アンケートお礼その2
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【7.ラミー】
時計塔に戻ってきたら、机の上に見慣れない箱が置いてあった。
「なにこの箱?」
仕事中のユリウスはちらりと視線だけ上げて私を見ると、手元に視線を落としながら答えた。
「もらい物だ。まだ開けていないが菓子のようだな」
「ふぅん……」
なんだろう?気になるなあ。
「開けてもいいぞ。というかお前しか食べないだろう」
ユリウスがきっぱりとそう言った。
なんでもお見通しの彼に苦笑しつつも、
「それじゃあお言葉に甘えて」
と箱を開けてみると、小粒のチョコレートがぎっしりと詰まっていた。
「うわー美味しそう!食べてもいいかな?あーでも……どうしよっかなぁ」
「……どうせ食べるなら、悩んでないでさっさと食べたらどうだ?」
呆れたように言うユリウスの一言に背中を押され、私は「じゃあ食べよう」と決めた。
それからしばらくして、ユリウスはふと名無しさんがとても静かなことに気づいた。
不思議に思い彼女を見ると、名無しさんは自分に背を向けて大人しくテーブルに向かっている。
「名無しさん?」
彼女がこんなにも静かだなんて珍しい。
寝てるのかとも思ったが、こんな短時間で、しかもお菓子を食べている最中に眠るなんて考えにくい。
心配になったユリウスが、彼女の様子を見ようと立ち上がった時だった。
「やぁ、ユリウス。お待たせ!」
そんな声と共に、エースがやってきた。
ユリウスは彼を見ると「あぁ、エースか」とつぶやく。
するとエースは首を傾げた。
「あれ、怒られないんだ?約束の時間帯をだいぶ過ぎちゃってるから、絶対にまずは怒られると思ったんだけど……」
そう言いつつもにこにこしているエースに、ユリウスはため息をついた。
「自覚があるなら、時間通りにきてくれ。まぁ、お前には無理だろうがな」
「はははっ!一応、俺なりに遅れないようにって気にしてるし、ユリウスのこと待たせたくないなーって思ってるんだぜ?思ってるんだけど、たどり着けないんだ。不思議だよなぁ」
からから笑うエースに、ユリウスは肩をすくめた。
「そういえば名無しさんは?」
エースはきょろきょろと辺りを見回しながらそう言った。
ユリウスはエースの疑問に答えるかのように、つかつかと大人しく座っている彼女に近づいてみた。
「おい、名無しさん」
そう言って彼女の顔を覗き込もうとした時だった。
「ユリウス?」
彼女がぱっと彼の方を振り向く。
そのせいで、顔と顔がものすごく近くなった。
ほんのり頬が赤く、目がうるんでいるように見える名無しさん。
「!?」
慌てて身を引くユリウスだったけれど、名無しさんは全く気にする様子がなく彼の腕を取ってこう言った。
「ねぇ、ユリウス。さんぽにいこう!」
「……は?」
「このままだと心配だもん。わたし、ユリウスがそのうちたおれるんじゃないかと思って、もうだめみたい」
突然そんなことを言う名無しさんにユリウスは顔をしかめた。
発言の内容も、話し方もおかしい。
しかし、エースが笑いながらこう言った。
「はははっ!そうだよなー、そのうち過労死しそうだもんな、ユリウスって」
「……」
「なんだよー、そう睨むなって!名無しさんに心配してもらえて羨ましいぜ!」
ユリウスはのんきなことを言うエースを睨みつけてから、考えを巡らせた。
名無しさんは訳の分からない奴だが、今はいつにも増しておかしい気がする。話に脈絡がなさすぎる。
そんなことを思いながら名無しさんを観察していると、彼女はさらにこう言った。
「あー、そういえばこの間外を歩いていたらね……」
急に話が変わり、ぺらぺらとしゃべりだす名無しさん。
かと思えば一人で大笑いし始める。
ユリウスとエースは名無しさんの様子に、顔を見合わせる。
そして、もう一度名無しさんを見た。
なんだか楽しそうに色々なことを喋りまくっている名無しさん。
「……名無しさん、お前なんでそんな……」
「なんかさ、今の名無しさんって酔っ払いみたいじゃない?」
エースの言葉に、ユリウスはぴくりと固まった。
「まさか……」
お菓子の箱を抱えている名無しさん。
彼女からひったくるようにして、ユリウスは箱を取り上げた。
非難の声を上げる彼女をじろりと睨みつけると、まじまじと箱を見る。
「……これか」
外箱のラベルを見ると、それは洋酒入りのチョコレートだった。
そんな大した量のアルコールは入っていないはずだが、今の彼女の状態はこのチョコレートが原因だとしか思えない。
「これ、すっごくおいしいよー。ユリウスもたべたら~?」
そう言って、ユリウスの持つ箱に手を伸ばす名無しさん。
ユリウスはすっと箱を上に持ち上げた。
「えー、なんで?」
不満そうに口を尖らす名無しさん。
はぁ、とため息をつくユリウス。
大人しくお菓子を食べているかと思えば、とんだ酔っ払いになっていた。
しかし、これはもしかすると自分の責任なのではないか?
