短編
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【ボスとメイドさん】
最近、ブラッドがいつになくかっこよく見えるのですが、これは一体どういうことでしょう?
ブラッドといえば、いつでもだるだるで、めんどくさがりで、紅茶ばっかり飲んでいて、人の揚げ足をとるようなことを言ってはおもしろがるという
大人としてどうなのかという人だ。
それなのに、最近の私は彼が素敵に見えてしまうのだ。
彼自身はたぶんこれまで通りだと思う。
だるだるで、めんどくさがりで、紅茶ばっかり飲んでいて、人をからかってはおもしろがっている。
でも、最近の私には
だるだるしている感じが大人の余裕にみえてしまうし、
気だるそうに物事を拒否する姿もなんだか色っぽく見えるし、
紅茶を飲んでいる姿はとてつもなく似合うし、
話をしていると彼の博識さとか頭の回転の速さを感じてしまう。
これってもしかすると……私の見方が変わってしまったのか。
ブラッドが素敵に見えるなんてありえないもの。
確かに顔だけは文句なしに良い人だけど、中身は褒められたものじゃないはず。
それなのに中身まで素敵に見えちゃうなんて、もうこれは大変なことが私の中で起こったに違いない。
その事実に気づいて愕然とした。
「ば、ばかな……そんなわけない。まさか私があんな人に落ちるなんてこと……」
廊下にモップをかけていた私は、気づけば頭を抱えてそんなことを呟いていた。
「どうしたんですか~?」
同僚のメイドさんが首を傾げて私を見ていた。
「あ、いや、すみません。なんでもないです!」
私ははっと顔をあげて、彼女に笑いかけた。
「そうですか~? 体調が悪いなら~、あとはやっておきますからいいですよ~」
「大丈夫! うん。全然元気!」
「そうですか~」
モップかけを再開する私を、メイドさんは不審な目で見ていた。
怪しまれてるなぁ。これでいて彼女もマフィアの構成員だし、鋭いんだよなぁ。
まぁ、体調が悪いと思ってくれているなら別にいいんだけど……。
そう思いながらモップをかけていたら、ふいにメイドさんがこう言った。
「あ。ボス」
その言葉に私はびくっと反応してしまった。
ぱっと顔をあげて辺りを見回す。
「……え。あれ?」
ボスどころか誰もいない廊下。
メイドさんを見ると、彼女はにこにこにこ~っと笑っていた。
……謀られた。
「ふぅん。名無しさんさんは~、ボスに落ちてしまったんですね~。なるほど~」
おっとりと彼女はそう言った。
「な、なにを突然言い出すんですか!」
「あら~? 違うんですかぁ~?」
「ち、違う!! 違うんです!」
違うと信じたい!
「別に隠すことないですよ~。ボスと名無しさんさんはお似合いですもの~」
「あんなだるだるした人とお似合いって、すごく微妙なんでやめてくださいよ」
「ふふふ。照れ屋さんですね~」
彼女はそう言って、さっさと自分の仕事に入ってしまった。
私の反論や照れ隠しの嘘などには、彼女は全く興味がないらしい。
本質だけをしっかりと確認して、さっさと自分の仕事に戻る。
……さすがマフィア。
この屋敷の人々に庶民の私が勝てるわけがない、ということを思い知った私はため息をついて仕事に戻る。
すると、すぐにまたメイドさんが言った。
「あ。ボス」
「……やだなぁ、もう引っかかりませんよ」
そういうベタな繰り返しをするタイプなんだなぁ、なんて思っていたら予想外の声が聞こえてきた。
「何に引っ掛からないのかな? お嬢さん」
「!?」
びくっとしておそるおそる顔をあげると、そこには本当にボスがいた。
彼の後ろでメイドさんがにやにやっと笑っている。……ひどくないですか、それ?
