旅は道連れ
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【4.裏表】
小さな湖にたどり着いた私達は、ここで食事休憩を取ることにした。
エースは手慣れた様子で火をおこし、お湯を沸かし始める。
「名無しさんはそこに座ってて」と言うので、私は言われるがまま座ってぼんやりしていた。
青い空、白い雲、キラキラ光る湖、てきぱき働く赤い人……。
目の前の情景は穏やかな昼下がり、という感じがするのに私の心は曇ったままだった。
「名無しさんは珈琲飲める?」
沸かしたお湯とカップを手にエースが聞いてきた。
「飲める」と頷くと、彼はにこりと笑って2つのカップに珈琲を淹れ始めた。
こんな屋外で結構本格的な珈琲を淹れている彼を見て不思議な気分になる。
「すごいね、ちゃんと淹れるんだね」
「うん。ユリウスの所から少しもらってきちゃったんだ。でもさー、俺淹れ方はわかんないから結構適当だよ」
実際かなり適当な感じで珈琲を淹れているエース。
でも、彼がこういうちまちましたことをしているのがすごく不思議でなんとなく見てしまう。
「はい、名無しさん。どうぞ」
エースはカップを私に差し出してきた。
「ありがと」
適当に淹れていたけれど、香りはすごくいい。
私は珈琲の香りを思い切り吸い込む。
「珈琲の匂いって落ち着くんだって。ユリウスが言ってた」
エースはそう言って私を見る。
「名無しさんも少しは落ち着くかもね?」
さっきの出来事のせいで、まだ気持ちがめちゃくちゃになっているのを彼は見抜いていたらしい。
「……ありがとう」
私がそう言うと、エースはふわりと笑った。
なんだかどうしようもない気持ちになって私はカップに口をつける。
さっきの出来事……。
エースが刺客を撃退した。
撃退と言えば聞こえはいいが、実際は切りまくっていたのだ。
鮮やかな赤と、耳に残る悲鳴が頭にこびりついて離れない。
怖い。
あんな現場は一生のうちに一度だって見なくていいもののはずだ。
なのに、私はばっちりと見てしまった。
しかも、切りまくっていた本人が今私の隣りにいるのだ。
おそらく人を斬るということはエースにとっては日常茶飯事なのだろう。
隣りの彼は変わった様子もなく、むしゃむしゃとパンを食べている。
今だってあの惨劇を見てショックを受けた私に気遣って、わざわざ珈琲を淹れてくれたりする。
でも、そもそもあの惨劇の中心にいたのはエース本人だ。
もちろん彼が動かなければ、私たちがやられていたんだろう。
わかってはいるんだけど心がついていかない。
エースってどういう人なんだろう?
どうしようもない迷子でもあるし、いつもニコニコ笑っていて爽やか。
かと思えば、あんなふうにためらいなく人を斬り捨てることもできてしまう。
でも、私に気遣ってくれる優しい所もある。
裏表のある人だとは思っていたけれど、それを今痛感している私。
「エースって……」
「ん?」
口を開く私に、エースは私を見る。
「エースって良くわからない人だね」
「え、そう?」
「うん。怖いのか優しいのかよくわからない」
もっと言えばお馬鹿さんなのか賢いのかも分からない。
今だってただ黙って私を見ている。
何を考えているのか表情からは全然読み取れない。
「いろんな面があるっていう意味ではこわい人かもね」
そう言ってエースを見ると、彼は笑った。
「じゃあ俺のこともっとよく知ってよ」
「え?」
「近づけば大体のことはわかるだろ?」
彼はそう言って私の肩に手をかける。
「ちょ、エース!?」
「俺も名無しさんのこともうちょっと良く知りたいし、仲良くなりたいから、さ」
彼は私の頬に触れながらそんなことを言った。
ドキリとする私を見て、小さく笑いながら顔を寄せるエース。
彼の前髪が私のおでこにさらりと当たる。
「ちょっと待っ……!!」
声にならない声をあげながら、私は思いっきりエースの肩口を押した。
近づいた距離がまた離れる。
私はエースの肩を押したまま、彼を睨みつけた。
「なにしてんのいきなり!」
「え、だからお互いを知るために……」
きょとんとした表情でそう言ったこいつは、一体何を考えているんだろう。
「あなたが手の早い人だということがよーくわかりました!!」
「ははは!まだ手を出してないだろー?」
「似たようなものです!!」
「えぇ? 出すと出さないじゃ大違いだろ? 出さないでこんなに怒られるなら出しとけばよかったぜ」
「最低!!近づいたらぶつからね!?」
「はははっ。こわいなー、名無しさんは」
「だから近づかないでってば!!」
そんなこんなでぎゃーぎゃー騒いでいるうちに、いつのまにかすっきりした気分になっていた。
なんだか疲れた私は、冷めきった珈琲を飲む。
香りはほぼなくなっていたけれど、さっきまでのもやもやした暗い気持ちもなくなっていた。
「名無しさんの気分も落ち着いたみたいだし、もうちょっとしたら出発しようか。今のうちに食べておいた方がいいよ」
隣りのエースはいつもの笑顔でそう言いながらパンをくれた。
