キャロットガール
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【11.はじまりの空】
「はー、名無しさん出て行っちゃうのか―。寂しくなるなー」
「でも、そんなに遠いわけじゃないし、また遊びに来るよ」
エースの言葉に私が笑って答えると、
「別に来なくていい」
とユリウスがきっぱり言った。
「えー、ひどいなぁ。今まで仲良く同居してたじゃない」
「別に同居したくてしたわけじゃない。むしろ一人の方が気楽でいい」
「もー、ユリウスってほんとにつれないよねぇ」
口を尖らす私にユリウスは知らん顔。
でもなんだかそれがすごく彼らしくて笑ってしまった。
私はここを出て、帽子屋屋敷に住むことになった。
時計塔のままでもいいかななんて思っていたけれど、エリオットがそれを嫌がったし、ユリウスも良い顔をしなかった。
まぁ、普通に考えればそうだろう。ユリウスとは身内でもなんでもないのだ。
でも、なんだか寂しい。
時計塔生活とお別れする日が来ることを考えたことなどなかったのだ。
長い階段を登るのは大変だったし、不便なことこの上ない生活だったけれどそれもまた楽しかった。
屋上から見る景色も好きだったし、下から見上げる時計塔も好きだった。
ユリウスはいつも仕事ばかりで根暗でぶっきらぼうだけど、すごく優しくしてくれた。
エースはたまにやって来ては散々引っ掻き回していったけれど、彼が来るとぱっと雰囲気が変わって楽しかった。
振り返ると楽しい思い出しかない。
なんだかきゅっと胸の奥を掴まれたような気持ちになる。
「ユリウス。今までどうもありがとう。本当に本当に感謝してます」
「あぁ、感謝しろ。私がここに置かなかったら、お前は今頃どこかで野垂れ死んでいただろうからな」
「……ほんと、ユリウスのその毒舌はちょっとどうかと思うよ? 特に女の子にはやめた方がいいと思う」
口を尖らせる私にエースがからから笑った。
「ははっ!俺もそう思う」
「……どう話そうが私の勝手だ」
「とか言いつつ本当はちょっと気にしてるんだろ?」
「うるさい」
エースの言葉をばっさりと斬るユリウスだったけれど、エースは楽しそうに笑っている。
こんな2人のやり取りも、ここを出たら見られなくなってしまうんだなぁと思うとちょっと寂しい。
「なんかさみしいなぁ。私もうちょっと二人と一緒にいたかったな」
「俺もいたかったなー。でも俺も城に帰るんだよね」
「え!? そうなの!?」
「うん。本当はずっとここにいたいんだけどね、俺城の人間だし、そろそろ戻らないと陛下に怒られちゃう」
その言葉に「どちらかを選べるだけでもいい」といった時のエースを思い出す。
選び取ることのできた私はきっと幸せなんだろう。
そう考えていると、エースが私を見てにこりと笑った。
その笑顔に何も言えなくなる。
私はエースから視線を逸らすと、ユリウスに尋ねた。
「それじゃあユリウスは1人になるの?」
「元に戻るだけだ」
「なんかさみしいな。ここにユリウスを1人だけ残していくなんて嫌だな」
「別にかまわないと言っているだろう」
「本当は寂しいくせに。大丈夫だよ。またすぐ俺が遊びに来るからさ」
ユリウスの肩をぽんと叩きながらエースが言う。
すると、心底迷惑そうにユリウスが顔をゆがめた。
「仕事のあるときに呼ぶから、遊びには来るな」
「はははっ!つれないよなー」
爽やかに笑うエースの手を払いのけるユリウス。
なんだかんだ仲が良いよなぁ、この二人。
ここに入れてもらえていたのは、すごいことだったのかもしれない。
「私もたまに遊びに来るからね」
「だから来なくていい」
「うわ、本当に冷たすぎるよユリウス」
がくっと肩を落としてみせると、「素直じゃないよなぁ」とエースが笑った。
ユリウスは「お前達はおめでたい奴らだな」とため息をついた。
