短編2
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【帽子屋屋敷 門前】
帽子屋屋敷の門前で、ものすごーく不審な人物を発見した。
きょろきょろと辺りを見回しながら、歩いてくる。
こういう時に限って門番である双子はどこかへ遊びに行っている。
怖いからとりあえず屋敷の中に戻ろうと思ったけれど、よく見るとその不審者が知り合いであることに気づいた。
「……ピアス?」
「あー!名無しさんだ!!名無しさん―!!」
彼は私に気づくと、だだだだーっと駆け寄ってきた。
「あぁよかった、よかったよ! 名無しさんに会えて本当に良かったよー!俺、もうドキドキしすぎて倒れるかと思ってたんだ!!」
ピアスは私の手を掴んで、上下にぶんぶん振りながらそんなことを言った。
挨拶もなしにいきなりそんな行動に出られると、こちらとしては全く対応できない。
しかし、ピアスはそんな私の思いに気づく様子など全くない。
ほっとしたような嬉しそうな表情でにこにこしながら、ぎゅっと私の手を掴んで、ばーっとしゃべる。
「俺、帽子屋屋敷に来るのすっごく久しぶりだし、意地悪双子がいたらどうしようとか、ボスにまた呆れた目で見られたらやだな、とか色々考えていたんだよ!」
「え、えぇと、とりあえずこんにちは、ピアス」
「うん、久しぶりだね、名無しさん! 元気だった?俺はね、すごく元気だったよ」
大きな目で私を見つめて、にへらっと笑う彼に毒気を抜かれる。
彼の行動がトンチンカンだとしても、まぁいいかな、こういう子だし可愛いし、なんて思ってしまう。
「久しぶりに名無しさんに会えたから、ちゅうしたいよ。ちゅうちゅう!」
「いや、うん、それはやめてもらおうか」
苦笑しつつ、くっついてくる彼を引っぺがす。
ピアスは不満そうな顔をしつつも、大人しく私から離れた。
「それよりも、どうしたの?ピアスがここに来るなんて珍しいね?」
「あー、そうだった。あのね、俺、呼ばれたんだ。仕事でボスに呼ばれたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、いつもは現場に呼ばれるんだけど、今日は屋敷に来いって言われたんだ。もしかして、屋敷で何か掃除が必要なのかな?
名無しさん、何か知ってる?」
「知らない。っていうか、屋敷の中でピアスの仕事が必要な状況になってたらすごく嫌だよ」
居候とはいえ、住んでいる場所にピアスのような「掃除屋」が来るのは絶対に嫌だ。
「うん、そうだよね。怖いもんね。でも名無しさんが怖いものを見なくても済むように、俺仕事をがんばるよ!」
「いや、だから今屋敷の中は掃除なんて必要ないんだってば」
「えぇ?それじゃあなんで俺呼ばれたの?」
「それを聞きに、これからブラッドの所へ行くんでしょ?」
「あぁ、そうか。うん、そうだね」
彼はそう言ってうなずいた。(ほんと、この子の扱いは疲れるなぁ)
「でもさ、ボスは紅茶派だから俺すごく不安なんだ。珈琲を飲む俺をすごく嫌そうな目で見るんだよ。
それにあの双子のいじめっこは俺を見た瞬間、刃物を持って追いかけてくるし」
「……大変だねぇ」
としか言えない。
「だから名無しさんに1番に会えて本当に良かった。俺、エリーちゃんか名無しさんに会えたらいいなって思ってたんだ」
「エリーちゃんって……もしかしてエリオット?」
「うん、エリーちゃん。エリーちゃんは俺のこといじめないし、ウサギさんて可愛いから好きなんだ。ウサギは良いよね、俺ぺタちゃんも好きだよ」
ピアスはにこにこと笑ってそう言った。
まぁ、確かにエリオットは可愛いけど……(ペタちゃんてまさかペーターさん?)
