありふれた日常なのだろうか。
なんか、思っていたキャラと違う。
今にも銃を突きつけて、レジのお金を全部取っていっちゃいそうな雰囲気を出ている。
嘘でしょ。
本当にジョークのつもりでも、人聞きが悪いからマジでやめてほしい。
「なんだ、逮捕されるのが怖いか?」
「逮捕されたら女囚の物語が書けるだろうけれど、今は捕まりたくないし、獏良くんにも捕まって欲しくないよ」
ぶっちゃけ、刑務所という場所に興味がないわけではない。ただし、それは安全圏から見てこそ、面白いのではないだろうか。
わたしがそう言うと、そいつは笑ってこう言った。
「合格だ」
「え?」
「宿主が気にいる訳だぜ。お前たち、変なヤツ同士でお似合いだな」
宿主って、なんの話だよ。
「あいつが死ぬと、オレも終わる。あいつが何かしないように見張ってろよ」
「待ってよ。あいつって誰? どういう話?」
「最後に一言。オレはこの体を借りてるだけだ」
それだけ言うと、彼の体はガクンと後ろに倒れた。
そして急に、滑らかな動きで獏良くんは上体を前に乗り出した。
「……あれ、なんの話だっけ」
寝起きのような声だった。さっきのことは何にも知らないみたいな口調だった。
さっきのアレはなんだったのか。
まるで、誰かに抜かれた魂が元に戻ったように、彼は元の雰囲気に戻っていた。
「……犯罪の話だよ」
「……?」
本当に何もわかっていないような顔をして、彼は首を傾げる。
──どういうことだ?
もし仮に、今までの変な獏良くんが芝居ではないとしたら、ミステリのトリックで使い古され、たくさんの名作で扱われたりもする、ジギル博士──二重人格、というヤツなのだろうか。
「……おもしろい」
わたしはいてもたってもいられなくなり、カバンからネタ帳を取り出すと、鉛筆で今までのことを全て書き殴った。
今すぐに、家に帰りたい。パソコンに向かって、全部吐き出さないと狂いそうだ。
「ごめん、わたしちょっと創作意欲が湧きすぎてさ、今頭にあるやつ全部アウトプットしたいかも……だから帰る! 今日はありがとう」
そう言うや否や、わたしは財布を取り出し、彼の分の会計も払ってしまって、店を飛び出し、すぐに走り出した。
事実は小説よりも奇なり。
実体験はわたしの世界に彩りを与え、これから、さらにすぐれた創作物を世に送り出すことになるだろう。
そんな予感がして仕方がない。
獏良くんとの出会いを天に感謝しながら、わたしは自宅の机に向かい、一人キーボードを叩いた。
講座を受けにくる大人の人たちに紛れて、たった一人同年代の男の子がいるのを見て、友達になれたらいいな、なんて思ったりしていた。高校生でシナリオ教室に通っているのは、わたしと彼二人だけだったから。
仲良くなったきっかけというのは、別に大それたことではない。
その日、講座の始まるギリギリの時間に教室に入った獏良くんが、たまたま空いていたわたしの隣の席に座った。それだけのこと。
で、講座が終わった後、なんとなく声をかけてみたら、友達になれたというだけの話だ。
わたしたちは、どこか波長が合うらしい。
趣味も似ていたし、今では一緒に喫茶店に入って、お互いの書いたシナリオを読み合い、講評し合う仲にまで発展した。
勘違いしないでほしいが、わたしたちの交際はとても清らかなものであって、今時の高校生の男女交際にありがちな、乳繰り合うような不健全な関係ではない。
お互いを高め合う、仲間としてお付き合いをさせていただいている。向こうも同じ認識でまず間違いないだろう。
「ああ、僕はアイスコーヒーで」
「わたしはメロンフロートひとつお願いします」
日曜日の午後。近場のチェーンの喫茶店に入り、わたしたちはコピーしたお互いの原稿を黙々と読み合い、感想を述べるという、いつもの行為に耽っていた。