「恋人の元へ行く女が、どうして他の男の元にわざわざ遊びにくるんだ。2度と戻ってくるな」
ユリウスの言葉を聞いていたエースが言う。
「なんだか娘を嫁に出す父親みたいだぜ」
「あー、確かにそうかも」
「はぁ!?冗談じゃない」
顔を思いっきり顰めるユリウスだったけれど、私はなんとなくうなずいてしまった。
「わかる気がするけど、ユリウスはお父さんっていうかお兄ちゃんって感じだったなぁ。私にとっては」
「ははは! 確かにそうかもね。っていうかユリウスって本当に妹がいたらかなりシスコンになってそうだぜ」
「ありえるー!」
エースと二人でわいわいシスコンユリウスについて盛り上がりかけると、盛大なため息が聞こえた。
「……名無しさん、どうでもいいからさっさと行け」
「えー、最後の別れをせっかく惜しんでいるのに」
「どうせまた来るんだろう? 来るなと言っても来るのが名無しさんだからな」
「うん。そうだね。また来る。来るなって言われても来る」
「勝手にしろ」
ふいっと横を向いて言うユリウスに笑ってしまった。
「さて。そろそろ行こうかな」
私がそう言うと、彼らはふっと表情を変えた。
いつもよりもちょっと優しい顔に見える。
ずるい。
思わずもうちょっとだけここで話を続けたくなってしまう。
私は泣きそうになって、わざと明るい声を出した。
「わー、なんかすっごく寂しい!どうしよう泣きそう!」
「なんで泣くんだ。好きな男の所へ行くんだから寂しがってるのはおかしいぞ」
わーわー言い出す私にユリウスは呆れ顔で言った。
「だって、ユリウスとエースのことも好きなんだもん」
「名無しさんってばやっぱり優柔不断だよなぁ。これ、まだチャンスあるってこと?」
からからと笑うエースに私もつられて笑ってしまった。
すると、エースが手を伸ばして私をぎゅっと抱き寄せる。
「名無しさん、エリオットに飽きたら俺の所に来てね」
「うん、ありがとう。飽きないから大丈夫」
笑いながら答えると、彼は私の髪にキスをする。
エースは私を離してユリウスの方にそっと押し出す。
ユリウスと向き合うようにして私を立たせると、エースが笑った。
「お別れだよ、ユリウス」
「な、なんだ?」
眉間にしわを寄せるユリウスに、私は自分から抱きついてやった。
「本当にありがとう、ユリウス。お世話になりました」
すると、彼はため息をついてから私の背に手を回す。
「本当にな。迷惑ばかりかけられた」
「……それはすみませんでしたね」
「でも、それも悪くはなかった」
え、と思って彼を見上げるとユリウスは優しく笑って私の頭をぽんと撫でた。
そしてすっと私から離れる。
「さっさと行け。待ちくたびれたウサギに乗り込んでこられたら迷惑だ」
「ははは! ありえるかもね」
いつも通りの2人を見て、私は目をごしごしこする。
「うん、今までどうもありがとう。またね」
笑って手を振ると、ユリウスとエースに見送られて、私は扉を開けた。
「行っちゃったね」
「あぁ」
エースの言葉に頷いて、ユリウスは仕事用の机に座る。
「良かったの?」
「なにがだ?」
エースの問いに、ユリウスは眼鏡をかけながら問い返す。
仕事机の電気をつけ、工具や時計の準備を始める彼をちらりと見てエースが言った。
「俺ならあげなかったかもなー」
「……なにがだ」
ユリウスは手を止めずにそう言った。
エースはそれに答えずしばらくユリウスを見ていたが、やがていつもの顔で笑った。
「はははっ!まぁうじうじしてる方がユリウスらしいよ」
「何の話か知らないが、名無しさんが自分で決めたことだ。出て行きたいなら行けばいい。それだけだろう」
「さすがシスコン。ちゃんと名無しさんの幸せを願ってあげるんだ」
「くだらない。一人の方が気楽だからに決まっているだろう。大体私はシスコンではない」