「え、あ。えーとその……なんでもないです。何にも引っかかってないから大丈夫!」
動揺する私をみて、ブラッドはいつもの面白がるような目をする。
そして、後ろのメイドさんはますます楽しそうに笑う。
「名無しさんはぼんやりとしているようで、意外としっかりしているからね。変な男にはまず引っかからないと思っているが……どうなんだ?」
彼はそう言いながら、私ではなくて後ろのメイドさんに視線を向けた。
すると彼女は楽しそうにこう言った。
「そうだと思ってたんですけど~、そうでもないみたいなんですよ~。しっかりと引っ掛かっちゃったみたいなんです~。ねぇ、名無しさんさん?」
これ、ある意味ものすごい爆弾発言なんですけど……(この人、上司を変な男だと言い切っちゃったよ! 間接的な言い回しとは言え本人に!)
慌てる私にメイドさんは笑い、ブラッドは楽しそうな顔をする。
「ほう? それは大変だ。名無しさんをひっかけることができる男がいたとはね」
「ボス、全力で名無しさんさんの想い人をつぶしておきましょうか~?」
「な、何言ってんのっ!?」
笑って恐ろしいことを言うメイドさんに慌てる私。
ブラッドはますます楽しそうにこう言った。
「いや、どこのどいつかわからないような男なら全力で潰すが、今回に限っては放っておきなさい。大体、お前達の手には負えない男だろう?」
「うふふ。そうでしたわねぇ~」
うふふって……。
今のはつまり、マフィアジョーク的なやりとりだったりしたのかしら?
楽しそうな2人を見て唖然とする私。
「というわけで、名無しさん。いつでも待っているから、安心していいぞ」
ブラッドは私を見て笑う。
なんだか恥ずかしくて、モップの柄をぎゅっと掴みなおす。
「な、なんの話ですか!?」
「ふふふ」
彼は意味深な笑みを浮かべると、私が持っていたモップを取り上げてメイドさんに渡した。
「私には君を拒む理由などない、ということだよ。名無しさん」
ブラッドはそう言って一歩分距離を縮めてきた。
「いや、その……自分がものすごい思い違いしてるってことを考えないんですか、あなたは」
縮まった一歩分の距離を取りながらそう言った。
彼の中で、私がブラッドを好きだということになっているらしい。
悔しいことにハズレではないけれど、そんなことを素直に言えるはずがない。
「自意識過剰って言葉がぴったりだよ、ブラッド」
私の可愛げのない強がり発言に対しても、ブラッドは相変わらず余裕の表情を崩さなかった。
「ふふふ。自意識過剰な思い違いか。それは残念だな」
そう言いながら、ブラッドはさらに距離を縮めてきた。
そして、私の頬に触れる。
彼はすっと視線を落として、私を見つめた。
「それなら、君をその気にさせるまでのことだよ」
心臓がどきんと胸を叩き、一気に顔が熱くなるのが自分でもわかった。
ブラッドはくすりと笑って、さらに一歩踏み込んでくる。
逃げ場のない私は動揺しまくって、頭が真っ白になった。
「ちょ、ちょっとブラッドっ……!」
その瞬間、ブラッドの肩越しにちらりと目に映ったメイドさん。
彼女はすごーく楽しそうに私達を見ていた。
一気に冷静な自分が戻ってくる。
「離れてよバカッ!!」
ドンと思いっきり彼を押し返した。
そして、メイドさんの方へと駆け寄る私。
「仕事中なんです! ボス、邪魔しないでください! からかわないでください!」
そう言ってメイドさんが持っていたモップを奪うようにして取る私。
「あらあら~、名無しさんさんてばせっかくのチャンスだったのに~」
拒否するなんてもったいないですよ~、とのんきに言うメイドさん。
……もう何なんだろう、ここの人達。
反論する気すら起こらなくなってきた。
「ふふふ。すぐに落ちるような女は面白くないからね。これくらいの方が楽しいよ」
ブラッドは本気でそう思っているらしく、いつもの口調で言った。
私はすでに彼に落ちているのだけれど、簡単に落ちるわけにはいかなくなった。
意地っ張りの私にはちょうどいいのかもしれない。
最近、ブラッドがいつになくかっこよく見えるのですが、これは一体どういうことでしょう?