活字の上を目が滑り、お互い勉強の合間に執筆したシナリオを読み合う。
獏良くんは、TRPGのシナリオを主に手がけているだけあって、物語の世界観そのものをいかしつつ、登場キャラクターを伸び伸びと動かすことに長けているような気がする。
同い年でここまで書けるレベルの人はいないだろう。 だから、わたしは彼と仲良くなれて、本当に誇らしい。
わたしはというと、趣味ではなく、本気で映画業界を目指していた。
だから、獏良くんのシナリオとは違い、登場人物の動きは全てト書きで表現されている。役者に読ませる台本を、今回は持ってきた。
今回は、短編用の短い話なので、大した文字数にはなっていない。獏良くんの持ってきたものも、前回の開催から時間的に間隔を空けていないから、そんなに長い文量のものではなかった。
「読めたよ」
「ミョウジさんは読むのが早いんだね」
「獏良くんはゆっくり読んでてよ。これをもう一回読むからさ」
わたしがそう言うと、テーブルにメロンフロートと、アイスコーヒーが運ばれてきた。夏休みの混み合う時期だから、提供のスピードもゆっくりなのだろう。バイトの皆さん、ご苦労様です。
メロンフロートの上に乗っかったさくらんぼを口の中で舐めながら、もう一度シナリオを読んでみることにした。
TRPGのシナリオというものは、わたしも何度か遊んでみたことがあるけれど、登場人物の行動を細かいところまで指定することができない。
つまり、登場人物がアドリブで動く物語というものを設定するのは、知恵を絞らないと難しいから、書き手として少し面倒だなと思った。そんな面倒なものを得意とするのだから、やっぱり獏良くんは、才能溢れる人なんだろう。
今回の作品も、今すぐそういう書籍を扱っている出版社に持っていけば採用されそうなくらい、わかりやすく、簡潔で、面白そうなシナリオだった。
わたしはそれとなく、持ち込みを勧めているのだが、本人からの返事は毎回濁されていた。
「……という感じで、プレイヤーの感情に寄り添った良い脚本だと思うよ。伏線も難しすぎないけど、意外性があったし」
「ありがとう。ミョウジさんに褒められると嬉しいな」
「ううん。こっちも読み応えがあって楽しかったよ」
獏良くんは嬉しそうに微笑んで、カバンの中に原稿を仕舞い込んだ。
あまりにも熱烈にしゃべったので、わたしは喉が渇いて、メロンソーダを一気に飲み干し、彼からの講評を待った。
「次はボクだね」
「うーん、お手柔らかにね!」
「結論から言うと、すごく良かったよ。登場人物の取り止めのない話から、事件に繋がっていくっていう展開が、すごく良かった。喋りだけで登場人物の個性が出てるしね」
饒舌に褒められて、わたしは思わず顔が熱くなった。実は、結構自信作だったりしたのだ。
「続きが読みたいなあ。ねえ、これの続きは書かないの?」
「続き?」
「この泥棒のカップルだよ。この後、いろんな話を連作短編にして、連続したドラマにしてしまえば、面白いと思うんだよね」
「……連作短編かあ、考えたことなかったかも」
確かに、わたしは飽きっぽくて、長編を書く力は弱いと思っていた。
だから、短い話を連続して描くという手法は、結構面白いんじゃないかと思った。
「……ねえ、聞いてる?」
わたしたちは、講評が終わった後も、この小説が面白かったとか、そういうくだらない話題に興じていた。
店からすると迷惑だろうから、追加で注文までして。
まただ。
獏良くんは、時々眠ったように静かになる。わたしはそれが、少し不気味に思えた。
「……で……は…………なんだよな」
「え?」
彼が何かブツブツ言い出して、それが気味悪くて、なんだか怖くなった。
さっきと、同じ人間なのだろうか。心なしか、顔つきも前と違うような気がする。
