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単発SS
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サベネア半島を、突発的なゲリラ豪雨が襲った。早朝から採集活動に明け暮れていたので、いい休憩だと思うことにしてラザハンに戻った。仕入れ先に品物を納め、顔見知りのいるレストランに入る。窓際の席に案内され、外の空模様を観察する。注文内容は決まっている。日替わりのカレー・ランチセット。ここのカレーは絶品なのだ。
終末から世界を救ったあと、私の生活は特に変わりなかった。元々、暁の血盟の任務以外は、普通の冒険者と変わりない日々を過ごしていたのだ。世界の命運、国同士の争いというのも、過ぎ去れば過去の思い出と何ら変わりない。自分が関わってきたものは大きいが、そんなことを考えすぎると頭が痛くなる。一介の冒険者にしては、大変なことをやったものだと、時々思い返すくらいだ。
店の中は、昼時をすぎていたので静かだった。ふと、周りを見回すと知った顔があったことに気がつく。躊躇わず、私は声をかける。
「エスティニアンー!」
「よう、久しぶりだな」
鎧ではなく、軽装姿のエスティニアンを見るのは久しぶりだった。というか、暁解散式(仮)の後、リンクシェルで連絡を取り合った以外で顔を合わせるのは、初めてのことだ。
「ラザハンにいるのは知ってたけど、まさか会えるなんて!」
「今日は特に仕事がなくてな。飯でも食おうかと思って彷徨いてたら、お前の姿を見かけて入ってみたんだ」
店員が気を効かせて、私の席に水を二つ運んできてくれた。グイッと飲み干すと、水が体内に染み渡る感覚を覚える。
「その格好ーー今日はヌシでも釣りにきたのか?」
「ううん、店に卸す用の魚を釣りに」
「世界を救った英雄様が、漁師の仕事とはなぁ……」
心底愉快そうに笑う彼に、思わず照れてしまう。
「だ、だって……趣味と実益が噛み合ってるんだし!」
「別に文句をつけてるんじゃない。戦いばかりやってたんだ。たまの息抜きに文句をつける気はないさ」
「エスティニアンも釣りの楽しさに目覚めればいいのに……」
「待つのは性に合わん」
「いうと思った……」
私の密かな夢──一緒に釣りをするという目標が叶うことは今後あるのだろうか。
「ダイナマイトフィッシングとか、待たなくてもいいやつだったら、どう?」
「俺がするなら刺突漁じゃないのか?」
「ああ、確かに……」
しそう、というかやっていてもおかしくないだろう。目にありありと浮かんでくる。食糧調達のために、自慢の槍で魚を捕まえるエスティニアン。熊みたいでちょっと面白いかも。
「何を笑っているんだ」
「別にいいじゃん」
私たちが他愛のない話をしていると、注文していた料理が到着した。香辛料の匂いと、暖かな湯気、それに色とりどりの野菜と香ばしい肉の匂いが食欲をそそる。
「すっごいお腹すいてたんだよね! いただきます!」
トマトカレーにナンをディップして口に運ぶと、口内に香辛料特有の辛味と、独特の匂いが広がった。舌がびりびりと痺れるが、臆せず飲み込む。食道を、刺激物が通過する時特有の、火傷ににた軽い痛みが刺激する。ラッシーを飲んで口直しすると、途端に次の一口が食べたくなった。レッドスパイスで味付けされた骨つきのチキン、酢漬けの野菜などの付け合わせが、無限の食欲に火をつける。
「なんだこの色は……そんな物、よく食うな」
エスティニアンは注文したスープカレーを口に運びながら、そういった。あきれ半分、感心半分という感じの声だった。
「この辛さがクセになるんだよね」
そう言いながら、私はカレーを半分ほど食べ終わっていた。体の内側から迫り上がってくる熱さで発汗して、額は汗でビシャビシャになっている。服の下も既に汗でじっとりと湿っていて、でもそれは気持ちのいい汗のかき方だった。ちょうど、サウナに入った時のような感じだ。
「それに、ウリエンジェなんてこれ食べても顔色ひとつ変えてなかったよ」
