A wonderful day -AFTER-
キッチンで飲み物を用意していると、視線を感じた。
「なぁ、水鏡」
「何」
水鏡が勉強をしていた時座っていた場所は、すっかり烈火に取られてしまっていた。飲み物を烈火の正面に置き、自分も腰をかける。
「小金井来たか?」
貰ったマグカップを受け取り、ありがとうと呟く。その中には、いつもここに来ると水鏡が出してくれる、ホットココアが入っていた。
「来ない。お前と違うからな、小金井は」
思いっきり皮肉をこめて言う。が、反応は意外にも大人しかった。
「…そうだな」
「……」
「俺は、耐えられない」
あまり見ない真剣な表情だったため、水鏡はその顔から目が離せなくなっていた。
それに気付き、烈火は薄く笑うと
「もう3週間だ、さすがにキツイ」
すぐに目を逸らす。
「自業自得だろ」
「…だけどよー……」
深く息を吐いて、壁に寄りかかった。
「おまえ、学校でも避けてたろ。俺のこと」
「なんだ、気付いてたのか」
「気付くだろ、普通」
いつも一人でいる彼が、あの日以来それを避けるように人といる。多分それは烈火に会いたくない、会えばほぼ間違いなくその状況になるからだ。あの時は本当に、触れられたくない、と思ったから。その態度は、やはり烈火にも伝わっていたようだった。
「あからさま過ぎるって…。ひどいねー」
「知るか」
コーヒーを一口飲む。
烈火は水鏡から視線を外すと、テーブルに置いてある参考書に気がついた。
「…あ、なに。勉強してた?」
「たまには」
ふーん、とそれをパラパラめくっていく。その度に眉間のしわが深くなっていくのが見えた。
「…うぇ。なんだこりゃ…」
サッパリ理解できない文字と数字の羅列に、思わず「何語?」と言ってしまう。こんなものを見ていたら逆に頭が悪くなりそうだ。
「やるか?」
試しに聞いてみる。答えは考えなくても容易だが。
「かんべん……」
予想通りの返答に思わず笑ってしまう。
「……」
「なに?」
「…やっと笑った」
「……」
3週間ぶりの笑顔だ。
それがたとえ、どうでもいいことでも、烈火が待ち望んでいた表情だった。
烈火は姿勢を正し、水鏡に向き合った。
「水鏡」
「……」
「ごめんっ」
軽く頭を下げる。本当にごめん、ともう一度繰り返した。しばらくその様子を見ていた水鏡は呟くように言った。
「一つ…」
「え…、なに…」
聞き取れなくて、顔を上げる。
「一つ、聞いてもいいか?」
「ん…」
「おまえ、本気で小金井との約束守るつもりだったのか?」
質問の後、烈火は少し目を大きくした。
「まさか」
「……」
「そんな事、少し考えれば分かるだろ。お前は俺んだ。触らせたくもない。たとえ、小金井でも」
「……っ」
「あの時で、もう無理だと思った」
何度か小金井と一緒に3人で夜を過ごした事があった。でも、そのときでも烈火は小金井と水鏡を二人にする事はなく、小金井の手で高みへ追いやられている水鏡を見るのが耐えられなかったという。自分が誘ったくせに、結局独占欲が強いこの男は自分が交じる事でその不安を取っていたのだ。
「…じゃあ、どうするつもりだったんだよ」
それを思い出して、少し顔が曇った。
「んー、何とかするつもりだった。それ以外で」
一方烈火は、笑顔で答える。…何とかとは、なんなんだ。
「信じろよ」
自分勝手で、行き当たりばったりで。自分本位で物事を考え、行動する。まったくもって頭が悪い。今回の事だって、何が本音で、嘘なのか。信じろといわれても、考えている事が理解できないから、そう簡単に頷けない。
「嘘でも…っ、言っていい事と悪い事ぐらい…分かるだろ……」
しかし口は、許す方向に持っていっていた。気持ちは、正直だった。信じたいと思った。
「あぁ、分かってる。もう二度と言わない。嘘でも」
この男は状況に応じてきちんと表情を変えることが出来る。そういう意味では賢いのかもしれない。