アルコール入りの菓子だと確認していれば、名無しさんには食べさせなかっただろう。
……失敗したな。
そう反省するユリウスだったけれど、当の名無しさんはきょとんと彼を見上げるとへらへらっと笑った。
思わず脱力してしまうその顔に、ユリウスは何も言えなくなる。
するとその様子を見ていたエースが、横から口を挟んだ。
「女の子を酔わせるなんて、ユリウスやらしー」
「違う!!」
ニヤニヤ笑うエースに、ユリウスは間髪入れず反論した。
しかし、そんな反論も華麗にスルーしてしまうのがエース。
「俺が来なかったら、今頃何してたんだろうなー???」
「何もするわけないだろう。酔っ払いは完全放置だ」
するとその時だった。
「ユリウスはやらしくなんかないよ!」
突然名無しさんがそんなことを言いだした。
え?と固まるユリウスとエース。
「ユリウスがやらしいとか、そんなわけないでしょう? だってユリウスはね、すごく優しいんだから!冷たいけど優しいし、仕事ばっかりしてるから、やらしいこと考える余裕なんてないし、そんなの考えないに決まってるでしょ。大体わたしはそんなに胸があるわけじゃ……」
だーっと意味の分からない主張を始める名無しさんに、ユリウスとエースは一瞬言葉を失った。
しかし、エースがくすくすと笑いだす。
「名無しさんはわかってないなぁ。仕事ばかりしてようが胸がなかろうが男っていうのは……」
「エース!お前はもう黙ってろ」
「えー?でも、名無しさんにちゃんと真実を教えておかないといけないだろ?まぁユリウスの場合、ここまで信頼されてたら余計に手を出すなんてできないだろうけどね」
はははっ!と笑うエースを睨みつけるユリウス。
するとまるでユリウスを庇うかのように、名無しさんがこう言った。
「エースみたいにいつも笑ってる方が、何考えてるのかわからなくてやらしいの!」
「え、俺?」
突然のご指名にエースが目を丸くする。
「ってペーターさんが言ってた!」
「……白ウサギもたまにはまともなことを言うな」
「ペーターさんてば俺と長い付き合いなのに、全然俺のことわかってくれてないんだな」
そう言ってエースが口を尖らせる。
すると、名無しさんがこう続けた。
「ペーターさんはいつも正しいんだから。アリスのこと好きな気持ちも嘘じゃないし、エースのことやらしいっていうのも嘘じゃないし……」
「なんか嫌な評価だぜ」
「妥当な評価だろう」
そうこうしているうちに、名無しさんがだんだんと静かになってくる。
「ユリウスはしごとばっかりで……わたしは……」
段々と言葉が小さくなっていく。
そんな彼女をユリウスとエースはじっと見つめる。
「……すき……だけど……」
思いがけない言葉に固まるユリウスと、面白そうに名無しさんを見つめるエース。
「……かろうし……」
そう言いかけて名無しさんは、そのまま眠りに落ちて行った。
それを見届けたユリウスとエース。
「……」
「……」
机に伏して、すーすーと眠る名無しさんを彼らは数秒間眺めた。
口を開いたのはエースだった。
「……すごくない? 『過労死』って眠る人初めて見た」
「過労死なんてしないぞ、私は」
興味深そうに名無しさんを見るエースと、呆れ顔のユリウス。
「まぁ、いいじゃないか。名無しさんにそこまで心配されてるみたいだし、好かれてるみたいだし、ね?」
「……」
にこにこ笑うエースにユリウスは何も言わず、名無しさんの頭をぽんと撫でると仕事机に戻った。
目覚めた時、彼女はきっと覚えていないだろう。
何も言わずにこれまで通り接することを決めて、再び仕事を始めるユリウスだった。
時計塔に戻ってきたら、机の上に見慣れない箱が置いてあった。
「なにこの箱?」
仕事中のユリウスはちらりと視線だけ上げて私を見ると、手元に視線を落としながら答えた。
「もらい物だ。まだ開けていないが菓子のようだな」
「ふぅん……」
なんだろう?気になるなあ。
「開けてもいいぞ。というかお前しか食べないだろう」
ユリウスがきっぱりとそう言った。
なんでもお見通しの彼に苦笑しつつも、
「それじゃあお言葉に甘えて」
と箱を開けてみると、小粒のチョコレートがぎっしりと詰まっていた。
