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刀剣乱舞
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午後6時、電車に揺られる。大学の帰りに書店に立ち寄ったので、少し遅い時間に帰ることになってしまった。この時間に電車に乗っているのは、わたしみたいな学生と、社会人ばかりだった。
座席に座って何をするでもなく、ぼーっと周りを観察する。
駅に止まるごとに、人間が降りたり入ったりする姿が、工場のラインを眺めているみたいで少し面白かった。
しばらくそうしていた時だった。最寄駅の4駅手前で乗り込んできた男の人を見て、わたしは息を呑んだ。
長い髪の男の人。彼はわたしのバイト先によく来る常連の客だった。わたしがシフトに入っている時間によく来るので、顔も名前も覚えてしまっていた。
和泉守さんは、空いているスペースにその長身を潜り込ませた。ちょうど、端っこに座っているわたしの横に、彼がいた。
別に悪いことではないけれど、死ぬほど焦っている。何となく、仕事で会う人とオフの時に会うのが嫌だから、どうか気づかれませんようにと祈っておく。
イヤホンから聞こえてくる好きなアーティストの曲に、耳を傾ける。
彼は、電車の扉にもたれ掛かって、腕を組みながら目を閉じている。何もしていないのに、存在感があった。綺麗な人だ。
喋らなければ、和泉守さんは精巧な造りの人形のように見えた。
今日はシフトが入っていた。月曜は授業が午前だけだったので、授業が終わるとすぐに店まで向かう。
タイムカードを押してからノロノロと着替えて、表に出る。この時間帯はそこまで人がいないから、のんびり仕事をしても大丈夫だった。
店の扉が開いて、お客さんが入ってきた。早速きたな、とちょっとだけ気合を入れる。ここでの作業はほぼルーティン通りにやっていればすぐ終わる。自分は機械だと思い込んで仕事をすれば、あっという間だ。
入ってきた人を見て、ヤバいと思った。黒いT[#「T」は縦中横]シャツにジーンズの和泉守さんが、レジの前まで真っ直ぐ歩いてくる。
今かよ。別に嫌なことじゃないけど、ちょっと気分的に乗らなかった。
昨日のことが、頭をよぎった。電車に乗っていたのがわたしだと、わかっていなければいいのに。
「アイスコーヒーのレギュラー1つ……と、何だこれ?」
レジの横に置いてあるビスケットを指差しながら、珍しいものを見るようにそんなことを聞いてきた。
「あー、最近入荷したんですよ。S[#「S」は縦中横]N[#「N」は縦中横]S[#「S」は縦中横]で結構人気らしくて」
「はー、ネットなあ……最近は色々と増えてるらしいじゃねえか。今時の商店はインターネットも見てないと経営が難しいんだってか?」
「店長も結構調べてるっぽいですよ。ちなみにこれ、めっちゃ美味しいらしいです」
「めっちゃ美味しいのか?」
「はい、そうっぽいです」
「え、お前は食べたことないのかよ」
確かに、食べたことのない商品をおすすめするなんて、説得力がなさすぎる。 失敗した。嘘でも食べたっていう風にしておけばよかった。
「まあ、その素直なところがお前さんのいいところだからな。それも一個貰っとくぜ」
「あ、ありがとうございます……」
わたしのいいところ……か。
恥ずかしいセリフを自然に言われてしまったので、頭がパンクしそうになる。彼にとってそれは、自然なことなんだろうけれど、わたしみたいな人間はそうもいかないのだ。
「この番号でお呼びいたしますので、あちらでお待ちください」
「ありがとな」
来客の気配がないので、レジでボケーっと和泉守さんを見つめる。
話してみた結果からして、どうやら昨日のことは知らないようだ。少し安心した。
「……なあ」
「はい?」
もう用事はないと思っていたから、急に話かけられて声が裏返った。
「俺のイカした顔ならいくらでも見てても構わねえけど、惚れんなよ?」
「はっ、はああああ?」
そんな風に言われて、恥ずかしいやら、驚きやらでわたしの脳味噌は沸騰した。
今日一番大きな声を出したわたしをよそに、彼は澄ました顔で飲み物を受け取り、店を後にした。
この後、お客さん相手に大声を出したことを叱られたが、正直どうでもよかった。例の爆弾発言、「惚れるなよ」という一言で、こうもわたしの感情は掻き乱されるのか。
今度和泉守さんが店に来た時、まともな顔で見れないかもしれない。わたしはそう思いながら、タイムカードを切って、家に帰った。
