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【秋の味覚】
秋がやってきた。
帽子屋屋敷の庭園は見事に赤く色づき、夕暮れの空に溶けていくようだった。
大きな木にもたれかかって、ぼんやりとその景色を眺めていたら、声をかけられた。
「名無しさん」
「なにを見ているの?」
見ると、大人姿のディーとダムが立っていた。
「秋の夕暮ってすごく綺麗だなぁと思って……」
私の答えに、2人は同じタイミングで視線を庭園へと向ける。
「……真っ赤だね」
「うん。なんかすごいね」
2人が普通の感想を述べたので、私はなんだか嬉しくなった。
「そうでしょう? 綺麗だよね」
「うん、なんだかすごくうずうずするよね」
「うんうん。あんなふうに辺り一面を赤く染め上げたいよね」
「?」
彼らの発言の意味が分からず、私は首を傾げた。
「この姿なら、子どもの時よりも一度にたくさんの奴らを相手にできるよね」
「そうだけど、この姿は久しぶりだから、僕子ども姿の方が動きやすいかもしれないな」
「どうする兄弟? 今回は大人と子どもでチームを組んでみる?」
「たまにはおもしろいかもねぇ、兄弟」
「やめときなさい」
にこにこ話す彼らに、私はこめかみを押さえた。
物騒だ。やっぱりこの子たちは物騒。
大人でも子どもでも変わらない。
ディーとダムは私の両隣に座った。
しばらく私たちはそのままぼんやりと空を眺める。
大人の彼らは私よりもだいぶ大きい。
子どもの二人に囲まれると可愛いなぁという感じが強いけれど、今の彼らとこうやって座っていると、安心感のようなものがある。
ちらりと彼らを交互に見てみた。
サラサラと前髪が風に揺れているディー。
まつ毛が異様に長いダム。
どちらも全く同じ顔でじっと遠くを見ている。
おとなしくしていれば、彼らはとても素敵なお兄さんだと思う。
暴れたり物騒なことをせずに、おとなしくしていれば。
今だってなんだか真面目な顔をしているけど、きっとおなかすいたなとか、休みが欲しいな、とかそんなことを考えているのだろう。
そう考えて思わずにやけてしまった。
すると二人が不思議そうに私を見る。
「? どうしたの?」
「名無しさん?」
「ごめん、なんでもないの」
そういうと、彼らは「そう」と首をかしげつつもうなずいた。
「なんだかおなかすいたな」
「そうだね。ちょっとおなかすいたね」
予想通りの言葉が出たので、私はますますおかしくなった。
肩を震わせて笑う私に、2人は「え?なに?どうしたの?」と顔をしかめる。
とりあえず、「私もおなかがすいてたから」といってその場をごまかしてみた。
すると、不意にディーがポケットを探りながら言った。
「あ、そうだ。名無しさん、これ食べる?」
そう言いながら、ディーがすっと私に手を差し出してきた。
見ると、彼の手にはコロンと可愛らしい栗が一つ乗っていた。
「さっきね、僕達栗拾いしてきたんだよ。たくさん採れたからとりあえず茹でてみたんだ」
「うん、結構おいしいよ。甘すぎなくてちょうどいい」
ディーとダムが普通なことを言うので、私は感心してしまった。
「へぇ、たまにはまともなこともするんだね」
「やだな、名無しさん。僕らが普段は異常なことばかりしてるみたいじゃない」
ディーは笑ってそう言うけれど、私は結構本気でそう思っている。
「僕達が欲しいのは栗よりもイガの方だからね。使い道を色々と考えている間に、とりあえず茹でておいたんだ。結構放っておいたのが良かったみたい」
「使い道……あんまり危ないことしないでね?」
