アンケートお礼その3
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【1.ねがいごと】
『願いの叶う噴水があるんだよ』
そんな話を耳にした。
それはハートの城の庭園にある噴水の中の1つで、正面玄関から数えて東に3つ目の噴水が「願いの叶う噴水」らしい。
夜、その噴水に赤いバラの花びらを1枚浮かべてお願いすると、その願いが叶うという。
けっこう有名な話のようで、お城で働く人々が夜にこっそりとお願いに行っているらしい。
ペーターさんが夜な夜なこの噴水に通っているというまことしやかな噂まで流れている。
ハートの城の庭を歩いていたら、たまたま夜になったので私はその噴水を見に行くことにした。
人がたくさん来ているのかなー?と思っていたのに、意外にもすれ違う人はなく、私は1人でずんずんと歩いていく。
2つ目の噴水を通り過ぎ、3つ目の噴水が見えてきた時、人影が見えた。
「あ、誰かいる」
邪魔しないように見てみよう。
そう思って噴水に近づくと、その人物は明らかに願い事をしに来た人ではないことがすぐにわかった。
その人はどう見ても、噴水の前で服を脱いでいる。変質者……もしくは変わり者の知人。
噴水のすぐそばに赤いコートがくるりと丸めて置かれている。
「……もしかしてエース?」
私は思わず声をかけると、その人物はふっと動きを止めた。
「あれ、名無しさんじゃないか!こんばんは」
月明りの元で、堂々と黒い服を脱ごうとしているのは、思った通り変わり者の知人だった。
エースは私に気づくと爽やかに微笑んだ。
「こんな所で会うなんてびっくりだなぁ。今ちょうど水浴びをしようと思ってたんだけど……もしかしてまた俺の体を見に来たの?」
「なわけないでしょ!」
即ツッコミを入れる私に、エースは「なんだ、残念」と言って笑う。
願いの噴水を見に来たというのに、あやうく知人のおかしな行動を目撃するところだった。
ちなみに私は、彼の『噴水で水浴び』という奇行を今までに何度か目の当たりにしている。
「ほんとにあちこちでよく脱いでるよね。さっさと服を着てよ」と言うと、
「人を露出狂みたいに言わないでくれよ」と苦笑しながらも、彼はしぶしぶ黒服のボタンを留め直した。
足元の赤いコートを拾い上げて、それに袖を通しながらエースが口を開く。
「散歩でもしていたの、名無しさん?」
「うん。歩いていたら夜になったからこの噴水を見に来たの。この噴水ってね、願いの叶う噴水なんだって」
「願いの叶う噴水?」
「そう。夜にバラの花びらを1枚浮かべてお願いすると願い事が叶うらしいの」
「へぇ、そうなんだ。そう言われてみれば、ここの噴水は花びらがすごいなぁ。水浴びしたら体中に花びらがくっついてたかもね。入るのをやめておいてよかったよ」
まるで自分の判断で入るのをやめたかのような言い方。(私が止めなかったら入ってたよね!?)