(続きません)
(昨日の電車でのことを和泉守はちゃんと見ていたのでからかっただけです)
座席に座って何をするでもなく、ぼーっと周りを観察する。
駅に止まるごとに、人間が降りたり入ったりする姿が、工場のラインを眺めているみたいで少し面白かった。
しばらくそうしていた時だった。最寄駅の4駅手前で乗り込んできた男の人を見て、わたしは息を呑んだ。
長い髪の男の人。彼はわたしのバイト先によく来る常連の客だった。わたしがシフトに入っている時間によく来るので、顔も名前も覚えてしまっていた。
和泉守さんは、空いているスペースにその長身を潜り込ませた。ちょうど、端っこに座っているわたしの横に、彼がいた。
別に悪いことではないけれど、死ぬほど焦っている。何となく、仕事で会う人とオフの時に会うのが嫌だから、どうか気づかれませんようにと祈っておく。
イヤホンから聞こえてくる好きなアーティストの曲に、耳を傾ける。
彼は、電車の扉にもたれ掛かって、腕を組みながら目を閉じている。何もしていないのに、存在感があった。綺麗な人だ。
喋らなければ、和泉守さんは精巧な造りの人形のように見えた。
今日はシフトが入っていた。月曜は授業が午前だけだったので、授業が終わるとすぐに店まで向かう。
タイムカードを押してからノロノロと着替えて、表に出る。この時間帯はそこまで人がいないから、のんびり仕事をしても大丈夫だった。
店の扉が開いて、お客さんが入ってきた。早速きたな、とちょっとだけ気合を入れる。ここでの作業はほぼルーティン通りにやっていればすぐ終わる。自分は機械だと思い込んで仕事をすれば、あっという間だ。
入ってきた人を見て、ヤバいと思った。黒いT[#「T」は縦中横]シャツにジーンズの和泉守さんが、レジの前まで真っ直ぐ歩いてくる。
今かよ。別に嫌なことじゃないけど、ちょっと気分的に乗らなかった。
昨日のことが、頭をよぎった。電車に乗っていたのがわたしだと、わかっていなければいいのに。
「アイスコーヒーのレギュラー1つ……と、何だこれ?」
レジの横に置いてあるビスケットを指差しながら、珍しいものを見るようにそんなことを聞いてきた。
「あー、最近入荷したんですよ。S[#「S」は縦中横]N[#「N」は縦中横]S[#「S」は縦中横]で結構人気らしくて」
「はー、ネットなあ……最近は色々と増えてるらしいじゃねえか。今時の商店はインターネットも見てないと経営が難しいんだってか?」
「店長も結構調べてるっぽいですよ。ちなみにこれ、めっちゃ美味しいらしいです」
「めっちゃ美味しいのか?」
「はい、そうっぽいです」
「え、お前は食べたことないのかよ」
確かに、食べたことのない商品をおすすめするなんて、説得力がなさすぎる。 失敗した。嘘でも食べたっていう風にしておけばよかった。
「まあ、その素直なところがお前さんのいいところだからな。それも一個貰っとくぜ」
「あ、ありがとうございます……」
わたしのいいところ……か。
恥ずかしいセリフを自然に言われてしまったので、頭がパンクしそうになる。彼にとってそれは、自然なことなんだろうけれど、わたしみたいな人間はそうもいかないのだ。
「この番号でお呼びいたしますので、あちらでお待ちください」
「ありがとな」
来客の気配がないので、レジでボケーっと和泉守さんを見つめる。
話してみた結果からして、どうやら昨日のことは知らないようだ。少し安心した。
「……なあ」
「はい?」
もう用事はないと思っていたから、急に話かけられて声が裏返った。
「俺のイカした顔ならいくらでも見てても構わねえけど、惚れんなよ?」
「はっ、はああああ?」
そんな風に言われて、恥ずかしいやら、驚きやらでわたしの脳味噌は沸騰した。
今日一番大きな声を出したわたしをよそに、彼は澄ました顔で飲み物を受け取り、店を後にした。
この後、お客さん相手に大声を出したことを叱られたが、正直どうでもよかった。例の爆弾発言、「惚れるなよ」という一言で、こうもわたしの感情は掻き乱されるのか。
今度和泉守さんが店に来た時、まともな顔で見れないかもしれない。わたしはそう思いながら、タイムカードを切って、家に帰った。
(続きません)
(昨日の電車でのことを和泉守はちゃんと見ていたのでからかっただけです)
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