Rainy Illness

その日、雨は酷く降っていた。


午前中はそうでもなく、体育の授業がグラウンドで出来るほどのしとしと雨だった。
その心地よい湿り気の中、烈火はサッカーの試合をしている。もちろん負る気はさらさらないので、本気の本気で。
向こうチームのボールになって、ゴール近くで守りを固めていた時、偶然にも大粒の雫が頬に落ちてきた。

「…っ」

冷たいそれは、するりと首筋を舐めていく。

「…」

流れて行く感覚がなんともいえなくて、烈火は空を眺めた。広くて大きな空は灰色の幕を張っていて先が見えない。
どこからどうやってそこから降り注いでくるのか不思議であった。
生暖かい湿気を帯びた風を受け、グラウンドが濡れていく匂いが烈火は好きだった。

ふと校舎のほうに目をやると、五階建ての三階部分、現在は二年生が使用している教室に、授業中であろうか水鏡がいた。さすがの烈火も水鏡がいるだけでは驚かないが、窓際の席の彼は何故か…烈火を見ていた。

「…ぇ」

普段目が合うとすぐ逸らしてしまうくせに、何故か今日はそれをしない。何か考え事をしているかのように一瞬たりとも離そうとはしなかった。
もちろん烈火自身も、水鏡の視線をかわすことはない。二人の間には小さな水の粒だけが通り過ぎていくだけである。

「こら~っ!!烈火!!ボケーっとすんな!!」

忘れていた。
いつの間にかゴールを決められていて、同じチームの友人からは怒声が飛ぶ。

「…あ?あぁ…、わりぃわりぃ」

軽く手を上げると、離れた友人から蹴りのポーズが返ってきた。




授業も終わり、教室へ帰ろうと廊下を歩いていた時。丁度、移動教室へ向かう水鏡が向こうから歩いてきた。
水鏡も烈火に気付いたのか顔を上げたが、その視線は相変わらず奇妙なもので、先程までグラウンドで感じていたそれと同じであった。

…8メートル…5メートル…3メートル……

近づくにつれ、周りの雑音が耳に入らなくなっていくのが分かる。そして、すれ違う瞬間。

「…っ!」

烈火はどうしてだか、水鏡の腕を掴みそうになった。自分の腕が無意識に動こうとしたのだ。
しかし、実際はピクっと反応しただけで、水鏡は通り過ぎて行ったのだが。



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