短編
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【夜と君】
綺麗な星空のもとで、ぱくぱくとお菓子を食べる私。
この世界じゃなければ、こんなに堂々と夜にお菓子など食べられないと思う。
またもや私はブラッドのお茶会に参加していた。
今回はエリオットも双子もいない。
私とブラッド2人だけのお茶会だ。
私はもりもりとお菓子を食べ、ブラッドは優雅に紅茶を飲んでいる。
たわいのない話の合間にアリスとは最近どうなのかと探りを入れる私と、
まじめに答えたかと思えばやる気のない発言やら、セクハラぎりぎりの受け答えばかりをしておもしろがるブラッド(下品な奴め)。
なんだかんだと長居している私は、それなりにブラッドとのお茶会を楽しんでいた。
「名無しさんは本当に甘い物が好きなんだな」
「う……控えようと思っているんだけどね」
おそらく悪気はなかったであろう彼の言葉が、私の心にぐさりと刺さった。
クッキーをつまもうとした手が止まる。
「わかってる。わかってるのよ、いけないってことは!
でもね、好きなものが目の前にあったら絶対手が出ちゃうでしょう? わかってるけどやめられないの」
「名無しさん、別に甘い物を食べていることをせめているわけじゃない。私は君が少しばかりふくよかになっても気にしないよ」
「わー……気を使ってくれてありがとう」
ふくよか。やんわりとした言い方ですね。
でもそういう話をしてくる時点で、乙女を傷つけているということに気づいてください。
「ブラッドはいいよね。紅茶ならいくら飲んでも太らないでしょ。好きなものが好きなだけ楽しめるじゃない」
「名無しさんも紅茶をメインにお茶会を楽しめばいい」
「こんなに美味しいお菓子を出すお茶会が悪いの」
「ふふふ。褒められているのか、責められているんだかわからないね」
「どっちもだよ」
「私がまずい茶菓子など出すわけがないだろう。私の選んだ茶菓子で君がふくよかになってゆくなら本望だよ」
「私は全く望んじゃいないわ」
「それは悪かったな。まぁ、君はもう少し丸くなってもいいくらいだ。私が責任を取るから安心して食べるといいよ、お嬢さん」
「責任なんて取っていただかなくて結構です」
「お嬢さん」の言い方がからかう気満々だ。
私は口をとがらせつつ、紅茶をすすった。
ほんのり苦い紅茶を飲むと、やっぱり甘い物がほしくなる。
私の場合、お茶会なんて言ってもお菓子がメインだからなぁ。
「ねぇ、ブラッド」
さっきから紅茶ばっかり飲んでいるブラッド。
私の呼びかけに視線だけを向ける。
「ブラッドの紅茶好きはものすごく良くわかるんだけど、あなたって他にはどういう物を食べたり飲んだりしてるの?」
お茶会で物を口にする、という所しか見たことがない。
だから、彼の食の好みというものが全く分からない。
「どういうって、普通だよ。誰かさんのようにオレンジの物ばかり食べたり、誰かさんのように甘い物ばかり食べたりということはしていない」
「わぁ、やな感じ」
ニヤリと笑うブラッドに、思わず本音が出てしまった。
「なにが好きなの? あんまりガツガツ食べるイメージがないんだけど」
「私の好きなもの?」
「そう。あなたの好きなもの。紅茶以外で」
私の問いに、一瞬考えた彼。
しかし、すぐに私を見てこう言った。
「夜と君、かな」
さらりと出た予想外の答えに私はきょとんとし、ブラッドはいたずらっぽく私を見ていた。
「……あのね、話の流れを理解してほしいんですけど」
紅茶以外の好きな食べ物を聞いたのです。
「すぐに思い浮かばなかったんだ。きっと大して好きな食べ物などない、ということだろう。
今の所紅茶以外の飲食にそれほどの興味がないからね」
「えぇ~!? そんなのつまらなくない?」
私は食べるの大好きだけど。
「食以外に興味が向いているからね。今一番の興味の対象は名無しさん、君だよ。好きなものは夜と君だ」
あまりにもさらりと言うので、照れたら負けな気がする。
「……わー。光栄ですこと」
「そうだろう? だから君を独占しているこのお茶会は最高に楽しいよ。夜であるのも申し分ない」
そう言って笑うブラッド。
私も一緒に笑っておいた。(そうじゃないと気まずすぎる)
「でも、この3つの中にも順位があるんだよ。名無しさん」
「順位、と申しますと……?」
「名無しさん、お茶会、夜」
ご丁寧に彼は人差し指、中指、薬指を順番に立てながら単語を並べた。
彼の指を見て、彼の顔を見た。
「まぁ、気分で変わることもあるが、大抵はこの順位だな」
「そうなんだ」
としか言えない。
「なんにせよ、私の好きなものが3つ揃ったこの状況を楽しまないわけにはいかないな」
そう言ったブラッドの目がきらりと光った気がした。
「えぇと。楽しいよね。お茶会。楽しんでるよね!」
すでに堪能してるよね?
