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単発SS
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「よう! なんだか今にも死にそうってツラだな。大丈夫か? なんて野暮な質問はしない。分かってる。言いたいことがあるんだろう」
「あぁ、テスカトリポカ……」
彼女はぐったりとしていた。普段テスカトリポカが知っている彼女――ナマエはもっと溌剌としていて明るい調子なのだが、まあ、人間なのだからそういうこともあるだろう。……なんて、人には人の事情があることを彼はよく知っていた。
カルデアの内部は常に人間・サーヴァントともに快適に感じる温度と湿度を維持している。なので肌寒くて凍えることもなければ、暑苦しくて寝付けない、などということもない。
「ナマエ、どうかしたのか? オレになんだって話していいんだぜ」
「……あのね、ちょっとだけ疲れちゃった」
テスカトリポカはそれに肯定も否定もしなかった。なぜなら自分には到底理解の及ばない感情だからだ。肯定したところでどうにかなることでもない。ただ自分が呼ばれたという結果が全てだ。どうにかするのではなく、ただそばにいる。それが最善だと考えた。
「私っていいマスターだと思う?」
「それはイエスだ。イエスと言ってやろう。ナマエが望むならオレはそれを与える。……だから呼んだんだろう? ナマエ」
テスカトリポカの言葉にナマエは何度も頷いた。噛みしめるような表情だった。夜は暗くて、この部屋にも明かりはない。けれど彼はすべてを見通している。目の前にいるたった一人の人間を……、失うにはまだ早すぎる。人間の時間は短い。とかく世界が加速する速度は、彼にとっては速すぎた。
「そうだね。私には、テスカトリポカがいるから……。大丈夫だよね」
「ああ、何も心配いらない。どれほどの荒波が襲ってこようが、オレは……オレたちは絶対に大丈夫だ」
「あははっ。なんだかテスカトリポカに言われると、すごーく説得力があるかも」
「人間の中でも魔術師ってヤツはとにかく難儀だからな。――だから面白い。ナマエといると飽きないってことだ。その分ロクでなしも多いが……。まあ、これはオレが言えたことじゃないがな」
問題の着地点から目を逸らそう。考えていたってどうしようもない。テスカトリポカはいつだって、ナマエの「神様」だ。
「あ、逆位置」
きっかけは些細なことだった。日課の占いの結果が悪かった。そのくらいの小さなことがササクレのように逆立ってナマエの胸中にのしかかった。ちょっとした不安が魔術師としての在り方に大きな影響を及ぼすこともある。
最近はこればかりだった。マイナスな意味の啓示。いいように捉えようと努力はしているが、こうも何回も「はずれ」を引くとどうにも調子が悪い。
ふとそばに控えている男の視線が気になって、ナマエは顔を上げた。散漫なカードの並びを見られて少し気恥ずかしかった。誰もいないし誰にも見せるつもりがない占いだったので、手を抜いているのではないかと思うと、少し怖かった。
テスカトリポカは彼女をよく見ている。サーヴァントとしてそうさせるのではなく、個人としてもそうだった。ナマエはテスカトリポカの目をじっと覗き込むと、全てが見透かされているような気がしてならなかった。
――神様だから、そうなのかな。
カルデアには他にも「神」であるサーヴァントが大勢いたが、テスカトリポカはナマエにとっては特別な相手だ。他のサーヴァントと差別化しているわけではなかったが、ふれあう回数は多いし、気がつくとすぐ側に立っている。単純に接触する回数が多い相手でもあるし、それに――個人的に、とても気になる相手だったから。
「あまり芳しくない結果だな。だが……、それもまた面白い。毎回ラッキーじゃつまらない、だろ?」
「うーん。最近あんまり調子が良くないんだよね」
「表か裏か、カード並びの結果なんて気にするなよ。占いは所詮統計学に過ぎない……。オレが放った弾丸が当たるかどうかと違わない。魔術師どもはこういうと怒るが、ナマエなら分かってくれるだろう?」
「うぅん……。うん、わかるような……わからないような」
「ま、これもオレの所感でしかない。何をもって正しいとするかは個人の価値観で決まるからな」
