キャロットガール
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【10.夕暮れの中で】
こんなに本気で走ったのは久しぶりだった。
階段も全速力で駆け降りた。
「っ……エリオットっ……」
息を切らせて公園になんとかたどり着いた私を、エリオットは立ち尽くしたままじっと見ていたが、やがて彼は静かに言った。
「やっと来たな、名無しさん」
「……」
「ずっと待ってたんだ。最近はずーっとここに通いっぱなしだ。あんたは全然外へ出てこなかったからな」
そう言って笑うエリオットに私は胸が痛くなる。
「名無しさんに会いたかったんだ」
「……私も話があるの」
エリオットの視線を正面からしっかりと受け止めながら私は言った。
すると、彼は小さくうなずいた。
「そっか。じゃあちょうどいいや」
その時、空がゆっくりとオレンジ色に染まって行った。
エリオットと夕暮れの中を向かい合う私。
ついこの間、同じ色の時間帯に私たちは向かい合って話をした。
あの時はお互いにお互いの状況を納得しきれずにいた。
私はマフィアであるエリオットにショックを隠し切れなかったし、彼は私が時計塔に滞在していることに不満だった。
あれから時間が過ぎた。
今なら少しはまともなことを言える気がする。
「まずは悪かった。謝る」
いきなりそう切り出された。
怪訝な顔をする私にエリオットは言いづらそうに続ける。
「その……いきなりあんなことしちまって。嫌だった、よな」
そう言われて私は、この間突然キスされたことを思い出した。
「え、あぁ、えっと……うん。びっくりしたけど……」
「だよな。悪かった。ごめん」
エリオットは気まずそうな表情で言うと小さく頭を下げた。
彼の様子に私は曖昧にうなずいた。
確かにびっくりしたけど、嫌かと言われるとそうでもなかった気がする。
そんなこと言えないけど。
「俺さ、もううだうだ考えんのやめた」
「え?」
「俺考えるの苦手だし、名無しさんが奴といるのはすっげー気に食わないけど、それはとりあえず置いとくことにする」
エリオットはまっすぐに私を見た。
「俺、名無しさんが好きなんだ」
その瞬間、一気に周囲の音がなくなった。
エリオットは私から目を逸らさない。
「名無しさんはどうなんだ?」
「え?」
「名無しさんが俺の仕事を嫌がってることは十分わかってる。でも、俺は仕事を辞めるつもりはない」
彼はきっぱりと言う。
「俺は名無しさんのことが欲しい。あんたが言うならなるべく人は撃たないようにする。それじゃダメか?」
あまりにストレートすぎる言葉。
彼の言葉には迷いも恐れもない。
自分の思いをここまではっきりと言えるのはすごいと思った。
いつも迷って、自分の好きなものをぱっと選び取れない私とは全然違う。
それでも私は心のどこかで思っていた。
マフィアは嫌いだけれど、エリオットのことは好きだなぁって。
彼がマフィアだと知った今も、私は時計塔を飛び出してエリオットに会いに来た。それが答えだと思う。
本当はずっと心のおくで答えは決まっていたのかもしれない。
「私もエリオットが好き……だと思う」
「思うって、なんだよそれ」
「だって好きになるかもって思った途端に、こんな展開になっちゃったんだもん」
まぁそうかもしれねぇなと彼は小さく笑った。
「エリオットがマフィアなのはちょっとショックだけど、でも、やっぱり一緒にいたい」
私がそう言うと、エリオットはじぃっと私を見つめた。
「本当に?」
「うん」
「マジで?」
「うん」
「……」
「な、なに?」
黙り込んで私を見てくるエリオットにたじろいでしまう。
なんだか間違ったことを言ってしまったかな?
そう思った瞬間だった。
エリオットが私をぎゅっと抱きしめる。
「!」
「あんたはいつだって選ぶのに時間がかかるだろ。だから一応待ってみた」
にんじんも本もすごく悩んでたもんな、と言う声が彼の胸から直接聞こえる。
「うん、ごめんね。優柔不断で」
そっと言ってみると、エリオットは「思慮深いってことだろ?」と笑った。
思慮深い?
