A wonderful day -AFTER-
こんな日がたまにある。
水鏡は本棚から参考書を引っ張り出し、勉強をしていた。覚える、覚えないとか、理解する、しないとかではなく、ただ頭を働かせる行為がしたくなるのだ。ひたすらに問題を解いていっては、紙に書いていった。頭を動かしたい時は、妙に考え事をするよりはるかに健康的で、精神力も使わない。すっきりしたい時はこれが便利なのだ。
自分でコーヒーをいれ、休日の昼間らしくカーテンも全開。窓を開けると寒いのでそれはやめて。それでも寒い今日は、暖房よりもひざ掛けをかける。部屋全体が暖まると、頭の回転が鈍くなるし眠たくなるからだ。気温は『暖かい』より『肌寒い』方が好きな水鏡だった。
どれくらい進んだか、壁に寄りかかり一息ついていると、インターフォンが鳴った。
立ち上がり壁にかかっている受話器を取ると、玄関に繋がった。
「…はい」
「俺」
「……」
この声を久しぶりに聞いた。
「…何?」
「会いに来た、開けて」
「…」
「…会いたい。開けて、……水鏡」
ドアの向こうの顔は想像がついた。きっと、情けない顔をしているのだろう……。
少し考えたが、このまま開けなければ烈火はずっと玄関に居座り続ける。もしくは、インターフォンが壊れるまで鳴らし続け、迷惑をかける。行動は、単純だから。
「……はぁ…」
ため息をついた後、受話器を置き玄関に向かう。どっちにしても、来てしまったからにはここで帰る奴ではないのだ。どうせ入れなくてはいけないのだから、無駄な抵抗は止すことにした。
鍵を外し、ドアを開けると先程想像していた顔が待っていた。
「久しぶり」
「……」
それがなんだか気に食わなくて、返事はせずに一人リビングに引き返す。
後ろの方で、烈火が苦笑する気配が感じられた。
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