裏返すことの意味


屋上のドアを開けるといつものメンツが揃っていた。

「あー、みーちゃん遅ーい」

パックのジュースを飲みながら水鏡を振り向く、その近くには土門。
そしてその脇には

「水鏡先輩」

柳がいた。彼女がいるということはもちろん奴もいる。

「遅ぇよ。なぁ姫ぇ?」

「烈火君!」

だらしない烈火の声とそれに反応する柳は、相変わらずのべたべたぶりだった。

「本当に暇人だなお前らは。まさかあの時間から居たんじゃないだろうな」

「え?あ、三時間目?そうそう」

と風子が当たり前のように言った。
水鏡に『もう屋上に居るんだからお昼には来てよ』とメールがあったのが三時間目。授業中に『お昼には来て』なんてくるとは思わなかった。暗に『何してんだ、早く来い』と言われたのだ。とんでもない話である。
水鏡は溜息をついた。

「授業には出なきゃ駄目だよ」

「たりぃ」

「んもうっ」

烈火に注意する柳は何故か楽しそうだったが。



天気のいい昼休み。
くだらない話で盛り上がっているのを青い空を見ながらなんとなく聞いていると。

「そうだ。夕飯食べにくる?」

柳が烈火に聞いた。
んー、と彼女を振り返る一瞬、水鏡を見たことには彼は気づいていない。

「……姫が作んの?」

「ちょっと手伝うよ」

「じゃあ行く」

はいはい、本当熱いねあんたたち……。
半ば呆れ気味の風子と土門に「うっさいわ」と中指を立てた。






夕方、リビングで読書をしているとインターフォンが鳴った。

「俺」

「誰だ」

白々しく返事をすると、笑う気配が感じ取れる。

「入れてよ、水鏡」

「何しに来た」

「何しにって……」

この男は柳の家に行くはずだ。彼女の作る夕飯を食べるために。

「柳さんの家に行くんじゃないのか」

「え?あぁ……つか、受話器越しってなくね?」

烈火は苦笑したが、入れば絶対に居座る。そう確信しているからこそ入れたくなかった。
無言でいる水鏡に烈火が譲歩する。

「分かったよ、玄関でいいから」

「……」

「それ以上は入んないから」

言い切る烈火の言葉を信じたわけじゃないが、外で余計なことを言われても困る。
仕方なく受話器を切り、玄関を開けた。
烈火が後ろ手でドアを閉めて水鏡に笑いかける。

「姫に会う前に、水鏡に会っとこーと思って」

「何で」

「さぁ?」

なんででしょ。と、とぼけた言い方をするが、それに対しては面倒臭いのでいちいち反応しない。

「彼女、待ってるんじゃないか?」

「あいつんちには七時の約束」

玄関にある時計はまだ五時だ。
わざとらしく、ふーんと言って水鏡は廊下の壁に寄りかかった。
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