甘い果実

脳が、沸騰する。




それは合図。


「ふ…っ…!」

赤く、花ひらく。

潤いは、止めどなく。

「…っんん…」

甘い果実の、芳醇な香りに。

「ア…、っ…!」

寄せられ。

捕らえられ。

「…れ…っぁ」

そして。

毒される。





夜の帳は下りきって、蒸し暑いコンクリートのベッドはしっとり濡れる。
ここは水鏡のマンションのエントランス。
いつの間にかこの男に押し倒され、執拗な口付けをされている。そう、…それだけ。

烈火は部屋まで待てないかのように、防犯カメラに映らない死角を探し水鏡を連れ込んだ。
本気で嫌がったが、服を脱がすわけでもなく身体に触れるわけでもなく。ただ、長く深い口付けを仕掛けてくるだけ。

脳が…焼ける。

そう思って、身体を持ち上げようとしたが鉛がついているように言う事を聞かない。

眩暈が、酷い。

世界が上下を失うと、水鏡の腕は自分勝手に烈火の首に絡みついた。
昂りは感じる。嫌というほど張りつめているのが分かる。けれど、それ以上に。





「…は、…ぁっ…」

「水鏡…っ」

「…っぅ…」

「…今日は…」

「…っ」

「今日は、…これだけにしような」

「…」




その台詞が何かの麻薬のように感じて。身体が痺れた。
噛み付くように欲しがって、その奥の何もかもを感じたくて。
それは熱く、乱暴で。そして、味覚を失う。

舌で味わう事はしない。
脳で、瞳で、脊髄で、感じ取る。





真っ赤に熟れて。

感じる香りが麻痺させる。

絡まって、落ちていく。

甘い果実。





END
2005年7月12日
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