「あいつ、これを食ってたのか……」
真っ赤な色は、確かに毒々しいまでの辛さの象徴である。激辛グルメというのは、好き嫌いがはっきり別れるジャンルであるから、エスティニアンが拒絶の意思を示すことは、決して珍しい反応ではないのだ。
「これに唐辛子のソース──タバスコっていうのをかけて食べる人もいるんだよ」
「考えられん……」
「チーズとか蜂蜜を入れて、辛さを抑えるっていうのもあるんだけどね」
私はふと、饒舌な語りを止めた。カレーについて長々と語っているのが急に恥ずかしく思えてきた。好事家、というか自分の好きなことについて語り出したら止まらないのは、私の悪いくせだ。おかわりしたナンで、皿の底に残ったわずかなカレーを拭って食べた。
「あの……さ。エスティニアンも忙しいと思うし、暁のみんなもそれぞれやることがあって、難しいと思うけど、また一緒に何か食べたいよね」
「そうだな。またいつになるかは分からんが、きっとやれるさ」
「で、さぁ。その時は私も料理を振る舞ってみたいなぁって」
「お前、飯を作れたのか」
エスティニアンが、心底意外そうな表情をしたので、私は思わず「できるし!」と叫んでしまった。
「あ、あのねぇ! リムサロミンサのビスマルクでも、シャーレアンのラストスタンドでもお墨付きをもらってるんだからね!」
「いや、普段あれだけ斧を振り回してる姿からは想像もつかないが」
「失礼すぎ! イシュガルドの復興事業でも頑張って納品してたのに! フランセルとアイメリクからも表彰されたんだよ! みてなかったの?」
「……俺がその手の政策に関心がないのは、知っているだろう」
「やだぁ……私ってそんなガサツに見られてたんだ……」
「でもお前、イシュガルドにいた時は一週間前に釣った魚をそのまま焼いて──」
「わーわーわー! 信用問題に関わる! ストップ!」
……あれは自分用のやつだけだから! 今卸してる魚は違いますからね! と誰が聞いているわけでもないのに必死に弁明する。
エスティニアンは、必死すぎる私を見て可笑しそうに笑っていた。人の黒歴史を何だと思っているんだろう。
「わかった。そこまで言うなら私の料理の腕がすごいんだってところを見せてあげるから。食べたら、こんなこと言えなくなると思うよ?」
「手料理? 構わないが、俺の舌を満足させられる物を作れよ」
「望むところ!」
勢いに任せてこんなことを、私は言ってしまった。手料理を作って食べさせるなんて、どうして言ってしまったんだろう。しかも、ご丁寧に自分のアパルトメントの住所まで渡してしまった。エスティニアンは、ラザハンでの仕事の合間を縫って、私の家を訪問するらしい。
どうしてこんなことを……
友人を家にまねく、それだけのことだ。うん。家に帰った私は、くたくたの体で靴を脱ぎ捨て、上着を床に放り投げて、ベッドの上でうんうんと唸った。確かに、調理環境が1番整っているのは、この家だ。キッチンがあって、設備に投資しただけの分はある。野外調理も嫌いではないが、やはりちゃんとフルコースを作るなら、自宅がいい。
エスティニアンを家にまねくというのは、本当に大丈夫なのだろうか。ホームパーティーならまだしも、二人きりというのは──そもそも、彼はちゃんときてくれるのか、どうなのか。色々と考えあぐねているうちに、陽は落ち、夜になってしまった。
寝台の横の棚には、暇つぶしになると思って買った雑誌やら、小説やらが山になって積んであった。その中の一冊の表紙には、こんな文句が書いてある。
「彼氏とのお家デート! かわいいインテリア・新作家具特集」
お家デート……
恐れていたことが書いてあった。頭がヒートしておかしくなりそう! 震える手で、ページを捲ると、淡いパステル系統の椅子やらマットのカタログと、仲睦まじい男女の挿絵が描かれていた。
自分の部屋が殺風景に見えるほど豪華な部屋だ。グリダニア様式などの、伝統的なものとは違ったモダンな内装は、とても魅力的に見える。
……部屋の中に水場。東洋の占星術的にも効果あり。なるほど。