「あぁ、楽しいよ。だが、まだ足りないな」
そう言ってブラッドはまっすぐに私を見て笑う。意味深な笑み。
テーブルをはさんでいるにもかかわらず、ブラッドとの距離が縮まった気がする。
「あ、新しく紅茶入れなおそうよ! 冷めちゃったでしょう? 夜は冷えるから温かい物を飲んだ方がいいもんね!」
そう言って逃げようと腰を浮かせた私の手をブラッドが掴んだ。
「名無しさん。星空の元でのお茶会もいいが、夜は冷えるから場所を移そう」
「え」
「私の部屋にとっておきの茶葉がある。それを飲むとしよう」
「え、いや。私今夜はこの爽やかな夜風にあたりながら紅茶を飲みたいなぁ~、なんて」
「夜は冷えるんだろう? 君が少しばかりふくよかになるのは良いが、風邪をひかれるのは困るからね」
……これはまずい。
ブラッドの方が何枚もうわてだ。
「さ、風邪をひく前に移動しよう」
そう言ってブラッドは立ち上がる。
うわぁ、これはどうしましょう。
必死に考える私にブラッドは楽しそうに言う。
「好きなものが目の前にあると手を出したくなる、君もそう言っていただろう?」
「!」
うわて、というか完敗だ。
彼の前で下手なことは言えない。
「さ、名無しさん行こうか。私の気が変わることはないが、時間帯が変わるのは惜しいからな」
呆然としている私に、ブラッドが手を差し出してきた。
珍しく穏やかな笑顔の彼。
この手を取ったら、最後だ。
甘い感情から抜け出せなくなりそうな予感は確信になる。
でも……わかっていても止められない。
私はそっと彼の手を取った。
綺麗な星空のもとで、ぱくぱくとお菓子を食べる私。
この世界じゃなければ、こんなに堂々と夜にお菓子など食べられないと思う。
またもや私はブラッドのお茶会に参加していた。
今回はエリオットも双子もいない。
私とブラッド2人だけのお茶会だ。
私はもりもりとお菓子を食べ、ブラッドは優雅に紅茶を飲んでいる。
たわいのない話の合間にアリスとは最近どうなのかと探りを入れる私と、
まじめに答えたかと思えばやる気のない発言やら、セクハラぎりぎりの受け答えばかりをしておもしろがるブラッド(下品な奴め)。
なんだかんだと長居している私は、それなりにブラッドとのお茶会を楽しんでいた。
「名無しさんは本当に甘い物が好きなんだな」
「う……控えようと思っているんだけどね」
おそらく悪気はなかったであろう彼の言葉が、私の心にぐさりと刺さった。
クッキーをつまもうとした手が止まる。
「わかってる。わかってるのよ、いけないってことは!
