キャロットガール
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【やさしさの形 もうひとつ】
屋上へ上がったら、青い空が気持ちよかった。
最近は悩みに悩んでいたので、ユリウスに負けないくらい引き籠っていた私。
外は気持ちいいなぁと思いつつ、ぼんやりと遥か下の様子を眺める。
「やだなー、名無しさん。身投げでもするつもり?」
後ろから突然声をかけられてびくっとしてしまった。
振り向くと、エースがにこにこと笑って立っていた。
「こんなところから落ちたら怪我するよ、名無しさん」
「いや、怪我どころの騒ぎじゃないし、身投げするつもりなんて全然ありません!」
呑気なエースの言葉に、なんだか脱力してしまう。
エースは「そっか。それならよかった」と言って私の隣りへやってきた。
「エリオットの素性を知って悲観しての飛び降りでもするのかと思ったよ。君、マフィアをすごく嫌がってたしね」
ユリウスと同じ思考回路なのかしら、この人。
「私、そんなにショックを受けているように見えた?」
「うん、見えたよ。少し前から様子がおかしかったからさ。でも、今はだいぶ落ちついたみたいだね」
彼は優しい目をしてそう言った。
「ユリウスに慰めてもらったから」
「え? 慰める?……ってどうやって?」
「うん。まぁユリウスらしく毒舌な慰め方だったけど」
「ははは! なーんだ。そっちか。びっくりしたぜ」
エースはからからと笑うと、手すりにもたれながら言う。
どういう慰め方だと思ったのかはとりあえず聞かない方がいい気がした。
「お前は見る目がないって言われちゃったよ」
「そうだよなぁ。俺じゃなくてエリオットだもんなぁ」
「いや、エースはないから」
「ははは! きっぱり言うなぁ」
しかしそう笑ったのも一瞬で、彼はふっと静かになった。
不思議に思った瞬間。
「名無しさん。俺は、名無しさんのこと好きだよ」
突然そんなことを言うエース。
思わずどきりとして彼を見る。
彼は遠くを見つめたまま続けた。
「名無しさんのことも好きだし、ユリウスのことも好きだ」
「うん」
あぁ、そういう意味ね、と納得しつつ私はうなずく。
するとエースはさらにこう続けた。
「だから、君がユリウスとうまくいってくれればいいなって思ったこともあるんだ」
思わずエースを見つめると、彼は慌てて言葉を付け足した。
「あぁ、でもエリオットのことは別に嫌いじゃない。どちらかと言えば道を教えてくれるいい人だから好きかな」
「ふぅん。そうなんだ」
確かにエリオットならなんだかんだ言いながら、根気強くエースに道を教えてあげそうだ。
「名無しさんのこともユリウスのこともエリオットのことも好きだけど、でも……」
エースはじっと遠くの一点を見つめたまま静かに言った。
「ユリウスの命令なら、俺はエリオットのこと斬るよ」
風がざわっと吹き抜けて行った。
エースの髪の毛が揺れている。
「……え?」
穏やかな口調で言われた思いがけないセリフに私は思わず固まった。
「あぁ、必ずしも斬るってわけじゃないけど、でも、捕まえなくちゃいけない」
「どういう意味? なんで?」
「ユリウスの仕事を俺は手伝っているからね。だからエリオットを捕まえろって言われたら、俺は捕まえる。実際前にそういうこともあったしね」
いつもと変わらない様子で淡々と話すエース。
意味が良くわからないけれど、もしかしたらエリオットとユリウスの関係ってこの話と関係があるのかもしれない。
ドキドキしてくる私をよそに、エースはさらに切り込んできた。
「ねぇ、名無しさん。それでも君はエリオットを選ぶの?」
「え?」
「名無しさんが選んだ大切なものを、俺やユリウスが奪ってしまうかもしれない。それでも、君は俺たちを許してくれる?」
エースはそこでやっと私を見た。
じっと見つめてくる目は、どうやら嘘は言っていないようだ。
「……それは、どうしようもないことなの?」
「そうだね。そうかもしれない」
彼は小さくうなずいた。
「私には、エースとユリウスが私の大切なものを奪っていくなんて思えないよ。それに2人のこともすごく大切だし」
「うん。でも、どっちかを選ばなくちゃいけない日がくるよ、きっと」
「……そんなの困るよ。選べないもん」
「ははは! 名無しさんは優柔不断だからね。お菓子だってすぐに選べないもんな」
