スイッチ



半径5000mmのスイッチ。


どんなに騒がしくても


どんなに混みあっていても


確実に見つけられる。

この距離が快感。







「…あ…っ…」
「声出すなよ、見つかる…」
「う…」

本当に偶然だった。
それぞれ違う目的で同じ街、同じ時間、同じ場所にいた。
水鏡は買い物に、烈火は友達と会うために。
すれ違えばいいだけの話だった。

だがそれが……出来なかった。


路地裏では重なり合う吐息が響き、熱が交わっていく。
抱き合うような格好で求めようとすれば、必然的に水鏡の足は上がり烈火が抱える体勢になった。
大した準備もせずに押し込めば痛がるのも当然だが、烈火はそれを叱った。

「どうして逃げた…?」

動きを緩め、背中を撫でる。
一呼吸置いてから、向かい合う水鏡はゆっくり答えた。

「…おまえが…っ、追ってきたから…」

烈火の肩口で震える声は、先程よりも甘い。

「…逃げたのは、水鏡だろ?」
「…追われれば…、逃げる…」
「追いかけたんじゃなくて、歩いてただけだ」
「走って来ただろ…っ」
「それは、お前が逃げたからだ」

逃げる水鏡を追い、腕を掴み、近くの路地に引き込んだ。
途中行き交う人々に不思議な目で見られていたが、どうでもよかった。ただ、捕まえる事に必死だった。
そこは昼間なのに薄暗く、もう一本奥に入れば全く人気がしない寂しい場所だった。
抵抗する水鏡を押さえつけ、口づける。何故かは分からなかったが、欲情した。

「…ぅ、…く…っ!」

堪えてはいるものの、襲ってくる快感と抉られる動きに時折声が洩れてしまう。
その度に、烈火の首に回している腕に力を込めた。

「あ…っ!」








なぜ逃げたのか、なぜ追ったのか。理由は言葉に表せないけれど。
お互いに気がついたあの距離が、何かのスイッチなのだと理解した。








END
1/1ページ
    スキ