マッドハッターズ!

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余所者で普通の女の子が夢主です
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 【1.お屋敷生活はじめました】


帽子屋屋敷に滞在することになりました。
なんだかよくわからないけれど、選択の余地なし……?っていう感じであれよあれよというまに、今の状態になっている。

滞在して十数時間帯。
変な時間で動いていくこの世界にも慣れ、帽子屋屋敷内の探検もあらかた済ませていた私。

食事をとって自室への廊下を歩く。
このだだっ広い廊下にもだいぶ慣れてきた。
初めて歩いた時は、敷き詰められた絨毯のふかふかさに驚いたけど、今ではお気に入りの感触だ。
そんなことを考えながら歩いていたら、声をかけられた。

「やぁ、名無しさん

はっと顔をあげると、そこには珍しく機嫌の良さそうな家主・ブラッド=デュプレが立っていた。

「この廊下に何か興味を引くものでもあったかな?」
「え?」
「ずいぶんと色々な場所を眺めているようだったからね」

そう言って楽しそうに笑うブラッドは、私の答えを待っているようだった。

「奇妙だけれど上質なこのお屋敷は、悪いお金でできたものなのね、って思ってたところなの」

完結に述べてみた。

廊下に限らずこの屋敷は、壁紙や電気などありとあらゆる物が、シルクハットがモチーフのデザインとなっている。
奇妙だ。すごく奇妙。住んでみると良くわかる。
初めのうちこそ「わー、帽子屋屋敷というだけあるわー」とのんきに思っていた。
しかしいざその空間に身を置くと、持ち主は相当な変わり者なんだろうな、ということを嫌でも感じてしまう。
そんな奇妙な屋敷だけれど、どう見てもすべてが高級・高価・上質な物でできている。(なんてブルジョワ!)

お仕事儲かるんですねー、なんて思いつつも尊敬という感じは全くない。
なぜならここはマフィアの本拠地なのだ。マフィア・帽子屋ファミリー。
悪いことをして得たお金でできたお屋敷。
まさか私がそんな場所に住むことになるとは……。

すると、ファミリーのボス・ブラッドはふふふと笑った。

「まぁそうだな。色々な犠牲の上に成り立った我が屋敷だよ」
「犠牲って言っても、あなたは痛くもなんともないんでしょ」
「あぁ。犠牲を払ったのは別の人間だからね」
「めちゃくちゃ悪人の言葉だよね、それ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」

ブラッドは悪びれることなくそう言った。本気で他人はどうでもいいと思っているみたい。

「そろそろここの生活にも慣れたかな?」
「うん。だいぶ慣れてきたよ」
「それはよかった。飽きるまでここにいていいぞ。余所者は珍しい。私も退屈しないよ。
 もちろん名無しさんが、悪い金でできたこの屋敷を嫌いじゃなければ、ということだが」
「……意地悪な言い方しないでよ」

私には他に行くところなんてない。

「ここの屋敷の人たちはみんな良くしてくれるから、すごく感謝してるもの」

エリオットも双子も、メイドさんも使用人さんもみんな優しい。
もちろん最初はすごく怖い目にもあったけど(ていうか殺されかけたけど)、ここの人たちとも仲良くなった。

「殺されかけた子たちに、遊ぼう遊ぼうって懐かれるのはすごく変な感じだけど……」

無邪気に笑って斧を振り回す双子たちが思い浮かぶ。

「遊び、とか言いつつ殺されたりしないかっていう不安があるんだよね」
「子どもというのは飽きっぽい上に残酷だからな。私の傍にいれば安心だよ、名無しさん
「いや、ブラッドも飽きっぽい上に残酷そうに見えるけど」

真面目ぶって言うブラッドに思わず突っ込みを入れると、彼は心外だという顔をわざとらしくしてみせる。

「そんなことはないさ。余所者は珍しいから、しばらくは飽きないよ」
「……いつかは飽きるということよね、それ」

スリル溢れる自分の現状に、今更ながら気づかされるわー。
思わずため息をつく私を見て、ブラッドはくすくすと笑った(絶対からかわれてるな)

「大体ね、マフィアなんて仕事をしているというだけでも、退屈とは程遠い毎日だと思うんだけど。しかもボスでしょ」

そう、ボスなんですよね、この人。
すらりとして見た目のいい(というかかなり整ってる)彼がボスかと思うと、底知れぬを恐ろしさを感じる。

「そんなことはない。ちょっとしたいざこざは部下に任せてあるからね。上にいる者がおいそれと出て行くことはできないし、退屈だよ」
「ふぅん。そういうものなんだ」
「そういうものなんだよお嬢さん。というわけで退屈してたんだ。お茶会をしよう」
「え、これから?」
「そう、これから。君の好きな茶菓子の傾向もわかってきたし喜んでもらえると思うよ」
「でも私この後仕事が……」
「そんなの放っておけばいい。雇い主が言っているんだ。今日の名無しさんの仕事は私とお茶会をすることだよ」
「……横暴ですね、ボス」
「雇い主に言うセリフではないな」
「はいすみませんもうしわけありませんボス」

こんなやりとりができるくらいにはブラッドと仲良くなり、ここでの生活にも慣れてきた私。
彼の気分次第で自分の運命が変わることが恐ろしいけれど、なんだかんだ帽子屋屋敷の人々のことが好きになってきている。

平穏とは無縁の生活だけれど、どうかこのままでいられますように、と願わずにはいられない私だった。
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