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単発SS
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雪が肩に積もり、ブーツの内側は水でグショグショと濡れていた。こんな風になると、歩くのも億劫になる。それでも、ここに来るのはひとえに彼のためだ。
「ナマエ! よく来てくれた!道中、寒くはなかったか? 少し待ってくれ、今準備をする」
「こんにちは、オルシュファン卿。やっぱりクルザスは寒いね」
私が重い門を押し、中に入ると暖炉から放たれる熱気が体を包んだ。
彼はいつもの場所に座り、何か書き物をしていたようで、机の上には書類が積まれていた。私が来るなり、顔を輝かせて歓迎するものだから、嬉しくて仕方がない。
部屋に入る前に雪を落としてきたつもりではあったが、まだまだ濡れていて、床を汚してしまう。それだけはいつも、とても申し訳なく思う。
「ごめんね、お仕事の途中に尋ねてきちゃって」
「なに、気にするな。ちょうど今日は切り上げようとしていたところだ」
オルシュファンは奥の部屋へと私を案内した。
仕事をするための大きな机、壁には本棚や戸棚があって、私が座っているソファと、茶を飲むためのテーブルがあり、奥には小さな暖炉があった。
私の靴は汚れていたので、靴下まで脱いでしまって、用意してもらった室内履きに履き替える。窓は締め切っていた。
「さて、茶でも淹れようか。いつものでいいだろうか?」
「うん、お願い」
イシュガルドのお茶は、心の芯まで温めてくれるようなやさしい味がする。それは、オルシュファンが淹れてくれたというのもあるのだろうが、私はこの味が一等お気に入りだった。
「はぁ……生き返る」
「そうかそうか、ならよかった」
私は手土産に持参してきた菓子を広げた。
「これは……ナマエの手作りか? とても美味しそうだ」
「そだよ。お茶に合うようにちゃんと作ってきた」
「なるほど! では、ありがたくいただこう! ……おぉ、なるほど……これは、イイ! とても美味い! お前には料理の才能もあるのだな! 皇都で店を出せる味だ!」
オルシュファンがベタ褒めしてくれたので、私はなんだか照れ臭かった。うれしかったけれど、素直に喜べなかった。
「そんな、ほめすぎだよ。オルシュファンってさ、いつもいい物食べてるじゃん。だから口に合わなかったらどうしようかって思ったんだけど、気に入ってくれたならよかった」
……実は、材料から全部自分でとりに行って作ったといったら、彼はどう思うだろう。いや、考えるまでもない。きっと、すごく喜んでくれるはずだ。
私は、私のことを信頼して、したってくれて、肯定してくれる彼のことが好きだ。彼も、きっと私が好きだろう。ただし、それは、私が期待しているものではない。
今だって、もうどうしようもないくらい嬉しいのだ。ただ、この思いだけは墓まで持っていく。友であると慕ってくれる彼に、こんな思いを見せるわけにはいかない。
「……ふむ、で、どうなったんだ!?」
「そしたらね、すっごい形相で追いかけられてね」
彼は私の冒険の話を、それはそれは大変目を輝かせて聞いてくれた。
私がウルダハやリムサロミンサ、グリダニアを駆け回り、それだけではなく、料理や釣りにも勤しんでいることを話すと、彼は「多才だな」と褒めてくれた。器用貧乏なだけだよ、なんて謙遜する気にはならない。褒められたことが嬉しかった。
いつか、一緒に冒険しよう。オルシュファンはそう言った。きっと本気だし、私もそうしたい。前、一緒にフランセルを助けた時、不謹慎だけど、共闘できてうれしかったんだ。
「たまに、思うことがある……私がイシュガルドの騎士でもなく、普通の冒険者だったなら、お前と共に旅に出ることもできただろう、とな。けれど、私がこうしてこの地を守っていなければ、一生ナマエと出会うこともなかったかもしれない。それに、私は自分の仕事に誇りを持っている。ただ、身分もしがらみも何もない、自由な暮らしに心惹かれてしまう時もあるのだ」
私にだけ聞かせるように、ゆっくりとした淀みない口調でオルシュファンは語った。お茶のおかわりを要求した私に、独り言を言うように。
「……すまない、お前に聞かせるような愚痴ではなかった。忘れてくれ」
本当に、それが叶ったらいいのに。私はそう言えなかった。真面目な彼が必死で押しとどめていた言葉に、返す言葉が思いつかない。内心興奮していたのだ。嬉しくて、私はつい口を出してしまう。