カードの結果一つで彼は饒舌だった。確かに確率論としての話ではあるが、ここまで冷静に所感を述べられると、自分のやっていることがコインの裏表程度の話に聞こえてくる。
「ああ――、勘違いするなよ。お前が信じているならそれは本当だ。オレはただオレの規範の下で意見を言っているだけだからな。聞くも聞かないも、怒るのも自由だ。ハハ、全てにおいて言葉とは無意味だと言えば世界を否定することになりそうだ」
「慰めてくれてるの?」
「当然のサービスだ。サーヴァントだからな」
テスカトリポカはいつも飄々としている。絶対的な価値観があるということは、それほどまでに絶大な安心感を得ることに繋がるのだろうか。
「……だがしかし、覚えておいて欲しい。オレはサーヴァントだからという理由だけで従っているんじゃない。詳しくは言わせるなよ? 要は求められればどこにだって……ということさ」
ナマエは日中のテスカトリポカの言葉を思い出していた。つまりは彼の言うとおりになったのだ。漠然とした不安。やはり彼は、全部知っている――。人によってはサーヴァントに自分を超越されているというのは気に食わないだろうが、ナマエにとっては寧ろ嬉しい話だった。そんな風に考えていると知られたら、彼は驚くだろうか……。それとも、いつもの威風堂々とした態度で笑って受け流すだろうか。
「……好き、だなぁ」
不安になった時に真っ先に思い出すのが彼なのが、嬉しかった。
どれだけ心臓がドキドキしていても、いや、ドキドキさせてくるのはテスカトリポカであることが多いのだが。ああ、と息を吐くと全てが彼に包まれているような気がした。
数多くある英霊の中から自分だけに彼が宛がわれていたならよかったのに。
「……呼んだら、来てくれるんだよね」
漠然と悲しい。ただ、それだけの理由で。
彼は来てくれる。
――ナマエは心の中でオズの魔法使いの一説を思い出した。
銀の靴のかかとを鳴らしてカンザスの家に帰ることができたドロシーのように、自分も名前を呼べば……望めばいつだって来てくれるだろうか。
どんなにくだらない要件だって、重たい話でも、彼は小粋な冗談で笑い飛ばしてくれる。きっとそうだと、信じていたい。信じることが一番大事だと彼は言っていた。……だから、そうする。たまには素直になって頼っても許してくれるって、信じたい。
「テスカトリポカ、来て」
ナマエの指は、自分に刻まれた令呪を無意識に触わっていた。
「あぁ、テスカトリポカ……」
彼女はぐったりとしていた。普段テスカトリポカが知っている彼女――ナマエはもっと溌剌としていて明るい調子なのだが、まあ、人間なのだからそういうこともあるだろう。……なんて、人には人の事情があることを彼はよく知っていた。
カルデアの内部は常に人間・サーヴァントともに快適に感じる温度と湿度を維持している。なので肌寒くて凍えることもなければ、暑苦しくて寝付けない、などということもない。
「ナマエ、どうかしたのか? オレになんだって話していいんだぜ」
「……あのね、ちょっとだけ疲れちゃった」
テスカトリポカはそれに肯定も否定もしなかった。なぜなら自分には到底理解の及ばない感情だからだ。肯定したところでどうにかなることでもない。ただ自分が呼ばれたという結果が全てだ。どうにかするのではなく、ただそばにいる。それが最善だと考えた。
「私っていいマスターだと思う?」
「それはイエスだ。イエスと言ってやろう。ナマエが望むならオレはそれを与える。……だから呼んだんだろう? ナマエ」
テスカトリポカの言葉にナマエは何度も頷いた。噛みしめるような表情だった。夜は暗くて、この部屋にも明かりはない。けれど彼はすべてを見通している。目の前にいるたった一人の人間を……、失うにはまだ早すぎる。人間の時間は短い。とかく世界が加速する速度は、彼にとっては速すぎた。
「そうだね。私には、テスカトリポカがいるから……。大丈夫だよね」
「ああ、何も心配いらない。どれほどの荒波が襲ってこようが、オレは……オレたちは絶対に大丈夫だ」
「あははっ。なんだかテスカトリポカに言われると、すごーく説得力があるかも」
「人間の中でも魔術師ってヤツはとにかく難儀だからな。――だから面白い。ナマエといると飽きないってことだ。その分ロクでなしも多いが……。まあ、これはオレが言えたことじゃないがな」
問題の着地点から目を逸らそう。考えていたってどうしようもない。テスカトリポカはいつだって、ナマエの「神様」だ。
