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【年上のひと】
しっかりしていて、よく気がつく。
人当たりも良くて、相手を立てることができる。
話していてもうるさくない。
年上の女性というものの概念を見事に名無しさんが崩してくれた。
それまでは年上の女性といえば「わがままでヒステリックでプライドばかりが高い」と思っていた私には衝撃だった。
さらに言えば「おしゃべりで詮索好き」というイメージもあった。
「身近な年上の女性」にだいぶ毒されていたのだろう。我ながら不憫なことだ。
年齢に大した意味など感じはしないが、名無しさんといると不思議な感覚にとらわれる。
夜の散歩に行こうとしたら、エリオットに見つかった。
ついてくるというので勝手にしろと言ったら、いつのまにか門番達も加わり、ピクニックに行くという流れになっていた。
この時点でめんどくさくなったのだが、廊下でばったり出会った名無しさんも参加するというので、気を取り直して出かけることにした。
「夜のお弁当っていいよね! 僕、なんかワクワクしてくるよ」
「うんうん、ひよこウサギのエサの色も見えにくいからちょうどいいしね」
「なんだそりゃ。お前らどういう意味だよ?」
「にんじんばっかりのサンドイッチなんて見たくないってことだよ」
「そーだよ、馬鹿ウサギ」
「なんだと!?」
「大体名無しさんにいつもウサギのエサをつくらせるのはやめろよな!」
「そーだそーだ!名無しさんが可哀想だよ。いくら名無しさんが優しいからって甘えるな」
「名無しさんに甘えてるのはお前らだろ、ガキ共!名無しさんが文句言わねぇからって、なんでもかんでもやってもらうんじゃねーよ。
子ども扱いしかされないってことは男として見られてないってことだろーが」
「ひよこウサギのくせにムカつく」
「ちょっとでかいからって威張るなよバーカ」
いつものごとく揉めだす門番とエリオット。
間に挟まれた名無しさんも慣れたもので、穏やかにこう言った。
「3人とも、けんかはやめて楽しくお弁当を食べようよ。ね?」
にらみ合っていた奴らも口を尖らせたままではあったが、名無しさんに言われて素直にその場に座り直す。
名無しさんはそんな彼らを見て表情を緩めると、手際よくお手拭を配り、お茶を入れて差し出した。
「はい、どうぞ」
「ん、サンキュ。名無しさん」
「ありがとう、名無しさん」
「くだらない喧嘩なんてやめて、名無しさんと楽しくお弁当食べた方がいいよね」
名無しさんから飲み物を渡されて、少し落ち着いたらしいエリオットと門番達。
そこで手を緩めないのが名無しさんだ。
「私のお勧めはね、このサンドイッチとサラダだよ。あ、エリオットにはこれ!絶対美味しいって言うと思う」
「マジで?」
「これ、名無しさんが作ったの?」
「そんなの絶対美味しいに決まってるよね」
「全部私が作ったわけじゃないけど、たまたま1時間帯前に作ってたの」
毎度ながら名無しさんの手腕は見事だ。
自分は面倒だから奴らの揉め事に口出しはせずに放っておく。
アリスだったら一喝して静める。
名無しさんはというと、なだめてから別の物に興味を持たせるという方法で大人しくさせる。
エリオット、お前も名無しさんに十分子ども扱いされてるんじゃないか?