気がつけば私は、型番を書いた注文用紙を手に、レターモーグリの元に足を運んでいた。ラグマットが古くて買い換えようと思っていたから、ちょうどいいタイミングだと思ったのだ。
衝動買いに満足して、その日はぐっすり眠った。
エスティニアンがうちに来るまで、あと一週間
終末から世界を救ったあと、私の生活は特に変わりなかった。元々、暁の血盟の任務以外は、普通の冒険者と変わりない日々を過ごしていたのだ。世界の命運、国同士の争いというのも、過ぎ去れば過去の思い出と何ら変わりない。自分が関わってきたものは大きいが、そんなことを考えすぎると頭が痛くなる。一介の冒険者にしては、大変なことをやったものだと、時々思い返すくらいだ。
店の中は、昼時をすぎていたので静かだった。ふと、周りを見回すと知った顔があったことに気がつく。躊躇わず、私は声をかける。
「エスティニアンー!」
「よう、久しぶりだな」
鎧ではなく、軽装姿のエスティニアンを見るのは久しぶりだった。というか、暁解散式(仮)の後、リンクシェルで連絡を取り合った以外で顔を合わせるのは、初めてのことだ。
「ラザハンにいるのは知ってたけど、まさか会えるなんて!」
「今日は特に仕事がなくてな。飯でも食おうかと思って彷徨いてたら、お前の姿を見かけて入ってみたんだ」
店員が気を効かせて、私の席に水を二つ運んできてくれた。グイッと飲み干すと、水が体内に染み渡る感覚を覚える。
「その格好ーー今日はヌシでも釣りにきたのか?」
「ううん、店に卸す用の魚を釣りに」
「世界を救った英雄様が、漁師の仕事とはなぁ……」
心底愉快そうに笑う彼に、思わず照れてしまう。
「だ、だって……趣味と実益が噛み合ってるんだし!」
「別に文句をつけてるんじゃない。戦いばかりやってたんだ。たまの息抜きに文句をつける気はないさ」
「エスティニアンも釣りの楽しさに目覚めればいいのに……」
「待つのは性に合わん」
「いうと思った……」
私の密かな夢──一緒に釣りをするという目標が叶うことは今後あるのだろうか。
「ダイナマイトフィッシングとか、待たなくてもいいやつだったら、どう?」
「俺がするなら刺突漁じゃないのか?」
「ああ、確かに……」
しそう、というかやっていてもおかしくないだろう。目にありありと浮かんでくる。食糧調達のために、自慢の槍で魚を捕まえるエスティニアン。熊みたいでちょっと面白いかも。
「何を笑っているんだ」
「別にいいじゃん」
私たちが他愛のない話をしていると、注文していた料理が到着した。香辛料の匂いと、暖かな湯気、それに色とりどりの野菜と香ばしい肉の匂いが食欲をそそる。
「すっごいお腹すいてたんだよね! いただきます!」
トマトカレーにナンをディップして口に運ぶと、口内に香辛料特有の辛味と、独特の匂いが広がった。舌がびりびりと痺れるが、臆せず飲み込む。食道を、刺激物が通過する時特有の、火傷ににた軽い痛みが刺激する。ラッシーを飲んで口直しすると、途端に次の一口が食べたくなった。レッドスパイスで味付けされた骨つきのチキン、酢漬けの野菜などの付け合わせが、無限の食欲に火をつける。
「なんだこの色は……そんな物、よく食うな」
エスティニアンは注文したスープカレーを口に運びながら、そういった。あきれ半分、感心半分という感じの声だった。
「この辛さがクセになるんだよね」
そう言いながら、私はカレーを半分ほど食べ終わっていた。体の内側から迫り上がってくる熱さで発汗して、額は汗でビシャビシャになっている。服の下も既に汗でじっとりと湿っていて、でもそれは気持ちのいい汗のかき方だった。ちょうど、サウナに入った時のような感じだ。
「それに、ウリエンジェなんてこれ食べても顔色ひとつ変えてなかったよ」
「あいつ、これを食ってたのか……」
真っ赤な色は、確かに毒々しいまでの辛さの象徴である。激辛グルメというのは、好き嫌いがはっきり別れるジャンルであるから、エスティニアンが拒絶の意思を示すことは、決して珍しい反応ではないのだ。
「これに唐辛子のソース──タバスコっていうのをかけて食べる人もいるんだよ」
「考えられん……」
