裏返すことの意味


シャツを掻い潜って入り込んでくる手。

「ぃや…だ……っ」

首を舐められて、胸もしつこいくらい撫で回される。

「……ん…っ」

その間、何もしていないわけではない。どんなに服や髪の毛を引っ張っても無視され続けていたのだ。

「立ってるけど?」

乳首をはじかれると思わず肩が震えた。

「くっ……」

「ねぇ」

「気持ち……悪い…っ」

「あっそ」

あっさりとした答えをし、再開する。
唇で舐めるように刺激して、水鏡の声がつまると吸うように優しく弄んだ。

「……んんっ…!」

「感じてんだ?」

目線だけ上げて嬉しそうに水鏡を見る。

「違…うっ……」

烈火を睨むと、彼は口の端を上げて水鏡のズボンに手をかけた。

「やめろっ!」

「やめねぇよ」

水鏡が思い切り烈火の髪の毛を引っ張ると、少し痛そうに顔を作った烈火は水鏡の細い首を勢いよく掴む。

「……っく!」

「大人しくしろよ、縛られてぇの?」

「烈……っ」

言った事は本当に実行すると分かっているからか、ぞくっとした感覚が走る。
水鏡の抵抗が少しおさまったところでボタンを外したズボンを脱がせると、見えた下腹に唇を落とす。

「……っ」

「そのままな」

行為と口調が伴っていない。
乱暴な扱いなのに、言うことを聞けば一際優しい声色になる。
自分勝手でワガママな男だと。

下着も取り払われて露わにされる。脱ぎきれていないジーンズがこの状況の不謹慎さを物語っていた。
愛撫は太腿から口付けされて局部へ。

「やめっ……」

それは無言で開始される。
男として感じる部分を口に含まれ唇を使い上下される、さやから亀頭まで丹念に舌でなぞられれば嫌でも反応してしまう。
もちろん烈火にも分かっていた、だからあえて言った。

「最低なのはどっちだよ。男にしゃぶられて感じてるお前は?人のこと言えんの?」

「う…、っ……」

死にたいと思った。ここまで言われて、殺意どころの話じゃない。

「でも……」

と、烈火が呟く。
内太腿にキスをしてから、水鏡の顔に近づく。

「俺だって…」

水鏡の頬をペロッと舐めてから、彼の口に指を入れた。

「…っあ?!」

「舐めろよ」

強引にかき回される。二本の指が何かの生き物のように口内を動いた。
そうされている間も、首筋に口付けされ生暖かい舌で鎖骨を舐められる。ざわざわした、なんとも言い難い何かが水鏡を襲っていた。

「…う…、っう……」

「俺だって、男に欲情してんだからおあいこだな」

「はっ……」

指を抜かれると膝を立てさせられ、廊下に押し倒される。

「力抜いとけよ」

「い…いやだっ…!」

秘所に感じる冷たい指は、さっき自分が舐めたもの。撫でるようにしてからゆっくりと進入してくる。
烈火を押し返そうと肩を押してもびくともしなかった。

「い…っ」

「力入れすぎ」

「痛いっ、もういやだ…っ」

「早いっつーの」

ぐっと足を開かれて曲げられると、体勢のせいもありより深く指が入ってくる。

「…うっ…、あぁ……」

水鏡の表情を見ながら進めていた烈火が指を増やした。
痛い、と声を上げる彼に無理やりキスをして口を塞ぐと、くぐもった音が聞こえる。

「あんまでかい声出すなよ、誰か入ってくるかも」

言いつつかき回せば眉を寄せて。出し入れすると、鼻から抜けるような声が漏れてくる。

「…ぁ……、いやだ…」

ぐちゅぐちゅと音を出すそこに首を振る水鏡の様子を見て、烈火は少し低めの声で言った。

「痛くは、ねぇな?」

「…ぃやだ……っ」

「そんなこと聞いてない」

大丈夫だと判断し指を引き抜く。

「水鏡」

「は…、ぁ……っ」

荒く息つく彼に、触れるだけのキスをした。
先ほどのように口を塞ぐためではなく、軽い音を立てて。

「……何っ…で…」

「なんとなく」

と、曖昧に笑ってから水鏡の腰を抱えた。






「あ、本当?じゃ、すぐ行く」

その声で意識が戻ると、近づいてくる気配がした。

「行ってくる」

「……」

柳からの電話だろうと察しはついた。当然だ、約束していたのは彼女だから。

「乱暴して悪かったな」

……乱暴?あれがか?
確かに壮絶の痛みではあったが。初めて奴に抱かれた時しか乱暴の記憶は無い。
それに、乱暴する奴はわざわざ後始末をしてベッドまで運んだりはしないだろう。

この関係は『中途半端』だった。

あれ以来、流血することも無い。口調や力の割には存外優しい抱き方をされていた。

理由が無茶苦茶だからこそ余計にそれを感じて。

「またな」

と、寝室のドアを閉めて出て行く。
家から出て行くときには、玄関の鍵を開ける音がした。





END.
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