短編
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【距離】
ここ最近、グレイの様子が変わった。
いつにも増してクールというか、無駄口は叩きません。って感じ。
仕事が忙しいというのもあるのかもしれない。
普段から忙しい人なので心配だ。
心配だけど、でも、私には他にもすごく気になる点がある。
グレイは別に怒っているわけではなさそうだけれど、なんだか私のことを避けているような気がするのです。
私が話しかけてもあまり顔を見てくれない。
会話は成立するけれど、必要最低限のやりとりにしかならない。
私、何かしてしまったのでしょうか?
彼とはだいぶ仲良くなっていたのでなんだか悲しい。
避けられてから気づいたのだけれど、私はすでにグレイのことが好きになっていたのだった。
そんなある日。
休憩室にいたら、グレイがやってきた。
彼は1人休憩室にいた私を見て一瞬足を止めたけれど、入ってきてしまった手前出るのも気まずいと判断したらしい。
そのまま静かに入ってきた。
「グレイ。おつかれさま」
「お疲れ様、名無しさん」
「……」
「……」
なんだろう、やっぱりご機嫌斜めというか、私、嫌がられてるのかな。
「……あの、珈琲飲む?」
思い切って聞いてみると、彼は私を見た。
「いや、今はいい」
そう言って、私の斜め向かいのソファに座る。
「……」
「……」
き、気まずい。
なんでこんなに気まずいの?
グレイに話しかけられる感じがしない。
いつもどうやって話しかけてたんだろう? なにを話していたんだろう?
彼と一緒にいるとドキドキするけれど、今は別の意味でドキドキしてしまう私。
すると、彼はスーツの胸ポケットに手をやり煙草を取り出した。
「……1本いいか?」
そう言いながらちらりと私を見るグレイ。
私はこくりと頷いた。
カチリとライターの音がして、あっという間に煙草の匂いと煙。
そういえばグレイが煙草を吸っている所って、あんまり見たことがない。
喫煙者だということは知っていたけど、この距離で彼が煙草を吸っているのを見るのは初めてだ。
私は自分の近くにあった透明なガラスの灰皿を、グレイの前に滑らせる。
「あぁ、ありがとう」
煙を吐き出してグレイがそう言った。
そして、その途端またやってくる静寂。
グレイは煙草をひたすら吸い、私はひたすら珈琲を飲む。
ものすごく長い時間に思えた。
まるで苦行だ。いつもグレイといるときは楽しくてあっという間に時間が過ぎていくというのに。
グレイが吸っている煙草の煙を見ながら、私はどうしよう、なにを話そうと考える。
「……怯えた顔をしているな、名無しさん」
グレイがぽつりとそう言った。
私は思わぬ言葉に彼を見る。
こちらを見ていたらしいグレイが困ったように小さく笑った。
その表情を見て、私は思い切って口を開く。
「グレイ、私何かした? 何か怒ってるの?」
自分は思った以上に緊張していたらしい。いつもと違う声な気がした。
すると、グレイは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐにいつもの表情になる。
「いや、君は何もしていない。怒ってもいない。……俺の機嫌が悪いように見えるのか?」
「……なんだかちょっと避けられているような気がしたから」
正直にそう言うと、彼は「あぁ」と言って笑った。
「そう。ちょっと避けてみた」
「え!」
頭をガンと殴られたような衝撃が走った。
そんなあっさり認めるものですか!?
驚く私に、彼は苦笑した。
「いや、ちょっと距離を置こうと思ったんだ」
「……どうして?」
やっぱり私がなにかしてしまったのかもしれない。
なんだか目が熱くなってきた。
するとグレイは困ったように小さくつぶやいた。
「わるい、そういう意味じゃない。違うんだ」
「?」
首を傾げる私に、グレイはしばらく色々考えを巡らせていたようだったけれど、やがて口を開いた。
「……名無しさんと一緒にいると、何も手につかなくなってしまう」
「え?」
「君のことばかり考えてしまって、どうしようもないんだ」
気まずそうに言う彼。
どういう意味だろう?
うまく頭が働かず、言葉も出ない。
私はただグレイを見つめる。
すると、彼はゆっくりとたばこの煙を吐き出してから、そっと灰皿にそれを押し付けた。
「名無しさんが他の男と話していると気になるし、外へ出かけるというと気が気じゃない。
俺のそばに君を置きたいし、もしそばにいたら触れたくなる」
「え……」
ドキドキし始める私の鼓動。
グレイは灰皿からゆっくりと私に視線を移した。
「名無しさんを困らせたくはない。でも、触れたい。利己的な自分にうんざりする」
グレイはそう言いながら私に手を伸ばすと、ひざに乗せていた私の手にそっと触れた。
大きくて乾いた手のひらにドキドキしすぎて頭がくらくらする。
「だから散々悩んだ結果、距離を置くことにした。それが1番いいと思ったんだが……」
グレイは私の手を握ったまま、まっすぐにこちらを見つめている。
自分の鼓動が耳元から聞こえてくる気がした。
「でも、限界だな」
彼はそう言いながら、身を乗り出して私に顔を寄せる。
「少し距離を置いていた分、近づいたら抑えがきかなくなる」
これは誤算だったな、と小さく笑うグレイ。
言葉とは裏腹になんだか落ち着いて見える。
私はというと心臓が破裂しそうなほどドキドキしている。
どうしていいのかわからずグレイを見ていると、彼はそこでやっと表情を緩めた。
「名無しさん、逃げるなら今のうちだぞ?」
すぐ目の前でそんなことを言うグレイ。
逃げるなんて考えてもみなかったし、なにより彼は逃がしてくれそうもない。
妖艶な笑みを浮かべたまま、グレイはソファにそっと私を押しつけた。
ここ最近、グレイの様子が変わった。
いつにも増してクールというか、無駄口は叩きません。って感じ。
仕事が忙しいというのもあるのかもしれない。
普段から忙しい人なので心配だ。
心配だけど、でも、私には他にもすごく気になる点がある。
グレイは別に怒っているわけではなさそうだけれど、なんだか私のことを避けているような気がするのです。
私が話しかけてもあまり顔を見てくれない。
会話は成立するけれど、必要最低限のやりとりにしかならない。
私、何かしてしまったのでしょうか?