「ピアス、エリーちゃんって呼んでるの?」
「え?うん、そうだよ。エリーちゃん。かわいいよね!あ、でも名無しさんの方が可愛くて好きだよ?」
だからちゅうしたいのになぁ、と近づくピアスを肘で押し返した時だった。
「おー、いたいた。ピアス、さっさと入ってこいよ。ブラッドがずーっと待ってるんだぜ」
はっと振り向くと、エリオットが歩いてきた。
「あー!!エリーちゃんだー!」
叫ぶピアスに、エリオットはがくっと右肩を落としてみせる。
「誰がエリーちゃんだ。気持ち悪い」
「エリーちゃん、俺、なんでここに呼ばれたの? この中で仕事すればいいの?」
「屋敷内にお前の仕事はねぇよ。いいから来いって」
「えー、今教えてほしいのに」
「名無しさんの前で話せるわけねぇだろ」
わーわー言うピアスに、エリオットが呆れたようにため息をついた。
「え、あ、そっか。そうだね。きっとバラバラになったやつを掃除するとかそういう話なんだね。
あ、それともバラバラにしてどこかに運ぶとかかな? 名無しさんには聞かせたら可哀想。可哀想だよ」
ピアスは可哀想、とか言いながら全部しっかりと言ってくれた。
顔をしかめる私に、エリオットも深ーいため息をつく。
「はぁ……。お前、ほんと相変わらずだな」
「うん。俺相変わらず元気だよ?」
「……」
「……」
エリオットを見上げて笑うピアスに、エリオットはもちろん私も言葉を失った。
何とも言えない表情でピアスを見下ろしていたエリオットは、全てをあきらめたようにつぶやいた。
「……そっか、そりゃよかったな」
「うん!エリーちゃんも元気そうだね!よかった!」
「……そうだな」
力なく答えるエリオットに、ピアスはにこにこしつつ首を傾げる。
「大人の対応だね、エリオット」
「つーか相手にするのが面倒なんだよ」
こそこそっと言った私に、エリオットは苦笑しながらこそこそっと答える。
すると、そんな私達の様子を見てから、ピアスはにぱっと笑った。
「いいないいな! 2人とも仲よさそう!!俺も仲良くしたいよ!」
そう言いながら彼は私とエリオットの間に割って入ってきた。
私とエリオットの腕をがしりと掴むピアス。
「わ!?」
急に腕を引っ張られて、私はよろけそうになる。
しかし、一方のエリオットは平然と立ったままピアスをじろりと見て言った。
「お前……ほんと面倒なタイプだよな」
「ぴ!?」
「『ぴ?』じゃねぇよ。さっさと歩け。ブラッドを待たせてんだ。行くぞ」
ピアスを引きずるようにして歩き出すエリオット。
「エリーちゃん、ひっぱらないでよ」
「お前が俺の腕を掴んでるんだろ。離れろ」
「やだよ、名無しさんとエリーちゃんと一緒に歩きたいよ。もっとゆっくり歩いてよ。名無しさんだって大変だよ」
そう言ったピアスの言葉にエリオットがぱっと振り返る。
「……あの、私も一緒に引きずられてるので……」
そっと言ってみた。
エリオットを掴むピアスは、私のこともしっかりと掴んでいたので、私も一緒になって引きずられていたのだ。
ピアスと私を引きずって歩くエリオットがすごいと思う。
「うわ、悪い名無しさん!! っていうかピアス、てめぇ名無しさんを離せ!」
「ぴ!?」
「ぴ、じゃねぇって言ってんだよ!」
「な、なんで怒るの?エリーちゃん、なんだか急に機嫌悪いね?」
「うるせー。とにかく名無しさんから離れろって!」
私をピアスから離そうとするエリオット。
私から離れまいとするピアス。
いつのまにか私を中心に、わーわーやりとりが始まってしまった。
「2人とも……あんまり待たせると、ブラッドが怒るよ?」
あきれ果ててそう言うと、2人はぴたりと止まった。
「やっべ!そうだ!ブラッドを待たせるなんてダメだ!」
「俺、ボスに怒られるのは嫌だ、嫌だよ」
2人はそう言って、私からぱっと離れた。
「悪かったな、名無しさん!」
「名無しさん、あとで遊ぼう!帰りに名無しさんの所に行くからね!」
そう言い残して、彼らはだーっと屋敷に向かって歩き出した。
「……はぁ」