呆れる私に、噴水の淵に腰を掛けたエースが「まぁ、座りなよ」と隣を示す。
私は何も考えず、促されるままに彼の隣に座った。
「それにしても、女の子ってそういう願いを叶えるイベントが好きだよなー」
「いいでしょ、別に」
小ばかにされている感じがしたので、むっとして言い返す。
しかし、彼はいつもの笑顔で穏やかに言った。
「うん、いいと思うよ。自分じゃどうにもならないことってあるし」
「え……」
予想外の答えに思わず彼を見る。
「まぁ、神頼みなんて俺はあてにしないけど、ね」
「そうだろうね」
彼の答えにすごく納得して、そう答えた。
エースはそういうの絶対信じてない気がする。
自分しか信じない。
もしかしたら自分のことも信じてないかもしれない。
彼を見ていると、たまにそう思うことがあるのだ。
そしてそれはすごくつらいだろうなと思うし、なんだかせつない。
そんな風にエースのことを考えていた。
しかし当の本人は、噴水に浮かぶ花びらを見ながら「花びらだらけでちょっと気持ち悪いよなー」とのんきに笑っている。
私はエースに言った。
「ねぇ。こういうの信じてないかもしれないけど、せっかくだからエースもお願い事してみたら?」
「えぇ?別に俺はいいよ。特に願うこともないしさ」
「いや、あると思うよ。地図に強くなれますようにとか、噴水で水浴びしなくなりますようにとか……」
わりと真面目に提案したのに、エースは冗談だと思ったらしい。
「はははっ!名無しさんっておもしろいこと言うなー。俺、別に地図に強くなりたいだなんて思ってないぜ?」
いや、思おうよ。爽やかに笑う彼に心の中でツッコミを入れる。
「大体、この手の願い事って恋愛成就的なやつだろ?俺、特に願うことはないなー」
「ふぅん、そうなんだ」
何の気なしに相槌を打つと、彼はこう続ける。
「だってさ、ここでこっそり願い事をするなら、さっさと相手の所へ行く方が早くない?」
エースのあまりに正当すぎる意見に私は思わず口を尖らせた。
「あーそうですか……エースって夢がない。乙女心がわかってない。そういうのってモテないよ」
「はははっ、断言されちゃったな」
私の言葉に、いつもの調子で笑っているエース。
彼の場合、モテるとかモテないとかそういう範疇にない気がする。
恋愛に興味があるのかも謎だし、変な人だけどたぶん本気を出せば(というか本人がその気になれば)モテそうだ。
そんなことを考えていたら、エースがすっと体を私に向けた。
「でもさ、俺ならそうするよ」
そう言って、エースは私を見る。
まっすぐこちらを見る目に、突然私の空間に踏み込まれたような居心地の悪さを感じた。
「え?」
突然の彼の言葉の意味がよくわからなかったし、落ち着く時間が欲しくて聞き返す様に声を出すと、エースはゆっくりと静かな声で言った。
「わざわざここに願いに来るくらいなら、名無しさんに直接会いに行くよ」
「な、何言ってんの。噴水にも私にもたどり着けなそうじゃない」
穏やかな口調できっぱりと言う彼に、私は笑ってごまかそうとした。
変な方向に話が進みそうで怖かったのだ。
すると彼は「そうかもね」と言いつつ、私の手にその手を重ねる。
「俺はどっちにもたどり着けないかもしれない。だからこそ今こうやって名無しさんに会っているのが重要だと思わない?」
意味深な言い方に、私はどう反応していいのかわからない。
エースはそんな私の様子を伺うようにじっと見つめてから、静かに微笑んだ。
「噴水なんかに100回願うよりも、君に1回会った方がいい」
直接名無しさんに触れられるし、ね?
重ねた手の指先を絡めながら、彼はふっと顔を近づけて私の頬にキスをする。
「!」
びっくりしてエースを見ると、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて私を見る。
