それはまるで夢のような世界
そういえば お前は気づいていたか?
「あ…っ、もっいく…っ!」
僕が果てる瞬間に、お前の背中に傷をつけていること。
身体は熱く溶けそうでも、不思議なことに頭の一部は冷静で。ほぼ同じタイミングで達するお前の波を感じ取るために、そう、その愉悦感を堪能する為に。
空っぽで何も無い僕を欲しがり、全てを捨てて側にいることを選んだ。そんなお前を哀れに思うよ。
「水鏡……」
顔に張り付いた僕の髪の毛を梳く仕草も、落ち着かせるようにキスをする優しさも全て。
僕に愛情と劣情を抱くお前が 酷く滑稽に見える。…いや、そう見ている僕が笑われてもおかしく無いほどいかれているのは自覚しているんだ。
だってそうだろ?
お前が家に来るのを知っていて、男を連れ込んで。気のないフリをしながらも視線だけで誘って襲わせた。そんなの、僕には簡単な事。まぁ、いいタイミングで来てくれたお前に男は殴られて退散していったわけだからあの男にしてみれば、やってしまった最低な日だ。それも実に愉快だった。
笑いを堪えるのに必死で俯いていれば、叱るように慰めて抱きしめてくる腕。
自分に向けられる 愚かで優しい熱。寒気に似た快感が走るのをお前の肩口で感じていたよ。
「もう、やめてくれよ…」
「なんの話だ」
「水鏡、俺だけじゃ足りない?」
僕に捨てられる事を怖れているそんなお前の弱みを利用しているのをこいつは知っている。僕が楽しんでいる事も。
そんな奴に全てを捧げたお前が悪いよ、烈火。
「僕は、お前さえいればいい」
END.
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