これまで思ってもみなかったプラスイメージの言葉に思わず彼を見あげる。
「あんたはよく考えてるってことだ。偉いよな」
当然のような顔でそう言ってくれる人が、これまでどれだけいただろう。
嬉しさと肩の力が抜けたような感じがごちゃまぜで、私は思わずエリオットの胸に顔をうずめた。
エリオットは私の背中をぽんぽんとなでてくれていたが、しばらくすると「名無しさん」と私の名を呼んだ。
顔を上げる私にエリオットは静かに言った。
「色々考えた上で、俺を選んでくれたってことだよな?」
まっすぐな目でそう問われた私の頭に、一瞬ユリウスやエースの顔が浮かぶ。
優しくしてくれた人達と過ごした時間を思って胸がいっぱいになる。
でも、理屈じゃなくて私は今私を抱きしめてくれているこの人に惹かれてしまったのだ。
こればかりはどうしようもない。
「私選ぶのに時間はかかるけど、選んだものを後悔したことは一度もないよ」
「後悔なんてさせねぇよ」
エリオットは私の頭にキスをしてくれた。
後悔はしない。
大丈夫。
私は彼の背中にぎゅっと手を回した。
こんなに本気で走ったのは久しぶりだった。
階段も全速力で駆け降りた。
「っ……エリオットっ……」
息を切らせて公園になんとかたどり着いた私を、エリオットは立ち尽くしたままじっと見ていたが、やがて彼は静かに言った。
「やっと来たな、名無しさん」
「……」
「ずっと待ってたんだ。最近はずーっとここに通いっぱなしだ。あんたは全然外へ出てこなかったからな」
そう言って笑うエリオットに私は胸が痛くなる。
「名無しさんに会いたかったんだ」
「……私も話があるの」
エリオットの視線を正面からしっかりと受け止めながら私は言った。
すると、彼は小さくうなずいた。
「そっか。じゃあちょうどいいや」
その時、空がゆっくりとオレンジ色に染まって行った。
エリオットと夕暮れの中を向かい合う私。
ついこの間、同じ色の時間帯に私たちは向かい合って話をした。
あの時はお互いにお互いの状況を納得しきれずにいた。
私はマフィアであるエリオットにショックを隠し切れなかったし、彼は私が時計塔に滞在していることに不満だった。
あれから時間が過ぎた。
今なら少しはまともなことを言える気がする。
「まずは悪かった。謝る」
いきなりそう切り出された。
怪訝な顔をする私にエリオットは言いづらそうに続ける。
「その……いきなりあんなことしちまって。嫌だった、よな」
そう言われて私は、この間突然キスされたことを思い出した。
「え、あぁ、えっと……うん。びっくりしたけど……」
「だよな。悪かった。ごめん」
エリオットは気まずそうな表情で言うと小さく頭を下げた。
彼の様子に私は曖昧にうなずいた。
確かにびっくりしたけど、嫌かと言われるとそうでもなかった気がする。
そんなこと言えないけど。
「俺さ、もううだうだ考えんのやめた」
「え?」
「俺考えるの苦手だし、名無しさんが奴といるのはすっげー気に食わないけど、それはとりあえず置いとくことにする」
エリオットはまっすぐに私を見た。
「俺、名無しさんが好きなんだ」
その瞬間、一気に周囲の音がなくなった。
エリオットは私から目を逸らさない。
「名無しさんはどうなんだ?」
「え?」
「名無しさんが俺の仕事を嫌がってることは十分わかってる。でも、俺は仕事を辞めるつもりはない」
彼はきっぱりと言う。
「俺は名無しさんのことが欲しい。あんたが言うならなるべく人は撃たないようにする。それじゃダメか?」
あまりにストレートすぎる言葉。
彼の言葉には迷いも恐れもない。
自分の思いをここまではっきりと言えるのはすごいと思った。
いつも迷って、自分の好きなものをぱっと選び取れない私とは全然違う。
それでも私は心のどこかで思っていた。
マフィアは嫌いだけれど、エリオットのことは好きだなぁって。
彼がマフィアだと知った今も、私は時計塔を飛び出してエリオットに会いに来た。それが答えだと思う。
本当はずっと心のおくで答えは決まっていたのかもしれない。
「私もエリオットが好き……だと思う」
「思うって、なんだよそれ」
「だって好きになるかもって思った途端に、こんな展開になっちゃったんだもん」
まぁそうかもしれねぇなと彼は小さく笑った。
「エリオットがマフィアなのはちょっとショックだけど、でも、やっぱり一緒にいたい」
私がそう言うと、エリオットはじぃっと私を見つめた。
「本当に?」
「うん」
「マジで?」
「うん」
「……」
「な、なに?」
黙り込んで私を見てくるエリオットにたじろいでしまう。
なんだか間違ったことを言ってしまったかな?
そう思った瞬間だった。
エリオットが私をぎゅっと抱きしめる。
「!」
「あんたはいつだって選ぶのに時間がかかるだろ。だから一応待ってみた」
にんじんも本もすごく悩んでたもんな、と言う声が彼の胸から直接聞こえる。
「うん、ごめんね。優柔不断で」
そっと言ってみると、エリオットは「思慮深いってことだろ?」と笑った。
思慮深い?
これまで思ってもみなかったプラスイメージの言葉に思わず彼を見あげる。
「あんたはよく考えてるってことだ。偉いよな」
当然のような顔でそう言ってくれる人が、これまでどれだけいただろう。
嬉しさと肩の力が抜けたような感じがごちゃまぜで、私は思わずエリオットの胸に顔をうずめた。
エリオットは私の背中をぽんぽんとなでてくれていたが、しばらくすると「名無しさん」と私の名を呼んだ。
顔を上げる私にエリオットは静かに言った。
「色々考えた上で、俺を選んでくれたってことだよな?」
まっすぐな目でそう問われた私の頭に、一瞬ユリウスやエースの顔が浮かぶ。
優しくしてくれた人達と過ごした時間を思って胸がいっぱいになる。
でも、理屈じゃなくて私は今私を抱きしめてくれているこの人に惹かれてしまったのだ。
こればかりはどうしようもない。
「私選ぶのに時間はかかるけど、選んだものを後悔したことは一度もないよ」
「後悔なんてさせねぇよ」
エリオットは私の頭にキスをしてくれた。
後悔はしない。
大丈夫。
私は彼の背中にぎゅっと手を回した。