口説き文句
「俺のこと、口説いて。水鏡」
それは突然の台詞。
リビングで寛いでいると、何を思ったのか烈火は水鏡にすり寄った。
「…………はあ?」
「聞きてぇなぁ……口説かれてぇー」
あきれた顔を見せるが、なおもしつこく懐いてくる。
「馬鹿かお前。絶対嫌だ」
が、「口説いて」と言われて口説くなんて嫌だ。
水鏡は腕に絡み付いてくる烈火の腕を引き剥がしつつ、きっぱりと伝えた。
「絶対って……」
「……」
水鏡の言った「絶対」がとっても気持ちの入ったそれであったのに、烈火は少し頭を下げる。
しかし、すぐに立ち直りもう一度水鏡の顔に近づいた。
「じゃあ、キスして」
「嫌だ」
「どーして即答すんだよっ!」
「意味がないだろ」
意味無くなんてない!烈火は水鏡とのキスに対する熱い気持ちを語り始める。
だがもちろん水鏡は聞く耳を持ってはいないので、見事に烈火の空回りで。
烈火はそれに気がついたのか次第に口調も弱くなり、ついには黙ってしまう。
「……」
その烈火の余りの落ち込み様に水鏡は、キスぐらいしてやればよかったかもしれないと考えた。
でも、嫌だったのは本当。
「じゃあ」ですることなんて結局はそんなものだから。
所詮は言葉一つの問題、水鏡もキスが嫌だったわけじゃない。「じゃあ」の行為になることが嫌だったのだ。
それだけの話。
水鏡はそれを烈火に伝えようと、口を開いた。
「烈……」
「じゃあ、セックスしよう」
「死ね」
最低だ。
水鏡が無言になってから相当な時間が経っていた。
張り付いていたケダモノを引き剥がし、蹴り倒し今の状況に至る。
烈火から水鏡までの距離は、手を伸ばしても寝転がっても届かない…。
(言い過ぎた…)
後悔しているのは烈火。
先ほどから何度水鏡に話しかけても反応は無く、話す言葉も既に烈火の独り言のようだった。
暇だったから水鏡をからかうつもりで言ったその言葉、彼には冗談では通じなかった。
何であんなに怒ったのか烈火には分からないがきっと、水鏡に言ってはいけない言葉だったのかもしれない。
それぐらいは分かる。
「なぁ…」
「…」
「なぁ、水鏡」
「…」
「ねぇってば!」
「…」
「ねぇ、水鏡!」
「…」
うるさい。の一言もないのは、水鏡の怒りが相当だから。
(…あーもう、……無理…)
どんなに喧嘩しても、怒鳴りあってもいい。ただ無視され続けるのは本当に辛いから…。
「…………ごめん、って…」
「…」
しばらく頭を下げたまま黙ることにした。
下げた頭に水鏡の視線を感じても上げずに、その視線が逸らされるまでそのままで。
「…」
「…ねぇ、水鏡」
「…」
「聞きたいことが…」
「うるさい」
「(嬉)」
「…」
「水鏡にとってさ、俺って何?」
「(何言い出すんだコイツ)」
脈略が無さ過ぎるのは今に始まったことではないが、その質問がどこから出てくるのか…。
水鏡はいつも不思議だった。
「俺ってどんな存在?」
「…」
「聞かせて」
「…」
顔を上げる烈火。その表情は水鏡がたまに見る、自分を逃がしてくれない真剣な瞳で。
いや待て、…どうしてお前がそんな顔をするんだ。
「俺ね、つくづく思うんだけど…」
「?」
「お前と俺の温度差って…果てしないよな…」
「温度差…」
「そうそう、俺はこんなに好きなのに…」
お前からはちっとも。
「…」
「…」
「そうだな…」
「?」
「僕にとって、お前は」
「うんうん」
「空気」
「空気?!」
「そう」
「…それって、悪いことじゃねーの…?」
「さあ?」
「空気…」
水鏡は両手両膝をついた四つ馬で離れている烈火に近づき、肩に手をかける。
もちろん烈火はそれに応じ、自分の膝の上に水鏡を乗せる形をとった。
長い水鏡の髪に指を滑り込ませ、やわらかい感触を味わう。
「あって、当然」
「うわ…」
「気がつかないけど、そばにあるだろ」
「…」
「…」
「それって普段はどうとも思ってないってことだろ」
「アホ、黙って聞け」
「アホ…」
水鏡は手を肩から首に移動させ、烈火の肌に触れる。
いつも触れる、その肌に。
「でも…」
「…」
「無くては駄目なもの」
「…っ水鏡…?」
「…」
「口説いてくれてんの?」
「黙れ」
「はいはい」
「…空気は、無くならないと気がつかないだろ」
「ん…」
「それに…」
「それに?」
「……それが無いと生きていけない」
「…」
「空気じゃ不満か?」
「いや、……最高」
「…」
「水鏡」
「?」
「愛してるよ」
END
それは突然の台詞。