「お前、結構面白い話を書くじゃねえか。宿主が気にいるのも納得だぜ」
「……は?」
突然、獏良くんの口調が変わった──というよりは、全く別人が乗り移ったみたいに喋り出した。
彼はいつもぼんやりしている。
でも、GMとして振る舞う時は結構饒舌に、演技を交えてロールプレイをすることがあった。
だから、最初は唐突に始まったゲームか何かだと思った。
けれど、特に何かを言い出したわけでもないのに、いつもと違う口調で喋っているというのは誰がどう見てもおかしいだろう。
「お前の犯罪小説、なかなか真に迫っているじゃねぇの。まあ、ちょいとリアリティを足してやれば完璧なんだがな」
「どういう意味?」
「一皮剥けろってことだ」
「え?」
“自分は犯罪者です“と告白するような口ぶりに、わたしは開いた口が塞がらない。
今どういう意図でこんなことをしているのか、なんで犯罪について「一皮剥けろ」なんて言うのか、ちゃんと説明してほしい。
「は? 本当に優れた物語には、実体験が伴ってこそなんだぜ? 知らねえのかよ」
「ええ? 普通に犯罪だよ」
「なんなら、今オレがここで実演して見せてもいいんだぜ」
「何言ってんの……やめてよ。冗談でも」
今すぐにでもやってしまいそうな凄みがあった。獏良くんにとって、恐喝・窃盗はありふれた日常なのだろうか。
なんか、思っていたキャラと違う。
今にも銃を突きつけて、レジのお金を全部取っていっちゃいそうな雰囲気を出ている。
嘘でしょ。
本当にジョークのつもりでも、人聞きが悪いからマジでやめてほしい。
「なんだ、逮捕されるのが怖いか?」
「逮捕されたら女囚の物語が書けるだろうけれど、今は捕まりたくないし、獏良くんにも捕まって欲しくないよ」
ぶっちゃけ、刑務所という場所に興味がないわけではない。ただし、それは安全圏から見てこそ、面白いのではないだろうか。
わたしがそう言うと、そいつは笑ってこう言った。
「合格だ」
「え?」
「宿主が気にいる訳だぜ。お前たち、変なヤツ同士でお似合いだな」
宿主って、なんの話だよ。
「あいつが死ぬと、オレも終わる。あいつが何かしないように見張ってろよ」
「待ってよ。あいつって誰? どういう話?」
「最後に一言。オレはこの体を借りてるだけだ」
それだけ言うと、彼の体はガクンと後ろに倒れた。
そして急に、滑らかな動きで獏良くんは上体を前に乗り出した。
「……あれ、なんの話だっけ」
寝起きのような声だった。さっきのことは何にも知らないみたいな口調だった。
さっきのアレはなんだったのか。
まるで、誰かに抜かれた魂が元に戻ったように、彼は元の雰囲気に戻っていた。
「……犯罪の話だよ」
「……?」
本当に何もわかっていないような顔をして、彼は首を傾げる。
──どういうことだ?
もし仮に、今までの変な獏良くんが芝居ではないとしたら、ミステリのトリックで使い古され、たくさんの名作で扱われたりもする、ジギル博士──二重人格、というヤツなのだろうか。
「……おもしろい」
わたしはいてもたってもいられなくなり、カバンからネタ帳を取り出すと、鉛筆で今までのことを全て書き殴った。
今すぐに、家に帰りたい。パソコンに向かって、全部吐き出さないと狂いそうだ。
「ごめん、わたしちょっと創作意欲が湧きすぎてさ、今頭にあるやつ全部アウトプットしたいかも……だから帰る! 今日はありがとう」
そう言うや否や、わたしは財布を取り出し、彼の分の会計も払ってしまって、店を飛び出し、すぐに走り出した。
事実は小説よりも奇なり。
実体験はわたしの世界に彩りを与え、これから、さらにすぐれた創作物を世に送り出すことになるだろう。
そんな予感がして仕方がない。
獏良くんとの出会いを天に感謝しながら、わたしは自宅の机に向かい、一人キーボードを叩いた。