そう言ったって絶対に危ないことをするんだろうな、この子たち。
苦笑する私をよそに、彼らはもう次のことをしていた。ナイフで栗の皮をむいている。
さすがというべきか、刃物の扱いは素晴らしく、あっという間に綺麗に栗の皮をむいた。
「はい、名無しさん。これ食べてみて。美味しいよ」
「うん、ありがとう」
ポンと口の中に入れると、自然の甘さが美味しかった。
「どう?」
「おいしい?」
「うん、美味しい」
私がうなずくと、彼らはほっとしたように笑った。
それがなんだかおかしくて、私は栗を食べながらニヤニヤしてしまう。
「なに、名無しさん?そんなににこにこするくらい美味しい?」
「よかった。名無しさんって栗が好きなんだ?」
栗の美味しさで笑っていると勘違いしているらしい。
ディーとダムは私を見て楽しそうに笑う。
2人が楽しそうならいいや、と特に否定しないでいたら、ふいに両脇から頬にキスをされた。
「!?」
びっくりする私に、彼らは笑った。
「名無しさん可愛い」
「栗一つでそこまで嬉しそうにしてくれるなんてね」
2人にじっと見つめられて、私は顔が熱くなる。
どうしよう、なんて言おうと思っていたら、彼らはくすくすと笑いだした。
「ふふ。名無しさんが照れてる」
「ほんと。どうにかしたくなっちゃうよね、そういう反応」
そう言う彼らは妖艶な笑みを浮かべている。
うわぁ、これはどうしよう、なんかまずいかも。変な空気かも。
その時の判断で逃げればよかったのだが、先に動いたのは彼らの方だった。
ディーが私の肩に腕をまわし、ダムは真正面から私に顔を近づけてきた。
「名無しさん、もう一つ、食べる?」
「僕らが食べさせてあげようか?」
彼らの言っていることは、とりあえず全て否定するのみ。
そういう勢いで私は首を振った。
だいたい、栗一つをここまでお色気全開で勧められたことはない。
動揺しまくる私を見て、彼らはさらに楽しそうな顔をする。
「遠慮しないで食べてよ。まだまだたくさんあるんだ」
「それとも、名無しさんが僕らに食べさせてくれるの?」
「あ、そうなんだ。それもいいね」
絶対無理!!!
最早首も振ることができずにいる私。
固まる私を楽しそうに見て、彼らはさらに距離を詰める。
「でも、僕らは栗じゃなくて違うものがほしいなぁ」
ディーが耳元で言い、
「うん、そうだね。旬の物よりも甘くて良いもの」
ダムは鼻先が触れそうな距離で静かに笑う。
この子たちはロクな大人にならないだろうなと思ってはいたけど、想像を超えてロクな大人ではない。
これ以上の接近はまずすぎる。
私は気力を奮い立たせると、彼らを押し返した。
「いや、ちょっと、ほんと冗談はよそうね?」
「冗談?冗談なんか言ってないよ」
「僕ら、名無しさんが欲しいんだ」
まっすぐに見つめられて、鼓動がおかしいくらいに早くなる。
「だ、だからなんでそうなっちゃうの」
「なんでって、名無しさんのことが好きだからに決まってるじゃない」
「そうだよ。他に理由なんてあるわけないでしょう?」
どストレートすぎるセリフに言葉を失う。
しかし、ディーもダムも至極当然という顔。
「好きな人には触りたいよ」
「うん、ずっとそばにいたい。僕らは名無しさんが好きだからね」
「名無しさんは? 僕らのこと好き?」
「まぁ、これから好きになってもらえばいいだけなんだけどね」
そういう結論に達した彼らは、押しのけた私の手を掴んだ。
再び距離が詰まる。
……いよいよ窮地に立たされた。
嫌いじゃない。嫌いじゃないし、どちらかといえば2人のことは好きだ。
でも恋愛として好きなのだろうか?
こんな流され方をして良いものなのか?