リビングで寛いでいると、何を思ったのか烈火は水鏡にすり寄った。
「…………はあ?」
「聞きてぇなぁ……口説かれてぇー」
あきれた顔を見せるが、なおもしつこく懐いてくる。
「馬鹿かお前。絶対嫌だ」
が、「口説いて」と言われて口説くなんて嫌だ。
水鏡は腕に絡み付いてくる烈火の腕を引き剥がしつつ、きっぱりと伝えた。
「絶対って……」
「……」
水鏡の言った「絶対」がとっても気持ちの入ったそれであったのに、烈火は少し頭を下げる。
しかし、すぐに立ち直りもう一度水鏡の顔に近づいた。
「じゃあ、キスして」
「嫌だ」
「どーして即答すんだよっ!」
「意味がないだろ」
意味無くなんてない!烈火は水鏡とのキスに対する熱い気持ちを語り始める。
だがもちろん水鏡は聞く耳を持ってはいないので、見事に烈火の空回りで。
烈火はそれに気がついたのか次第に口調も弱くなり、ついには黙ってしまう。
「……」
その烈火の余りの落ち込み様に水鏡は、キスぐらいしてやればよかったかもしれないと考えた。
でも、嫌だったのは本当。
「じゃあ」ですることなんて結局はそんなものだから。
所詮は言葉一つの問題、水鏡もキスが嫌だったわけじゃない。「じゃあ」の行為になることが嫌だったのだ。
それだけの話。
水鏡はそれを烈火に伝えようと、口を開いた。
「烈……」
「じゃあ、セックスしよう」
「死ね」
最低だ。
水鏡が無言になってから相当な時間が経っていた。
張り付いていたケダモノを引き剥がし、蹴り倒し今の状況に至る。
烈火から水鏡までの距離は、手を伸ばしても寝転がっても届かない…。
(言い過ぎた…)
後悔しているのは烈火。
先ほどから何度水鏡に話しかけても反応は無く、話す言葉も既に烈火の独り言のようだった。
暇だったから水鏡をからかうつもりで言ったその言葉、彼には冗談では通じなかった。
何であんなに怒ったのか烈火には分からないがきっと、水鏡に言ってはいけない言葉だったのかもしれない。
それぐらいは分かる。
「なぁ…」
「…」
「なぁ、水鏡」
「…」
「ねぇってば!」
「…」
「ねぇ、水鏡!」
「…」
うるさい。の一言もないのは、水鏡の怒りが相当だから。
(…あーもう、……無理…)
どんなに喧嘩しても、怒鳴りあってもいい。ただ無視され続けるのは本当に辛いから…。
「…………ごめん、って…」
「…」
しばらく頭を下げたまま黙ることにした。
下げた頭に水鏡の視線を感じても上げずに、その視線が逸らされるまでそのままで。
「…」
「…ねぇ、水鏡」
「…」
「聞きたいことが…」
「うるさい」
「(嬉)」
「…」
「水鏡にとってさ、俺って何?」
「(何言い出すんだコイツ)」
脈略が無さ過ぎるのは今に始まったことではないが、その質問がどこから出てくるのか…。
水鏡はいつも不思議だった。
「俺ってどんな存在?」
「…」
「聞かせて」
「…」
顔を上げる烈火。その表情は水鏡がたまに見る、自分を逃がしてくれない真剣な瞳で。
いや待て、…どうしてお前がそんな顔をするんだ。
「俺ね、つくづく思うんだけど…」
「?」
「お前と俺の温度差って…果てしないよな…」
「温度差…」
「そうそう、俺はこんなに好きなのに…」
お前からはちっとも。
「…」
「…」
「そうだな…」
「?」
「僕にとって、お前は」
「うんうん」
「空気」
「空気?!」
「そう」
「…それって、悪いことじゃねーの…?」
「さあ?」
「空気…」
水鏡は両手両膝をついた四つ馬で離れている烈火に近づき、肩に手をかける。
もちろん烈火はそれに応じ、自分の膝の上に水鏡を乗せる形をとった。
長い水鏡の髪に指を滑り込ませ、やわらかい感触を味わう。
「あって、当然」
「うわ…」
「気がつかないけど、そばにあるだろ」
「…」
「…」
「それって普段はどうとも思ってないってことだろ」
「アホ、黙って聞け」
「アホ…」
水鏡は手を肩から首に移動させ、烈火の肌に触れる。
いつも触れる、その肌に。
「でも…」
「…」
「無くては駄目なもの」
「…っ水鏡…?」
「…」
「口説いてくれてんの?」
「黙れ」
「はいはい」
「…空気は、無くならないと気がつかないだろ」
「ん…」
「それに…」
「それに?」
「……それが無いと生きていけない」
「…」
「空気じゃ不満か?」
「いや、……最高」
「…」
「水鏡」
「?」
「愛してるよ」
END
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