短編
お名前変換はこちらから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【暇つぶし】
ヒマだったので、サーカスの森にやってきた私。
いつもカードの相手をしてくれるホワイトさんに会うためだ。
道化の格好の見慣れた後ろ姿。
駆け寄って声をかける。
「ホワイトさん、こんにちは!」
彼はゆっくりと振り向いて私を見た。
「……あぁ?」
あぁ?って、なんか雰囲気が……。
「んだよ、名無しさんか。何しに来た」
そう言ったジョーカーはまさに上から目線というやつで、私を見下ろしている。
こ、これはどう考えても……
「……ブラックさん?」
おそるおそる尋ねた私に、彼はものすごーく悪い顔でにやりと笑った。
私は思わず顔が引きつってしまった。
「なんで? ホワイトさんは?」
「あいつは別の所で仕事だ。この俺に留守番を押しつけやがった。冗談じゃねーよな」
道化の格好をしているブラックさんはドカッと椅子に座りながらそう言った。
そしてちらりと私を見る。
「お前、あいつに会いに来たのかよ?」
「う、うん。カードしたいなぁと思って」
「けっ、ヒマだな」
吐き捨てるように言ったけれど、彼はちょいちょいと手招きをする。
「なに?」
「相手してやるって言ってんだよ」
「え?」
「カード」
「えぇ!? ブラックさんが!?」
意外な申し出にびっくりしていると、彼はにやりと笑った。
「お前をいじめて暇つぶしだ。今さら逃げんなよ、名無しさん」
「……」
ということで、初めてブラックさんとカードをすることになった。
ホワイトさんと瓜二つだけど、もう全然違う。
まず、威圧感がすごすぎる。とてもカードゲームというのどかな遊びをするとは思えない。
私はごくりと息を飲んだ。
そんな私の様子を見て、ブラックさんは楽しそうに笑う。
「勝負する前から結果が分かりきってるゲームってのもつまんねーな」
「なにそれ、どういう意味よ?」
「名無しさんのカードの弱さは異常だからな。少しハンデでもやろうかって言ってんだよ。俺、弱い奴嫌いだしな」
彼はそう言いながら、カードを切り始めた。
確かに私はホワイトさんとのカードゲームはたいてい負ける。
でも、ブラックさんとのカードゲームがどうなるかなんてまだわからない、はずだ。
「別にハンデなんていりません! っていうか、私が勝つかもしれないでしょ!?」
私がそう言うと、彼はカードを切っていた手を止めて私を見る。
「……それ、本気で言ってるとしたら、お前は相当馬鹿だな、名無しさん」
真面目な顔で言われて、腹が立つというか、唖然とした。
「ハンデがあろうがなかろうが、100回やったって俺が勝つぞ?」
「そうやって油断していると負けるのよ」
「ないね。俺はジョーカーとは違う。お前に情けをかけるような真似もしねぇよ」
彼はそう言ってカードを配り始める。
確かにこの人は、ホワイトさんとは違って容赦もなにもなさそうだ。
それから3回ほどゲームをしたけれど、もうあっというまに私が負けた。ものすごい差で負けた。
わなわなとふるえる私を、ブラックさんが呆れた目で見て言った。
「名無しさん……お前マジで弱いな。暇つぶしにもなんねぇぞ?」
「うぅ~!!!腹立つ!!!」
悔しい。悔しすぎる!!
なんでこんなにあっさり負けるの?
「ジョーカーは名無しさんとのゲームを盛り上げようと手加減してたみたいだからな」
私の心を読んだかのようにブラックさんが言った。
「俺はそんなことしねぇぞ? お前のレベルに合わせるなんてめんどくせぇ」
「……ブラックさんてほんと意地悪」
「手加減してお前に希望を持たせときながら、最終的には勝つっていうジョーカーの方が意地が悪いだろ」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
思わず納得しかけた時、
ブラックさんは「俺よりもあいつのがねじまがってんだよ」とつまらなそうに言った。
「名無しさん。お前、ほんと見る目ねーな」
「悪かったわね。っていうかなんでそんな話になるの。もう一回やろう!!」
むっとしながらそう言うと、彼はため息をついてからこう言った。
「何回やっても同じだろ。大体名無しさんは顔に出すぎなんだよ。前から言われてんのに、ばっかじゃねーの?」
「くぅ~~!!もううるさいなっ!!」
そう叫んだ時だった。
ブラックさんが手を伸ばしてきたかと思うと、私の顎を片手で包むようにしながら、ほっぺたをぐいっと掴んできた。
「うるさいのはお前の方だ、バーカ」
そう言ってじっと私を見る。
ときめきとは程遠いこの言動。一体なんなんですかこの人ほんとに。
「い、いじめっ子……!!」
「あぁん? なんだって?」
彼はそう言って、りんごを握りつぶすかのように私のほっぺを片手でぎゅっと掴んできた。
痛くはないけど、ものすごい顔になっているであろうことが精神的に痛い。
「な、なんでもないですごめんなさい離してください」
とりあえずそう言うと、彼は手を離し今度はそっと私の頬に触れる。
そして、がしりと肩を掴んできたかと思うと、そのまま顔を近づけてきた。
「え、わ、ちょっ……!?」
じたばたする私をがっちりとホールドしたまま、彼はじっと私を見つめた。
なにこの流れ。なんですか!?