でもまっすぐにこちらを見る目は真剣で、私の鼓動はドキリと跳ねる。
「いやいや、突然なにしてるの!?」
恥ずかしさと動揺で声をあげると、エースは小さく笑った。
「はははっ!ごめんごめん。でもさ、やっぱり願うよりも早いんじゃない?」
「意識してくれただろ?」と再び顔を近づけるエース。
彼の言う通りすぎて、反論ができなかった。ただ恥ずかしい。
エースはそんな私を面白そうに見ている。
彼の視線に耐えられず身を引こうとした瞬間に、エースは絡めた手と反対の手を私の背に回す。
逃げようと身じろぎしたけれど、彼の手は私をしっかりと捕えて離さない。
「俺は名無しさんが欲しいな」
囁くようにそう言われて、天地がひっくり返ったように視界がぐらりと揺らぐ。
歪んだ視界の中でエースが優しく笑うから、彼だけが特別に見えてしまう。
「願い事、叶えてくれるだろ?」
そう言ってエースはそっと私に口づけた。
エースの願い事なんて知らない。
そう言えればいいのに何も言えないのは、私から思考と言葉を奪う彼のキスのせい。
『願いの叶う噴水があるんだよ』
そんな話を耳にした。
それはハートの城の庭園にある噴水の中の1つで、正面玄関から数えて東に3つ目の噴水が「願いの叶う噴水」らしい。
夜、その噴水に赤いバラの花びらを1枚浮かべてお願いすると、その願いが叶うという。
けっこう有名な話のようで、お城で働く人々が夜にこっそりとお願いに行っているらしい。
ペーターさんが夜な夜なこの噴水に通っているというまことしやかな噂まで流れている。
ハートの城の庭を歩いていたら、たまたま夜になったので私はその噴水を見に行くことにした。
人がたくさん来ているのかなー?と思っていたのに、意外にもすれ違う人はなく、私は1人でずんずんと歩いていく。
2つ目の噴水を通り過ぎ、3つ目の噴水が見えてきた時、人影が見えた。
「あ、誰かいる」
邪魔しないように見てみよう。
そう思って噴水に近づくと、その人物は明らかに願い事をしに来た人ではないことがすぐにわかった。
その人はどう見ても、噴水の前で服を脱いでいる。変質者……もしくは変わり者の知人。
噴水のすぐそばに赤いコートがくるりと丸めて置かれている。
「……もしかしてエース?」
私は思わず声をかけると、その人物はふっと動きを止めた。
「あれ、名無しさんじゃないか!こんばんは」
月明りの元で、堂々と黒い服を脱ごうとしているのは、思った通り変わり者の知人だった。
エースは私に気づくと爽やかに微笑んだ。
「こんな所で会うなんてびっくりだなぁ。今ちょうど水浴びをしようと思ってたんだけど……もしかしてまた俺の体を見に来たの?」
「なわけないでしょ!」
即ツッコミを入れる私に、エースは「なんだ、残念」と言って笑う。
願いの噴水を見に来たというのに、あやうく知人のおかしな行動を目撃するところだった。
ちなみに私は、彼の『噴水で水浴び』という奇行を今までに何度か目の当たりにしている。
「ほんとにあちこちでよく脱いでるよね。さっさと服を着てよ」と言うと、
「人を露出狂みたいに言わないでくれよ」と苦笑しながらも、彼はしぶしぶ黒服のボタンを留め直した。
足元の赤いコートを拾い上げて、それに袖を通しながらエースが口を開く。
「散歩でもしていたの、名無しさん?」
「うん。歩いていたら夜になったからこの噴水を見に来たの。この噴水ってね、願いの叶う噴水なんだって」
「願いの叶う噴水?」
「そう。夜にバラの花びらを1枚浮かべてお願いすると願い事が叶うらしいの」
「へぇ、そうなんだ。そう言われてみれば、ここの噴水は花びらがすごいなぁ。水浴びしたら体中に花びらがくっついてたかもね。入るのをやめておいてよかったよ」
まるで自分の判断で入るのをやめたかのような言い方。(私が止めなかったら入ってたよね!?)
