第八章

「りっちゃん、よかった、刺された傷、だいぶよくなったんだね」


「うん。

…紗奈、優しく看病してくれたしね」

「へへ…」

「ん…それじゃ…。

…事件も解決したし…。

お別れだね」


「えっ…お別れ…?」

「…うん。

ラビが言うには、こっちの世界にはこっちの世界の僕もいるし、

僕がここにいると、どんどん世界が歪んじゃうらしくて…。


紗奈にも、あまりよくない影響がでる可能性もあるらしいから…」


「……」


「僕は、元の世界に、戻るね。

…もう一生会えなくなる訳じゃないと思うけど…」

「……」

そう言うと、りっちゃんはさみしそうにほほえんだ。


「…りっちゃん、ありがとう。…助けに、来てくれて…」


私の瞳から、涙がぽろぽろと零れ落ちた。


「…!

……紗奈…」


ぎゅう…っと抱きしめてくるりっちゃん。



「…りっちゃん…」



「さな…。さな…。

本当に…本当に元気で…」



「…うん…。

りっちゃんも、元気で…」



「……。


やっぱりパラレルワールドっていっても…

自分の世界で愛した人に…惹かれないわけはないんだよね…」


「……」

「……」






「ねえ、こっちの世界の僕と”僕”ってなんか違ったりする?」


りっちゃんは抱きしめていた腕をそっと離すと、

私を見つめてそういった。



「う、うーん…。


なんだかあなたは、こっちのりっちゃんより男らしい感じするな。


近い世界だって言ってたけど、なにか違うことあるのかな?」



「えっ…?

どうだろう…。


こっちの律は学生で、僕は働いてて、社会を知ってるから…とか?」



「え、きっとあれだよ、あれあれ!

紗奈ちゃんと両想いだったからじゃないかなー?


大好きな人と両想いになれれば、自信も出るし、パワー出せるし

大好きな人をもっと幸せに、って、守れるようにってこころも強くなっていくもの…って

契約しそこねた誰かが言ってたよ♪あは」


「両想い…か…」

「……」


「…そうかも、しれないね」

りっちゃんはつぶやくように、そう言った。







「契約…そうだ報酬もらわなきゃねー」

「えっ…

そういえば、魂の半分ってなに?」



「んー魂半分って、別に何にもできないんだよね。


だからさしあたって今日のところは…」


そういうとラビはわたしに近づき、


私の頬にキスをした。


「え…え…」



りっちゃんはちょっとムスっとしていたが、

助けてもらったのは確かだし、

魂を取られるよりは…と思ったのか何も言わなかった。



「こ、こんなのでいいの?」


「とりあえずは、ね」



「あ、で、でも、ラビ…

りっちゃんは…」



「律も実は魂半分契約なんだよね~」

「えっ!?

そうなの!?」


「うん。

だって律の最初の願いは”時間を巻き戻してほしい”だったからね」


(そ、そういえば、そんなこと言ってた気が…)


「だから、今のところ

律からの報酬はー」


「報酬は…」


「僕の大好物のお菓子だよ♪

人間界にしかないんだよね♪あはっ」


「ふ、ふーん…そうなんだ」







「それじゃ、そろそろいこうか、律」

「…そうだね」


「それじゃ、またね。紗奈ちゃん

ばいばーい」

ラビスは明るくそういったが、

りっちゃんは切なそうにこちらを見つめただけで、

特に声をかけてくることはなかった。


やがてりっちゃんとラビは、私の目の前から、すぅっ…と姿を消していく…。


「ありがとう、りっちゃん。

ありがとう…ラビス……」








…そんな感じで今回の事件は解決したのだけれど、

ラビが人間界にいる限り

また”不思議”とは出会いそう…。


…きっとパラレルのりっちゃんとも…。

……。



…それにしてもりっちゃんと恋人同士ってパターン、多いな…。


なんだかちょっとだけ、意識してしまった…かも…?






第二部【完】
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