窓際問答
不意に呼ばれて視線だけを烈火に合わせると、見たくもない冷めきった烈火の表情があった。
「……」
奥の方でチクチクするような痛みを感じる。
「俺の事が嫌いな水鏡さんは、昨日、何してた?」
「…なに……?」
わざとらしい台詞が耳に残ったが、それよりも意味を理解する方が早かった。
…昨日?何をしてたか?
水鏡が質問に答えるよりも早く、烈火は彼の露出された腰を上げさせて奥を晒すように持ち上げる。
「…烈火っ…!」
「いいから答えろよ、それとも意味が通じねぇか?」
言いたくないか、言えないか。どれだよ。
と、低い声で吐き捨てた。
烈火を宥めようとしていた水鏡だったが、その言葉にはさすがに腹が立った。
「何が言いたいっ?!」
四つ馬の格好で、尻を烈火に向けて。情けない体勢のままでも、水鏡は声を上げた。
勢いのある声に烈火は片眉を上げたがそれも一瞬で消え、口の端で笑う。
「昨日、どこで、誰と、何して『遊んでた』って聞いてんの。ここに何か突っ込んで遊んでたんじゃねぇーの?」
硬く閉じられたそこをつつく様にされると、顔に血が上ったのが分かった。
冗談じゃない、何の言いがかりだ。
「…お…っまえは……!」
「違うのかよ」
怒りでカッときたが、不思議な事にその後すぐ、違う感情が生まれた。
もっと、面倒臭い。表現しづらいもの。
「……本当にっ…」
「…」
「本当に、そうだと思うのか……っ」
馬鹿にされているのは自分だということは分かっている、烈火の先走りだということも。今回もまた、勘違いで疑っているのだということも。しかも性質悪く、本気で疑っていないということも。理解しているはずなのに。なぜなのか。
「僕が、何してたって?」
「俺がしばらく来なかったから、我慢できなくなったんじゃないかって」
「つまり、他の男と寝たって。そう、思うのか……?」
「男の家に、ついて行ったんだろ?」
どうして知ってる、なんて。そんな事聞かない。
「……上がっただけだ。…って言っても信用しないんだろ?」
「出来るか、普通」
「…そうだな」
水鏡は烈火から視線を外して、絨毯を見つめた。今日、綺麗に掃除したばかりでゴミ一つない。
「……」
追い詰めていたのは烈火だったのだが、どうしてか烈火の表情が徐々に焦ったようなそれになった。
「水鏡?」
「そうか、わかった」
「なにが」
一人で納得する水鏡に聞くが、返事はない。軽く苛ついて烈火の口調が厳しくなっても。
「もういい」
諦めたような、半分泣きそうな声色。
水鏡は自分でも理解できなかった。
ただ。この気持ちは、……嫌だ。それだけは感じた。