マッドハッターズ!
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エリオットとわかれ、ブラッドと廊下を歩く私。
なんでこんなことになっているんだろう、申し訳なさすぎる。
いくら疲れたからと言って、家主でありマフィアのボスであるブラッドに部屋まで送ってもらうのはおかしい。
「あの、ブラッド。ありがとう。私一人で部屋に戻るからもういいよ」
私が立ち止まってそういうと、彼も1,2歩先で立ち止まってこちらを振り返った。
「私が名無しさんを送りたいだけだよ。ゆっくり話をするのもたまにはいいだろう?」
「……でも、なんか申し訳ないし」
「それに君が行き倒れてしまったら私がエリオットにどやされる。あいつは怒らせると怖いんだ」
「いくら屋敷が広くたって行き倒れるわけないでしょう。エリオットが心配症なだけだよ」
私がそういうと、ブラッドは「ふむ」と考えるようなそぶりを見せた。
「エリオットが心配性、ね」
「な、なに?」
ちらりと私を見て言うブラッドに思わず身構えてしまう。
「ずいぶんと早くあいつを手懐けたな、名無しさん」
「手懐けたって……エリオットは友達なだけなんですけど」
「今はそうだろうな」
「何その言い方」
むっとする私に顔を近づけてブラッドはそっと言う。
「君がそそのかせば、あいつも私の首を狙うかもしれないよ?」
「そんなことあるわけないじゃない」
顔の近さに耐えられず、横を向いてそう答えた。
しかしそのままの距離でブラッドは続ける。
「そうか? 試してみるのも面白いと思うがね」
「狙われたいの?」
「今更だな。私の首を狙う奴らはたくさんいる。ただ、エリオットがどう反応するかには興味がある」
「友達を試すなんて趣味悪いよブラッド。エリオットは絶対にそんなことしない。あの人は何よりもブラッドが1番なんだから。それに私はあなたの首なんて興味ないしね」
私がそう言うと、ブラッドは楽しそうに笑ってあるべき距離に戻った。
「エリオットをとても理解しているような言い方だな。そして私には興味がない……きっぱり言ってくれるじゃないか、名無しさん」
「いや、そういう意味じゃないんですけど」
呆れる私に、ブラッドはふふんと笑った。
その顔を見たときにやっと気づいた。
わざわざ私を部屋へ送ろうというのは、エリオットの話をしたかったのだ。
エリオットを疑ってはいないけれど、私という存在を通してみるエリオットに興味がある、といったところだろう。
「私よりもよっぽどエリオットのこと知ってるし、影響力だってあるくせに」
「なんだ?」
私の言葉に凄んでみせる彼。
でもねぇ……そうやってエリオットを試そうなんてかわいい所あるよね、ブラッドって。(怖いから口には出さないけど)
「なんでもないです。とにかく私はあなた達に迷惑をかけずそっと生きていくのでおかまいなく」
私がそう言うと、ブラッドはわざとらしくため息をついた。
「はぁ。もう少し名無しさんに興味を持ってもらえるよう、私も努力しなければいけないな」
「……私じゃブラッドの退屈凌ぎにもならないからやめて」
「名無しさんを退屈凌ぎなんかにするわけがないだろう。時間を作ってでも君と会いたいさ」
「なんか嘘くさいですよ、それ」
私の言葉にブラッドは楽しげな笑みを浮かべると、くるりと背を向けて歩き出した。私も彼について歩きだす。
どうせ面白がられてるだけだと思うと、彼の言葉を真に受けることもない。
でもこういう冗談を本気にする子だって絶対いるはずだ。
それでなくたって、ブラッドはカッコいい。
すらりとしていて背も高いし、顔も整っているし、なんだかんだ優しいところもある。
マフィアのボスというのもなんとなく危険な香りがして悪くない。
危険なものに惹かれるのが乙女なのだ。(って断言しちゃったけど)
今のところ騙されないぞ!と思っている私だけれど、それは裏を返せばうっかり好きになってしまうかもしれないということだと思う。
特に長い時間を一緒に過ごしていくとなるとどうなるかわからない。
そう思ってしまうくらいには、ブラッドを好きになった。
もちろんそれはエリオットや双子にも言えることだけれど、彼ら(特にブラッド)に本気になってしまったら大変だと思う。
救われない、報われないくるしい思いをすることになるのは目に見えている。(だってモテるみたいだし、私なんて相手にされるはずないし)
だから、今くらいの冗談を言い合える距離が一番だ。
面倒がなく、友達として楽しいところだけでいい。
そんなことを考えていたら私の部屋の前に到着した。
「ブラッド、わざわざありがとう」
「いや、君と話せて楽しかったよ。ゆっくり休むといい」
「うん。ブラッドはこの後仕事なの?」
エリオットは食事したら仕事に行くと言っていた。
「私はこれから少し仮眠を取るよ。いささか紅茶を飲み疲れた」
「……それ初めて聞く表現だな」
紅茶を飲み疲れる人なんてそうそういない。
お酒よりは健康的だけど、非マフィア的な感じだなぁ。なんだか優雅だし。
「名無しさんも疲れているんだろう? ちょうどいい。私と一緒に寝ようか」
にやりと笑うブラッド。なにがちょうどいいんですか。
「遠慮します」
「名無しさんは奥ゆかしいな。ではまたの機会にしよう」
「うん、来ないと思うけどまたの機会にね」
笑顔でそう言ってやると、彼はくすくすと笑ってから「では失礼するよ」と去っていった。
ほんとによくわからない人だ。
でも冗談を笑って流せる今の関係が一番いいんだろうなぁ、ということをはっきりと感じた私。
しかしそれと同時に、自分の気持ちが戻れないところへ行ってしまう嫌な予感も抱いてしまった。
……私の悪い予感はよく当たるのだ。