熱の上薬
……触りてぇ……
深夜、烈火は水鏡の家にいた。
だが、肝心の水鏡は烈火の相手をすることなく、柔らかいソファーに沈んでいる。
抱えるようにしているクッションに烈火が軽く嫉妬し、それを引っ張ったりしてみても彼の反応は薄く、また眠りに入ってしまう。
それの繰り返しだった。
流れる綺麗な髪の毛が白い顔にかかって、くすぐったくないのかと烈火が気にしても、水鏡の眠気を前にしてみればどうでもいいようで。
横になっている水鏡の顔を覗き込むようにして、烈火はひたすら心の中で呟いていた。
…触りてぇ……
大事な睡眠時間を妨げるのには少し抵抗があったが、我慢の限界が近づきゆっくりと髪に触れる。
優しく撫でるように梳くと、長いまつげが少し開いた。
「水鏡?」
数回緩やかに瞬きをした後に、水鏡は目を閉じた。
声を聞いたわけではないが、その綺麗な目に「寝かせろ」と言われたようで烈火は苦笑する。
「ねぇ、水鏡」
もう一度呼ぶと、今度は小さな音で返事をしてくれる。
「触ってもいい?」
水鏡のまつげが上がって目が合った。
触れていた髪の毛から頬に手のひらを移動させると、彼は嫌そうに頭を動かした。しつこく追って首まで滑らすと、片手が出てきて振り払われる。
烈火がその手を掴み、強引に指を絡ませ手を繋ぐ形をとると、水鏡の眉間に皺が寄った。
「…眠い」
「知ってる」
だから触りたくなったの。と心の中で言った。
「でも、分かるだろ?」
絡ませた手に力を込めて。
「熱いの」
水鏡の手のひらも眠いなりに温かかったが、それでもやはり烈火のほうが若干熱い。
何でだと思う?と、覗くようにして水鏡の表情を伺うが、返ってきたのはあっさりとした言葉だった。
「……知らない…」
眠たそうに答える水鏡の声色のせいなのか……
熱が、……上がった気がした。
「…知らないじゃないっしょ……」
覆いかぶさるようにして、水鏡の首に唇を落とした。
「……ぃ、…や…だっ…」
抵抗しようとするもう片方の手の自由も奪い、ソファーへ縫い付けるように圧し掛かる。
晒されている鎖骨に軽く噛み付くと、水鏡の体に力が入った。
……ほら、そうやって誘うから……
「37℃」
「…っ?」
「どうにかしなきゃだな、水鏡」
「…」
どんな風邪より性質の悪い、この熱は……
お前の他に、誰が治せる?
「……発情期か…」
面倒臭そうに呟く水鏡が色っぽくて、また熱が上がった。
「病気に近いな…」
そう、それは自分だけの上薬。
どうしようもない症状だから
早く、薬をちょうだい。
END
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