窓際問答
烈火も水鏡の台詞に影響されたのか、先ほどまでの勢いは治まりつつあった。
「水鏡」
「……」
うつ伏せの水鏡を抱き起こし、正面に捉えて手を握る。
「否定、しねぇの?」
うつむいたままの顔は上げることなく、握られた両手をただ見つめる水鏡に優しく訊ねても彼の反応は薄かった。
「信じないんだろ?」
「否定すんのとしないのじゃ、全然違うだろ」
「信用しないなら同じ事だ、言うだけ嘘くさくなる」
「でも、一言……」
「……」
「一言言ってくれれば、俺だって……」
「そこでお前は納得したか?しないだろ?どうせ喧嘩になるのがオチだ」
「疑うのは、仕方ないだろ」
「じゃあ、どうしたらいいんだ。お前が信じないなら、僕はどうしようもないだろ。どうしてお前は……」
言葉に詰まると、喉の奥が熱くなってくるのを感じた。
これ以上会話は出来ない。
水鏡のその気持ちを烈火は汲み取ったのかどうなのか、握っていた手を更に強くした。
「なぁ」
「…ん」
「何もしてないか、何も」
「当たり前だろ」
「そっか」
そう言うと、ゆっくりと水鏡を抱きしめてくる。
窓も開いて風も通り、裸のままだった体は冷えていた。その肌を温めるように大きく包み込む。
肩から背中に回る烈火の体温が、じわりと広がった。
ほんのしばらくそうしていると、耳元で溜息が聞こえた。
そしてすぐに、烈火が小さく笑い出した。
「何だ、気持ち悪い」
「え?あぁ。おもしれーなって」
「何が?」
「だって、なーんも事件なんて起こってないのによ。こんなに拗れる」
「お前のせいだろ」
「水鏡が否定しないからいけない。つか、酔っ払ったまま男の家に行くのが間違ってる」
「それは…」
「んだよ」
「……悪かった」
いくら無意味だからといって、言葉にするのとしないのとでは全然違う。
烈火の言ったように伝える事に意味がある。それは納得した。けれど…。
「おまえだって…」
「俺は、本当に水鏡が俺以外の男と寝るなんて思っちゃいない。ただ、可能性としてそう考えたら色々想像して。とりあえず、確かめるかーって。んでも、お前否定しないし。」
「で、この状況か」
「まさに」
「……」
本当に馬鹿らしく思った。
誰が悪い事をした、誰のせいだ。という喧嘩ではない。
思い過ぎて疑心になるのは、笑える事だ。
それに気づくまでには大変な苦労があるが、いつかは理解し合えること。
「ごめんな」
窓辺から吹き込む心地よい風と苦笑いと共に、水鏡に届くその声は。
「烈火」
「?」
「……寒い」
どんな言い分よりも、すっと自分に入り込む。
END
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