押し付けられた肩を動かそうと腕を引くと、肘に当たった本が向こう側の通路に落ちる音が聞こえた。
ワイシャツ越しに、鎖骨に唇で触れられるとざわついた感覚が背筋を走る。

「う…っ…」

適当に首筋を遊んだ後、烈火が水鏡の髪の毛を後ろに軽く引いた。
顎が少し上がると、湿った舌で舐め上げられる。

「…よせ……っ」

「聞こえない」

ボタンを慣れた手つきで外していく烈火に焦ると、水鏡は彼のシャツをつかみ引き剥がそうとした。
しかし、それを何の抵抗とも感じないかのように指先は進んでいく。

「烈火…っ!」

その声と同時に、更に水鏡との距離を縮めて抱きしめるようにすると、晒された白い首筋に噛み付いた。

「…う…っ」

軽く吸うようにされると、冷やりとした。
こんな場所に、痕を残されては堪ったものではない。

「…ば…っ!やめろ!」

「痕なんて付けねぇよ」

馬鹿にしたような、笑う気配がした。

「見えるところになんて」

「…っ!」

烈火の頭が下がり、胸に吸い付かれると息が詰まった。
痛いと感じるほど噛み付かれたと思えば、すぐ熱い舌でなぞられる。
烈火の顔は見えないが、確実と言っていいほど楽しんでいる。それは分かった。



すぐ近くには、図書室らしく大きな窓があり。校庭で遊ぶ生徒の声も聞こえる。
吐き気を感じる程、焦る気持ちが色々なところへ向いて。神経がどうにかなりそうだった。

「逃げたきゃ、逃げろよ?」

目だけが上がり、視線が絡まる。
手首をつかんでいる烈火の手に、更に力が込められた。



逃げられるもんならな



悔しくも、翻弄される意識。
誰か。と縋るものは、優しく与えられる。
我慢すればするほど、喉を痛めて。







夕暮れ

だるい体を何とか動かし服を着て。芯の熱はまだ冷めぬ前。
向かいに座っている烈火は立ち上がり、本棚に寄りかかりながら外を見た。

「立てるよな、水鏡」

顔を上げて烈火を見ると、何事も無かったかのような表情がそこにあった。

「……」

夕日に照らされた赤い目と、小さな息と共に彼は水鏡に言った。


「早く帰ろう」








END
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