「うわー美味しそう!食べてもいいかな?あーでも……どうしよっかなぁ」
「……どうせ食べるなら、悩んでないでさっさと食べたらどうだ?」
呆れたように言うユリウスの一言に背中を押され、私は「じゃあ食べよう」と決めた。
それからしばらくして、ユリウスはふと名無しさんがとても静かなことに気づいた。
不思議に思い彼女を見ると、名無しさんは自分に背を向けて大人しくテーブルに向かっている。
「名無しさん?」
彼女がこんなにも静かだなんて珍しい。
寝てるのかとも思ったが、こんな短時間で、しかもお菓子を食べている最中に眠るなんて考えにくい。
心配になったユリウスが、彼女の様子を見ようと立ち上がった時だった。
「やぁ、ユリウス。お待たせ!」
そんな声と共に、エースがやってきた。
ユリウスは彼を見ると「あぁ、エースか」とつぶやく。
するとエースは首を傾げた。
「あれ、怒られないんだ?約束の時間帯をだいぶ過ぎちゃってるから、絶対にまずは怒られると思ったんだけど……」
そう言いつつもにこにこしているエースに、ユリウスはため息をついた。
「自覚があるなら、時間通りにきてくれ。まぁ、お前には無理だろうがな」
「はははっ!一応、俺なりに遅れないようにって気にしてるし、ユリウスのこと待たせたくないなーって思ってるんだぜ?思ってるんだけど、たどり着けないんだ。不思議だよなぁ」
からから笑うエースに、ユリウスは肩をすくめた。
「そういえば名無しさんは?」
エースはきょろきょろと辺りを見回しながらそう言った。
ユリウスはエースの疑問に答えるかのように、つかつかと大人しく座っている彼女に近づいてみた。
「おい、名無しさん」
そう言って彼女の顔を覗き込もうとした時だった。
「ユリウス?」
彼女がぱっと彼の方を振り向く。
そのせいで、顔と顔がものすごく近くなった。
ほんのり頬が赤く、目がうるんでいるように見える名無しさん。
「!?」
慌てて身を引くユリウスだったけれど、名無しさんは全く気にする様子がなく彼の腕を取ってこう言った。
「ねぇ、ユリウス。さんぽにいこう!」
「……は?」
「このままだと心配だもん。わたし、ユリウスがそのうちたおれるんじゃないかと思って、もうだめみたい」
突然そんなことを言う名無しさんにユリウスは顔をしかめた。
発言の内容も、話し方もおかしい。
しかし、エースが笑いながらこう言った。
「はははっ!そうだよなー、そのうち過労死しそうだもんな、ユリウスって」
「……」
「なんだよー、そう睨むなって!名無しさんに心配してもらえて羨ましいぜ!」
ユリウスはのんきなことを言うエースを睨みつけてから、考えを巡らせた。
名無しさんは訳の分からない奴だが、今はいつにも増しておかしい気がする。話に脈絡がなさすぎる。
そんなことを思いながら名無しさんを観察していると、彼女はさらにこう言った。
「あー、そういえばこの間外を歩いていたらね……」
急に話が変わり、ぺらぺらとしゃべりだす名無しさん。
かと思えば一人で大笑いし始める。
ユリウスとエースは名無しさんの様子に、顔を見合わせる。
そして、もう一度名無しさんを見た。
なんだか楽しそうに色々なことを喋りまくっている名無しさん。
「……名無しさん、お前なんでそんな……」
「なんかさ、今の名無しさんって酔っ払いみたいじゃない?」
エースの言葉に、ユリウスはぴくりと固まった。
「まさか……」
お菓子の箱を抱えている名無しさん。
彼女からひったくるようにして、ユリウスは箱を取り上げた。
非難の声を上げる彼女をじろりと睨みつけると、まじまじと箱を見る。
「……これか」
外箱のラベルを見ると、それは洋酒入りのチョコレートだった。
そんな大した量のアルコールは入っていないはずだが、今の彼女の状態はこのチョコレートが原因だとしか思えない。
「これ、すっごくおいしいよー。ユリウスもたべたら~?」
そう言って、ユリウスの持つ箱に手を伸ばす名無しさん。
ユリウスはすっと箱を上に持ち上げた。
「えー、なんで?」
不満そうに口を尖らす名無しさん。
はぁ、とため息をつくユリウス。
大人しくお菓子を食べているかと思えば、とんだ酔っ払いになっていた。
しかし、これはもしかすると自分の責任なのではないか?