「じゃあ、さ、今度一緒にどこか行こうよ! オルシュファン、ずっと頑張ってたもん! 一日くらい休んでどっか行ったって誰も文句言わないよ! ね、息抜き行こうよ!」
私が早口で捲し立てると、彼は鳩が豆鉄砲に打たれたような顔をした。
そして、大声で笑った。
「っはは! 休みを取って冒険者ごっこか! それもいいかもしれないな! さすが私の友だ。イイ案を思いつく」
「でしょ!? グリダニアなら、日帰りで行けると思うんだよね。行ける日があったらモグメールかリンクパールで知らせてよ。私は基本、いつでも行けるからさ!」
あー、これってあれだ。デートのお誘いってやつだ。しかも、私からしてしまった。当日は、いつもみたいに野暮ったい服じゃなくて、ちゃんと綺麗な服を着ていこう。そもそも、いつ行けるかわからないけれど、浮き足立ってしまう。
「私、回復の魔法も使えるようになったんだよ。オルシュファンが怪我しても、バッチリだからねー!」
「そうか! それは頼もしいな!」
もうずっと、この時間が続けばいいのに。
彼が淹れてくれたお茶が冷めるまで、それまではせめてこのままでいたい。
「……好きだなぁ」
冒険の計画を練りながら、ふと視線を落とした彼に、気づかれないように呟いてみる。
「あぁ、私も好きだ。ナマエと過ごす時間を、楽しく思う。願わくば、ずっとこうしていたい位には、な」
私の好きと、彼の好きが交わる時がきたなら、私はどうしよう。
「ずっと、私のためにお茶を淹れてね」
これは遠回しなプロポーズ、のつもりだ。気づかれないように、こっそり言うことしかできなくてごめんね。弱虫だから、こんなことしかできないんだ。
「あぁ、我が友の望みなら」
願ってなんでも叶うなら、どんなわがままでも彼は叶えてくれるのだろうか。友達を辞めたいと言ったら、どうなるだろうか。
耳が震えた。聞き慣れた声が私を急かす。
「ごめんね、そろそろ行かなくちゃ」
変なタイミングで、アルフィノに呼び出された。
「いくのかーー次の茶会はいつになるのだろうな」
「近いうちに、また来るよ」
「あぁ、またの来訪を楽しみにしているぞ!」
今度はもっと、雪の落ち着いた日にこよう。オルシュファンと、ドラゴンヘッドの人たちに見送られながら、私はクルザスを後にした。
「ナマエ! よく来てくれた!道中、寒くはなかったか? 少し待ってくれ、今準備をする」
「こんにちは、オルシュファン卿。やっぱりクルザスは寒いね」
私が重い門を押し、中に入ると暖炉から放たれる熱気が体を包んだ。
彼はいつもの場所に座り、何か書き物をしていたようで、机の上には書類が積まれていた。私が来るなり、顔を輝かせて歓迎するものだから、嬉しくて仕方がない。
部屋に入る前に雪を落としてきたつもりではあったが、まだまだ濡れていて、床を汚してしまう。それだけはいつも、とても申し訳なく思う。
「ごめんね、お仕事の途中に尋ねてきちゃって」
「なに、気にするな。ちょうど今日は切り上げようとしていたところだ」
オルシュファンは奥の部屋へと私を案内した。
仕事をするための大きな机、壁には本棚や戸棚があって、私が座っているソファと、茶を飲むためのテーブルがあり、奥には小さな暖炉があった。
私の靴は汚れていたので、靴下まで脱いでしまって、用意してもらった室内履きに履き替える。窓は締め切っていた。
「さて、茶でも淹れようか。いつものでいいだろうか?」
「うん、お願い」
イシュガルドのお茶は、心の芯まで温めてくれるようなやさしい味がする。それは、オルシュファンが淹れてくれたというのもあるのだろうが、私はこの味が一等お気に入りだった。
「はぁ……生き返る」
「そうかそうか、ならよかった」
私は手土産に持参してきた菓子を広げた。
「これは……ナマエの手作りか? とても美味しそうだ」
「そだよ。お茶に合うようにちゃんと作ってきた」
「なるほど! では、ありがたくいただこう! ……おぉ、なるほど……これは、イイ! とても美味い! お前には料理の才能もあるのだな! 皇都で店を出せる味だ!」
オルシュファンがベタ褒めしてくれたので、私はなんだか照れ臭かった。うれしかったけれど、素直に喜べなかった。
「そんな、ほめすぎだよ。オルシュファンってさ、いつもいい物食べてるじゃん。だから口に合わなかったらどうしようかって思ったんだけど、気に入ってくれたならよかった」