結局よくわからない人だけれど、やっぱり嫌いにはなれない。
小さな湖にたどり着いた私達は、ここで食事休憩を取ることにした。
エースは手慣れた様子で火をおこし、お湯を沸かし始める。
「名無しさんはそこに座ってて」と言うので、私は言われるがまま座ってぼんやりしていた。
青い空、白い雲、キラキラ光る湖、てきぱき働く赤い人……。
目の前の情景は穏やかな昼下がり、という感じがするのに私の心は曇ったままだった。
「名無しさんは珈琲飲める?」
沸かしたお湯とカップを手にエースが聞いてきた。
「飲める」と頷くと、彼はにこりと笑って2つのカップに珈琲を淹れ始めた。
こんな屋外で結構本格的な珈琲を淹れている彼を見て不思議な気分になる。
「すごいね、ちゃんと淹れるんだね」
「うん。ユリウスの所から少しもらってきちゃったんだ。でもさー、俺淹れ方はわかんないから結構適当だよ」
実際かなり適当な感じで珈琲を淹れているエース。
でも、彼がこういうちまちましたことをしているのがすごく不思議でなんとなく見てしまう。
「はい、名無しさん。どうぞ」
エースはカップを私に差し出してきた。
「ありがと」
適当に淹れていたけれど、香りはすごくいい。
私は珈琲の香りを思い切り吸い込む。
「珈琲の匂いって落ち着くんだって。ユリウスが言ってた」
エースはそう言って私を見る。
「名無しさんも少しは落ち着くかもね?」
さっきの出来事のせいで、まだ気持ちがめちゃくちゃになっているのを彼は見抜いていたらしい。
「……ありがとう」
私がそう言うと、エースはふわりと笑った。
なんだかどうしようもない気持ちになって私はカップに口をつける。
さっきの出来事……。
エースが刺客を撃退した。
撃退と言えば聞こえはいいが、実際は切りまくっていたのだ。
鮮やかな赤と、耳に残る悲鳴が頭にこびりついて離れない。
怖い。
あんな現場は一生のうちに一度だって見なくていいもののはずだ。
なのに、私はばっちりと見てしまった。
しかも、切りまくっていた本人が今私の隣りにいるのだ。
おそらく人を斬るということはエースにとっては日常茶飯事なのだろう。
隣りの彼は変わった様子もなく、むしゃむしゃとパンを食べている。
今だってあの惨劇を見てショックを受けた私に気遣って、わざわざ珈琲を淹れてくれたりする。
でも、そもそもあの惨劇の中心にいたのはエース本人だ。
もちろん彼が動かなければ、私たちがやられていたんだろう。
わかってはいるんだけど心がついていかない。
エースってどういう人なんだろう?
どうしようもない迷子でもあるし、いつもニコニコ笑っていて爽やか。
かと思えば、あんなふうにためらいなく人を斬り捨てることもできてしまう。
でも、私に気遣ってくれる優しい所もある。
裏表のある人だとは思っていたけれど、それを今痛感している私。
「エースって……」
「ん?」
口を開く私に、エースは私を見る。
「エースって良くわからない人だね」
「え、そう?」
「うん。怖いのか優しいのかよくわからない」
もっと言えばお馬鹿さんなのか賢いのかも分からない。
今だってただ黙って私を見ている。
何を考えているのか表情からは全然読み取れない。
「いろんな面があるっていう意味ではこわい人かもね」
そう言ってエースを見ると、彼は笑った。
「じゃあ俺のこともっとよく知ってよ」
「え?」
「近づけば大体のことはわかるだろ?」
彼はそう言って私の肩に手をかける。
「ちょ、エース!?」
「俺も名無しさんのこともうちょっと良く知りたいし、仲良くなりたいから、さ」
彼は私の頬に触れながらそんなことを言った。
ドキリとする私を見て、小さく笑いながら顔を寄せるエース。
彼の前髪が私のおでこにさらりと当たる。
「ちょっと待っ……!!」
声にならない声をあげながら、私は思いっきりエースの肩口を押した。
近づいた距離がまた離れる。
私はエースの肩を押したまま、彼を睨みつけた。
「なにしてんのいきなり!」
「え、だからお互いを知るために……」
きょとんとした表情でそう言ったこいつは、一体何を考えているんだろう。
「あなたが手の早い人だということがよーくわかりました!!」
「ははは!まだ手を出してないだろー?」
「似たようなものです!!」
「えぇ? 出すと出さないじゃ大違いだろ? 出さないでこんなに怒られるなら出しとけばよかったぜ」
「最低!!近づいたらぶつからね!?」
「はははっ。こわいなー、名無しさんは」
「だから近づかないでってば!!」
そんなこんなでぎゃーぎゃー騒いでいるうちに、いつのまにかすっきりした気分になっていた。
なんだか疲れた私は、冷めきった珈琲を飲む。
香りはほぼなくなっていたけれど、さっきまでのもやもやした暗い気持ちもなくなっていた。
「名無しさんの気分も落ち着いたみたいだし、もうちょっとしたら出発しようか。今のうちに食べておいた方がいいよ」
隣りのエースはいつもの笑顔でそう言いながらパンをくれた。
結局よくわからない人だけれど、やっぱり嫌いにはなれない。