「そうだったね。名無しさんは妹なんかじゃない。……だから余計に寂しいのかもね」
あぁそう言えば、頼まれてた部品、廊下に出してあるんだった。
そう言いながらエースは部屋を出て行った。
「……ふん」
閉められたドアをちらりと見てから、ユリウスはその静かな部屋で一人仕事を始める。
「あとちょっとかなぁ」
階段をたくさん降りてきた。
残りあと少しで下に着く。
この長い階段も、感覚でどこまで降りてきたかがわかるようになっていた。
買い物に出かけて持ちきれない分をユリウスに運んでもらったり、上からリンゴが転がってきたかと思えば犯人はエースだったり、
この階段だけでも思い出がたくさんある。すごいなぁ。
いつも登るのに苦労していたけれど、次この階段を登るときは「私の滞在地」ではなく「ユリウスの部屋」なのだ。
私の滞在地はこれから「帽子屋屋敷」になる。
まさかマフィアの本拠地に移り住むことになるなんて思わなかった。
人生ってわからない。
でも、私は自分で選んだのだ。
この先、エースが言うようにエリオットとユリウスの間で何かが起こったとしても、全部受け止めなくてはいけない。
私にはどうしようもないことがたくさんある。
それでも、私は私が選んだ道をしっかりと進んでいくのだ。
迷っても悩んでも、最後にはちゃんと自分で決めたい。
私はエリオットを選んだけれど、ユリウスとエースを捨てたわけじゃない。
彼らとはこれからもずっと一緒だ。
過ごす場所が違うだけ。会いたくなったら来ればいい。
きっとユリウスはしかめっ面をしながら迎えてくれるだろう。
その日のことを想像してみたらなんだか笑ってしまった。
目の前が明るくなってきた。
もうすぐ外に出る。
私は早足で階段を下りる。
あっという間に最後の一段にたどりついた。
そっと振り返ると長い長い階段が続いていた。
「また来るね」
私はそうつぶやくと、青空の元へと踏み出した。
おわり
「はー、名無しさん出て行っちゃうのか―。寂しくなるなー」
「でも、そんなに遠いわけじゃないし、また遊びに来るよ」
エースの言葉に私が笑って答えると、
「別に来なくていい」
とユリウスがきっぱり言った。
「えー、ひどいなぁ。今まで仲良く同居してたじゃない」
「別に同居したくてしたわけじゃない。むしろ一人の方が気楽でいい」
「もー、ユリウスってほんとにつれないよねぇ」
口を尖らす私にユリウスは知らん顔。
でもなんだかそれがすごく彼らしくて笑ってしまった。
私はここを出て、帽子屋屋敷に住むことになった。
時計塔のままでもいいかななんて思っていたけれど、エリオットがそれを嫌がったし、ユリウスも良い顔をしなかった。
まぁ、普通に考えればそうだろう。ユリウスとは身内でもなんでもないのだ。
でも、なんだか寂しい。
時計塔生活とお別れする日が来ることを考えたことなどなかったのだ。
長い階段を登るのは大変だったし、不便なことこの上ない生活だったけれどそれもまた楽しかった。
屋上から見る景色も好きだったし、下から見上げる時計塔も好きだった。
ユリウスはいつも仕事ばかりで根暗でぶっきらぼうだけど、すごく優しくしてくれた。
エースはたまにやって来ては散々引っ掻き回していったけれど、彼が来るとぱっと雰囲気が変わって楽しかった。
振り返ると楽しい思い出しかない。
なんだかきゅっと胸の奥を掴まれたような気持ちになる。
「ユリウス。今までどうもありがとう。本当に本当に感謝してます」
「あぁ、感謝しろ。私がここに置かなかったら、お前は今頃どこかで野垂れ死んでいただろうからな」
「……ほんと、ユリウスのその毒舌はちょっとどうかと思うよ? 特に女の子にはやめた方がいいと思う」
口を尖らせる私にエースがからから笑った。
「ははっ!俺もそう思う」
「……どう話そうが私の勝手だ」