4人を見ながらそうぼんやり考えていたら、名無しさんと目が合った。
「どうしたの?ブラッド」
「いや、なんでもないよ、名無しさん」
「そう?なんか楽しそうだよ」
名無しさんはそう言って微笑んだ。
なんだか自分まで子ども扱いされている気がして、きまりが悪くなる。
体勢を立て直すべく紅茶を一口飲んだ。
すると、名無しさんがカップを持って私の隣りにやってきた。
「ブラッドの紅茶、もらうね」
「あぁ。どうぞ」
ポットから自分のカップに紅茶を注いだ彼女は、そのまま私の隣りに落ち着いた。
「珍しいね、ミルクティを飲んでるんだ?」
「そういう気分だったんだ」
「ストレートしか認めないって言ってなかったっけ?」
「基本的にはね」
「ふぅん」
私の言葉に彼女は特に気にした様子もなくうなずくと、そのままエリオットと門番を眺める。
奴らは名無しさんが勧めたものを機嫌よく食べている。単純だな。
「なんか可愛いよねぇ。弟みたい」
「……あの3人がか?」
「うん。手のかかる弟って感じ」
そう言って名無しさんは笑った。
門番達はともかく、自分の2倍はあるだろうエリオットを捕まえて弟とは……。
思わず苦笑すると、名無しさんはこちらをじっと見てきた。
「なんだ?」
「うーん、ブラッドが私の弟だったらどうかなーって思って」
「!?」
カップを両手で包むように持ったまま、こちらを見つめる名無しさん。
弟……名無しさんには何も話していないはずだが。
動揺をなんとか押さえつつ名無しさんを見ると、彼女は首を傾げつつもおっとりとした様子でこう言った。
「でも、正直ブラッドは弟とか年下って感じしないんだよね。やっぱりボスだからかなぁ。私よりも人生経験ありそうだし、わがまま言う弟っていうよりも、ブラッドだからわがままが似合うっていうかさ」
「褒められているのか、けなされているのかわからないな」
思わずつぶやくと、名無しさんも「そうだね」とくすくす笑う。
「ブラッドって兄弟とかいるイメージないなぁ。一人で気ままにやってきましたって感じ。
あ、でもものすごく美人な女姉妹に囲まれてるっていうのもいいかも。似合いそう」
「…………」
「妹がいたら、絶対に可愛がるタイプだよね」
「どうだろうな」
「えー、可愛がるよきっと。お姉さんがいたら……頭が上がらないかもね、意外と」
「……どうだろうな」
微妙な間を作ってしまったが、名無しさんは気づく様子もなく楽しそうに続ける。
「私がブラッドのお姉さんだったら、弟を自慢して歩いちゃうけどな」
名無しさんはそう言っていたずらっぽく笑う。
予想外の言葉に名無しさんを見ると、彼女はこう続けた。
「だって、こんなにカッコいい弟なんて自慢じゃない?一緒に歩いて、世間の女の子に見せびらかしたいなー。
あ、今くだらないなって思ったでしょ?」
「いや……」
くだらないというよりも気になる点がある。
「名無しさんは私を弟ではなく恋人、という関係で見せびらかしたいとは思わないのか?」
「え?」
「私なら、自慢の姉よりも、自慢の恋人として名無しさんを連れて歩きたいと思うがね」
そう言って名無しさんを見ると、彼女はしばらくこちらを見つめてから微笑んだ。
「それは嬉しいな。ありがとう」
……社交辞令にとられたか。
「名無しさん、年下と言っても弟と恋人では、まるで意味が違うものだよ」
「え……」
「好きな女に弟扱いされるのはおもしろくない。私は名無しさんに弟扱いなんてされたくないな」
そう言って笑ってみせると、目が合った途端名無しさんは慌てたようにごくごくと紅茶を飲みだした。
どうやら動揺しているらしい。
しっかりとしている年上の名無しさんには、ストレートな物言いの方がいいのかもしれない。
ある意味「年下らしさ」を出すべきなのだろう。