動揺しすぎて顔が熱くなる。
ブラックさんはしばらく私をじっと見つめてからこう言った。
「おもしれぇ」
「……は?」
彼の言葉にぴたりと止まる私。
「名無しさん……お前、ほんと全部顔にでるのな」
すげー真っ赤、とつぶやいて笑う彼に思いっきりドキリとした。
私はほっぺに触れる彼の手を振りほどくと、距離を取った。
恥ずかしくてどうしていいのかわからないけど、ブラックさんの視線を痛いほど感じる。
もうだめだ、耐えられない。
照れ隠しに私はキッと彼を睨みつけた。
「もう顔には出さないから!!次は勝つ!!」
なんとかそう言った私とは対照的に、余裕の表情でブラックさんは私を見て言った。
「無理だろ」
しれっと放たれた一言に、むっとしてしまう。
「無理ってやってみなきゃわかんないでしょ」
「さっきから色々と顔に出てるんだよ、お前。悔しがったり、照れたり、怒ったり……忙しい奴だな」
ブラックさんは机に散らばったカードを集めながら、そう言った。
確かにさっきから振り回されっぱなしの私は、その感情を隠すことなく全部彼に叩きつけている。
悔しいけど言い返せない。
黙り込んだ私をちらりと見て、ブラックさんは言った。
「まぁ、お前の気が済むまで付き合ってやるよ。どーせ俺が勝つけど」
カードを切りながら言うブラックさん。
なんだかんだ付き合ってくれるらしい。
怖いけど、そこまで悪い人でもないのかもしれない。
「私が勝つまでやるからね?」
「それじゃあ終わらねーだろ」
「ブラックさんが『飽きたからやめる』って言っても私の勝ちだよ」
「俺にカードで勝てないこと前提だな、その発言」
「いいの。楽しくゲームできれば」
「おめでたい奴だな、名無しさん」
そう言って小さく笑うブラックさんの表情が、これまでよりもちょっと穏やかに見えてなんだか嬉しくなった。
ヒマだったので、サーカスの森にやってきた私。
いつもカードの相手をしてくれるホワイトさんに会うためだ。
道化の格好の見慣れた後ろ姿。
駆け寄って声をかける。
「ホワイトさん、こんにちは!」
彼はゆっくりと振り向いて私を見た。
「……あぁ?」
あぁ?って、なんか雰囲気が……。
「んだよ、名無しさんか。何しに来た」
そう言ったジョーカーはまさに上から目線というやつで、私を見下ろしている。
こ、これはどう考えても……
「……ブラックさん?」
おそるおそる尋ねた私に、彼はものすごーく悪い顔でにやりと笑った。
私は思わず顔が引きつってしまった。
「なんで? ホワイトさんは?」
「あいつは別の所で仕事だ。この俺に留守番を押しつけやがった。冗談じゃねーよな」
道化の格好をしているブラックさんはドカッと椅子に座りながらそう言った。
そしてちらりと私を見る。
「お前、あいつに会いに来たのかよ?」
「う、うん。カードしたいなぁと思って」
「けっ、ヒマだな」
吐き捨てるように言ったけれど、彼はちょいちょいと手招きをする。
「なに?」
「相手してやるって言ってんだよ」
「え?」
「カード」
「えぇ!? ブラックさんが!?」
意外な申し出にびっくりしていると、彼はにやりと笑った。
「お前をいじめて暇つぶしだ。今さら逃げんなよ、名無しさん」
「……」
ということで、初めてブラックさんとカードをすることになった。
ホワイトさんと瓜二つだけど、もう全然違う。
まず、威圧感がすごすぎる。とてもカードゲームというのどかな遊びをするとは思えない。
私はごくりと息を飲んだ。
そんな私の様子を見て、ブラックさんは楽しそうに笑う。
「勝負する前から結果が分かりきってるゲームってのもつまんねーな」
「なにそれ、どういう意味よ?」
「名無しさんのカードの弱さは異常だからな。少しハンデでもやろうかって言ってんだよ。俺、弱い奴嫌いだしな」
彼はそう言いながら、カードを切り始めた。
確かに私はホワイトさんとのカードゲームはたいてい負ける。
でも、ブラックさんとのカードゲームがどうなるかなんてまだわからない、はずだ。
「別にハンデなんていりません! っていうか、私が勝つかもしれないでしょ!?」
私がそう言うと、彼はカードを切っていた手を止めて私を見る。
「……それ、本気で言ってるとしたら、お前は相当馬鹿だな、名無しさん」
真面目な顔で言われて、腹が立つというか、唖然とした。
「ハンデがあろうがなかろうが、100回やったって俺が勝つぞ?」
「そうやって油断していると負けるのよ」
「ないね。俺はジョーカーとは違う。お前に情けをかけるような真似もしねぇよ」
彼はそう言ってカードを配り始める。
確かにこの人は、ホワイトさんとは違って容赦もなにもなさそうだ。
それから3回ほどゲームをしたけれど、もうあっというまに私が負けた。ものすごい差で負けた。
わなわなとふるえる私を、ブラックさんが呆れた目で見て言った。
「名無しさん……お前マジで弱いな。暇つぶしにもなんねぇぞ?」
「うぅ~!!!腹立つ!!!」
悔しい。悔しすぎる!!