そんな疑問が浮かぶけれど、私の髪やら肩やら頬を撫でる彼らの手が優しくて、なんだか心地いい。
2人の顔が近づいてくるなぁとぼんやりと思っていた時だった。
「やぁ、名無しさん。双子くんたち。こんにちは」
そんな声が聞こえて、私ははっと意識を取り戻す。
見ると、いつのまにかエースが私達のすぐそばでにこにこと笑っていた。
「え、エース!?」
気まずさと恥ずかしさで私は耳まで熱くなる。
しかし、エースは特に気にした様子もなく爽やかにこう言った。
「なんだか楽しそうだね。俺も混ぜてよ」
「な、何言ってんのっ!?」
思わずそう言ってしまった。
すると、ディーとダムがゆっくりと振り返ってエースを見る。
「……最悪だね、兄弟」
「うん、最低最悪だよ、兄弟。なんでこんなところにこいつがいるわけ?」
「ほんと。すっごくいい所だったのに」
「ははは!ごめんなー、邪魔しちゃって。門があいてたから入ってみたんだけど、ここ、帽子屋さんの屋敷だったんだなー。全然気づかなかったぜ」
からから笑うエースに言葉が出ない。
「勝手に入ってくるなよ、迷子騎士!」
「そうだよ、門があいてるから入るなんて頭がおかしいんじゃない?」
「ははは、ごめんごめん。でもさ、君たち門番だろ? 門をあけたまま、女の子を襲ってるなんて良くないぜ?
せめて門はしめておかないとな。はははっ!」
どこをツッコむべきかわからない発言。
しかし、双子はピンポイントでエースに反論した。
「誰が襲ってるって?」
「人聞きの悪い言い方をしないでほしいな。僕らは名無しさんと大切な話をしていただけなんだから」
双子は両隣で私の腕を掴みながら言う。
『大切な話』ですか……。
どうやら2人に襲っているという感覚はゼロらしい。
呆れるやら腹立たしいやらで脱力してしまう。
エースはそんな私を見て笑うと、つかつかと私(と双子)に近づいた。
そして、屈みこんで私の顔を覗き込む。
「っていうことみたいだけど、結構ギリギリだったよね? 俺の登場に安心したんじゃない、名無しさん?」
私の頬に触れながらいけしゃあしゃあという彼。
両隣にディーとダムがいるというのに、全く意に介さない。
正直に言えばこれまでエースからも、双子と似たような『大切な話』をされたことがある。
でも今回に限って言えば、彼の登場はありがたい。
「……助かりました」
そうつぶやく私に、エースはふわりと笑った。
「俺、騎士だからね。ちゃんと名無しさんのピンチを助けてあげる。それに、今の君のその状況、なんかおもしろくないしね」
エースは双子に抑え込まれている私の頭をぽんと撫でる。
その瞬間双子が斧をエースに向けて振った。
さっと距離を取ったエースは静かに笑ってこちらを見ている。
「ねぇ、さっきから聞いてると、まるで僕らが悪者みたいな言い方。すごく腹が立つな」
「ほんと。邪魔した悪者はそっちのほうなのに。切り刻まれたいんだね、きっと」
双子はそう言うと、私から離れて立ち上がる。
「名無しさん、ちょっと待っててね。この赤いのをやっつけちゃうから」
「その栗食べて待ってていいよ」
いや、そんなのんきな状況じゃないでしょう。
顔をしかめる私だったけれど、双子の言動にエースが同意するように言った。
「ははは!いいね、久しぶりにやろうか。大人の君たちとやるのは初めてだから、ちょっと強めに行こうかな」
「ばっかじゃないの? 全力で来ないと死ぬよ」
「気づいた時には頭と体が離れてるよ」
「うーん。面白そうだけど、体験したくはないなぁ。なんなら君たちが体験してみる?」
ピリピリと張りつめた空気に思わず息をのむが、その後の会話が何とも言えずくだらない。
「あんまり名無しさんを待たせちゃ悪いし、今日は手短に終わらせちゃうけどいいよな?」
「別に名無しさんはお前なんて待ってないよ」