「とか言いつつ本当はちょっと気にしてるんだろ?」
「うるさい」
エースの言葉をばっさりと斬るユリウスだったけれど、エースは楽しそうに笑っている。
こんな2人のやり取りも、ここを出たら見られなくなってしまうんだなぁと思うとちょっと寂しい。
「なんかさみしいなぁ。私もうちょっと二人と一緒にいたかったな」
「俺もいたかったなー。でも俺も城に帰るんだよね」
「え!? そうなの!?」
「うん。本当はずっとここにいたいんだけどね、俺城の人間だし、そろそろ戻らないと陛下に怒られちゃう」
その言葉に「どちらかを選べるだけでもいい」といった時のエースを思い出す。
選び取ることのできた私はきっと幸せなんだろう。
そう考えていると、エースが私を見てにこりと笑った。
その笑顔に何も言えなくなる。
私はエースから視線を逸らすと、ユリウスに尋ねた。
「それじゃあユリウスは1人になるの?」
「元に戻るだけだ」
「なんかさみしいな。ここにユリウスを1人だけ残していくなんて嫌だな」
「別にかまわないと言っているだろう」
「本当は寂しいくせに。大丈夫だよ。またすぐ俺が遊びに来るからさ」
ユリウスの肩をぽんと叩きながらエースが言う。
すると、心底迷惑そうにユリウスが顔をゆがめた。
「仕事のあるときに呼ぶから、遊びには来るな」
「はははっ!つれないよなー」
爽やかに笑うエースの手を払いのけるユリウス。
なんだかんだ仲が良いよなぁ、この二人。
ここに入れてもらえていたのは、すごいことだったのかもしれない。
「私もたまに遊びに来るからね」
「だから来なくていい」
「うわ、本当に冷たすぎるよユリウス」
がくっと肩を落としてみせると、「素直じゃないよなぁ」とエースが笑った。
ユリウスは「お前達はおめでたい奴らだな」とため息をついた。
「恋人の元へ行く女が、どうして他の男の元にわざわざ遊びにくるんだ。2度と戻ってくるな」
ユリウスの言葉を聞いていたエースが言う。
「なんだか娘を嫁に出す父親みたいだぜ」
「あー、確かにそうかも」
「はぁ!?冗談じゃない」
顔を思いっきり顰めるユリウスだったけれど、私はなんとなくうなずいてしまった。
「わかる気がするけど、ユリウスはお父さんっていうかお兄ちゃんって感じだったなぁ。私にとっては」
「ははは! 確かにそうかもね。っていうかユリウスって本当に妹がいたらかなりシスコンになってそうだぜ」
「ありえるー!」
エースと二人でわいわいシスコンユリウスについて盛り上がりかけると、盛大なため息が聞こえた。
「……名無しさん、どうでもいいからさっさと行け」
「えー、最後の別れをせっかく惜しんでいるのに」
「どうせまた来るんだろう? 来るなと言っても来るのが名無しさんだからな」
「うん。そうだね。また来る。来るなって言われても来る」
「勝手にしろ」
ふいっと横を向いて言うユリウスに笑ってしまった。
「さて。そろそろ行こうかな」
私がそう言うと、彼らはふっと表情を変えた。
いつもよりもちょっと優しい顔に見える。
ずるい。
思わずもうちょっとだけここで話を続けたくなってしまう。
私は泣きそうになって、わざと明るい声を出した。
「わー、なんかすっごく寂しい!どうしよう泣きそう!」
「なんで泣くんだ。好きな男の所へ行くんだから寂しがってるのはおかしいぞ」
わーわー言い出す私にユリウスは呆れ顔で言った。
「だって、ユリウスとエースのことも好きなんだもん」
「名無しさんってばやっぱり優柔不断だよなぁ。これ、まだチャンスあるってこと?」
からからと笑うエースに私もつられて笑ってしまった。
すると、エースが手を伸ばして私をぎゅっと抱き寄せる。
「名無しさん、エリオットに飽きたら俺の所に来てね」
「うん、ありがとう。飽きないから大丈夫」
笑いながら答えると、彼は私の髪にキスをする。