「あ、逆位置」
きっかけは些細なことだった。日課の占いの結果が悪かった。そのくらいの小さなことがササクレのように逆立ってナマエの胸中にのしかかった。ちょっとした不安が魔術師としての在り方に大きな影響を及ぼすこともある。
最近はこればかりだった。マイナスな意味の啓示。いいように捉えようと努力はしているが、こうも何回も「はずれ」を引くとどうにも調子が悪い。
ふとそばに控えている男の視線が気になって、ナマエは顔を上げた。散漫なカードの並びを見られて少し気恥ずかしかった。誰もいないし誰にも見せるつもりがない占いだったので、手を抜いているのではないかと思うと、少し怖かった。
テスカトリポカは彼女をよく見ている。サーヴァントとしてそうさせるのではなく、個人としてもそうだった。ナマエはテスカトリポカの目をじっと覗き込むと、全てが見透かされているような気がしてならなかった。
――神様だから、そうなのかな。
カルデアには他にも「神」であるサーヴァントが大勢いたが、テスカトリポカはナマエにとっては特別な相手だ。他のサーヴァントと差別化しているわけではなかったが、ふれあう回数は多いし、気がつくとすぐ側に立っている。単純に接触する回数が多い相手でもあるし、それに――個人的に、とても気になる相手だったから。
「あまり芳しくない結果だな。だが……、それもまた面白い。毎回ラッキーじゃつまらない、だろ?」
「うーん。最近あんまり調子が良くないんだよね」
「表か裏か、カード並びの結果なんて気にするなよ。占いは所詮統計学に過ぎない……。オレが放った弾丸が当たるかどうかと違わない。魔術師どもはこういうと怒るが、ナマエなら分かってくれるだろう?」
「うぅん……。うん、わかるような……わからないような」
「ま、これもオレの所感でしかない。何をもって正しいとするかは個人の価値観で決まるからな」
カードの結果一つで彼は饒舌だった。確かに確率論としての話ではあるが、ここまで冷静に所感を述べられると、自分のやっていることがコインの裏表程度の話に聞こえてくる。
「ああ――、勘違いするなよ。お前が信じているならそれは本当だ。オレはただオレの規範の下で意見を言っているだけだからな。聞くも聞かないも、怒るのも自由だ。ハハ、全てにおいて言葉とは無意味だと言えば世界を否定することになりそうだ」
「慰めてくれてるの?」
「当然のサービスだ。サーヴァントだからな」
テスカトリポカはいつも飄々としている。絶対的な価値観があるということは、それほどまでに絶大な安心感を得ることに繋がるのだろうか。
「……だがしかし、覚えておいて欲しい。オレはサーヴァントだからという理由だけで従っているんじゃない。詳しくは言わせるなよ? 要は求められればどこにだって……ということさ」
ナマエは日中のテスカトリポカの言葉を思い出していた。つまりは彼の言うとおりになったのだ。漠然とした不安。やはり彼は、全部知っている――。人によってはサーヴァントに自分を超越されているというのは気に食わないだろうが、ナマエにとっては寧ろ嬉しい話だった。そんな風に考えていると知られたら、彼は驚くだろうか……。それとも、いつもの威風堂々とした態度で笑って受け流すだろうか。
「……好き、だなぁ」
不安になった時に真っ先に思い出すのが彼なのが、嬉しかった。
どれだけ心臓がドキドキしていても、いや、ドキドキさせてくるのはテスカトリポカであることが多いのだが。ああ、と息を吐くと全てが彼に包まれているような気がした。
数多くある英霊の中から自分だけに彼が宛がわれていたならよかったのに。
「……呼んだら、来てくれるんだよね」
漠然と悲しい。ただ、それだけの理由で。
彼は来てくれる。
――ナマエは心の中でオズの魔法使いの一説を思い出した。
銀の靴のかかとを鳴らしてカンザスの家に帰ることができたドロシーのように、自分も名前を呼べば……望めばいつだって来てくれるだろうか。
どんなにくだらない要件だって、重たい話でも、彼は小粋な冗談で笑い飛ばしてくれる。きっとそうだと、信じていたい。信じることが一番大事だと彼は言っていた。……だから、そうする。たまには素直になって頼っても許してくれるって、信じたい。
「テスカトリポカ、来て」
ナマエの指は、自分に刻まれた令呪を無意識に触わっていた。