「僕たちを待ってるんだ」
「えー。俺だって名無しさんに栗を食べさせてあげたいんだけど」
「一人で食べてろ、迷子騎士!」
「お前には栗も名無しさんもやらないよ」
「ケチだなぁ。そういう男はモテないぜ?」
ガンガンとやり合う彼らだけれど、話の内容は子どもっぽい。
特に双子は、さっきまで身の危険を感じていたのが信じられないくらいだ。
ギャップがありすぎるのもどうなのかしら?と思いつつ、栗を一つ食べる私だった。
秋がやってきた。
帽子屋屋敷の庭園は見事に赤く色づき、夕暮れの空に溶けていくようだった。
大きな木にもたれかかって、ぼんやりとその景色を眺めていたら、声をかけられた。
「名無しさん」
「なにを見ているの?」
見ると、大人姿のディーとダムが立っていた。
「秋の夕暮ってすごく綺麗だなぁと思って……」
私の答えに、2人は同じタイミングで視線を庭園へと向ける。
「……真っ赤だね」
「うん。なんかすごいね」
2人が普通の感想を述べたので、私はなんだか嬉しくなった。
「そうでしょう? 綺麗だよね」
「うん、なんだかすごくうずうずするよね」
「うんうん。あんなふうに辺り一面を赤く染め上げたいよね」
「?」
彼らの発言の意味が分からず、私は首を傾げた。
「この姿なら、子どもの時よりも一度にたくさんの奴らを相手にできるよね」
「そうだけど、この姿は久しぶりだから、僕子ども姿の方が動きやすいかもしれないな」
「どうする兄弟? 今回は大人と子どもでチームを組んでみる?」
「たまにはおもしろいかもねぇ、兄弟」
「やめときなさい」
にこにこ話す彼らに、私はこめかみを押さえた。
物騒だ。やっぱりこの子たちは物騒。
大人でも子どもでも変わらない。
ディーとダムは私の両隣に座った。
しばらく私たちはそのままぼんやりと空を眺める。
大人の彼らは私よりもだいぶ大きい。
子どもの二人に囲まれると可愛いなぁという感じが強いけれど、今の彼らとこうやって座っていると、安心感のようなものがある。
ちらりと彼らを交互に見てみた。
サラサラと前髪が風に揺れているディー。
まつ毛が異様に長いダム。
どちらも全く同じ顔でじっと遠くを見ている。
おとなしくしていれば、彼らはとても素敵なお兄さんだと思う。
暴れたり物騒なことをせずに、おとなしくしていれば。
今だってなんだか真面目な顔をしているけど、きっとおなかすいたなとか、休みが欲しいな、とかそんなことを考えているのだろう。
そう考えて思わずにやけてしまった。
すると二人が不思議そうに私を見る。
「? どうしたの?」
「名無しさん?」
「ごめん、なんでもないの」
そういうと、彼らは「そう」と首をかしげつつもうなずいた。
「なんだかおなかすいたな」
「そうだね。ちょっとおなかすいたね」
予想通りの言葉が出たので、私はますますおかしくなった。
肩を震わせて笑う私に、2人は「え?なに?どうしたの?」と顔をしかめる。
とりあえず、「私もおなかがすいてたから」といってその場をごまかしてみた。
すると、不意にディーがポケットを探りながら言った。
「あ、そうだ。名無しさん、これ食べる?」
そう言いながら、ディーがすっと私に手を差し出してきた。
見ると、彼の手にはコロンと可愛らしい栗が一つ乗っていた。
「さっきね、僕達栗拾いしてきたんだよ。たくさん採れたからとりあえず茹でてみたんだ」
「うん、結構おいしいよ。甘すぎなくてちょうどいい」
ディーとダムが普通なことを言うので、私は感心してしまった。
「へぇ、たまにはまともなこともするんだね」
「やだな、名無しさん。僕らが普段は異常なことばかりしてるみたいじゃない」
ディーは笑ってそう言うけれど、私は結構本気でそう思っている。