なんでこんなにあっさり負けるの?
「ジョーカーは名無しさんとのゲームを盛り上げようと手加減してたみたいだからな」
私の心を読んだかのようにブラックさんが言った。
「俺はそんなことしねぇぞ? お前のレベルに合わせるなんてめんどくせぇ」
「……ブラックさんてほんと意地悪」
「手加減してお前に希望を持たせときながら、最終的には勝つっていうジョーカーの方が意地が悪いだろ」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
思わず納得しかけた時、
ブラックさんは「俺よりもあいつのがねじまがってんだよ」とつまらなそうに言った。
「名無しさん。お前、ほんと見る目ねーな」
「悪かったわね。っていうかなんでそんな話になるの。もう一回やろう!!」
むっとしながらそう言うと、彼はため息をついてからこう言った。
「何回やっても同じだろ。大体名無しさんは顔に出すぎなんだよ。前から言われてんのに、ばっかじゃねーの?」
「くぅ~~!!もううるさいなっ!!」
そう叫んだ時だった。
ブラックさんが手を伸ばしてきたかと思うと、私の顎を片手で包むようにしながら、ほっぺたをぐいっと掴んできた。
「うるさいのはお前の方だ、バーカ」
そう言ってじっと私を見る。
ときめきとは程遠いこの言動。一体なんなんですかこの人ほんとに。
「い、いじめっ子……!!」
「あぁん? なんだって?」
彼はそう言って、りんごを握りつぶすかのように私のほっぺを片手でぎゅっと掴んできた。
痛くはないけど、ものすごい顔になっているであろうことが精神的に痛い。
「な、なんでもないですごめんなさい離してください」
とりあえずそう言うと、彼は手を離し今度はそっと私の頬に触れる。
そして、がしりと肩を掴んできたかと思うと、そのまま顔を近づけてきた。
「え、わ、ちょっ……!?」
じたばたする私をがっちりとホールドしたまま、彼はじっと私を見つめた。
なにこの流れ。なんですか!?
動揺しすぎて顔が熱くなる。
ブラックさんはしばらく私をじっと見つめてからこう言った。
「おもしれぇ」
「……は?」
彼の言葉にぴたりと止まる私。
「名無しさん……お前、ほんと全部顔にでるのな」
すげー真っ赤、とつぶやいて笑う彼に思いっきりドキリとした。
私はほっぺに触れる彼の手を振りほどくと、距離を取った。
恥ずかしくてどうしていいのかわからないけど、ブラックさんの視線を痛いほど感じる。
もうだめだ、耐えられない。
照れ隠しに私はキッと彼を睨みつけた。
「もう顔には出さないから!!次は勝つ!!」
なんとかそう言った私とは対照的に、余裕の表情でブラックさんは私を見て言った。
「無理だろ」
しれっと放たれた一言に、むっとしてしまう。
「無理ってやってみなきゃわかんないでしょ」
「さっきから色々と顔に出てるんだよ、お前。悔しがったり、照れたり、怒ったり……忙しい奴だな」
ブラックさんは机に散らばったカードを集めながら、そう言った。
確かにさっきから振り回されっぱなしの私は、その感情を隠すことなく全部彼に叩きつけている。
悔しいけど言い返せない。
黙り込んだ私をちらりと見て、ブラックさんは言った。
「まぁ、お前の気が済むまで付き合ってやるよ。どーせ俺が勝つけど」
カードを切りながら言うブラックさん。
なんだかんだ付き合ってくれるらしい。
怖いけど、そこまで悪い人でもないのかもしれない。
「私が勝つまでやるからね?」
「それじゃあ終わらねーだろ」
「ブラックさんが『飽きたからやめる』って言っても私の勝ちだよ」
「俺にカードで勝てないこと前提だな、その発言」
「いいの。楽しくゲームできれば」
「おめでたい奴だな、名無しさん」
そう言って小さく笑うブラックさんの表情が、これまでよりもちょっと穏やかに見えてなんだか嬉しくなった。