彼とはだいぶ仲良くなっていたのでなんだか悲しい。
避けられてから気づいたのだけれど、私はすでにグレイのことが好きになっていたのだった。
そんなある日。
休憩室にいたら、グレイがやってきた。
彼は1人休憩室にいた私を見て一瞬足を止めたけれど、入ってきてしまった手前出るのも気まずいと判断したらしい。
そのまま静かに入ってきた。
「グレイ。おつかれさま」
「お疲れ様、名無しさん」
「……」
「……」
なんだろう、やっぱりご機嫌斜めというか、私、嫌がられてるのかな。
「……あの、珈琲飲む?」
思い切って聞いてみると、彼は私を見た。
「いや、今はいい」
そう言って、私の斜め向かいのソファに座る。
「……」
「……」
き、気まずい。
なんでこんなに気まずいの?
グレイに話しかけられる感じがしない。
いつもどうやって話しかけてたんだろう? なにを話していたんだろう?
彼と一緒にいるとドキドキするけれど、今は別の意味でドキドキしてしまう私。
すると、彼はスーツの胸ポケットに手をやり煙草を取り出した。
「……1本いいか?」
そう言いながらちらりと私を見るグレイ。
私はこくりと頷いた。
カチリとライターの音がして、あっという間に煙草の匂いと煙。
そういえばグレイが煙草を吸っている所って、あんまり見たことがない。
喫煙者だということは知っていたけど、この距離で彼が煙草を吸っているのを見るのは初めてだ。
私は自分の近くにあった透明なガラスの灰皿を、グレイの前に滑らせる。
「あぁ、ありがとう」
煙を吐き出してグレイがそう言った。
そして、その途端またやってくる静寂。
グレイは煙草をひたすら吸い、私はひたすら珈琲を飲む。
ものすごく長い時間に思えた。
まるで苦行だ。いつもグレイといるときは楽しくてあっという間に時間が過ぎていくというのに。
グレイが吸っている煙草の煙を見ながら、私はどうしよう、なにを話そうと考える。
「……怯えた顔をしているな、名無しさん」
グレイがぽつりとそう言った。
私は思わぬ言葉に彼を見る。
こちらを見ていたらしいグレイが困ったように小さく笑った。
その表情を見て、私は思い切って口を開く。
「グレイ、私何かした? 何か怒ってるの?」
自分は思った以上に緊張していたらしい。いつもと違う声な気がした。
すると、グレイは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐにいつもの表情になる。
「いや、君は何もしていない。怒ってもいない。……俺の機嫌が悪いように見えるのか?」
「……なんだかちょっと避けられているような気がしたから」
正直にそう言うと、彼は「あぁ」と言って笑った。
「そう。ちょっと避けてみた」
「え!」
頭をガンと殴られたような衝撃が走った。
そんなあっさり認めるものですか!?
驚く私に、彼は苦笑した。
「いや、ちょっと距離を置こうと思ったんだ」
「……どうして?」
やっぱり私がなにかしてしまったのかもしれない。
なんだか目が熱くなってきた。
するとグレイは困ったように小さくつぶやいた。
「わるい、そういう意味じゃない。違うんだ」
「?」
首を傾げる私に、グレイはしばらく色々考えを巡らせていたようだったけれど、やがて口を開いた。
「……名無しさんと一緒にいると、何も手につかなくなってしまう」
「え?」
「君のことばかり考えてしまって、どうしようもないんだ」
気まずそうに言う彼。
どういう意味だろう?
うまく頭が働かず、言葉も出ない。
私はただグレイを見つめる。
すると、彼はゆっくりとたばこの煙を吐き出してから、そっと灰皿にそれを押し付けた。
「名無しさんが他の男と話していると気になるし、外へ出かけるというと気が気じゃない。
俺のそばに君を置きたいし、もしそばにいたら触れたくなる」
「え……」
ドキドキし始める私の鼓動。
グレイは灰皿からゆっくりと私に視線を移した。
「名無しさんを困らせたくはない。でも、触れたい。利己的な自分にうんざりする」
グレイはそう言いながら私に手を伸ばすと、ひざに乗せていた私の手にそっと触れた。
大きくて乾いた手のひらにドキドキしすぎて頭がくらくらする。
「だから散々悩んだ結果、距離を置くことにした。それが1番いいと思ったんだが……」
グレイは私の手を握ったまま、まっすぐにこちらを見つめている。
自分の鼓動が耳元から聞こえてくる気がした。
「でも、限界だな」
彼はそう言いながら、身を乗り出して私に顔を寄せる。
「少し距離を置いていた分、近づいたら抑えがきかなくなる」
これは誤算だったな、と小さく笑うグレイ。
言葉とは裏腹になんだか落ち着いて見える。
私はというと心臓が破裂しそうなほどドキドキしている。
どうしていいのかわからずグレイを見ていると、彼はそこでやっと表情を緩めた。
「名無しさん、逃げるなら今のうちだぞ?」
すぐ目の前でそんなことを言うグレイ。
逃げるなんて考えてもみなかったし、なにより彼は逃がしてくれそうもない。
妖艶な笑みを浮かべたまま、グレイはソファにそっと私を押しつけた。