門番達と同じやり口と言えばそれまでだが、これまで取ったことのない手法も楽しそうだ。
「名無しさん」
名前を呼んでみる。
すると、彼女はしずかにこちらを向いた。
「……うん?」
先ほどまでの動揺を完璧に隠しつつも、明らかに私を意識している表情だ。
自然と彼女の肩に手を回していた。
名無しさんは視線を一度落としてから、私を見上げた。
口説かれ上手なのはいい女である証だ。
「姉とか恋人というよりも、名無しさんが欲しい」
そっと耳元でささやく。
名無しさんはふわりと笑って私を見るとうなずいた。
しっかりしていて、よく気がつく。
人当たりも良くて、相手を立てることができる。
話していてもうるさくない。
年上の女性というものの概念を見事に名無しさんが崩してくれた。
それまでは年上の女性といえば「わがままでヒステリックでプライドばかりが高い」と思っていた私には衝撃だった。
さらに言えば「おしゃべりで詮索好き」というイメージもあった。
「身近な年上の女性」にだいぶ毒されていたのだろう。我ながら不憫なことだ。
年齢に大した意味など感じはしないが、名無しさんといると不思議な感覚にとらわれる。
夜の散歩に行こうとしたら、エリオットに見つかった。
ついてくるというので勝手にしろと言ったら、いつのまにか門番達も加わり、ピクニックに行くという流れになっていた。
この時点でめんどくさくなったのだが、廊下でばったり出会った名無しさんも参加するというので、気を取り直して出かけることにした。
「夜のお弁当っていいよね! 僕、なんかワクワクしてくるよ」
「うんうん、ひよこウサギのエサの色も見えにくいからちょうどいいしね」
「なんだそりゃ。お前らどういう意味だよ?」
「にんじんばっかりのサンドイッチなんて見たくないってことだよ」
「そーだよ、馬鹿ウサギ」
「なんだと!?」
「大体名無しさんにいつもウサギのエサをつくらせるのはやめろよな!」
「そーだそーだ!名無しさんが可哀想だよ。いくら名無しさんが優しいからって甘えるな」
「名無しさんに甘えてるのはお前らだろ、ガキ共!名無しさんが文句言わねぇからって、なんでもかんでもやってもらうんじゃねーよ。
子ども扱いしかされないってことは男として見られてないってことだろーが」
「ひよこウサギのくせにムカつく」
「ちょっとでかいからって威張るなよバーカ」
いつものごとく揉めだす門番とエリオット。
間に挟まれた名無しさんも慣れたもので、穏やかにこう言った。
「3人とも、けんかはやめて楽しくお弁当を食べようよ。ね?」
にらみ合っていた奴らも口を尖らせたままではあったが、名無しさんに言われて素直にその場に座り直す。
名無しさんはそんな彼らを見て表情を緩めると、手際よくお手拭を配り、お茶を入れて差し出した。
「はい、どうぞ」
「ん、サンキュ。名無しさん」
「ありがとう、名無しさん」
「くだらない喧嘩なんてやめて、名無しさんと楽しくお弁当食べた方がいいよね」
名無しさんから飲み物を渡されて、少し落ち着いたらしいエリオットと門番達。
そこで手を緩めないのが名無しさんだ。
「私のお勧めはね、このサンドイッチとサラダだよ。あ、エリオットにはこれ!絶対美味しいって言うと思う」
「マジで?」
「これ、名無しさんが作ったの?」
「そんなの絶対美味しいに決まってるよね」
「全部私が作ったわけじゃないけど、たまたま1時間帯前に作ってたの」
毎度ながら名無しさんの手腕は見事だ。
自分は面倒だから奴らの揉め事に口出しはせずに放っておく。
アリスだったら一喝して静める。
名無しさんはというと、なだめてから別の物に興味を持たせるという方法で大人しくさせる。
エリオット、お前も名無しさんに十分子ども扱いされてるんじゃないか?