なんだかドタバタだったなぁと思いながら2人を見送ると、不意に後ろから声をかけられた。
「あれ、名無しさん。こんな所でどうしたの?」
「ちょうどよかった、今ね、僕ら街で良いものを見つけてきたんだよ!」
振り返ると、機嫌よさそうに笑うディーとダムがいつの間にか立っていた。
嬉々として話し出す彼らに「……帰ってきちゃったんだねぇ」と思わずつぶやいてしまった。
待ち受けるピアスの受難が目に浮かび、思わず苦笑する私だった。
帽子屋屋敷の門前で、ものすごーく不審な人物を発見した。
きょろきょろと辺りを見回しながら、歩いてくる。
こういう時に限って門番である双子はどこかへ遊びに行っている。
怖いからとりあえず屋敷の中に戻ろうと思ったけれど、よく見るとその不審者が知り合いであることに気づいた。
「……ピアス?」
「あー!名無しさんだ!!名無しさん―!!」
彼は私に気づくと、だだだだーっと駆け寄ってきた。
「あぁよかった、よかったよ! 名無しさんに会えて本当に良かったよー!俺、もうドキドキしすぎて倒れるかと思ってたんだ!!」
ピアスは私の手を掴んで、上下にぶんぶん振りながらそんなことを言った。
挨拶もなしにいきなりそんな行動に出られると、こちらとしては全く対応できない。
しかし、ピアスはそんな私の思いに気づく様子など全くない。
ほっとしたような嬉しそうな表情でにこにこしながら、ぎゅっと私の手を掴んで、ばーっとしゃべる。
「俺、帽子屋屋敷に来るのすっごく久しぶりだし、意地悪双子がいたらどうしようとか、ボスにまた呆れた目で見られたらやだな、とか色々考えていたんだよ!」
「え、えぇと、とりあえずこんにちは、ピアス」
「うん、久しぶりだね、名無しさん! 元気だった?俺はね、すごく元気だったよ」
大きな目で私を見つめて、にへらっと笑う彼に毒気を抜かれる。
彼の行動がトンチンカンだとしても、まぁいいかな、こういう子だし可愛いし、なんて思ってしまう。
「久しぶりに名無しさんに会えたから、ちゅうしたいよ。ちゅうちゅう!」
「いや、うん、それはやめてもらおうか」
苦笑しつつ、くっついてくる彼を引っぺがす。
ピアスは不満そうな顔をしつつも、大人しく私から離れた。
「それよりも、どうしたの?ピアスがここに来るなんて珍しいね?」
「あー、そうだった。あのね、俺、呼ばれたんだ。仕事でボスに呼ばれたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、いつもは現場に呼ばれるんだけど、今日は屋敷に来いって言われたんだ。もしかして、屋敷で何か掃除が必要なのかな?
名無しさん、何か知ってる?」
「知らない。っていうか、屋敷の中でピアスの仕事が必要な状況になってたらすごく嫌だよ」
居候とはいえ、住んでいる場所にピアスのような「掃除屋」が来るのは絶対に嫌だ。
「うん、そうだよね。怖いもんね。でも名無しさんが怖いものを見なくても済むように、俺仕事をがんばるよ!」
「いや、だから今屋敷の中は掃除なんて必要ないんだってば」
「えぇ?それじゃあなんで俺呼ばれたの?」
「それを聞きに、これからブラッドの所へ行くんでしょ?」
「あぁ、そうか。うん、そうだね」
彼はそう言ってうなずいた。(ほんと、この子の扱いは疲れるなぁ)
「でもさ、ボスは紅茶派だから俺すごく不安なんだ。珈琲を飲む俺をすごく嫌そうな目で見るんだよ。
それにあの双子のいじめっこは俺を見た瞬間、刃物を持って追いかけてくるし」
「……大変だねぇ」
としか言えない。
「だから名無しさんに1番に会えて本当に良かった。俺、エリーちゃんか名無しさんに会えたらいいなって思ってたんだ」
「エリーちゃんって……もしかしてエリオット?」
「うん、エリーちゃん。エリーちゃんは俺のこといじめないし、ウサギさんて可愛いから好きなんだ。ウサギは良いよね、俺ぺタちゃんも好きだよ」
ピアスはにこにこと笑ってそう言った。
まぁ、確かにエリオットは可愛いけど……(ペタちゃんてまさかペーターさん?)
