小さな世界

『お前には、俺の気持ちなんて分からない』


きっかけは本当に些細な事だったと思う。
どうしてこんな喧嘩になったのかさえ、記憶が無い。

そう言われたときは、怒りや悲しみよりただ驚くだけで。

「……出てけ」

としか言えなかった。




小さな世界




『好きだ』と言われて嫌な気分になる事はない。
……だが、自分を選んだ烈火の気持ちは理解できない。
こう言うと、また奴に怒られるが。

何がいいのか

自分に無いものをたくさん持っている烈火に、どうして自分が必要なのか。
抱かれている時もずっと、ずっと考えていた。

烈火の事は嫌いじゃない。それは分かる。
しかし、それ故なのか

このままでいいのか

考える事が多くなった。

烈火には、自分より烈火を必要としている人間がいるかもしれなく、自分だけが曖昧な感情で縛り付けておく事が苦しくなって。

『僕より、お前を欲しがる人がいるだろう……』

それを、口にした。


苦しくて、苦しかった。




電話が鳴った。

出るのが億劫で、鳴り続ける着信音が耳障りだった。

「…っるさい……」

布団を頭からかぶって音を遮断しても、耳から入る音がなぜか胸に響いて。痛かった。

もう多分、烈火は来ない。
終わらせるなら、早い方がいいと。
そう考えた自分をどうして……今になって責めているのか。
烈火を傷つけたのは紛れもなく自分なのに。




『もう……やめたらどうだ』

自分が言った後の、烈火の表情が焼きついて離れない。
その言葉が自分に向けて言ったものだということは、烈火が出て行ってから気づいた。

これでいいんだ。

納得しろ。

受け入れろ。

離れて、

忘れろ。



小さな世界で残された感情が心臓に張り付いて、僕を苦しめても。





END
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