4人を見ながらそうぼんやり考えていたら、名無しさんと目が合った。
「どうしたの?ブラッド」
「いや、なんでもないよ、名無しさん」
「そう?なんか楽しそうだよ」
名無しさんはそう言って微笑んだ。
なんだか自分まで子ども扱いされている気がして、きまりが悪くなる。
体勢を立て直すべく紅茶を一口飲んだ。
すると、名無しさんがカップを持って私の隣りにやってきた。
「ブラッドの紅茶、もらうね」
「あぁ。どうぞ」
ポットから自分のカップに紅茶を注いだ彼女は、そのまま私の隣りに落ち着いた。
「珍しいね、ミルクティを飲んでるんだ?」
「そういう気分だったんだ」
「ストレートしか認めないって言ってなかったっけ?」
「基本的にはね」
「ふぅん」
私の言葉に彼女は特に気にした様子もなくうなずくと、そのままエリオットと門番を眺める。
奴らは名無しさんが勧めたものを機嫌よく食べている。単純だな。
「なんか可愛いよねぇ。弟みたい」
「……あの3人がか?」
「うん。手のかかる弟って感じ」
そう言って名無しさんは笑った。
門番達はともかく、自分の2倍はあるだろうエリオットを捕まえて弟とは……。
思わず苦笑すると、名無しさんはこちらをじっと見てきた。
「なんだ?」
「うーん、ブラッドが私の弟だったらどうかなーって思って」
「!?」
カップを両手で包むように持ったまま、こちらを見つめる名無しさん。
弟……名無しさんには何も話していないはずだが。
動揺をなんとか押さえつつ名無しさんを見ると、彼女は首を傾げつつもおっとりとした様子でこう言った。
「でも、正直ブラッドは弟とか年下って感じしないんだよね。やっぱりボスだからかなぁ。私よりも人生経験ありそうだし、わがまま言う弟っていうよりも、ブラッドだからわがままが似合うっていうかさ」
「褒められているのか、けなされているのかわからないな」
思わずつぶやくと、名無しさんも「そうだね」とくすくす笑う。
「ブラッドって兄弟とかいるイメージないなぁ。一人で気ままにやってきましたって感じ。
あ、でもものすごく美人な女姉妹に囲まれてるっていうのもいいかも。似合いそう」
「…………」
「妹がいたら、絶対に可愛がるタイプだよね」
「どうだろうな」
「えー、可愛がるよきっと。お姉さんがいたら……頭が上がらないかもね、意外と」
「……どうだろうな」
微妙な間を作ってしまったが、名無しさんは気づく様子もなく楽しそうに続ける。
「私がブラッドのお姉さんだったら、弟を自慢して歩いちゃうけどな」
名無しさんはそう言っていたずらっぽく笑う。
予想外の言葉に名無しさんを見ると、彼女はこう続けた。
「だって、こんなにカッコいい弟なんて自慢じゃない?一緒に歩いて、世間の女の子に見せびらかしたいなー。
あ、今くだらないなって思ったでしょ?」
「いや……」
くだらないというよりも気になる点がある。
「名無しさんは私を弟ではなく恋人、という関係で見せびらかしたいとは思わないのか?」
「え?」
「私なら、自慢の姉よりも、自慢の恋人として名無しさんを連れて歩きたいと思うがね」
そう言って名無しさんを見ると、彼女はしばらくこちらを見つめてから微笑んだ。
「それは嬉しいな。ありがとう」
……社交辞令にとられたか。
「名無しさん、年下と言っても弟と恋人では、まるで意味が違うものだよ」
「え……」
「好きな女に弟扱いされるのはおもしろくない。私は名無しさんに弟扱いなんてされたくないな」
そう言って笑ってみせると、目が合った途端名無しさんは慌てたようにごくごくと紅茶を飲みだした。
どうやら動揺しているらしい。
しっかりとしている年上の名無しさんには、ストレートな物言いの方がいいのかもしれない。
ある意味「年下らしさ」を出すべきなのだろう。
門番達と同じやり口と言えばそれまでだが、これまで取ったことのない手法も楽しそうだ。
「名無しさん」
名前を呼んでみる。
すると、彼女はしずかにこちらを向いた。
「……うん?」
先ほどまでの動揺を完璧に隠しつつも、明らかに私を意識している表情だ。
自然と彼女の肩に手を回していた。
名無しさんは視線を一度落としてから、私を見上げた。
口説かれ上手なのはいい女である証だ。
「姉とか恋人というよりも、名無しさんが欲しい」
そっと耳元でささやく。
名無しさんはふわりと笑って私を見るとうなずいた。