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刀剣乱舞
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「やっぱ鎮守府にしとけばよかったかなー」
主さんがそんなことを言ったので、僕たちはしばし混乱の渦に包まれた。
当の本人は、大したことを言ったつもりではないらしく、のんびりと自分の爪にネイルを塗り重ねている。
「主っ……! チンジュフって何!? 俺のこと捨てるの!?」
一番遠くで聞いていたはずの加州清光は、戦の時よりも凄まじい機動力で主のそばに走ってきて、猫のように擦り寄っていた。
僕らもそこまで騒ぎはしないものの、「鎮守府にしておけばよかった」という発言の真意は気になる。
この本丸が開かれて早一ヶ月。大小様々なトラブルが起こりはしたが、彼女が審神者になったことを後悔するようなことがあってしまったのだろうか。
固唾をのんで、主さんの発言を待つ。
その場にいる数振りの男士全員の注目を浴びながら、それでも彼女は発言の危うさに気がついていないようだった。
「鎮守府はね、船の女の子がいるところだよ」
「船って、あの船? 川とか海を渡る……」
「そうそう。君たちみたいにモノとしての記憶を持ってる女の子がいるところ。戦って、海を守ってくれてるんだよ」
風の噂程度には聞いたことがあった。刀の記憶を持ち、歴史を守る僕らと似たような存在、艦娘のことを。
「審神者も提督も公務員だしねー、試験を受ける時、どっちに行こうか迷ってたんだよね。
まあ、わたしは第二次世界大戦には詳しくないし、船だと刀よりも施設の運用と管理が難しいかなと思って、こっちにしたんだけどさ」
そう言いながら、彼女は僕の淹れた茶を飲んだ。鎮守府なる場所と本丸とを比べて、今後悔しているのだろうか。
確かに、僕らは男世帯で、向こうは女性しかいないのだから、何かとあちらの方がやりやすいだろう。まさか、本当に異動してしまう、なんてことにならないといいけれど──
「っつーことはアレか、あんたは審神者をやめて、提督に鞍替えしてえってか?」
障子がガラッと開いて、内番を終えた兼さんが畳の部屋にズシズシと入ってくる。畑作業を終えたそのままの、土に汚れた格好で清潔な広間に入ってきたので、綺麗好きの男士たちが非難の目で見つめている。
「ちょっと兼さん、シャワーくらい浴びてきなよ!」
「口出すんじゃねえぞ国広! それより今は、主の発言の真意についてちゃんと問いたださねえといけねえんだから──」
今にも主さんの襟首を掴んでかかりそうな勢いだった。
「和泉守、落ち着いて」
彼女は立ち上がり、兼さんをじっと見つめた。そこまでされて冷静になれたのか、兼さんはそのまま畳に胡座をかいて座った。
「わたしの発言でみんなに誤解を与えたようなので、謝ります。言葉が悪かったね。提督をされている友達が、とても楽しそうだったから、提督になってもよかったかなって思ったんだ。
でも、今はみんながいてくれる本丸が好きだから、審神者を引退する気はないよ。だから、心配しなくても大丈夫」
全員から見える位置に立ち、主さんは話してくれた。それを聞いて、みんなが胸を撫で下ろしたと思う。僕も、何かやらかしたのではないかと内心そわそわしていたので、ようやく全身の力が抜けた。
「ンだよ! 紛らわしいこと言いやがって! 心配して損したぜ!」
「和泉守、ごめんね。でも、ちゃんとシャワーを浴びて入ってきてほしいな。畳も汚くなったし、今からちゃんと掃除すること!」
「げっ、マジかよ……」
「ははっ、いい気味! ってかマジ汗臭いし、そんな格好で主の前に来ないでよねー汚いから」
「うっせぇぞ加州!」
騒がしい喧嘩を横目に入れつつ、僕は主さんの元に歩み寄った。
「お茶のおかわりいれてきましょうか?」
「堀川、ありがとう。いただこうかな」
「わかりました! 次はどんなのがいいですか?」
「麦茶ってあるかな? 最近暑いし、飲みたいかも」
麦茶は確か、この前入荷した分が残っていたはずだ。僕はそんなことを考えながら、主さんにしか聞こえないような小声で話す。
「兼さん、さっきはあんな風になってたけど、主さんのことが大好きなんです。だから、許してあげてください」
僕がそう言うと、彼女はニヤニヤ笑いながら、何度も頷いた。
「うんうん、わかった。大丈夫、気にしてないから」
僕も一緒に、口角が吊り上がって止まらない。普段は彼女のことを子供扱いしてからかっているけれど、本当は主として大事に思って、尊敬しているのを僕は知っているからだ。
噂の本人は、シャワーを浴びに風呂場に向かったようだった。
「じゃあ、僕行ってきますね。お仕事頑張ってください」
「うん、ありがとうね」
兼さんはおそらく、主人に無礼を働いたことを後悔しているはずだ。だから、今日の夜あたり、どう埋め合わせをしたらいいのか相談しにくるだろう。そうしたら、僕はこういうつもりでいる。
「主さんの気になる艦娘の格好でもしてみたらいいんじゃない?」
って。勿論冗談だけど、怒った後に本気でやろうか迷う兼さんの顔を想像しただけで、結構愉快だ。