でもね、好きなものが目の前にあったら絶対手が出ちゃうでしょう? わかってるけどやめられないの」
「名無しさん、別に甘い物を食べていることをせめているわけじゃない。私は君が少しばかりふくよかになっても気にしないよ」
「わー……気を使ってくれてありがとう」
ふくよか。やんわりとした言い方ですね。
でもそういう話をしてくる時点で、乙女を傷つけているということに気づいてください。
「ブラッドはいいよね。紅茶ならいくら飲んでも太らないでしょ。好きなものが好きなだけ楽しめるじゃない」
「名無しさんも紅茶をメインにお茶会を楽しめばいい」
「こんなに美味しいお菓子を出すお茶会が悪いの」
「ふふふ。褒められているのか、責められているんだかわからないね」
「どっちもだよ」
「私がまずい茶菓子など出すわけがないだろう。私の選んだ茶菓子で君がふくよかになってゆくなら本望だよ」
「私は全く望んじゃいないわ」
「それは悪かったな。まぁ、君はもう少し丸くなってもいいくらいだ。私が責任を取るから安心して食べるといいよ、お嬢さん」
「責任なんて取っていただかなくて結構です」
「お嬢さん」の言い方がからかう気満々だ。
私は口をとがらせつつ、紅茶をすすった。
ほんのり苦い紅茶を飲むと、やっぱり甘い物がほしくなる。
私の場合、お茶会なんて言ってもお菓子がメインだからなぁ。
「ねぇ、ブラッド」
さっきから紅茶ばっかり飲んでいるブラッド。
私の呼びかけに視線だけを向ける。
「ブラッドの紅茶好きはものすごく良くわかるんだけど、あなたって他にはどういう物を食べたり飲んだりしてるの?」
お茶会で物を口にする、という所しか見たことがない。
だから、彼の食の好みというものが全く分からない。
「どういうって、普通だよ。誰かさんのようにオレンジの物ばかり食べたり、誰かさんのように甘い物ばかり食べたりということはしていない」
「わぁ、やな感じ」
ニヤリと笑うブラッドに、思わず本音が出てしまった。
「なにが好きなの? あんまりガツガツ食べるイメージがないんだけど」
「私の好きなもの?」
「そう。あなたの好きなもの。紅茶以外で」
私の問いに、一瞬考えた彼。
しかし、すぐに私を見てこう言った。
「夜と君、かな」
さらりと出た予想外の答えに私はきょとんとし、ブラッドはいたずらっぽく私を見ていた。
「……あのね、話の流れを理解してほしいんですけど」
紅茶以外の好きな食べ物を聞いたのです。
「すぐに思い浮かばなかったんだ。きっと大して好きな食べ物などない、ということだろう。
今の所紅茶以外の飲食にそれほどの興味がないからね」
「えぇ~!? そんなのつまらなくない?」
私は食べるの大好きだけど。
「食以外に興味が向いているからね。今一番の興味の対象は名無しさん、君だよ。好きなものは夜と君だ」
あまりにもさらりと言うので、照れたら負けな気がする。
「……わー。光栄ですこと」
「そうだろう? だから君を独占しているこのお茶会は最高に楽しいよ。夜であるのも申し分ない」
そう言って笑うブラッド。
私も一緒に笑っておいた。(そうじゃないと気まずすぎる)
「でも、この3つの中にも順位があるんだよ。名無しさん」
「順位、と申しますと……?」
「名無しさん、お茶会、夜」
ご丁寧に彼は人差し指、中指、薬指を順番に立てながら単語を並べた。
彼の指を見て、彼の顔を見た。
「まぁ、気分で変わることもあるが、大抵はこの順位だな」
「そうなんだ」
としか言えない。
「なんにせよ、私の好きなものが3つ揃ったこの状況を楽しまないわけにはいかないな」
そう言ったブラッドの目がきらりと光った気がした。
「えぇと。楽しいよね。お茶会。楽しんでるよね!」
すでに堪能してるよね?
「あぁ、楽しいよ。だが、まだ足りないな」
そう言ってブラッドはまっすぐに私を見て笑う。意味深な笑み。
テーブルをはさんでいるにもかかわらず、ブラッドとの距離が縮まった気がする。
「あ、新しく紅茶入れなおそうよ! 冷めちゃったでしょう? 夜は冷えるから温かい物を飲んだ方がいいもんね!」
そう言って逃げようと腰を浮かせた私の手をブラッドが掴んだ。
「名無しさん。星空の元でのお茶会もいいが、夜は冷えるから場所を移そう」
「え」
「私の部屋にとっておきの茶葉がある。それを飲むとしよう」
「え、いや。私今夜はこの爽やかな夜風にあたりながら紅茶を飲みたいなぁ~、なんて」
「夜は冷えるんだろう? 君が少しばかりふくよかになるのは良いが、風邪をひかれるのは困るからね」
……これはまずい。
ブラッドの方が何枚もうわてだ。
「さ、風邪をひく前に移動しよう」
そう言ってブラッドは立ち上がる。
うわぁ、これはどうしましょう。
必死に考える私にブラッドは楽しそうに言う。
「好きなものが目の前にあると手を出したくなる、君もそう言っていただろう?」
「!」
うわて、というか完敗だ。
彼の前で下手なことは言えない。
「さ、名無しさん行こうか。私の気が変わることはないが、時間帯が変わるのは惜しいからな」
呆然としている私に、ブラッドが手を差し出してきた。
珍しく穏やかな笑顔の彼。
この手を取ったら、最後だ。
甘い感情から抜け出せなくなりそうな予感は確信になる。
でも……わかっていても止められない。
私はそっと彼の手を取った。