アルコール入りの菓子だと確認していれば、名無しさんには食べさせなかっただろう。
……失敗したな。
そう反省するユリウスだったけれど、当の名無しさんはきょとんと彼を見上げるとへらへらっと笑った。
思わず脱力してしまうその顔に、ユリウスは何も言えなくなる。
するとその様子を見ていたエースが、横から口を挟んだ。
「女の子を酔わせるなんて、ユリウスやらしー」
「違う!!」
ニヤニヤ笑うエースに、ユリウスは間髪入れず反論した。
しかし、そんな反論も華麗にスルーしてしまうのがエース。
「俺が来なかったら、今頃何してたんだろうなー???」
「何もするわけないだろう。酔っ払いは完全放置だ」
するとその時だった。
「ユリウスはやらしくなんかないよ!」
突然名無しさんがそんなことを言いだした。
え?と固まるユリウスとエース。
「ユリウスがやらしいとか、そんなわけないでしょう? だってユリウスはね、すごく優しいんだから!冷たいけど優しいし、仕事ばっかりしてるから、やらしいこと考える余裕なんてないし、そんなの考えないに決まってるでしょ。大体わたしはそんなに胸があるわけじゃ……」
だーっと意味の分からない主張を始める名無しさんに、ユリウスとエースは一瞬言葉を失った。
しかし、エースがくすくすと笑いだす。
「名無しさんはわかってないなぁ。仕事ばかりしてようが胸がなかろうが男っていうのは……」
「エース!お前はもう黙ってろ」
「えー?でも、名無しさんにちゃんと真実を教えておかないといけないだろ?まぁユリウスの場合、ここまで信頼されてたら余計に手を出すなんてできないだろうけどね」
はははっ!と笑うエースを睨みつけるユリウス。
するとまるでユリウスを庇うかのように、名無しさんがこう言った。
「エースみたいにいつも笑ってる方が、何考えてるのかわからなくてやらしいの!」
「え、俺?」
突然のご指名にエースが目を丸くする。
「ってペーターさんが言ってた!」
「……白ウサギもたまにはまともなことを言うな」
「ペーターさんてば俺と長い付き合いなのに、全然俺のことわかってくれてないんだな」
そう言ってエースが口を尖らせる。
すると、名無しさんがこう続けた。
「ペーターさんはいつも正しいんだから。アリスのこと好きな気持ちも嘘じゃないし、エースのことやらしいっていうのも嘘じゃないし……」
「なんか嫌な評価だぜ」
「妥当な評価だろう」
そうこうしているうちに、名無しさんがだんだんと静かになってくる。
「ユリウスはしごとばっかりで……わたしは……」
段々と言葉が小さくなっていく。
そんな彼女をユリウスとエースはじっと見つめる。
「……すき……だけど……」
思いがけない言葉に固まるユリウスと、面白そうに名無しさんを見つめるエース。
「……かろうし……」
そう言いかけて名無しさんは、そのまま眠りに落ちて行った。
それを見届けたユリウスとエース。
「……」
「……」
机に伏して、すーすーと眠る名無しさんを彼らは数秒間眺めた。
口を開いたのはエースだった。
「……すごくない? 『過労死』って眠る人初めて見た」
「過労死なんてしないぞ、私は」
興味深そうに名無しさんを見るエースと、呆れ顔のユリウス。
「まぁ、いいじゃないか。名無しさんにそこまで心配されてるみたいだし、好かれてるみたいだし、ね?」
「……」
にこにこ笑うエースにユリウスは何も言わず、名無しさんの頭をぽんと撫でると仕事机に戻った。
目覚めた時、彼女はきっと覚えていないだろう。
何も言わずにこれまで通り接することを決めて、再び仕事を始めるユリウスだった。