ブラッドといえば、いつでもだるだるで、めんどくさがりで、紅茶ばっかり飲んでいて、人の揚げ足をとるようなことを言ってはおもしろがるという
大人としてどうなのかという人だ。
それなのに、最近の私は彼が素敵に見えてしまうのだ。
彼自身はたぶんこれまで通りだと思う。
だるだるで、めんどくさがりで、紅茶ばっかり飲んでいて、人をからかってはおもしろがっている。
でも、最近の私には
だるだるしている感じが大人の余裕にみえてしまうし、
気だるそうに物事を拒否する姿もなんだか色っぽく見えるし、
紅茶を飲んでいる姿はとてつもなく似合うし、
話をしていると彼の博識さとか頭の回転の速さを感じてしまう。
これってもしかすると……私の見方が変わってしまったのか。
ブラッドが素敵に見えるなんてありえないもの。
確かに顔だけは文句なしに良い人だけど、中身は褒められたものじゃないはず。
それなのに中身まで素敵に見えちゃうなんて、もうこれは大変なことが私の中で起こったに違いない。
その事実に気づいて愕然とした。
「ば、ばかな……そんなわけない。まさか私があんな人に落ちるなんてこと……」
廊下にモップをかけていた私は、気づけば頭を抱えてそんなことを呟いていた。
「どうしたんですか~?」
同僚のメイドさんが首を傾げて私を見ていた。
「あ、いや、すみません。なんでもないです!」
私ははっと顔をあげて、彼女に笑いかけた。
「そうですか~? 体調が悪いなら~、あとはやっておきますからいいですよ~」
「大丈夫! うん。全然元気!」
「そうですか~」
モップかけを再開する私を、メイドさんは不審な目で見ていた。
怪しまれてるなぁ。これでいて彼女もマフィアの構成員だし、鋭いんだよなぁ。
まぁ、体調が悪いと思ってくれているなら別にいいんだけど……。
そう思いながらモップをかけていたら、ふいにメイドさんがこう言った。
「あ。ボス」
その言葉に私はびくっと反応してしまった。
ぱっと顔をあげて辺りを見回す。
「……え。あれ?」
ボスどころか誰もいない廊下。
メイドさんを見ると、彼女はにこにこにこ~っと笑っていた。
……謀られた。
「ふぅん。名無しさんさんは~、ボスに落ちてしまったんですね~。なるほど~」
おっとりと彼女はそう言った。
「な、なにを突然言い出すんですか!」
「あら~? 違うんですかぁ~?」
「ち、違う!! 違うんです!」
違うと信じたい!
「別に隠すことないですよ~。ボスと名無しさんさんはお似合いですもの~」
「あんなだるだるした人とお似合いって、すごく微妙なんでやめてくださいよ」
「ふふふ。照れ屋さんですね~」
彼女はそう言って、さっさと自分の仕事に入ってしまった。
私の反論や照れ隠しの嘘などには、彼女は全く興味がないらしい。
本質だけをしっかりと確認して、さっさと自分の仕事に戻る。
……さすがマフィア。
この屋敷の人々に庶民の私が勝てるわけがない、ということを思い知った私はため息をついて仕事に戻る。
すると、すぐにまたメイドさんが言った。
「あ。ボス」
「……やだなぁ、もう引っかかりませんよ」
そういうベタな繰り返しをするタイプなんだなぁ、なんて思っていたら予想外の声が聞こえてきた。
「何に引っ掛からないのかな? お嬢さん」
「!?」
びくっとしておそるおそる顔をあげると、そこには本当にボスがいた。
彼の後ろでメイドさんがにやにやっと笑っている。……ひどくないですか、それ?
