Word of Love
「この髪も好き」
その日。
それは、独り言でも言っているのかと思うような小さな声で。
「…な…っに」
薄暗い部屋。
自分の息遣いがうるさい中、かろうじて聞き取れた。けれど、無意識に聞き直してしまう。
烈火は水鏡の視線に気がつくと、唇を持ち上げる。
「これも好きなんだよ。この髪の毛」
「…あっ…!」
今まで何度言われたか覚えていない。
激しい律動の最中に、穏やかな声色は似つかわしくなかった。
「この目も」
烈火の指は瞼に移動する。それが一つの愛撫のようで。
「唇も」
少し押すようにすると、跳ね返ってくる柔らかい唇。何回味わったか覚えているわけもない。
くすぐったいその感触にざわつくと、水鏡は顔を少し動かした。
「烈火っ…」
「その声も好き」
烈火の手のひらが喉元に触れる。
命の鼓動が響くそこに、噛み付くように口付ける。汗をかき、べた付く肌は吸い付くように烈火を誘った。
「水鏡…」
「あいつ、明日。誕生日だったよな?」
その日。
学校の帰り道で、偶然風子と一緒になった。
「誕生日…」
そういえばそうだったかも知れない。と水鏡は心の中で呟く。
何で知っているのかも覚えてはいないが。
「そうそう。でもあいつ、最近ちょっと調子悪そうにしてるし。パーティー出来るかな?」
心配する所はそこか、風子。
まぁ確かに言われてみれば、最近の烈火は大人しい。することはしてはいるが、何か違うような気がしていた。
表現するには、難しいが。
「烈火に聞いてみてよ」
「はぁ?」
突然話を振られて、思わず妙な声が出た。
「だーから、烈火に。最近どう?って」
「…」
聞けるわけがない。毎日会っているのだから。
しかも聞いたとしても、「なにが」とか「べつに」で会話は終了するに決まっている。
むしろ、質問したことに対して烈火から疑問が飛んでくることも考えられる。…それは、面倒だ。
「なに?パーティーやりたくないの、みーちゃん」
声のトーンが下がったのは気のせいだと思いたいが。
「いや、そうじゃなくて」
「だったらさ、よろしく。あ、パーティーのことは言っちゃ駄目だからね!」
ばいばーい!と、走って家路に着いた風子を見送って水鏡は考えた。
「……お前が聞けばいいだろ…」