お菓子とあなた達じゃ全然違う。
そう言いたかったけれど、なんだかすごく悲しい話をされているので何も言えなかった。言ったそばから涙が落ちそうな気がする。
「まぁ、でも今すぐにって訳じゃないし、もしかしたらもうエリオットのことを捕まえる、なんてことはないのかもしれないからわからないけど……。
でも、覚えておいてよ名無しさん。どちらか一つしか選べないことってあるんだよ」
エースが珍しく無表情でそう言い切ったことに、私は戸惑いを隠せない。
「エース……両方って無理なのかな」
「名無しさんは欲張りだなぁ。どちらかを選べるだけでもいいと思うけど。俺だって選べるものなら選びたいよ」
自由人に見えるエースのセリフ。その言葉はぐさりと私の胸に響いた。
もしかしたら、エースも色々なことに縛られているのかもしれない。この世界はルールだらけみたいだし。
「というわけで名無しさん。エリオットを選んでもいいけど、それなりの覚悟はしておいてよ。ね?」
私のためを思っての言葉かもしれないけれど、この人は穏やかに意地悪なことを言う。
毒舌なユリウスとは正反対な優しさの形。
「エースは意地悪だなぁ」
そうつぶやいた私を見て、エースはやわらかく微笑んだ。
「名無しさんが俺たちを選んでくれないからだよ」
そう言って素早く私の頬にキスをする。
不意打ちすぎて「うわっ!」と色気も何もない声を上げてしまった。
エースはくすくす笑う。
「さて。そろそろ名無しさんに教えてあげようかな」
「な、なにを!?」
かなり警戒している私を横目に、エースは下を見る。
「君に会いたいみたいだよ、彼」
エースの視線を追う。
行きかう人々をじっと見ていたら、ふと私の目に飛び込んできた人。
「!」
私の視線はそこでぱっと止まり、一瞬にしてすべての私の体の機能が全開になった気がした。
じぃっと目を凝らして確信する。
本当に小さくだけれど、オレンジに紫と黒の人がじっと近くの公園にいるのが見えた。
その人はこちらを見ている。ような気がする。
「エリオット……!?」
私ははじかれた様に階段に戻り、一番下まで一気に駆け下りた。
「あー、ためらいなく選んじゃうんだなー」
エースのつぶやきが青空に溶ける。
屋上へ上がったら、青い空が気持ちよかった。
最近は悩みに悩んでいたので、ユリウスに負けないくらい引き籠っていた私。
外は気持ちいいなぁと思いつつ、ぼんやりと遥か下の様子を眺める。
「やだなー、名無しさん。身投げでもするつもり?」
後ろから突然声をかけられてびくっとしてしまった。
振り向くと、エースがにこにこと笑って立っていた。
「こんなところから落ちたら怪我するよ、名無しさん」
「いや、怪我どころの騒ぎじゃないし、身投げするつもりなんて全然ありません!」
呑気なエースの言葉に、なんだか脱力してしまう。
エースは「そっか。それならよかった」と言って私の隣りへやってきた。
「エリオットの素性を知って悲観しての飛び降りでもするのかと思ったよ。君、マフィアをすごく嫌がってたしね」
ユリウスと同じ思考回路なのかしら、この人。
「私、そんなにショックを受けているように見えた?」
「うん、見えたよ。少し前から様子がおかしかったからさ。でも、今はだいぶ落ちついたみたいだね」
彼は優しい目をしてそう言った。
「ユリウスに慰めてもらったから」
「え? 慰める?……ってどうやって?」
「うん。まぁユリウスらしく毒舌な慰め方だったけど」
「ははは! なーんだ。そっちか。びっくりしたぜ」
エースはからからと笑うと、手すりにもたれながら言う。
どういう慰め方だと思ったのかはとりあえず聞かない方がいい気がした。
「お前は見る目がないって言われちゃったよ」
「そうだよなぁ。俺じゃなくてエリオットだもんなぁ」
「いや、エースはないから」
「ははは! きっぱり言うなぁ」
しかしそう笑ったのも一瞬で、彼はふっと静かになった。
不思議に思った瞬間。
「名無しさん。俺は、名無しさんのこと好きだよ」
突然そんなことを言うエース。
思わずどきりとして彼を見る。
彼は遠くを見つめたまま続けた。
「名無しさんのことも好きだし、ユリウスのことも好きだ」
「うん」
あぁ、そういう意味ね、と納得しつつ私はうなずく。
するとエースはさらにこう続けた。
