Word of Love

「…んっ…」

その日。
肩が寒くて、意識が戻った。朝かと思えばそうでもない。
部屋は暗いのだが、掛けているはずの布団が上にはなかった。何故なのだろうか?
水鏡は重い瞼を上げ、冷えた指で目をこすると、すぐ近くに誰かがいることに気がついた。

「…」

もう、感じ慣れているそれは間違えようもなく。

「…何してる」

目線の先の影に声を掛けた。
烈火は水鏡を抱いた後、いつものようにシャワーに入っていったのだが、水鏡は疲れていてそこからの記憶がない。
だから、そのまま帰ったのか一緒になってベッドで休んでいたのか知らなかったのだ。
そして今、烈火は帰るわけでもなく。かといってベッドに寝ているわけでもなく。ベッドサイドの床に腰を下ろしていた。

「べつに」

一言そう答えると、あぐらをかいたまま缶ジュースを飲む。きっと風呂から上がったばかりなのだろう、上半身が裸のままで。
水鏡は烈火の返答には反応せず、とりあえず冷えた肩をどうにかしようと身じろぐと、自分の晒している格好に眉を上げた。

「…な…」

行為の後、水鏡は裸でいることが嫌いで。どんなに疲れていても何かを羽織ったり身につけたりする。
今日ももちろん意識を失ってしまう前に、パジャマを着た気がするのだが…なぜか、着ていなかった。

どう考えても、犯人は一人。

「この変態がっ…」

上だけではなく、下だって脱がされていた。掛けていた布団も剥がされ、水鏡は裸で何も掛けずに寝ていたことになる。
脱がされていることに気がつかなかった自分に腹が立ったが、それよりもこの訳が分からない烈火の行動に腹が立つ。
脱がすだけ脱がしておいて、何がしたいのか。
水鏡は吐き捨てると、服代わりにと自分の下に敷かれているシーツを引っ張り出そうとした。
すると

「いいじゃんか、裸のままで」

烈火は缶を床に置き、右足だけ立てて座る格好をした。膝に顎を乗せてゆっくりそう呟く。
一方水鏡はとりあえず手を止め、あきれた様子でそれを眺めた。

「良くない」

「なんで」

「はぁ?」

「何でだよ、俺しかいないのに」

「そういう問題じゃないだろ」

「じゃ、何」

「…」

大きくため息をつくと、体に巻きつけようとしたシーツを離す。
きっと今、体を隠そうものなら力ずくで剥ぎにくると思ったからだ。水鏡はベッドにうつ伏せになり顔だけ烈火に向けた。

「…風邪、ひくだろ」

尤もであるが。
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