エースは私を離してユリウスの方にそっと押し出す。
ユリウスと向き合うようにして私を立たせると、エースが笑った。
「お別れだよ、ユリウス」
「な、なんだ?」
眉間にしわを寄せるユリウスに、私は自分から抱きついてやった。
「本当にありがとう、ユリウス。お世話になりました」
すると、彼はため息をついてから私の背に手を回す。
「本当にな。迷惑ばかりかけられた」
「……それはすみませんでしたね」
「でも、それも悪くはなかった」
え、と思って彼を見上げるとユリウスは優しく笑って私の頭をぽんと撫でた。
そしてすっと私から離れる。
「さっさと行け。待ちくたびれたウサギに乗り込んでこられたら迷惑だ」
「ははは! ありえるかもね」
いつも通りの2人を見て、私は目をごしごしこする。
「うん、今までどうもありがとう。またね」
笑って手を振ると、ユリウスとエースに見送られて、私は扉を開けた。
「行っちゃったね」
「あぁ」
エースの言葉に頷いて、ユリウスは仕事用の机に座る。
「良かったの?」
「なにがだ?」
エースの問いに、ユリウスは眼鏡をかけながら問い返す。
仕事机の電気をつけ、工具や時計の準備を始める彼をちらりと見てエースが言った。
「俺ならあげなかったかもなー」
「……なにがだ」
ユリウスは手を止めずにそう言った。
エースはそれに答えずしばらくユリウスを見ていたが、やがていつもの顔で笑った。
「はははっ!まぁうじうじしてる方がユリウスらしいよ」
「何の話か知らないが、名無しさんが自分で決めたことだ。出て行きたいなら行けばいい。それだけだろう」
「さすがシスコン。ちゃんと名無しさんの幸せを願ってあげるんだ」
「くだらない。一人の方が気楽だからに決まっているだろう。大体私はシスコンではない」
「そうだったね。名無しさんは妹なんかじゃない。……だから余計に寂しいのかもね」
あぁそう言えば、頼まれてた部品、廊下に出してあるんだった。
そう言いながらエースは部屋を出て行った。
「……ふん」
閉められたドアをちらりと見てから、ユリウスはその静かな部屋で一人仕事を始める。
「あとちょっとかなぁ」
階段をたくさん降りてきた。
残りあと少しで下に着く。
この長い階段も、感覚でどこまで降りてきたかがわかるようになっていた。
買い物に出かけて持ちきれない分をユリウスに運んでもらったり、上からリンゴが転がってきたかと思えば犯人はエースだったり、
この階段だけでも思い出がたくさんある。すごいなぁ。
いつも登るのに苦労していたけれど、次この階段を登るときは「私の滞在地」ではなく「ユリウスの部屋」なのだ。
私の滞在地はこれから「帽子屋屋敷」になる。
まさかマフィアの本拠地に移り住むことになるなんて思わなかった。
人生ってわからない。
でも、私は自分で選んだのだ。
この先、エースが言うようにエリオットとユリウスの間で何かが起こったとしても、全部受け止めなくてはいけない。
私にはどうしようもないことがたくさんある。
それでも、私は私が選んだ道をしっかりと進んでいくのだ。
迷っても悩んでも、最後にはちゃんと自分で決めたい。
私はエリオットを選んだけれど、ユリウスとエースを捨てたわけじゃない。
彼らとはこれからもずっと一緒だ。
過ごす場所が違うだけ。会いたくなったら来ればいい。
きっとユリウスはしかめっ面をしながら迎えてくれるだろう。
その日のことを想像してみたらなんだか笑ってしまった。
目の前が明るくなってきた。
もうすぐ外に出る。
私は早足で階段を下りる。
あっという間に最後の一段にたどりついた。
そっと振り返ると長い長い階段が続いていた。
「また来るね」
私はそうつぶやくと、青空の元へと踏み出した。
おわり
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