「だから、君がユリウスとうまくいってくれればいいなって思ったこともあるんだ」
思わずエースを見つめると、彼は慌てて言葉を付け足した。
「あぁ、でもエリオットのことは別に嫌いじゃない。どちらかと言えば道を教えてくれるいい人だから好きかな」
「ふぅん。そうなんだ」
確かにエリオットならなんだかんだ言いながら、根気強くエースに道を教えてあげそうだ。
「名無しさんのこともユリウスのこともエリオットのことも好きだけど、でも……」
エースはじっと遠くの一点を見つめたまま静かに言った。
「ユリウスの命令なら、俺はエリオットのこと斬るよ」
風がざわっと吹き抜けて行った。
エースの髪の毛が揺れている。
「……え?」
穏やかな口調で言われた思いがけないセリフに私は思わず固まった。
「あぁ、必ずしも斬るってわけじゃないけど、でも、捕まえなくちゃいけない」
「どういう意味? なんで?」
「ユリウスの仕事を俺は手伝っているからね。だからエリオットを捕まえろって言われたら、俺は捕まえる。実際前にそういうこともあったしね」
いつもと変わらない様子で淡々と話すエース。
意味が良くわからないけれど、もしかしたらエリオットとユリウスの関係ってこの話と関係があるのかもしれない。
ドキドキしてくる私をよそに、エースはさらに切り込んできた。
「ねぇ、名無しさん。それでも君はエリオットを選ぶの?」
「え?」
「名無しさんが選んだ大切なものを、俺やユリウスが奪ってしまうかもしれない。それでも、君は俺たちを許してくれる?」
エースはそこでやっと私を見た。
じっと見つめてくる目は、どうやら嘘は言っていないようだ。
「……それは、どうしようもないことなの?」
「そうだね。そうかもしれない」
彼は小さくうなずいた。
「私には、エースとユリウスが私の大切なものを奪っていくなんて思えないよ。それに2人のこともすごく大切だし」
「うん。でも、どっちかを選ばなくちゃいけない日がくるよ、きっと」
「……そんなの困るよ。選べないもん」
「ははは! 名無しさんは優柔不断だからね。お菓子だってすぐに選べないもんな」
お菓子とあなた達じゃ全然違う。
そう言いたかったけれど、なんだかすごく悲しい話をされているので何も言えなかった。言ったそばから涙が落ちそうな気がする。
「まぁ、でも今すぐにって訳じゃないし、もしかしたらもうエリオットのことを捕まえる、なんてことはないのかもしれないからわからないけど……。
でも、覚えておいてよ名無しさん。どちらか一つしか選べないことってあるんだよ」
エースが珍しく無表情でそう言い切ったことに、私は戸惑いを隠せない。
「エース……両方って無理なのかな」
「名無しさんは欲張りだなぁ。どちらかを選べるだけでもいいと思うけど。俺だって選べるものなら選びたいよ」
自由人に見えるエースのセリフ。その言葉はぐさりと私の胸に響いた。
もしかしたら、エースも色々なことに縛られているのかもしれない。この世界はルールだらけみたいだし。
「というわけで名無しさん。エリオットを選んでもいいけど、それなりの覚悟はしておいてよ。ね?」
私のためを思っての言葉かもしれないけれど、この人は穏やかに意地悪なことを言う。
毒舌なユリウスとは正反対な優しさの形。
「エースは意地悪だなぁ」
そうつぶやいた私を見て、エースはやわらかく微笑んだ。
「名無しさんが俺たちを選んでくれないからだよ」
そう言って素早く私の頬にキスをする。
不意打ちすぎて「うわっ!」と色気も何もない声を上げてしまった。
エースはくすくす笑う。
「さて。そろそろ名無しさんに教えてあげようかな」
「な、なにを!?」
かなり警戒している私を横目に、エースは下を見る。
「君に会いたいみたいだよ、彼」
エースの視線を追う。
行きかう人々をじっと見ていたら、ふと私の目に飛び込んできた人。
「!」
私の視線はそこでぱっと止まり、一瞬にしてすべての私の体の機能が全開になった気がした。
じぃっと目を凝らして確信する。
本当に小さくだけれど、オレンジに紫と黒の人がじっと近くの公園にいるのが見えた。
その人はこちらを見ている。ような気がする。
「エリオット……!?」
私ははじかれた様に階段に戻り、一番下まで一気に駆け下りた。
「あー、ためらいなく選んじゃうんだなー」
エースのつぶやきが青空に溶ける。