……実は、材料から全部自分でとりに行って作ったといったら、彼はどう思うだろう。いや、考えるまでもない。きっと、すごく喜んでくれるはずだ。
私は、私のことを信頼して、したってくれて、肯定してくれる彼のことが好きだ。彼も、きっと私が好きだろう。ただし、それは、私が期待しているものではない。
今だって、もうどうしようもないくらい嬉しいのだ。ただ、この思いだけは墓まで持っていく。友であると慕ってくれる彼に、こんな思いを見せるわけにはいかない。
「……ふむ、で、どうなったんだ!?」
「そしたらね、すっごい形相で追いかけられてね」
彼は私の冒険の話を、それはそれは大変目を輝かせて聞いてくれた。
私がウルダハやリムサロミンサ、グリダニアを駆け回り、それだけではなく、料理や釣りにも勤しんでいることを話すと、彼は「多才だな」と褒めてくれた。器用貧乏なだけだよ、なんて謙遜する気にはならない。褒められたことが嬉しかった。
いつか、一緒に冒険しよう。オルシュファンはそう言った。きっと本気だし、私もそうしたい。前、一緒にフランセルを助けた時、不謹慎だけど、共闘できてうれしかったんだ。
「たまに、思うことがある……私がイシュガルドの騎士でもなく、普通の冒険者だったなら、お前と共に旅に出ることもできただろう、とな。けれど、私がこうしてこの地を守っていなければ、一生ナマエと出会うこともなかったかもしれない。それに、私は自分の仕事に誇りを持っている。ただ、身分もしがらみも何もない、自由な暮らしに心惹かれてしまう時もあるのだ」
私にだけ聞かせるように、ゆっくりとした淀みない口調でオルシュファンは語った。お茶のおかわりを要求した私に、独り言を言うように。
「……すまない、お前に聞かせるような愚痴ではなかった。忘れてくれ」
本当に、それが叶ったらいいのに。私はそう言えなかった。真面目な彼が必死で押しとどめていた言葉に、返す言葉が思いつかない。内心興奮していたのだ。嬉しくて、私はつい口を出してしまう。
「じゃあ、さ、今度一緒にどこか行こうよ! オルシュファン、ずっと頑張ってたもん! 一日くらい休んでどっか行ったって誰も文句言わないよ! ね、息抜き行こうよ!」
私が早口で捲し立てると、彼は鳩が豆鉄砲に打たれたような顔をした。
そして、大声で笑った。
「っはは! 休みを取って冒険者ごっこか! それもいいかもしれないな! さすが私の友だ。イイ案を思いつく」
「でしょ!? グリダニアなら、日帰りで行けると思うんだよね。行ける日があったらモグメールかリンクパールで知らせてよ。私は基本、いつでも行けるからさ!」
あー、これってあれだ。デートのお誘いってやつだ。しかも、私からしてしまった。当日は、いつもみたいに野暮ったい服じゃなくて、ちゃんと綺麗な服を着ていこう。そもそも、いつ行けるかわからないけれど、浮き足立ってしまう。
「私、回復の魔法も使えるようになったんだよ。オルシュファンが怪我しても、バッチリだからねー!」
「そうか! それは頼もしいな!」
もうずっと、この時間が続けばいいのに。
彼が淹れてくれたお茶が冷めるまで、それまではせめてこのままでいたい。
「……好きだなぁ」
冒険の計画を練りながら、ふと視線を落とした彼に、気づかれないように呟いてみる。
「あぁ、私も好きだ。ナマエと過ごす時間を、楽しく思う。願わくば、ずっとこうしていたい位には、な」
私の好きと、彼の好きが交わる時がきたなら、私はどうしよう。
「ずっと、私のためにお茶を淹れてね」
これは遠回しなプロポーズ、のつもりだ。気づかれないように、こっそり言うことしかできなくてごめんね。弱虫だから、こんなことしかできないんだ。
「あぁ、我が友の望みなら」
願ってなんでも叶うなら、どんなわがままでも彼は叶えてくれるのだろうか。友達を辞めたいと言ったら、どうなるだろうか。
耳が震えた。聞き慣れた声が私を急かす。
「ごめんね、そろそろ行かなくちゃ」
変なタイミングで、アルフィノに呼び出された。
「いくのかーー次の茶会はいつになるのだろうな」
「近いうちに、また来るよ」
「あぁ、またの来訪を楽しみにしているぞ!」
今度はもっと、雪の落ち着いた日にこよう。オルシュファンと、ドラゴンヘッドの人たちに見送られながら、私はクルザスを後にした。
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