「……」
「……」
「…分かった」
「……ありがと」
「なぁ、水鏡」
「何」
水鏡が勉強をしていた時座っていた場所は、すっかり烈火に取られてしまっていた。飲み物を烈火の正面に置き、自分も腰をかける。
「小金井来たか?」
貰ったマグカップを受け取り、ありがとうと呟く。その中には、いつもここに来ると水鏡が出してくれる、ホットココアが入っていた。
「来ない。お前と違うからな、小金井は」
思いっきり皮肉をこめて言う。が、反応は意外にも大人しかった。
「…そうだな」
「……」
「俺は、耐えられない」
あまり見ない真剣な表情だったため、水鏡はその顔から目が離せなくなっていた。
それに気付き、烈火は薄く笑うと
「もう3週間だ、さすがにキツイ」
すぐに目を逸らす。
「自業自得だろ」
「…だけどよー……」
深く息を吐いて、壁に寄りかかった。
「おまえ、学校でも避けてたろ。俺のこと」
「なんだ、気付いてたのか」
「気付くだろ、普通」
いつも一人でいる彼が、あの日以来それを避けるように人といる。多分それは烈火に会いたくない、会えばほぼ間違いなくその状況になるからだ。あの時は本当に、触れられたくない、と思ったから。その態度は、やはり烈火にも伝わっていたようだった。
「あからさま過ぎるって…。ひどいねー」
「知るか」
コーヒーを一口飲む。
烈火は水鏡から視線を外すと、テーブルに置いてある参考書に気がついた。
「…あ、なに。勉強してた?」
「たまには」
ふーん、とそれをパラパラめくっていく。その度に眉間のしわが深くなっていくのが見えた。
「…うぇ。なんだこりゃ…」
サッパリ理解できない文字と数字の羅列に、思わず「何語?」と言ってしまう。こんなものを見ていたら逆に頭が悪くなりそうだ。
「やるか?」
試しに聞いてみる。答えは考えなくても容易だが。
「かんべん……」
予想通りの返答に思わず笑ってしまう。
「……」
「なに?」
「…やっと笑った」
「……」
3週間ぶりの笑顔だ。
それがたとえ、どうでもいいことでも、烈火が待ち望んでいた表情だった。
烈火は姿勢を正し、水鏡に向き合った。
「水鏡」
「……」
「ごめんっ」
軽く頭を下げる。本当にごめん、ともう一度繰り返した。しばらくその様子を見ていた水鏡は呟くように言った。
「一つ…」
「え…、なに…」
聞き取れなくて、顔を上げる。
「一つ、聞いてもいいか?」
「ん…」
「おまえ、本気で小金井との約束守るつもりだったのか?」
質問の後、烈火は少し目を大きくした。
「まさか」
「……」
「そんな事、少し考えれば分かるだろ。お前は俺んだ。触らせたくもない。たとえ、小金井でも」
「……っ」
「あの時で、もう無理だと思った」
何度か小金井と一緒に3人で夜を過ごした事があった。でも、そのときでも烈火は小金井と水鏡を二人にする事はなく、小金井の手で高みへ追いやられている水鏡を見るのが耐えられなかったという。自分が誘ったくせに、結局独占欲が強いこの男は自分が交じる事でその不安を取っていたのだ。
「…じゃあ、どうするつもりだったんだよ」
それを思い出して、少し顔が曇った。
「んー、何とかするつもりだった。それ以外で」
一方烈火は、笑顔で答える。…何とかとは、なんなんだ。
「信じろよ」
自分勝手で、行き当たりばったりで。自分本位で物事を考え、行動する。まったくもって頭が悪い。今回の事だって、何が本音で、嘘なのか。信じろといわれても、考えている事が理解できないから、そう簡単に頷けない。
「嘘でも…っ、言っていい事と悪い事ぐらい…分かるだろ……」
しかし口は、許す方向に持っていっていた。気持ちは、正直だった。信じたいと思った。
「あぁ、分かってる。もう二度と言わない。嘘でも」
この男は状況に応じてきちんと表情を変えることが出来る。そういう意味では賢いのかもしれない。
「……」
「……」
「…分かった」
「……ありがと」