「チーズとか蜂蜜を入れて、辛さを抑えるっていうのもあるんだけどね」
私はふと、饒舌な語りを止めた。カレーについて長々と語っているのが急に恥ずかしく思えてきた。好事家、というか自分の好きなことについて語り出したら止まらないのは、私の悪いくせだ。おかわりしたナンで、皿の底に残ったわずかなカレーを拭って食べた。
「あの……さ。エスティニアンも忙しいと思うし、暁のみんなもそれぞれやることがあって、難しいと思うけど、また一緒に何か食べたいよね」
「そうだな。またいつになるかは分からんが、きっとやれるさ」
「で、さぁ。その時は私も料理を振る舞ってみたいなぁって」
「お前、飯を作れたのか」
エスティニアンが、心底意外そうな表情をしたので、私は思わず「できるし!」と叫んでしまった。
「あ、あのねぇ! リムサロミンサのビスマルクでも、シャーレアンのラストスタンドでもお墨付きをもらってるんだからね!」
「いや、普段あれだけ斧を振り回してる姿からは想像もつかないが」
「失礼すぎ! イシュガルドの復興事業でも頑張って納品してたのに! フランセルとアイメリクからも表彰されたんだよ! みてなかったの?」
「……俺がその手の政策に関心がないのは、知っているだろう」
「やだぁ……私ってそんなガサツに見られてたんだ……」
「でもお前、イシュガルドにいた時は一週間前に釣った魚をそのまま焼いて──」
「わーわーわー! 信用問題に関わる! ストップ!」
……あれは自分用のやつだけだから! 今卸してる魚は違いますからね! と誰が聞いているわけでもないのに必死に弁明する。
エスティニアンは、必死すぎる私を見て可笑しそうに笑っていた。人の黒歴史を何だと思っているんだろう。
「わかった。そこまで言うなら私の料理の腕がすごいんだってところを見せてあげるから。食べたら、こんなこと言えなくなると思うよ?」
「手料理? 構わないが、俺の舌を満足させられる物を作れよ」
「望むところ!」
勢いに任せてこんなことを、私は言ってしまった。手料理を作って食べさせるなんて、どうして言ってしまったんだろう。しかも、ご丁寧に自分のアパルトメントの住所まで渡してしまった。エスティニアンは、ラザハンでの仕事の合間を縫って、私の家を訪問するらしい。
どうしてこんなことを……
友人を家にまねく、それだけのことだ。うん。家に帰った私は、くたくたの体で靴を脱ぎ捨て、上着を床に放り投げて、ベッドの上でうんうんと唸った。確かに、調理環境が1番整っているのは、この家だ。キッチンがあって、設備に投資しただけの分はある。野外調理も嫌いではないが、やはりちゃんとフルコースを作るなら、自宅がいい。
エスティニアンを家にまねくというのは、本当に大丈夫なのだろうか。ホームパーティーならまだしも、二人きりというのは──そもそも、彼はちゃんときてくれるのか、どうなのか。色々と考えあぐねているうちに、陽は落ち、夜になってしまった。
寝台の横の棚には、暇つぶしになると思って買った雑誌やら、小説やらが山になって積んであった。その中の一冊の表紙には、こんな文句が書いてある。
「彼氏とのお家デート! かわいいインテリア・新作家具特集」
お家デート……
恐れていたことが書いてあった。頭がヒートしておかしくなりそう! 震える手で、ページを捲ると、淡いパステル系統の椅子やらマットのカタログと、仲睦まじい男女の挿絵が描かれていた。
自分の部屋が殺風景に見えるほど豪華な部屋だ。グリダニア様式などの、伝統的なものとは違ったモダンな内装は、とても魅力的に見える。
……部屋の中に水場。東洋の占星術的にも効果あり。なるほど。
気がつけば私は、型番を書いた注文用紙を手に、レターモーグリの元に足を運んでいた。ラグマットが古くて買い換えようと思っていたから、ちょうどいいタイミングだと思ったのだ。
衝動買いに満足して、その日はぐっすり眠った。
エスティニアンがうちに来るまで、あと一週間
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