窓際問答
口を塞いでいた手のひらを外されて、大きく息をついた。烈火の両手は前に回り、胸の辺りを水鏡の肌を確かめるように触れていく。
「…っ……あ」
背中に感じる烈火の体温に、反応している自分が憎かった。こいつの言うように、熱に慣れている体はどう足掻いても拒否することなく受け入れ、痛みに近いものが走りぬける。こんなにも強引に組み敷かれているというのにもかかわらず、この体は……。
水鏡は目を瞑った。
それはもう、変えようも無く、否定も出来ない事実。だからこそ指摘されると腹が立つ、もちろん自分に。
「烈火…っ!」
抱え込むようにして、水鏡のベルトを外しにかかっている烈火の腕をつかむと水鏡は声を上げた。
「なんだよ」
不機嫌そうに言うが、その手は止まってはいない。
「…っ、ちょっと待て!」
今度は両手で烈火の腕を引きとめた。さすがに動きを止めて、水鏡の顔を覗き込む。
「なに?邪魔しないで」
ふざけたような烈火の言い方に眉を寄せると、呼吸を整える為の溜息と一緒に言った。
「なんなんだ…、何がしたい?」
「抱きたい」
「僕は、嫌だ」
「……」
一瞬真顔になった烈火の表情を見逃さなかった。すぐに作ったような笑顔になったが、水鏡の胸の奥で何かがざわつき始めていた。
嫌だと言ったのにはそれなりに理由がある。なにも烈火に抱かれるのが嫌なのではない、今更そんな事は言わない。ただ、烈火の怒っているその訳も分からず、ぶつけられる事、それが嫌なのだ。だから、説明して欲しい。それを言いたかった。
いや、せめて。それを言うまで待って欲しかった。
「……っ!!」
油断していたところで一気に下着ごとズボンを下げられ、足から抜かれる。
「…れ…っ!」
片手を後ろへ回して抵抗しようと試みても全くの無駄で、逆に烈火の腕に叩き落された。
手の痺れよりも、何よりも違う焦りが湧き上がる。
「そうだよな、俺の事なんて嫌いだもんな」
正直で何よりだよ、水鏡。
嫌な予感は的中した。これも烈火の悪い癖だ。自分の言い方が簡潔すぎたのもいけないのだろうが、こいつは誰よりも人の話を最後まで聞かない。まずいと思ってから、事態が好転した例がない。
どうにかしないといけないと、水鏡は考えを巡らせるが。
「水鏡」