こんなことを考えられる日常が、ずっと続けばいい。お茶を沸かしながら、ふとそう思った。
主さんがそんなことを言ったので、僕たちはしばし混乱の渦に包まれた。
当の本人は、大したことを言ったつもりではないらしく、のんびりと自分の爪にネイルを塗り重ねている。
「主っ……! チンジュフって何!? 俺のこと捨てるの!?」
一番遠くで聞いていたはずの加州清光は、戦の時よりも凄まじい機動力で主のそばに走ってきて、猫のように擦り寄っていた。
僕らもそこまで騒ぎはしないものの、「鎮守府にしておけばよかった」という発言の真意は気になる。
この本丸が開かれて早一ヶ月。大小様々なトラブルが起こりはしたが、彼女が審神者になったことを後悔するようなことがあってしまったのだろうか。
固唾をのんで、主さんの発言を待つ。
その場にいる数振りの男士全員の注目を浴びながら、それでも彼女は発言の危うさに気がついていないようだった。
「鎮守府はね、船の女の子がいるところだよ」
「船って、あの船? 川とか海を渡る……」
「そうそう。君たちみたいにモノとしての記憶を持ってる女の子がいるところ。戦って、海を守ってくれてるんだよ」
風の噂程度には聞いたことがあった。刀の記憶を持ち、歴史を守る僕らと似たような存在、艦娘のことを。
「審神者も提督も公務員だしねー、試験を受ける時、どっちに行こうか迷ってたんだよね。
まあ、わたしは第二次世界大戦には詳しくないし、船だと刀よりも施設の運用と管理が難しいかなと思って、こっちにしたんだけどさ」
そう言いながら、彼女は僕の淹れた茶を飲んだ。鎮守府なる場所と本丸とを比べて、今後悔しているのだろうか。
確かに、僕らは男世帯で、向こうは女性しかいないのだから、何かとあちらの方がやりやすいだろう。まさか、本当に異動してしまう、なんてことにならないといいけれど──
「っつーことはアレか、あんたは審神者をやめて、提督に鞍替えしてえってか?」
障子がガラッと開いて、内番を終えた兼さんが畳の部屋にズシズシと入ってくる。畑作業を終えたそのままの、土に汚れた格好で清潔な広間に入ってきたので、綺麗好きの男士たちが非難の目で見つめている。
「ちょっと兼さん、シャワーくらい浴びてきなよ!」
「口出すんじゃねえぞ国広! それより今は、主の発言の真意についてちゃんと問いたださねえといけねえんだから──」
今にも主さんの襟首を掴んでかかりそうな勢いだった。
「和泉守、落ち着いて」
彼女は立ち上がり、兼さんをじっと見つめた。そこまでされて冷静になれたのか、兼さんはそのまま畳に胡座をかいて座った。
「わたしの発言でみんなに誤解を与えたようなので、謝ります。言葉が悪かったね。提督をされている友達が、とても楽しそうだったから、提督になってもよかったかなって思ったんだ。
でも、今はみんながいてくれる本丸が好きだから、審神者を引退する気はないよ。だから、心配しなくても大丈夫」
全員から見える位置に立ち、主さんは話してくれた。それを聞いて、みんなが胸を撫で下ろしたと思う。僕も、何かやらかしたのではないかと内心そわそわしていたので、ようやく全身の力が抜けた。
「ンだよ! 紛らわしいこと言いやがって! 心配して損したぜ!」
「和泉守、ごめんね。でも、ちゃんとシャワーを浴びて入ってきてほしいな。畳も汚くなったし、今からちゃんと掃除すること!」
「げっ、マジかよ……」
「ははっ、いい気味! ってかマジ汗臭いし、そんな格好で主の前に来ないでよねー汚いから」
「うっせぇぞ加州!」
騒がしい喧嘩を横目に入れつつ、僕は主さんの元に歩み寄った。
「お茶のおかわりいれてきましょうか?」
「堀川、ありがとう。いただこうかな」
「わかりました! 次はどんなのがいいですか?」
「麦茶ってあるかな? 最近暑いし、飲みたいかも」
麦茶は確か、この前入荷した分が残っていたはずだ。僕はそんなことを考えながら、主さんにしか聞こえないような小声で話す。
「兼さん、さっきはあんな風になってたけど、主さんのことが大好きなんです。だから、許してあげてください」
僕がそう言うと、彼女はニヤニヤ笑いながら、何度も頷いた。
「うんうん、わかった。大丈夫、気にしてないから」
僕も一緒に、口角が吊り上がって止まらない。普段は彼女のことを子供扱いしてからかっているけれど、本当は主として大事に思って、尊敬しているのを僕は知っているからだ。
噂の本人は、シャワーを浴びに風呂場に向かったようだった。
「じゃあ、僕行ってきますね。お仕事頑張ってください」
「うん、ありがとうね」
兼さんはおそらく、主人に無礼を働いたことを後悔しているはずだ。だから、今日の夜あたり、どう埋め合わせをしたらいいのか相談しにくるだろう。そうしたら、僕はこういうつもりでいる。
「主さんの気になる艦娘の格好でもしてみたらいいんじゃない?」
って。勿論冗談だけど、怒った後に本気でやろうか迷う兼さんの顔を想像しただけで、結構愉快だ。
こんなことを考えられる日常が、ずっと続けばいい。お茶を沸かしながら、ふとそう思った。
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