「ピアス、エリーちゃんって呼んでるの?」
「え?うん、そうだよ。エリーちゃん。かわいいよね!あ、でも名無しさんの方が可愛くて好きだよ?」
だからちゅうしたいのになぁ、と近づくピアスを肘で押し返した時だった。
「おー、いたいた。ピアス、さっさと入ってこいよ。ブラッドがずーっと待ってるんだぜ」
はっと振り向くと、エリオットが歩いてきた。
「あー!!エリーちゃんだー!」
叫ぶピアスに、エリオットはがくっと右肩を落としてみせる。
「誰がエリーちゃんだ。気持ち悪い」
「エリーちゃん、俺、なんでここに呼ばれたの? この中で仕事すればいいの?」
「屋敷内にお前の仕事はねぇよ。いいから来いって」
「えー、今教えてほしいのに」
「名無しさんの前で話せるわけねぇだろ」
わーわー言うピアスに、エリオットが呆れたようにため息をついた。
「え、あ、そっか。そうだね。きっとバラバラになったやつを掃除するとかそういう話なんだね。
あ、それともバラバラにしてどこかに運ぶとかかな? 名無しさんには聞かせたら可哀想。可哀想だよ」
ピアスは可哀想、とか言いながら全部しっかりと言ってくれた。
顔をしかめる私に、エリオットも深ーいため息をつく。
「はぁ……。お前、ほんと相変わらずだな」
「うん。俺相変わらず元気だよ?」
「……」
「……」
エリオットを見上げて笑うピアスに、エリオットはもちろん私も言葉を失った。
何とも言えない表情でピアスを見下ろしていたエリオットは、全てをあきらめたようにつぶやいた。
「……そっか、そりゃよかったな」
「うん!エリーちゃんも元気そうだね!よかった!」
「……そうだな」
力なく答えるエリオットに、ピアスはにこにこしつつ首を傾げる。
「大人の対応だね、エリオット」
「つーか相手にするのが面倒なんだよ」
こそこそっと言った私に、エリオットは苦笑しながらこそこそっと答える。
すると、そんな私達の様子を見てから、ピアスはにぱっと笑った。
「いいないいな! 2人とも仲よさそう!!俺も仲良くしたいよ!」
そう言いながら彼は私とエリオットの間に割って入ってきた。
私とエリオットの腕をがしりと掴むピアス。
「わ!?」
急に腕を引っ張られて、私はよろけそうになる。
しかし、一方のエリオットは平然と立ったままピアスをじろりと見て言った。
「お前……ほんと面倒なタイプだよな」
「ぴ!?」
「『ぴ?』じゃねぇよ。さっさと歩け。ブラッドを待たせてんだ。行くぞ」
ピアスを引きずるようにして歩き出すエリオット。
「エリーちゃん、ひっぱらないでよ」
「お前が俺の腕を掴んでるんだろ。離れろ」
「やだよ、名無しさんとエリーちゃんと一緒に歩きたいよ。もっとゆっくり歩いてよ。名無しさんだって大変だよ」
そう言ったピアスの言葉にエリオットがぱっと振り返る。
「……あの、私も一緒に引きずられてるので……」
そっと言ってみた。
エリオットを掴むピアスは、私のこともしっかりと掴んでいたので、私も一緒になって引きずられていたのだ。
ピアスと私を引きずって歩くエリオットがすごいと思う。
「うわ、悪い名無しさん!! っていうかピアス、てめぇ名無しさんを離せ!」
「ぴ!?」
「ぴ、じゃねぇって言ってんだよ!」
「な、なんで怒るの?エリーちゃん、なんだか急に機嫌悪いね?」
「うるせー。とにかく名無しさんから離れろって!」
私をピアスから離そうとするエリオット。
私から離れまいとするピアス。
いつのまにか私を中心に、わーわーやりとりが始まってしまった。
「2人とも……あんまり待たせると、ブラッドが怒るよ?」
あきれ果ててそう言うと、2人はぴたりと止まった。
「やっべ!そうだ!ブラッドを待たせるなんてダメだ!」
「俺、ボスに怒られるのは嫌だ、嫌だよ」
2人はそう言って、私からぱっと離れた。
「悪かったな、名無しさん!」
「名無しさん、あとで遊ぼう!帰りに名無しさんの所に行くからね!」
そう言い残して、彼らはだーっと屋敷に向かって歩き出した。
「……はぁ」
なんだかドタバタだったなぁと思いながら2人を見送ると、不意に後ろから声をかけられた。
「あれ、名無しさん。こんな所でどうしたの?」
「ちょうどよかった、今ね、僕ら街で良いものを見つけてきたんだよ!」
振り返ると、機嫌よさそうに笑うディーとダムがいつの間にか立っていた。
嬉々として話し出す彼らに「……帰ってきちゃったんだねぇ」と思わずつぶやいてしまった。
待ち受けるピアスの受難が目に浮かび、思わず苦笑する私だった。