呆れる私に、噴水の淵に腰を掛けたエースが「まぁ、座りなよ」と隣を示す。
私は何も考えず、促されるままに彼の隣に座った。
「それにしても、女の子ってそういう願いを叶えるイベントが好きだよなー」
「いいでしょ、別に」
小ばかにされている感じがしたので、むっとして言い返す。
しかし、彼はいつもの笑顔で穏やかに言った。
「うん、いいと思うよ。自分じゃどうにもならないことってあるし」
「え……」
予想外の答えに思わず彼を見る。
「まぁ、神頼みなんて俺はあてにしないけど、ね」
「そうだろうね」
彼の答えにすごく納得して、そう答えた。
エースはそういうの絶対信じてない気がする。
自分しか信じない。
もしかしたら自分のことも信じてないかもしれない。
彼を見ていると、たまにそう思うことがあるのだ。
そしてそれはすごくつらいだろうなと思うし、なんだかせつない。
そんな風にエースのことを考えていた。
しかし当の本人は、噴水に浮かぶ花びらを見ながら「花びらだらけでちょっと気持ち悪いよなー」とのんきに笑っている。
私はエースに言った。
「ねぇ。こういうの信じてないかもしれないけど、せっかくだからエースもお願い事してみたら?」
「えぇ?別に俺はいいよ。特に願うこともないしさ」
「いや、あると思うよ。地図に強くなれますようにとか、噴水で水浴びしなくなりますようにとか……」
わりと真面目に提案したのに、エースは冗談だと思ったらしい。
「はははっ!名無しさんっておもしろいこと言うなー。俺、別に地図に強くなりたいだなんて思ってないぜ?」
いや、思おうよ。爽やかに笑う彼に心の中でツッコミを入れる。
「大体、この手の願い事って恋愛成就的なやつだろ?俺、特に願うことはないなー」
「ふぅん、そうなんだ」
何の気なしに相槌を打つと、彼はこう続ける。
「だってさ、ここでこっそり願い事をするなら、さっさと相手の所へ行く方が早くない?」
エースのあまりに正当すぎる意見に私は思わず口を尖らせた。
「あーそうですか……エースって夢がない。乙女心がわかってない。そういうのってモテないよ」
「はははっ、断言されちゃったな」
私の言葉に、いつもの調子で笑っているエース。
彼の場合、モテるとかモテないとかそういう範疇にない気がする。
恋愛に興味があるのかも謎だし、変な人だけどたぶん本気を出せば(というか本人がその気になれば)モテそうだ。
そんなことを考えていたら、エースがすっと体を私に向けた。
「でもさ、俺ならそうするよ」
そう言って、エースは私を見る。
まっすぐこちらを見る目に、突然私の空間に踏み込まれたような居心地の悪さを感じた。
「え?」
突然の彼の言葉の意味がよくわからなかったし、落ち着く時間が欲しくて聞き返す様に声を出すと、エースはゆっくりと静かな声で言った。
「わざわざここに願いに来るくらいなら、名無しさんに直接会いに行くよ」
「な、何言ってんの。噴水にも私にもたどり着けなそうじゃない」
穏やかな口調できっぱりと言う彼に、私は笑ってごまかそうとした。
変な方向に話が進みそうで怖かったのだ。
すると彼は「そうかもね」と言いつつ、私の手にその手を重ねる。
「俺はどっちにもたどり着けないかもしれない。だからこそ今こうやって名無しさんに会っているのが重要だと思わない?」
意味深な言い方に、私はどう反応していいのかわからない。
エースはそんな私の様子を伺うようにじっと見つめてから、静かに微笑んだ。
「噴水なんかに100回願うよりも、君に1回会った方がいい」
直接名無しさんに触れられるし、ね?
重ねた手の指先を絡めながら、彼はふっと顔を近づけて私の頬にキスをする。
「!」
びっくりしてエースを見ると、彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて私を見る。
でもまっすぐにこちらを見る目は真剣で、私の鼓動はドキリと跳ねる。
「いやいや、突然なにしてるの!?」
恥ずかしさと動揺で声をあげると、エースは小さく笑った。
「はははっ!ごめんごめん。でもさ、やっぱり願うよりも早いんじゃない?」
「意識してくれただろ?」と再び顔を近づけるエース。
彼の言う通りすぎて、反論ができなかった。ただ恥ずかしい。
エースはそんな私を面白そうに見ている。
彼の視線に耐えられず身を引こうとした瞬間に、エースは絡めた手と反対の手を私の背に回す。
逃げようと身じろぎしたけれど、彼の手は私をしっかりと捕えて離さない。
「俺は名無しさんが欲しいな」
囁くようにそう言われて、天地がひっくり返ったように視界がぐらりと揺らぐ。
歪んだ視界の中でエースが優しく笑うから、彼だけが特別に見えてしまう。
「願い事、叶えてくれるだろ?」
そう言ってエースはそっと私に口づけた。
エースの願い事なんて知らない。
そう言えればいいのに何も言えないのは、私から思考と言葉を奪う彼のキスのせい。
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