「僕達が欲しいのは栗よりもイガの方だからね。使い道を色々と考えている間に、とりあえず茹でておいたんだ。結構放っておいたのが良かったみたい」
「使い道……あんまり危ないことしないでね?」
そう言ったって絶対に危ないことをするんだろうな、この子たち。
苦笑する私をよそに、彼らはもう次のことをしていた。ナイフで栗の皮をむいている。
さすがというべきか、刃物の扱いは素晴らしく、あっという間に綺麗に栗の皮をむいた。
「はい、名無しさん。これ食べてみて。美味しいよ」
「うん、ありがとう」
ポンと口の中に入れると、自然の甘さが美味しかった。
「どう?」
「おいしい?」
「うん、美味しい」
私がうなずくと、彼らはほっとしたように笑った。
それがなんだかおかしくて、私は栗を食べながらニヤニヤしてしまう。
「なに、名無しさん?そんなににこにこするくらい美味しい?」
「よかった。名無しさんって栗が好きなんだ?」
栗の美味しさで笑っていると勘違いしているらしい。
ディーとダムは私を見て楽しそうに笑う。
2人が楽しそうならいいや、と特に否定しないでいたら、ふいに両脇から頬にキスをされた。
「!?」
びっくりする私に、彼らは笑った。
「名無しさん可愛い」
「栗一つでそこまで嬉しそうにしてくれるなんてね」
2人にじっと見つめられて、私は顔が熱くなる。
どうしよう、なんて言おうと思っていたら、彼らはくすくすと笑いだした。
「ふふ。名無しさんが照れてる」
「ほんと。どうにかしたくなっちゃうよね、そういう反応」
そう言う彼らは妖艶な笑みを浮かべている。
うわぁ、これはどうしよう、なんかまずいかも。変な空気かも。
その時の判断で逃げればよかったのだが、先に動いたのは彼らの方だった。
ディーが私の肩に腕をまわし、ダムは真正面から私に顔を近づけてきた。
「名無しさん、もう一つ、食べる?」
「僕らが食べさせてあげようか?」
彼らの言っていることは、とりあえず全て否定するのみ。
そういう勢いで私は首を振った。
だいたい、栗一つをここまでお色気全開で勧められたことはない。
動揺しまくる私を見て、彼らはさらに楽しそうな顔をする。
「遠慮しないで食べてよ。まだまだたくさんあるんだ」
「それとも、名無しさんが僕らに食べさせてくれるの?」
「あ、そうなんだ。それもいいね」
絶対無理!!!
最早首も振ることができずにいる私。
固まる私を楽しそうに見て、彼らはさらに距離を詰める。
「でも、僕らは栗じゃなくて違うものがほしいなぁ」
ディーが耳元で言い、
「うん、そうだね。旬の物よりも甘くて良いもの」
ダムは鼻先が触れそうな距離で静かに笑う。
この子たちはロクな大人にならないだろうなと思ってはいたけど、想像を超えてロクな大人ではない。
これ以上の接近はまずすぎる。
私は気力を奮い立たせると、彼らを押し返した。
「いや、ちょっと、ほんと冗談はよそうね?」
「冗談?冗談なんか言ってないよ」
「僕ら、名無しさんが欲しいんだ」
まっすぐに見つめられて、鼓動がおかしいくらいに早くなる。
「だ、だからなんでそうなっちゃうの」
「なんでって、名無しさんのことが好きだからに決まってるじゃない」
「そうだよ。他に理由なんてあるわけないでしょう?」
どストレートすぎるセリフに言葉を失う。
しかし、ディーもダムも至極当然という顔。
「好きな人には触りたいよ」
「うん、ずっとそばにいたい。僕らは名無しさんが好きだからね」
「名無しさんは? 僕らのこと好き?」
「まぁ、これから好きになってもらえばいいだけなんだけどね」
そういう結論に達した彼らは、押しのけた私の手を掴んだ。
再び距離が詰まる。
……いよいよ窮地に立たされた。
嫌いじゃない。嫌いじゃないし、どちらかといえば2人のことは好きだ。
でも恋愛として好きなのだろうか?
こんな流され方をして良いものなのか?