「え、あ。えーとその……なんでもないです。何にも引っかかってないから大丈夫!」
動揺する私をみて、ブラッドはいつもの面白がるような目をする。
そして、後ろのメイドさんはますます楽しそうに笑う。
「名無しさんはぼんやりとしているようで、意外としっかりしているからね。変な男にはまず引っかからないと思っているが……どうなんだ?」
彼はそう言いながら、私ではなくて後ろのメイドさんに視線を向けた。
すると彼女は楽しそうにこう言った。
「そうだと思ってたんですけど~、そうでもないみたいなんですよ~。しっかりと引っ掛かっちゃったみたいなんです~。ねぇ、名無しさんさん?」
これ、ある意味ものすごい爆弾発言なんですけど……(この人、上司を変な男だと言い切っちゃったよ! 間接的な言い回しとは言え本人に!)
慌てる私にメイドさんは笑い、ブラッドは楽しそうな顔をする。
「ほう? それは大変だ。名無しさんをひっかけることができる男がいたとはね」
「ボス、全力で名無しさんさんの想い人をつぶしておきましょうか~?」
「な、何言ってんのっ!?」
笑って恐ろしいことを言うメイドさんに慌てる私。
ブラッドはますます楽しそうにこう言った。
「いや、どこのどいつかわからないような男なら全力で潰すが、今回に限っては放っておきなさい。大体、お前達の手には負えない男だろう?」
「うふふ。そうでしたわねぇ~」
うふふって……。
今のはつまり、マフィアジョーク的なやりとりだったりしたのかしら?
楽しそうな2人を見て唖然とする私。
「というわけで、名無しさん。いつでも待っているから、安心していいぞ」
ブラッドは私を見て笑う。
なんだか恥ずかしくて、モップの柄をぎゅっと掴みなおす。
「な、なんの話ですか!?」
「ふふふ」
彼は意味深な笑みを浮かべると、私が持っていたモップを取り上げてメイドさんに渡した。
「私には君を拒む理由などない、ということだよ。名無しさん」
ブラッドはそう言って一歩分距離を縮めてきた。
「いや、その……自分がものすごい思い違いしてるってことを考えないんですか、あなたは」
縮まった一歩分の距離を取りながらそう言った。
彼の中で、私がブラッドを好きだということになっているらしい。
悔しいことにハズレではないけれど、そんなことを素直に言えるはずがない。
「自意識過剰って言葉がぴったりだよ、ブラッド」
私の可愛げのない強がり発言に対しても、ブラッドは相変わらず余裕の表情を崩さなかった。
「ふふふ。自意識過剰な思い違いか。それは残念だな」
そう言いながら、ブラッドはさらに距離を縮めてきた。
そして、私の頬に触れる。
彼はすっと視線を落として、私を見つめた。
「それなら、君をその気にさせるまでのことだよ」
心臓がどきんと胸を叩き、一気に顔が熱くなるのが自分でもわかった。
ブラッドはくすりと笑って、さらに一歩踏み込んでくる。
逃げ場のない私は動揺しまくって、頭が真っ白になった。
「ちょ、ちょっとブラッドっ……!」
その瞬間、ブラッドの肩越しにちらりと目に映ったメイドさん。
彼女はすごーく楽しそうに私達を見ていた。
一気に冷静な自分が戻ってくる。
「離れてよバカッ!!」
ドンと思いっきり彼を押し返した。
そして、メイドさんの方へと駆け寄る私。
「仕事中なんです! ボス、邪魔しないでください! からかわないでください!」
そう言ってメイドさんが持っていたモップを奪うようにして取る私。
「あらあら~、名無しさんさんてばせっかくのチャンスだったのに~」
拒否するなんてもったいないですよ~、とのんきに言うメイドさん。
……もう何なんだろう、ここの人達。
反論する気すら起こらなくなってきた。
「ふふふ。すぐに落ちるような女は面白くないからね。これくらいの方が楽しいよ」
ブラッドは本気でそう思っているらしく、いつもの口調で言った。
私はすでに彼に落ちているのだけれど、簡単に落ちるわけにはいかなくなった。
意地っ張りの私にはちょうどいいのかもしれない。