そんな疑問が浮かぶけれど、私の髪やら肩やら頬を撫でる彼らの手が優しくて、なんだか心地いい。
2人の顔が近づいてくるなぁとぼんやりと思っていた時だった。
「やぁ、名無しさん。双子くんたち。こんにちは」
そんな声が聞こえて、私ははっと意識を取り戻す。
見ると、いつのまにかエースが私達のすぐそばでにこにこと笑っていた。
「え、エース!?」
気まずさと恥ずかしさで私は耳まで熱くなる。
しかし、エースは特に気にした様子もなく爽やかにこう言った。
「なんだか楽しそうだね。俺も混ぜてよ」
「な、何言ってんのっ!?」
思わずそう言ってしまった。
すると、ディーとダムがゆっくりと振り返ってエースを見る。
「……最悪だね、兄弟」
「うん、最低最悪だよ、兄弟。なんでこんなところにこいつがいるわけ?」
「ほんと。すっごくいい所だったのに」
「ははは!ごめんなー、邪魔しちゃって。門があいてたから入ってみたんだけど、ここ、帽子屋さんの屋敷だったんだなー。全然気づかなかったぜ」
からから笑うエースに言葉が出ない。
「勝手に入ってくるなよ、迷子騎士!」
「そうだよ、門があいてるから入るなんて頭がおかしいんじゃない?」
「ははは、ごめんごめん。でもさ、君たち門番だろ? 門をあけたまま、女の子を襲ってるなんて良くないぜ?
せめて門はしめておかないとな。はははっ!」
どこをツッコむべきかわからない発言。
しかし、双子はピンポイントでエースに反論した。
「誰が襲ってるって?」
「人聞きの悪い言い方をしないでほしいな。僕らは名無しさんと大切な話をしていただけなんだから」
双子は両隣で私の腕を掴みながら言う。
『大切な話』ですか……。
どうやら2人に襲っているという感覚はゼロらしい。
呆れるやら腹立たしいやらで脱力してしまう。
エースはそんな私を見て笑うと、つかつかと私(と双子)に近づいた。
そして、屈みこんで私の顔を覗き込む。
「っていうことみたいだけど、結構ギリギリだったよね? 俺の登場に安心したんじゃない、名無しさん?」
私の頬に触れながらいけしゃあしゃあという彼。
両隣にディーとダムがいるというのに、全く意に介さない。
正直に言えばこれまでエースからも、双子と似たような『大切な話』をされたことがある。
でも今回に限って言えば、彼の登場はありがたい。
「……助かりました」
そうつぶやく私に、エースはふわりと笑った。
「俺、騎士だからね。ちゃんと名無しさんのピンチを助けてあげる。それに、今の君のその状況、なんかおもしろくないしね」
エースは双子に抑え込まれている私の頭をぽんと撫でる。
その瞬間双子が斧をエースに向けて振った。
さっと距離を取ったエースは静かに笑ってこちらを見ている。
「ねぇ、さっきから聞いてると、まるで僕らが悪者みたいな言い方。すごく腹が立つな」
「ほんと。邪魔した悪者はそっちのほうなのに。切り刻まれたいんだね、きっと」
双子はそう言うと、私から離れて立ち上がる。
「名無しさん、ちょっと待っててね。この赤いのをやっつけちゃうから」
「その栗食べて待ってていいよ」
いや、そんなのんきな状況じゃないでしょう。
顔をしかめる私だったけれど、双子の言動にエースが同意するように言った。
「ははは!いいね、久しぶりにやろうか。大人の君たちとやるのは初めてだから、ちょっと強めに行こうかな」
「ばっかじゃないの? 全力で来ないと死ぬよ」
「気づいた時には頭と体が離れてるよ」
「うーん。面白そうだけど、体験したくはないなぁ。なんなら君たちが体験してみる?」
ピリピリと張りつめた空気に思わず息をのむが、その後の会話が何とも言えずくだらない。
「あんまり名無しさんを待たせちゃ悪いし、今日は手短に終わらせちゃうけどいいよな?」
「別に名無しさんはお前なんて待ってないよ」
「僕たちを待ってるんだ」
「えー。俺だって名無しさんに栗を食べさせてあげたいんだけど」
「一人で食べてろ、迷子騎士!」
「お前には栗も名無しさんもやらないよ」
「ケチだなぁ。そういう男はモテないぜ?」
ガンガンとやり合う彼らだけれど、話の内容は子どもっぽい。
特に双子は、さっきまで身の危険を感じていたのが信じられないくらいだ。
ギャップがありすぎるのもどうなのかしら?と思いつつ、栗を一つ食べる私だった。